LUNAR-Aとは? わかりやすく解説

LUNAR-A

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/07/19 05:47 UTC 版)

LUNAR-A
所属 JAXA / ISAS
状態 計画中止
目的 月探査(月内部の観測)
観測対象
本体寸法 直径:1.2m、高さ:1.3m
最大寸法 太陽電池パドル翼端:3.8m
質量 母船(打上げ時):540kg
ペネトレータモジュール:43kg
ペネトレータ:13.5kg
姿勢制御方式 スピン安定
搭載機器
ペネトレータモジュール
月撮像カメラ
軌道変更モーター
リアクションコントロール
Sバンドアンテナ
UHF-バンドアンテナ
太陽電池
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LUNAR-A(ルナーA)は、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) により開発されていた探査機。搭載するペネトレータ(状の観測装置)が月の地下1 - 3mに貫入し、月地下の組成や月震を観測するプロジェクトで、実現すれば日本で最初の本格的な月探査機であった。

1990年(平成2年)のミッション選定当時は1995年(平成7年)の打ち上げを目指していたものの、ペネトレータのフライトモデルの開発が大幅に遅延。2007年1月15日、計画中止の方針が示された[1][2]

概要

LUNAR-A計画は日本初の本格的な月探査プロジェクトとして計画されていた。なお、日本の探査機としてはLUNAR-A以前にひてん・はごろも月周回軌道に乗ったが、これらの主目的はスイングバイ等の軌道制御技術の習得で、月探査については簡単な宇宙塵の観測や写真撮影を行った程度だった。

月探査を行うため、LUNAR-Aは月面に「ペネトレータ」と呼ばれる槍状の観測装置を投下し、地中の約2メートル前後の深さまで潜り込ませるという手法を取っていた。ペネトレータには地震計熱流量計が搭載されており、投下された2本のペネトレータによって月の内部構造を調査する。一方、母機のほうは、月周回軌道を周り、ペネトレータから情報を収集するだけでなく、搭載されているカメラ (LIC) によって月表面を撮影する。以上のような方法で、月の内部と外部を約1年に渡って観測することが計画されていた。

これまでの月探査では、主として月の表面の地形や岩石など、地質の調査しか行われていなかった。それに対して、LUNAR-Aではペネトレータで観測器を打ち込み、月の内部を直接探査するので、その起源と進化を研究するためのデータが数多く得られることが期待されていた。

また、アメリカアポロ計画ソ連ルナ計画(初期のものを除く)などの場合、できる限り衝撃の少ない方法で月面に着陸機を降ろすため、探査機は月に軟着陸したが、LUNAR-Aの場合は月面に観測装置を直接落とすため、減速するためのロケットや制御装置も小型で済み、探査機の小型化が可能になるという利点があった。

なお、LUNAR-Aを月周回軌道に投入する飛翔マニューバーは、工学実験衛星ひてんで開発されたものを採用する予定であった。これは地球周回軌道の遠地点高度を高度150万km付近にまで上げることにより、地球からの重力の影響を最小限とした遠地点付近で太陽による摂動を利用して近地点高度を上げ、月公転軌道に近い軌道に探査機を投入すると言うものである。

計画の中止

1995年度の打ち上げを目指し1991年から開発が始まったが、探査機本体(1997年に完成)及び、本プロジェクトの目玉であるペネトレータの開発に手間取り、さらに推進剤 / スラスターのリコールなどもあって計画が遅れ、2004年以降、打ち上げ時期が未定な状態が続いていた。さらに、本探査機を打ち上げる予定であったM-Vロケット2006年7月に廃止が決定され、本探査機に使用される予定であったM-Vロケット2号機も、部品が他のロケットに流用されてしまい、使用不可となった。このため、打ち上げ手段も未定となり、これらの状況から計画中止が危ぶまれていた。

2007年1月10日、JAXAは現状の報告[1]を行い、同月15日、本計画を中止し、別の方法による月探査の実施を目指すとした見直し案を、文部科学省宇宙開発委員会推進部会に提出した。先述のペネトレータの開発の遅延のため、母船に使用した機材の接着剤の劣化が進んだなど、計画の見通しの甘さが響いた形となった。ペネトレータそのものの開発は目処が立っており、今後はJAXAで打ち上げを計画している別の月または惑星探査機や、他国の衛星に搭載する方針が示された。中でも、ロシアが2010年代前半に打ち上げる予定の「ルナグローブ」探査機 (Luna-Glob) に、日本で開発されたペネトレータを搭載することは有力な案として検討が行われた[3][4]。ロシア側との接触は2004年にLUNAR-Aをロシアが提供するロケットで打ち上げることが協議されたことを端緒とする。ロスコスモスはロケットの費用をロシア側で捻出することはできないとし、日本側がソユーズロケットフレガートを購入する必要があるとした。より廉価なロコットを使ってLUNAR-Aと日本製の固体燃料の離脱ステージを地球周回軌道に打ち上げる案も検討されたが、これもロシア側の予算が得られず実現しなかった[5]。2006年11月からは日本のペネトレータ4本をロシアの月探査機ルナグローブに搭載する案が検討され、2010年8月にはペネトレータの貫入試験が行われたが、10月に同試験の結果が確認されペネトレータが完成した時点では既にルナグローブの探査機構成が確定しており、搭載は間に合わなくなっていた[6][7]

