6L6
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/31 09:43 UTC 版)
6L6は、RCAが1936年4月に発表し、オーディオ周波数帯域のパワーアンプ用として販売したビームパワー管の呼称である[1][2]。
概要
6L6は、アノードとスクリーン・グリッドの間に低電位空間電荷領域を形成してアノード二次放出電子をアノードに戻すことを利用したビーム四極管であり、パワー五極管と比較して大幅な性能向上を実現した[1]。21世紀には、6L6の変種が製造され、一部のハイファイ・オーディオ・アンプや楽器アンプに使用されている。

開発史
英国では、EMIの3人のエンジニア(アイザック・シェーンバーグ、キャボット・ブル、シドニー・ロッダ)が、陽極とスクリーン・グリッドの間に高密度の空間電荷領域を作り、陽極の二次電子を陽極に戻す電子ビームを形成する新しい電極構造を利用した出力四極管を開発し、1933年と1934年に特許を申請していた[3][4]。この新しい真空管は、同様の出力用五極管に比べて性能が向上し、1935年1月の物理光学学会展示会でマルコーニN40として発表された[5]。
電極配置の重要性
6L6の高いトランスコンダクタンス[6]と高いプレート抵抗は、周波数応答を滑らかにし、電圧過渡を抑制し、スプリアス発振を防止する電極配置と回路設計を必要とする[7]。
N40の出力4極管は約1000本生産されたが、EMIとゼネラル・エレクトリック(GE)の共同所有下にあったマルコーニ・オスラム真空管会社(Marconi-Osram Valve、MOV)は、グリッド電極を良好に配置して製造するには設計が難しすぎると考えた[8]。MOVはアメリカのRCAと設計共有契約を結んでいたため、設計はRCAに引き継がれた[9][10]。
6L6に利用された金属管技術はゼネラル・エレクトリック(GE)によって開発され、1935年4月に導入され、当時RCAはGEのために金属エンベロープ管を製造していた[11]。ガラスエンベロープ管と比較した金属管構造の利点には、小型化、堅牢性、電磁シールド、および電極間キャパシタンスの縮小があった[12]。6L6のスクリーン電力損失は3.5ワット、プレートとスクリーンを合わせた電力損失は24ワットであった[13]。
電気特性


右図のような電気特性である。
変種
6L6シリーズの電圧・電力定格は、より厚いプレート、より大きな直径のワイヤのグリッド、グリッドの冷却フィン、超ブラックプレートコーティング、ベースの低損失材料などの機能によって徐々に向上した。6L6のバリエーションには、6L6G、6L6GX、6L6GA、6L6GAY、6L6GB、5932/6L6WGA 、6L6GCが含まれる。
オリジナルの6L6以降のすべてのバリエーションは、ガラス・エンベロープを採用している。 型番記号のうち「W」は、より大きな振動と衝撃に耐えるように設計されたチューブであることを示す。型番記号のうち「Y」は、ベースの絶縁材料がジスラノール[14]であることを示す。
6L6とその変種は、音響拡声装置、楽器アンプ、無線通信機器、無線送信機の音声増幅段用途として普及した[15]。
2021年現在、6L6とその変種はロシア、中国、スロバキアで製造されている。
改良された代替品
- 5881
類似品種
関連項目
脚注・参考文献
- ^ a b J. F. Dreyer Jr., "The Beam Power Output Tube", New York: McGraw-Hill, Electronics, April 1936, pp. 18 - 21, 35
- ^ RCA Manufacturing Co. Inc., "Here is the New RCA 6L6 Beam Power Amplifier", New York: McGraw-Hill, Electronics, May 1936, back cover
- ^ Schoenberg, Rodda, Bull, Improvements in and relating to thermionic valves, GB patent 423,932, published Feb. 1935
- ^ Schoenberg, Rodda, Bull, Electron discharge device and circuits therefor, US patent 2,113,801 published Apr. 1938
- ^ Editors, "New Output Tetrode", New York: McGraw-Hill, Electronics, Feb. 1935, p. 65
- ^ “電気/電子用語集、Transconductanceとは”. アナログ・デバイセズ. 2023年10月26日閲覧。
- ^ L. C. Hollands "Circuit Design Related to Tube Performance", New York: McGraw-Hill, Electronics, Mar. 1939, pp. 18 - 20
- ^ K. R. Thrower, British Radio Valves The Classic Years: 1926-1946, Reading, UK: Speedwell, 2009, pp. 125 - 126
- ^ K. R. Thrower, British Radio Valves The Classic Years: 1926-1946, Reading, UK: Speedwell, 2009, pp. 125 - 126
- ^ O.H. Schade, "Beam Power Tubes" Proc. I.R.E., Vol. 26, No. 2, Feb. 1938, p. 153
- ^ Editors, "Metal Tubes for Receivers", Radio Engineering, April 1935, pp. 18 - 19
- ^ Metcalf, Beggs, "All-metal receiving tubes, the manufacturing technique", New York: McGraw-Hill, Electronics, May 1935, pp. 149 - 151
- ^ RCA, RCA 6L6 Beam Power Amplifier, RCA Manufacturing Co., Inc.
