執行部辞任へ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/12 03:21 UTC 版)
「女子柔道強化選手への暴力問題」の記事における「執行部辞任へ」の解説
6月24日には臨時理事開会が開催されて、第三者委員会から求められていた女性理事に生活の党に所属する参議院議員・谷亮子、日本大学准教授の田辺陽子、暴力根絶プロジェクトメンバーの北田典子の3名を起用することになった。谷の起用理由に関して全柔連幹部は「柔道界の功労者であり、行動力もある」点を挙げた。他の新理事として東京都中学校体育連盟柔道専門部の部長・本橋順二、さらに外部理事としてJOC理事の藤原庸介と参議院議員の橋本聖子を候補に選定した。 理事会後の記者会見で全柔連会長の上村は自身を始め、副会長の藤田弘明・佐藤宣践、専務理事の小野沢弘史、事務局長の村上清を含めた執行部全員が改革、改善プロジェクトのめどが立った時点で全員辞任する考えがあることを示した。辞任の時期としては「4、5カ月後」で、それまでは当面続投することになった。「組織の管理者として私の責任を感じ、(辞任を)きょうの朝に決断した。改革を軌道に乗せることが必要で、次の体制につなげるための準備にある程度時間がかかる。10月の理事会は大きなめどになる。これからも柔道に携わっていきたい。」とも語った。なお、講道館館長の座は今後も継続することになった。 次期会長候補と目される山下泰裕は、臨時理事会において理事全員の辞任を提案したものの、それでは改革を実行できるものがいなくなるとの上村の反論を受けて、結果として執行部のみの辞任表明に至った経緯を説明した。続けて「この機を逃して、次はない。柔道は人づくり、人間教育。もう1度、柔道への信頼を取り戻すことが大事」と語った。 文部科学大臣の下村博文は、上村が辞意を表明した点について「スポーツ団体の人事は各団体で判断すべきことだ」「柔道界の改革をしっかりと進めてほしい。連盟が『確実に変わった』ということを国民に示す必要がある」と述べた。 一方、執行部に批判的だった部会長の山口はようやく辞任を表明した上村について「時期が遅すぎた。暴力問題の時に辞めるべきだった。」「自分たちが壊したものを改革するなんて絶対に無理」と語った。上村が講道館館長を続ける点については「言わずもがなですよね。あっちで失敗してこっちで生き残るって言っても結局、同じ。組織の長としての能力ですから。今回の件は(上村の)能力を否定するもの。講道館は(全柔連より)もっと倫理性が求められる。」との見解を示した。 またこの日には、全柔連の「暴力の根絶プロジェクト」が7月に開催される金鷲旗の際に女子選手を対象にしたセクハラに関するアンケート調査を行うことを発表した。 6月25日には全柔連評議員会が開かれた。冒頭の議長選では現体制に極めて批判的な了徳寺学園理事長の了徳寺健二が無記名投票を希望したものの挙手による採決となり、全柔連事務局が推薦した浅賀健一が了徳寺の推薦した吉田忠征を33対17の票決で下し、全柔連側が会議の主導権を握ることになった。新理事の選任議案の際には了徳寺が全柔連理事全員の解任決議を提案したものの、「議題は4週間前までに提示」という規約により退けられることになった。しかし、了徳寺が「男なら受けてくださいよ」と上村に呼びかけると、上村も自身の信任を求めて一旦は席を外そうとする場面も見られた。その後、鳥取の常田享詳から「説明が果たせないのであれば公益法人は辞退すべきだ」との意見が出ると、山形の沓沢行雄は「東北は上村会長を支持する。上村会長は風格もあるし、頭もいい。立派な人。この危機を回避できるのは、上村会長しかいない。」と現執行部を支持する発言をした。それに対して了徳寺が「最近は道場の入門者が減り、逆にやめる子が増えている」「ここが柔道界の正念場。このままでは公益認定を取り消される危機もある。」と発言すると、上村の地元である熊本の中林厚生が「子供は増えている。上村会長に失礼だ。」「なんなんですか、あんたは! 上村会長は一生懸命やりよるじゃろ!」と声を上げて反発、「恫喝ですよ、それは」と了徳寺が応酬するなど、怒声が飛び交う紛糾する事態にもなった。事前に講道館名誉館長の嘉納行光が上村支持の票固めに奔走していた上村陣営と、それに反発して関東を中心に結束を図っていた了徳寺陣営の対決が注目された会議は結局仕切り直しとなって、7月の臨時評議員会で解任問題が改めて協議されることになった。