真空管 真空管の概要

真空管

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/04/08 20:34 UTC 版)

5球スーパーラジオに使われる代表的な真空管(mT管) 左から6BE6、6BA6、6AV6、6AR5、5MK9

概要

真空管とは、内部を高度に真空にし、電極を封入した中空の管(管球)のことである[5]。陰極から陽極に流れる電子流を制御することによって増幅検波整流発振などを行うことができる[6]

構造としては、一般的にガラス金属あるいはセラミックスなどで作られた容器内部に複数の電極を配置し、容器内部を真空もしくは低圧とし少量の稀ガス水銀などを入れた構造を持つ。

原理や機能としては、電子を放出する電極(陰極)を高温にして熱電子放出効果により、陰極表面から比較的低い電圧により容易に電子を放出させ、この電子を電界磁界により制御することにより、増幅、検波、整流、発振、変調などができる。

二極管が発明されたイギリスを中心とした欧州で主に、その電極の数により、二極管のことをダイオード[7]、三極管のことをトライオード[8]、四極管のことをテトロード[9]、五極管のことをペントード[10](以下同様)という。さらに二極管の中でも整流に用いるものを特にレクティファイア[11]と呼ぶこともある。

発明、多様化、小型管に対する代替用語の登場

真空の管の構造をした小型管で増幅などを行う素子は、発明当時から真空管(vacuum tubeやvacuum valve)と呼ばれて発展したのだが、後になって(真空のガラス管という構造では同じでも)大型管、ブラウン管、マイクロ波管など機能が異なるものや、似た機能を持っているが内部が真空でない放電管などが出現したので、これらを電子管(electron tube)と総称するようになり従来「真空管」と呼ばれた小型管は、受信管(receiving tube)と呼ばれるようになった[12]

つまり「真空管」という言葉は、古風な用い方としては狭義に、もっぱら小型の真空管を指すが、今では広義に、小型のものに限らず、真空もしくは低圧雰囲気空間における電界磁界による電子の様々な振る舞いを利用する素子全般を総称する用法もあるのである(蛍光灯などの光源目的としたものを除く)。すなわち、その容器内部を真空もしくは低圧とした構造から「真空管」の名を持ち、陰極線管ブラウン管など)、プラズマディスプレイ放射線源管(代表的なものとしてX線管)、放射線検出管(代表的なものとしてGM計数管)なども真空管のひとつである。

日本語の略呼法や助数詞

日本語では「球」(きゅう、たま)とも呼ばれる。(これは初期の真空管は白熱電球と似た形状で英語では「bulb」と言うことからとも考えられる。)たとえば俗な言い方だが、ソリッドステートの(トランジスタの)アンプに対して真空管使用のものを「球(たま)のアンプ」と言うなど。また、セット(電気回路による装置)に使っている真空管の個数を称して「n球(きゅう)」という言い方をする。例えばスーパーヘテロダイン方式によるAMラジオ受信機の、代表的な構成の一つである真空管を5本使用しているものを、「五球スーパーラジオ」という。なお、真空管の代替として発明された半導体トランジスタを球と対比的に「石(いし)」と俗称し、助数詞として「石(せき)」が用いられている。

利用の減少および現在も続く特殊目的での利用

21世紀では、一般的な電気電子回路において汎用的(整流、変調、検波、増幅など)に用いる目的の素子としては、多くが半導体に置き換えられ、真空管はその役割をほぼ終えているが、半導体では実現が難しい高周波/大電力を扱う特殊な用途での増幅素子として現在でも使われており、日本でも放送局用、また防衛省向けとして製造されている。またオーディオアンプや楽器用アンプなどでは、現在も真空管による増幅回路がしばしば用いられるため、それらの用途のための真空管が現在も製造されている。

一方、特殊な真空管の一種であるマグネトロンは、強力なマイクロ波の発生源として、電子レンジレーダーなどに使われ、現在でも大量生産されている。テレビ受像機などに用いるブラウン管も広義の真空管であり世界で量産されているが、薄型テレビへの移行から減少傾向にあり日本国内での生産はオシロスコープなどの測定機などを除き終了している。

他にも、X線を発生させるX線管や、高精度光計測に用いる光電子増倍管核融合装置のマイクロ波発生源など、真空管は高度で先端的な用途に21世紀現在も使われている。プラズマディスプレイ蛍光表示管 (VFD) などには、長年に渡り蓄積された関連技術が継承されている。

歴史

ホルダーに装着されたENIACの真空管

エジソン白熱電球の実験中に発見したエジソン効果1884年)が端緒となり、その後フレミングが発明(1904年)した素子が2極真空管(二極管)で、3極真空管(三極管)は、リー・ド・フォレストが発明(1906年)した。

