山嶽信仰とは? わかりやすく解説

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さんがく‐しんこう〔‐シンカウ〕【山岳信仰】


さんがくしんこう 【山岳信仰】

山岳宗教とも。山に超自然的威力認め、または霊的存在として、信仰の対象とし、あるいはそこを聖地修行道場とする宗教ギリシアオリンポスユダヤシナイ山中国五岳インドチベット間に連なるヒマラヤなど、世界中にその例がある。日本では富士山のように民間信仰から教派神道発展江戸時代したものもあるが、上代にはすでに仏教融合するものが現れ比叡山高野山など好例)、中世になると修験道場方々にでき、これらを山岳仏教とも呼ぶ。→ 修験道

山岳信仰(さんがくしんこう)


山岳信仰

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/16 05:57 UTC 版)

修験道で聖地とされる星ヶ森石鎚山の逢拝所(国の名勝

山岳信仰(さんがくしんこう、英語: mountain worship)とは、を神聖視し崇拝の対象とする信仰

解説

山岳信仰は、自然崇拝の一種で、狩猟民族などの山岳と関係の深い民族が山岳地とそれに付帯する自然環境に対して抱く畏敬の念、雄大さや厳しい自然環境に圧倒され恐れ敬う感情などから発展した宗教形態であると思われる。山岳信仰では、山岳地に霊的な力があると信じられ、自らの生活を律するために山の持つ圧倒感を利用する形態が見出される。

これらの信仰は主に、内陸地山間部の文化に強く見られ、その発生には人を寄せ付けない程の険しい地形を持つ山が不可欠とされる。

そのような信仰形態を持つ地域では、山から流れるや、山裾に広がる森林地帯に衣食住の全てに渡って依存した生活を送っており、常に目に入る山からの恩恵に浴している。その一方で、これらの信仰を持つ人々は、険しい地形や自然環境により僅かな不注意でもを奪われかねない環境にあることから、危険な状況に陥る行為を「山の機嫌を損ねる」行為として信仰上の禁忌とし、自らの安全を図るための知識として語り継いでいると考えられる。

山岳信仰のある文化圏


中国の山岳信仰

漢民族において泰山衡山嵩山華山恒山五岳と呼ばれ、神格化されている。本来は山自体を信仰する山岳信仰であったと考えられるが、盤古神話五行思想と結びついて、道教の諸神のひとつに変容している。ただ、泰山についてはいまだに別格であり、道教聖地であるだけでなく、岱廟石敢當など、他と異なる山岳信仰の形態を残している。

チベット高原にあるカイラス山チベット仏教ボン教ヒンドゥー教ジャイナ教という複数の宗教多数の民族で信仰される聖地であり世界軸たる須弥山同一視されている。また横断山脈にある梅里雪山チベット仏教聖地玉龍雪山は麗江一帯に住むナシ族の宗教であるトンパ教聖地である。

朝鮮民族の山岳信仰

中国吉林省北朝鮮の国境に跨る白頭山女真族満州族朝鮮族の信仰する聖地として知られ、民族発祥の地とされている。刃物として用いられていた黒曜石の産地でもあり、大昔から人が住み着いたとされている。

日本の山岳信仰

日本の古神道においても、水源・狩猟の場・鉱山森林などから得られる恵み、雄大な容姿や火山などに対する畏怖・畏敬の念から、や森を抱く山は、神奈備(かんなび)という神が鎮座する山とされ、御霊が宿る、あるいは降臨する(神降ろし)場所と信じられ、時として磐座(いわくら)・磐境(いわさか)という常世(とこよ・神の国や神域)と現世(うつしよ)の端境として、祭祀が行われてきた。また、死者祖霊)が山に帰る「山上他界」という考えもある(この他は海上他界、地中他界など)。これらの伝統は神社神道にも残り、石鎚山白山三輪山のように、山そのものを信仰している事例もみられる。農村部では水源であることと関連して、になると山の神が里に降りて田の神となり、秋の収穫を終えると山に帰るという信仰もある。