評議員会後に上村は「(解任要求は)不名誉だが、真摯に受け止めて改革をやり遂げたい」と語ると、了徳寺は「ぜひ世論の後押しがほしい」と訴えた。 また評議員会では、前日理事会で提案された新理事候補である谷亮子、田辺陽子、北田典子、本橋順二及び外部理事候補の藤原庸介と橋本聖子が承認されることになった。新たに理事に加わることになった谷は「(女子選手の)窓口的な役割が求められていると思う。柔道を通じて夢や希望を持てる体制を作りたい。」「選手と所属(団体)、全柔連などの組織が孤立しないように、意思の疎通を深めたい」「日本発祥の柔道には素晴らしい伝統と文化がある。それを広めながら改革していきたい。」、田辺は「改革はスピード感が大切。新しい風を組織に入れたい。」、北田は「セクハラや暴力をゼロにしたい」とそれぞれ決意を語った。 さらに評議員会では代表監督の任期は最大8年で、国際大会の出場経験を有して社会通念を持ち、品格を備えていることを登用基準に定めて、新たに設置する選考委員会で選出した後に理事会で承認を諮ることに決めた。今年になって試験導入された新ルールも9月の全日本ジュニアと11月の講道館杯で採用されることも合わせて報告された。 6月27日に全柔連会長の上村は、評議員の了徳寺健二から臨時評議員会の開催請求書が提出されたことを受けて来週にも臨時理事会を開き臨時評議員会の開催日時を決定することになった。請求書は新理事を除く23名の理事解任を求めている。 また、この日にJOCは評議員会において役員の改選人事を行い、新理事にロサンゼルスオリンピック柔道金メダリストの山下泰裕、2000年シドニーオリンピックマラソン金メダリストの高橋尚子、1988年ソウルオリンピック競泳金メダリストの鈴木大地など10名を選出した。さらに女子柔道の暴力問題を受けて、コンプライアンス専門部会を倫理委員会に格上げするとともに、ドーピングや違法行為から選手を守り、競技環境を改善することを目的としたアントラージュ専門部会を新設することになった。アントラージュ専門部会の初代部会長の座に就任した山下は、「柔道界が大変な、ご迷惑をおかけしている。この言葉(アントラージュ)を聞いたことはなかったが、非常にやりがいのある仕事だ。」と語った。さらに、全柔連の外部理事にも就任することになったJOC理事の藤原庸介からは、8月の世界選手権前後には具体的な発表が行えるようにと、問題の早期解決を促されることになった。 一方、評議員会に出席した上村は、JOCの広瀬喜久男名誉委員から「全柔連は“欠陥団体”。2020年五輪開催地の投票が決まる前、8月中の人事刷新を求めたい。」との批判を受けた。 6月28日にはJOC理事会で、3月に全柔連に対して求めた13項目にわたる改善勧告の進捗状況が報告された。全柔連側から提出された報告書によれば、指導者による不当行為は陣容が一新されたことで、強化現場において一切存在しないと認識しているとした。また、強化委員長から届けられた選手の生の声を、常務理事会で生かせるようなシステムを構築していくとも述べられていた。 7月2日に全柔連は臨時評議員会の招集を協議するために9日に臨時理事会を開催することを決めた。 7月3日に全柔連は「改革・改善実行プロジェクト」の迅速化を図り、8月末までに具体的な道筋をつけることを目的とした、特別作業チームの「改革促進タスクフォース」を新たに設置することになった。新理事の田辺陽子、北田典子、藤原庸介、強化委員長の斉藤仁、広報委員長の宇野博昌及び外部人材として日本バスケットボール協会裁定委員長の山見博康の6名がメンバーに選出され、参議院選挙後には谷亮子も加わることとなった。そこでは選手委員会の設立、事務局運営の透明化、代表選手選考基準の明文化の3点がプロジェクトとして実行に移されることになった。選手委員会は現役選手や引退選手など男女同数の10数名の陣容となり、選手の意見が全柔連の意思決定に反映できる仕組みとする。また、代表選手選考に関しては、選手が選考結果に異議を申し立てられる内部上訴システムの構築を目指すことになった。北田は「現場が悲鳴を上げている。なかには柔道に取り組んでいる子供が柔道衣にレイプと落書きされた話も聞いている。現場が一日も早く安心できる柔道界にしたいと思います。」と訴えた。 さらにこの日、全柔連は「暴力の根絶プロジェクト」責任者である山下泰裕名義で、「暴力の根絶についてのお願い」と題した、暴力の定義や通報窓口の設置、処分内容などに関する情報公開を公式サイトで行った。