既に白熱電球の製造技術があり、リー・ド・フォレストの真空管はウェスタン・エレクトリック社でもリー・ド・フォレストの特許のもとに生産に移され、1914年 には三極管は電話回線のリピーター回路に汎用されタイプM (101A) が製造された[13]1915年のバージニア、アーリントン間の大陸横断電話回線の実験においては、550本の真空管が使われたとされている。使われた真空管はタイプL、タイプW、タイプSであった。アメリカ軍ではフレミングバルブを使っていたこともありフランス製の通信機を使っていたが、第一次世界大戦末期フランスからのRチューブの供給が滞るようになり、急遽、タイプJ (203A) から耐震構造化した受信用検波増幅管であるVT-1が、タイプL (101B) を元にタイプKの後継管として送信用5W型発振変調管であるタイプE (VT-2) [14]が製造された[15]1929年には5極管 (UY-247[16]) が登場し、1935年に画期的なメタルビーム管 (6L6) が登場、これにより基本となる真空管技術が完成した[17]。初期のコンピュータには大量の真空管が使用され、寿命の揃った真空管を大量に調達するのが製作上の難関のひとつだった。例としてENIAC(1946年)には17468本が使われている。

しかし、

  • 原理的に熱電子源(フィラメントヒーター)が必要なので消費電力が大きく、発熱する。
  • フィラメントやヒータを有するため寿命が短い(数千時間程度)。
  • 真空管そのものや、これを用いる機器の小型化や耐震性に問題がある。

などの欠点があった。トランジスタが発明され1960年代以降には生産歩留まりが高まって安価になると、放送、通信分野の機器においては、次第にトランジスタに取って代わられることとなった。その結果、主回路に真空管を使用したテレビ受像機ラジオ受信機は、1970年代に入ると生産が中止された。なお直接的な欠点ではないが、トランジスタではコンプリメンタリの素子が得られるという特長があるが、真空管では原理上単一の極性のものしか得られないことも理由の一つであった。

1976年に起きた「ベレンコ中尉亡命事件」でMiG-25の機体検証が行なわれた際、通信機を始めとする電子機器類に真空管が使用されていた事から「ソ連は遅れている」との評が立った。深読みとしては真空管は電磁パルス (EMP) 耐性が半導体素子に比べて高いため、核兵器の使用法の一つとして当時想定されていた、核爆発によって発生するEMPによる電子攻撃に耐えるためとも推測された。しかし実際のところは、MiG-25が開発された当時は、まだトランジスタ技術が成熟しておらず、大電流に耐えられる製品は西側にさえ存在していなかったので、レーダーに大出力を求めた場合には単純に真空管しか選択肢がなかった。また当時の西側の戦闘機にも真空管が多用されていた。おかげで600kW[18]の大出力を得たMiG-25のレーダーは、妨害電波に打ち勝つ能力を得ており、電子戦において極めて有利になっていた。 尚、2013年現在も一部の戦闘機等の航空機には当時の真空管機器が搭載されており、航空自衛隊では部品の入手難により随時、半導体を使用した機器に置き換えられている。他国では同様の理由により電子機器の共食い整備[19]が生じている場合もある。




  1. ^ アメリカ英語では「管」にあたる部分を「tube チューブ」、イギリスでは「valve バルブ」などと呼ぶ。
  2. ^ : electron tube
  3. ^ : thermionic valve
  4. ^ 「電子管」は熱電子を利用しないものなど、より広い範囲の素子を指して使われることもある。
  5. ^ 広辞苑第六版【真空管】定義文
  6. ^ 広辞苑第六版【真空管】定義文の後の叙述文
  7. ^ : diode
  8. ^ : triode
  9. ^ : tetroiode
  10. ^ : pontoode
  11. ^ : rectifier
  12. ^ 平凡社『世界大百科事典』vol.14, p.261【真空管】
  13. ^ Bijl著「The Thermionic Vacuum Tubes and It's Applications」、1920年
  14. ^ どちらも直熱型三極管
  15. ^ タイン著「Saga of Vacuum Tube」、1977年
  16. ^ 後のUZ-2A5。
  17. ^ 浅野勇著「魅惑の真空管アンプ 上巻」
  18. ^ 『週刊ワールドエアクラフト』2001/6/12号、P11
  19. ^ 複数の部品取り用の機器から1台を整備。
  20. ^ : Nuvistor
  21. ^ : strangle
  22. ^ : taper
  23. ^ GTは「glass tube」の略とされる。
  24. ^ : Radio News
  25. ^ : Clyde Fitch
  26. ^ : Reflector-JSC(ロシア語ラテン翻字)
  27. ^ : Svetlana-JSC(ロシア語ラテン翻字)
  28. ^ : JJ-Electronic
  29. ^ : Shuguang(ラテン翻字)
  30. ^ : Groove Tubes
  31. ^ : Ruby
  1. ^ 高周波での増幅特性で半導体素子を凌駕する事は現在でも珍しくはない。事実、高信頼性と低消費電力が要求される放送衛星通信衛星等の人工衛星では現在でも送信用に真空管の一種である進行波管が使用される







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