また仏教でも、世界の中心には須弥山(しゅみせん)という高い山がそびえていると考えられ、空海高野山を、最澄比叡山を開くなど、山への畏敬の念は、より一層深まっていった。平地にあっても仏教寺院が「○○山△△寺」と、山号を付けるのはそのような理由からである。

チベット仏教でも聖なる山は信仰の対象であるが、信仰は山自体に捧げられ、その山に登るのは禁忌とされる場合が多い。一方で日本では、山頂に達することが重要視されるのは注目すべきである。日本人の場合、山自体を信仰する気持ちももちろんあるのだが、そこから早朝に拝まれるご来光を非常にありがたがる傾向が強く、山頂のさらにその先(彼方)にあるもの(あの世)を信仰していることが原因であろう。日本ではアニミズムとしての太陽信仰と山岳信仰が結びついているのである。

深山で修行をする山伏

その後、密教道教の流れをくんだ修験者山伏たちが、俗世との関わりを絶ち、悟りを開くために山深くに入り修行を行った。これは、後に修験道や呪術的宗教などを生み出している。

主な形態

日本の山岳信仰の主な形態をまとめると、以下のようになる。

火山への信仰

富士山阿蘇山鳥海山など、火山の噴火への畏れや地熱の恵みへの畏敬から、火山に神がいるとみなして信仰するもの。

水源である山への信仰

白山石鎚山など、周辺地域を潤す水源となりうる山を信仰するもの。

死者の霊が集うとされる山への信仰

日本には、恐山月山立山熊野三山など、死者の霊が死後にそこへ行くとされている山が各地に存在しており、それらの山々が信仰の対象となることがある。

神霊がいるとされる山への信仰

豊前国宇佐神宮の奥宮である御許山や、大神神社の御神体とされる三輪山や、役小角が開いたとされる大峰山など、山としては規模が小さいが、あるとき、その山に神霊がいるとされて、以後信仰が始まったもの。

また、豊後国日向国の国境にある祖母山では、7世紀中頃から[5]、山頂の上宮と山麓の下宮八社が、『古事記』、『日本書紀』、山幸彦海幸彦神話に現われる神武天皇祖母の豊玉姫を祀っているが、やはり大神系であると言われている。

修験道の誕生

日本において、山岳信仰が、日本古来の古神道や、伝来してきた仏教(特に天台宗真言宗などの密教)への信仰と結びついて、「修験道」とされる独自の宗教が生み出された点は、特筆に値する。修験道は、修行により吸収した山の霊力を人々に授けるというもので、役小角が創始したとされる。現在も、「本山派」(天台宗)あるいは「当山派」(真言宗)の修行僧山伏、あるいは修験者などと呼ばれる)が、伝統的な修験道の修行を行っている。

歴史

山岳信仰は、もともとが自然崇拝アニミズム的信仰から発展してきただけに起源は縄文初期まで遡るのではないかと考えられる。奈良時代から江戸末期まで神仏習合の形態を取ってきたが、神仏習合が明治以後の神仏分離令により禁止されて以後、もともと真言密教系の修験が強かった出羽三山も含め、寺と神社が分けられ、信仰の本体の多くは神社の形態を取って存続した。

山が神界として信仰の対象となっていた一方で、死者の集まる他界として、イタコ口寄せをはじめとする先祖霊供養にも発展をみせた。なお、民衆の間でも信仰の顕れとして登山を行う習慣があり、現在でも、霊場といわれる山岳をはじめとして、山には多くの人々が登っている。

日本の主な山岳信仰

北海道

青森県・岩手県・山形県・福島県

栃木県・茨城県・東京都・神奈川県・山梨県

長野県・岐阜県・富山県・石川県・静岡県

滋賀県・京都府・大阪府・奈良県・和歌山県

鳥取県・愛媛県・徳島県

福岡県・大分県・鹿児島県

沖縄県

現代における「登山」と山岳信仰

古来は、人跡未踏の地であった山岳に、交通の発達や道具や装備の充実から、登山が安易になり、スポーツ競技観光として様々な人が入り込んで、信仰における禁忌を破ったり、ゴミの放置などの自然環境を汚染する行為や、過信からの登山事故などが、梅里雪山ウルルのように、山岳信仰を尊ぶ地域住民の感情を害する事もある。