- ^ “The AWA Journal - The Vacuum Tube”. web.archive.org (2011年8月19日). 2023年10月27日閲覧。
- ^ Wholesale Radio Service Co., Lafayette catalog no. 76, New York: Lafayette Radio Corp., 1939, pp. 38, 90, 96
外部リンク
- TDSL Tube data [6L6]
- Electron Tube Data sheets: Several 6L6 datasheets from various manufacturers
- Kurt Prange. “6L6GC Comparison of Current Made Tubes”. 2014年2月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年2月16日閲覧。
- Reviews of 6L6 tubes
6L6
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/04/25 03:02 UTC 版)
「ギター・アンプ用真空管」の記事における「6L6」の解説
6L6はRCAが1936年に開発した世界初のビーム4極管で軍用管は5881である。ビーム4極管はコントロールグリッドとスクリーングリッドのピッチが精密に合わされ、プレートとスクリーングリッドとの間に適切な間隔があけられ、電子ビーム形成電極を持つことが特徴となっており、これらによって5極間と同等(開発者[誰?]は同等以上と称する)の効率を持つことが謳われている。当時、標準的な5極出力管6F6と同じ消費電力でより大きな電流を制御する(より大きな音を出す)ことを目的として開発され、おもな用途はラジオ、PA、安定化電源などであったが、周波数特性がよく、送信管としても使えることから、その後、無線通信の分野にも大きく展開していった。当初のもののプレート電力損失は19Wほどであったが、その後、他の真空管との関係もあって改良され、1959年に規格表が発行された6L6GCのプレート電力損失は30Wとなった。 6L6GCは日本では東芝と日立が生産、6L6GBなどを生産した会社は新日本電気など数多い。派生管としては送信管の807、水平偏向出力管の6BG6などがある。807はAM変調などの用途を考えてB級プッシュプル、C級増幅も規格表に使用例が掲載されており、無線通信機や映画館の大出力アンプなどに汎用された。電気的特性を比較してみると、ギター・アンプにはむしろ807のほうが適するのであるが、プレート電極が管頂に設けられていて使いにくい、高価、AB2級やB級増幅をするには高いドライブ電圧を必要とする、電源部が大きくなるといったことから、敬遠された[要出典]ようである。 6L6GCの定格プッシュプルAB2級出力は47Wであるが、ギター・アンプでは60Wほどの出力を得ているものがある。6L6GCは比較的余裕のある真空管で、多少の定格オーバーには対応できるものが多いが、定格以上での真空管の使用はメーカーとして保証されず、耐久性、安全性について注意を必要とする。従ってこれらについては基本的に連続使用をせず、短時間の使用に留めることが薦められる。 中国(Shuguang)製往年の銘管のコピーモデルがある。Sylvania 6L6GC(STR-387)のフルコピー・モデルは、Rubyから6L6GCMSTR、TADから6L6GC-STR、MESAからは6L6GC(STR-440)という型番で出されている。GE 6L6GC(clear-top)のコピー・モデルは、Groove TubesからGT-6L6GE、TADからは6L6WGC-STRという型番で出されている。他にRCA 6L6GC(black-plate)のコピー・モデルは、Groove TubesからGT-6L6CHPという型番で出されている。 ロシア(Reflector)製いくつか種類があり、複数のブランド名で出されている。 ロシア(Svetlana)製Sylvaniaのコピー品などがある。 スロバキア(JJ-Electronic)製ハイスペック・チューブとなっているものがある。
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