オーディオ用真空管と真空管式ギター・アンプ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/04/25 03:02 UTC 版)
「ギター・アンプ用真空管」の記事における「オーディオ用真空管と真空管式ギター・アンプ」の解説
理想の増幅素子は、入力インピーダンスが高く、出力インピーダンスが低いものであるが、真空管は原理的に入出力ともに高インピーダンスの「電圧増幅素子」であり、強い電流を得るのには向かない。この特性に合わせ、当初のスピーカは、クリスタルスピーカ、あるいはマグネチックスピーカといった、高インピーダンスのいわゆる電圧駆動型のものが使われていた。 真空管の出力インピーダンスは改良して低くしても、数百Ω程度までが限度、よって一般的には、出力トランスを用い、ダイナミックスピーカをドライブする以外にない。そこで、オーディオ用真空管は電気的直線性もさることながら、この出力トランスやダイナミックスピーカと協調し「心地よく聞こえる」ための「ヒトの耳」による開発と改良が進められた。これが今日[いつ?]でも真空管式ギター・アンプなどに使われるパワー管となっている。 通常、真空管式ギター・アンプなどでは、電圧増幅部+電力増幅部の多段増幅回路が組まれ、電圧増幅部をプリアンプ、電力増幅部をパワーアンプと呼ぶ。プリアンプには直線性に優れた、比較的「くせ」の少ない3極管、パワーアンプには上述の「特別に改良された個性的な」ビーム管や5極管が用いられる。 真空管全盛時代、数多くの小型真空管が作られ、多くの型番があるが、電気的特性は「似たようなもの」が多く、種類としては比較的限られており、「ファミリー」あるいは「シリーズ」という分類がなされることもある。「娯楽用の贅沢品」として改良されたオーディオ用真空管の種類はさらに少なく、出力管としては、300、6L6、42、6CA7といったものがその全盛期から定番として用いられており、今日[いつ?]の真空管式ギター・アンプなどはその流れを継承しているものである。 真空管式ギター・アンプなどのプリアンプに用いられる、12AX7、12AT7、12AU7、12AY7などはヒーター電圧6.3/12.6Vの電圧増幅用双3極ミニチュア管であり「12AX7ファミリー」と呼ばれる。このファミリーはもともとオーディオ用真空管ではなく、比較的くせの少ないマルチユースの真空管であり、真空管全盛期に汎用された。オーディオ用としても、真空管1本でステレオ、2段増幅、さらにはイコライジングなどに使えることから便利である。 真空管式ギター・アンプなどのパワーアンプに用いられる、6L6、6V6などはヒーター電圧6.3Vの電力増幅用ビーム管であり、メタル管またはGT管である。これらは「6L6ファミリー」と呼ばれ、その全盛期から高級電蓄に用いられた。少しずつ特性の異なるものが多数ある。はじめに作られたのは軍用のメタル管であるが、これは戦場で必要な、明瞭で大きな音を得るための真空管で、オーディオ用に最適ではあるが、非常に高価なものであったため、内部構造はほとんどそのままに、民需用としてGT管の6V6が作られた。 電蓄にはその他、5極管である42や6F6、6CA7などが多く用いられた。このうち高級品である6CA7やそのファミリーが今日[いつ?]の真空管式ギター・アンプなどによく使われている。なお、6BQ5は6CA7と同時期により小型の出力管として開発されたものである。 また、電圧、電力増幅を一つとして小型化した真空管の代表が6BM8であり、これに12AX7を前置した回路などが真空管時代末期まで、ラジオ・レコードプレーヤなどに多用された。6BM8はもともと高級ラジオ受信機用で、必ずしもオーディオ用真空管とは言えないのであるが、小型で使いやすく、今日[いつ?]でも比較的安価な真空管式ギター・アンプなどに用いられている。 さて、今日[いつ?]、真空管式ギター・アンプなどに12AX7ファミリーと6L6ファミリー、あるいは6CA7ファミリーが組み合わされて使われる大きな理由は三つある。ひとつはパワー管となる6L6ファミリー、あるいは6CA7ファミリーには、いずれも少しずつ特性の異なるものが多数あり、スピーカ回路(エンクロージャを含む)との相性により、それぞれ個性的な音を得られること、また、12AX7ファミリーは比較的くせの少ないマルチユース管であり、6L6ファミリーあるいは6CA7ファミリーのいずれとも電気的な相性がよい上に、DSPなどと併せて「音を創りやすい」こと、そして大きな電流を必要とするヒーターにある。すなわち12AX7ファミリーは6.3/12.6V、6L6ファミリーや6CA7ファミリーは6.3Vであるが、大出力を得るためには電力増幅段はプッシュプル回路とする必要があり、このとき、6L6ファミリーや6CA7ファミリーのヒータを直列に接続して12.6Vで使う。すると、12AX7ファミリーのヒーターと共通にすることができる。一方、これらは傍熱管ではあるが、そのヒーターを交流点灯とすると、ノイズの発生源となることがあり、これを打ち消すためにあえてバラバラで使う場合、今度は12AX7ファミリーのヒーターフィラメントの中点電極を使って6.3Vで点灯させることができる。従って回路設計の自由度が高いのである。
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