これらにあるような信仰の禁忌を犯すと、地域住民は罰が下ると信じ、山をなだめようと大規模な祭事を行う場合もあり、一層、地域住民に精神的負担だけでなく、経済的負担を強いる結果になり、そのことが逆に山岳信仰という、自然と共存するために培われた精神性が、見直されるきっかけになっている。

関連項目

信仰の対象となる主な事物

脚注

参考文献

  • 和歌森太郎著『修験道史研究』平凡社[東洋文庫]、1972年。ISBN 4582802117。河出書房、1943年。
  • 宮家準著『修験道―その歴史と修行―』講談社[講談社学術文庫]2001年。ISBN 4061594834
  • 宮家準著『大峯修験道の研究』佼成出版社、1988年。
  • 宮家準著『修験道と日本宗教』春秋社、1995年。
  • 宮家準編『山岳修験への招待ー霊山と修行体験ー』新人物往来社、2011年。ISBN 9784404039897
  • 五来重著『山の宗教』淡交社、1970年。
  • 鈴木昭英著『修験道歴史民俗論集』全3巻法蔵館、2003-2004年。
  • 宮本袈裟雄著『天狗と修験者』人文書院、1989年。
  • 戸川安章著『出羽三山修験道の研究』佼成出版社,1973年.
  • 景山春樹著『神体山』学生社(新装版),2001 (1971)年.
  • 長野覚著『英彦山修験道の歴史地理学的研究』名著出版、1987年。
  • 鈴木正崇著『山と神と人ー山岳信仰と修験道の世界ー』淡交社、1991年。
  • 鈴木正崇著『山岳信仰ー日本文化の根底を探るー』中央公論新社[中公新書]、2015年。
  • 鈴木正崇監修『日本の山岳信仰』宝島社[別冊宝島2373]、2015年。
  • 鈴木昭英『修験道歴史民俗論集』全3巻,法蔵館,2003-2004年.
  • 岩科小一郎『富士講の歴史』名著出版,1985年.
  • 『山岳宗教史研究叢書』全18巻、名著出版、1975-1984年。

外部リンク


山岳信仰

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/12 13:46 UTC 版)

鳥海山大物忌神社」の記事における「山岳信仰」の解説

越国より始められた夷征は、慶雲から和銅の頃に庄内以北着手至ったが、当時この地方原生林覆われ、また南方追われ蝦夷群居し、常に噴煙吐き時々大爆発する鳥海山存在朝廷軍にとって脅威であったそのような状況で、もともと日本では山岳信仰が盛んだった背景もあって、朝廷鳥海山爆発が夷乱と相関していると疑ったではないか、と『名勝鳥海山』では推測している。 前述の『日本三代実録貞観13年871年5月16日の条にある出羽国司からの報告には、鳥海山噴火について、「出羽名神祈祷したが後の報祭怠り、また墓の骸骨山水汚しているため怒り発して山が焼けこの様災異起こったのだ」等の記述があり、鳥海山噴火兵乱前兆であると信じられていたことを覗わせている、と『名勝鳥海山』では述べている。 上述のとおり、当初、「鳥海山」という山名無く、山そのもの大物忌神称されていた。物忌とは斎戒にして不吉不浄忌むことであり、山の爆発山神が夷乱凶変忌み嫌って予め発生させるものだと朝廷考えたことが、この山神大物忌神称した所以であると『名勝鳥海山』では考察している。また同書では、山神怒り鎮め、その力を借りて夷乱凶変未然防ごうとした一例として、『日本紀略天慶2年939年4月17日の条にある秋田夷乱(天慶の乱発生の報が到達した際、朝廷物忌が行われたことを挙げている。なお『本朝世紀天慶2年939年4月19日の条には、大物忌明神の山が噴火したとの記述がある。

※この「山岳信仰」の解説は、「鳥海山大物忌神社」の解説の一部です。
「山岳信仰」を含む「鳥海山大物忌神社」の記事については、「鳥海山大物忌神社」の概要を参照ください。

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