具体的な暴力行為として「殴る、蹴る、突き飛ばす等の行為」、「言葉や態度による人格の否定、脅迫、威圧等」、「セクシュアルハラスメント」などが定義された。悪質な行為に関しては会員登録の永久停止や抹消などの処分が下されることになった。なお、この処分は9月から施行される。 7月5日には、日本男子代表コーチである国士舘大学教員の鈴木桂治コーチがスペイン遠征に出発する際に「改革促進タスクフォース」が2ヶ月以内に代表選手選考基準を明確化すると発表したことに関して、現場不在で話が進められて強化スタッフに情報が伝わっていないと戸惑いを示した。 また、この日に神奈川総合高校で開催された「部活指導のあり方と暴力行為根絶に向けた集い」において、神奈川県体育協会会長でもある山下が「罰すればそれで済むようなものではなく非常に根が深い。あれも駄目、これも駄目というのではなく、指導者はどうあるべきなのか理想を掲げ、時間をかけてポジティブにやっていきたい。」との姿勢を示した。 7月9日には千葉県柔道連盟会長の了徳寺健二から提出されていた「臨時評議員会開催請求書」を受け臨時理事会が開かれて、30日に新理事を除いた会長の上村を始めとした理事全員の解任について協議する臨時評議員会が開催されることが決まった。議決にあたって了徳寺は無記名投票を求めていたが、採決方法は評議員会の場で決められることになった。過半数の賛成票を得て理事の解任が決まった場合は、評議員らから成る理事選定委員会が後任の理事を選出することになった。 また、理事会では9月1日に選手委員会を設置することが承認された。さらに、理事会に初めて出席した議員の谷亮子は「緊張感も責任感もある。改革を一歩一歩進めていくことが大事です。」と語るとともに、上村が10月を会長辞任のめどとしていることに対して、「(改革の)方向性とめどが立てば7、8月の段階で会長は決断するのではないか。上村会長や理事の方は一般の方々の意見をくみ取り、どこかで責任を果たさなければいけない。」とも指摘した。 7月12日には「改革・改善実行プロジェクト」の責任者会議が開かれて、各分科会におけるプロジェクトの進捗状況が報告された。そこでは、8月1日からの始動を予定している内部通報制度と、9月1日付けで新設されるアスリート委員会の規定案が発表された。内部通報制度では、組織内の不正行為を告発する場合は封書に実名を記入した上で窓口となる担当弁護士に送付して、案件によっては外部有識者らによる特別対策チームが対応にあたることになった。また、アスリート委員会は男女同数で、委員長は全柔連理事も兼ねる仕組みとした。一方、全柔連会長の上村は10月に辞任する予定であることを繰り返し述べた。 7月14日には山下が理事を務めるNPO法人の「柔道教育ソリダリティー」がパネルディスカッションを開催した。山下が責任者となっている全柔連の暴力根絶プロジェクトの活動報告をすると、「完全に暴力をなくすためには、相当な覚悟が必要」と語った。また、この場には女子強化選手の朝比奈沙羅も出席して山下の話に聞き入った。 7月20日に女子強化委員会は、10日ほど前にロシアのカザニで開催されたユニバーシアードにおいて、ケガの影響もあって体重が落ちず、公式計量を前に棄権した国士舘大学の岡本理帆を強化指定選手から除外することに決定した。今年の5月に全柔連が派遣した国際大会において、計量失格となった選手を強化指定から除外する罰則を定めたが、それを適用した形となった。なお、国内大会で好成績を収めれば強化選手に復帰可能となる。 7月21日には金鷲旗を控えた監督会議において、「暴力の根絶プロジェクト」責任者である山下が8月までを暴力根絶の周知徹底期間とした上で、「9月からは、試合や練習などすべての柔道の現場から暴力を根絶する。指導者と選手はもちろん、先輩と後輩などの暴力もなくす。」と訴えた。また、2016年から大学柔道界においては、一定の単位を取得しなければ全日本学生柔道連盟主催の大会に出場させない方針を6月の同連盟理事会で決定していたことを明らかにした。1年終了時点で20、2年で40、3年で70単位を取得していない選手は出場権が与えられないという。この点に関して山下は「柔道は他のスポーツに先駆け、文武両道を目標に掲げる」、「武だけになりがちな大学スポーツ界で、文の重要性を広めたい」と意気込んだ。
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