LUNAR-Aプロジェクト中止の際、探査機の母船はイプシロンロケットもしくはGXロケット初号機の環境計測用ペイロードに活用することを検討することとなった[8]。2006年度には実際に宇宙科学研究所のソーラーセイルワーキンググループがLUNAR-Aの母船を大型膜面展開ミッションに再利用し、イプシロンロケット初号機で打ち上げることを提案したが、この構想は実現しなかった[9]

このLUNAR-A計画に使用される予定であったM-Vロケット2号機は、2008年10月から、神奈川県相模原市JAXA相模原キャンパス(宇宙科学研究本部)にて展示されている。また、LUNAR-A探査機本体のバッテリー、太陽センサー、ニューテーション・ダンパー(回転する衛星の揺れを抑制する装置)、スラスターのバルブ類はJAXAの小型ソーラー電力セイル実証機IKAROSに流用され、2010年5月に打ち上げられた[10][11]。IKAROSは2015年まで電波が捕捉されたのち、2025年に運用終了が発表された。

JAXAの念願だった月探査に関しては、2007年に打ち上げられたかぐやで達成されることになった。またLUNAR-Aのために開発された地震計は2028年打ち上げ予定のNASAタイタン探査機ドラゴンフライに採用され観測装置DraGMetの一部として使用される[12][13]

実現しなかったペネトレータはその後、地球向けに人の立ち入りが困難な場所へ地震計などを設置するための技術として火山や南極での試験が行われている。2024年現在はペネトレータによって南極の白瀬氷河の流動を観測する計画が進行している。南極観測用ペネトレータは地震計の他にGPSとインフラサウンドセンサーが搭載されている[14][15]。また今後の月惑星探査でのペネトレータの採用も模索されている[16]

脚注

  1. 1 2 第17号科学衛星 (LUNAR-A) プロジェクトの状況について (PDF). 宇宙航空研究開発機構 (2007年1月10日). 2012年1月28日閲覧。
  2. 松浦晋也の「宇宙開発を読む」 第8回 やっと決まったLUNAR-A中止-徹底した原因・経緯の調査が必要-」、日経BP、2007年1月19日。
  3. JAXA立川理事長定例記者会見”. 宇宙航空研究開発機構 (2007年10月11日). 2012年1月28日閲覧。
  4. ペネトレータ技術の完成にむけた開発現状と将来ミッションへの展開”. 日本地球惑星科学連合 (2008年5月26日). 2024年5月23日閲覧。
  5. First attempt to revive Luna-Glob (英語). RussianSpaceWeb.com (2011年1月23日). 2024年5月23日閲覧。
  6. LUNAR-A中止後のペネトレータ”. 日本惑星科学会 (2011年9月25日). 2024年5月23日閲覧。
  7. ルナ・グローブ計画 探査の概要”. 月探査情報ステーション. 2024年5月23日閲覧。
  8. 宇宙科学研究本部年次要覧 2006年度”. JAXA (2007年12月). 2025年10月17日閲覧。
  9. 宇宙科学研究本部年次要覧 2006年度”. JAXA (2007年12月). 2025年10月17日閲覧。
  10. 宇宙に帆をかけて 二人三脚で駆け抜けた2年半”. 日本電気. 2025年10月17日閲覧。
  11. 挑戦的ミッションと信頼性の在り方”. JAXA (2018年4月9日). 2025年10月17日閲覧。
  12. Dragonfly地震計の開発”. 国立天文台 (2021年6月16日). 2024年5月23日閲覧。
  13. Titan Seismology with Dragonfly: Probing the Internal Structure of the Most Accessible Ocean World (英語). ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所 (2019年3月18日). 2024年5月23日閲覧。
  14. 南極観測用ペネトレータの開発と白瀬氷河および周辺域での集中観測”. 国立極地研究所. 2024年5月23日閲覧。
  15. 南極取材 特殊装置「ペネトレータ」を投下 氷河の状態を解明”. FNNプレミアムオンライン (2023年1月25日). 2024年5月23日閲覧。
  16. 西川 泰弘助教が南極の氷河の流動を観測するため第64次南極地域観測隊に参加”. 高知工科大学 (2022年7月29日). 2024年5月23日閲覧。

関連項目

外部リンク





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