南シナ海
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島と海山
200以上の島と礁が知られており、大部分は南沙諸島にある。同諸島は810キロメートルと900キロメートルの広さに及び、海南島などを除く最大の離島は太平島(イトゥアバ)で、長さ1.3キロメートル、最高海抜3.8メートルである。また、フィリピンのパラワン諸島とはパラワン海溝を挟んでリード堆と呼ばれる長さ約100キロメートルの海山があり、面積8,866平方キロメートルは環礁として世界最大。いまや水深20メートルに沈んでいるが、約7千年前に氷期が終わり海面が上昇するまでは島であった。
領土・権益問題
1935年に、中華民国の中国国民党がブルネイ近海のジェームズ礁を「曾母」(現行の中国名では曾母暗沙)と命名したが、国内の混乱や海軍力の不足により実効支配は出来なかった。 1939年4月に、日本海軍はスプラトリー諸島の最も大きな島である太平島を占拠して「長島」と命名した。1945年12月に、日本の敗戦に伴い中華民国政府は「南沙管理処」を広東省に設置した。1947年に、中華民国の国府政権は「11段線」を発表した。 その後、中華人民共和国は、東南アジア諸国の本土領海線ギリギリまでを自国の管轄とする「九段線」(または「U字線」「牛舌線」ともいう)を宣言した。しかし、「九段線」の法的解釈が島嶼帰属の線か、歴史的な権利の範囲か、歴史的な水域線か、それとも伝統疆界線かということはまだ中国政府に公式的に発表されていない。
中国・海南島の南方にある西沙諸島(パラセル諸島)については、中華人民共和国、中華民国(台湾)、ベトナムの3か国が領有権を主張している。 中国政府は1974年の西沙諸島の戦いで南ベトナム軍を攻撃して、島々を占領。中国人を移住させたり、中国人民解放軍を駐屯させたりして、支配を強化している。
南沙諸島(スプラトリー諸島)などをめぐっては6か国が領有権を主張し合っている。中華人民共和国、中華民国(台湾)は全体の領有を主張し、ベトナム、マレーシア、フィリピン、ブルネイの4か国は一部分の領有を主張している。各国は資源開発を独自に行ったり、協力したりする一方で、軍の配置や島の基地化、国際司法裁判所への提訴などによる権益確保も進めている。先述のとおり、利害が衝突する国の間で南シナ海の呼称が異なっているのには、こうした背景が存在する[8]。
このほか中国とベトナムはトンキン湾、マレーシアとベトナムはタイ湾、マレーシアとフィリピンは東ボルネオ沖を巡って、排他的経済水域の主張が重複・対立している。
2010年7月23日、ハノイで開かれた東南アジア諸国連合 (ASEAN) 地域フォーラム (ARF) は、南シナ海問題を重要な議題の一つとして議論した。2002年の「南シナ海行動宣言」を効果的に実施し、法的拘束力のある「南シナ海行動規範」へと発展させることへの支持を確認した。
2011年11月4日・5日、ハノイで南シナ海の安全保障と協力をテーマに国際会議が開かれた。閉会式でセベリーノ(ASEAN元事務局長)は南シナ海の紛争を平和的に解決することを期待するとともに、領有権問題の解決は当事国間の交渉でしか解決できないと述べた。
2014年6月1日、シンガポールで開催中のアジア安全保障会議 (シャングリラ対話) において、中国側代表の王冠中・人民解放軍副総参謀長 (当時) は、南シナ海の島々は2,000年以上前の漢代に中国が発見して管理してきたという旨の発言をした[9][10]。また王は、名指しを避けながら中国に自制を求めた日本の安倍晋三首相 (当時) に対して、「安倍総理大臣は、遠回しに中国を攻撃し、ヘーゲル長官は率直に非難した。ヘーゲル長官のほうがましだ」と述べ、これに対して小野寺防衛相 (当時) は、「中国の反応は理解できない」と反論した[10][11]。
アメリカのCSIS(戦略国際問題研究所)は2016年1月にまとめた報告書において、中国が複数の空母打撃群を保有する可能性を指摘すると同時に、「2030年までに南シナ海が事実上中国の湖となる」と警鐘を鳴らし、オバマ政権の対中国・北朝鮮政策が不十分であると指摘した[12]。
NHKによれば、2016年7月まで国際司法裁判所で行われている仲裁裁判に対して、中国政府は外交交渉を通じた解決も検討していた[13]。
2016年7月12日、常設仲裁裁判所は提訴したフィリピン側の主張を全面的に認め、南沙諸島とスカボロー礁にあるすべてのリーフは法的には排他的経済水域および大陸棚を生成しない「岩」とする南シナ海判決が結論された。
中国は南シナ海判決を受けて従来消極的だった「南シナ海行動規範」の草案作成に動いて大枠合意され[14]、2017年8月のフィリピンでのASEAN外相会議で当事者同士の合意形成による幕引きを図る中国に有利な形で承認され[15]、同年11月に中国ASEAN首脳会議は大枠合意の内容で詳細を詰める交渉を開始することで合意し[16]、ASEAN議長声明ではそれまで掲載されてきた南シナ海問題への「懸念」の文言が消えて「中国とASEANの関係改善」への評価が盛り込まれた[17][18]。ASEAN首脳会議で対中関係改善のために習近平国家主席(党総書記)や李克強国務院総理(首相)といった中国の首脳と異例の2回連続の会談を行った日本の安倍首相もASEANと中国のこういった動きを歓迎すると述べた[19]。
2020年10月19日、菅義偉内閣総理大臣は就任後初の外遊先としてベトナムを訪問し、ベトナムの大学生に対して「日本は南シナ海の緊張を高めるいかなる行動にも強く反対している。日本は、南シナ海の法による支配の保全を一貫して支持してきた」と演説したが、これは南シナ海で人工島を積極的に建設している中国に対する批判であり、また中国がここ数ヶ月、南シナ海でベトナムに多大な圧力をかけていることへの牽制であった[20]。
脚注
- ^ 南シナ海に関するフィリピンと中国との間の仲裁(仲裁裁判所による最終的な仲裁判断)(外務大臣談話) 外務省、平成28年7月12日
- ^ 精選版 日本国語大辞典『南支那海』 - コトバンク
- ^ “Limits of Oceans and Seas (Special Publication No. 23) 3rd edition” (PDF) (英語). International Hydrographic Organization. pp. 30-31 (1953年). 2014年5月12日閲覧。[リンク切れ] No. 49が該当海域
- ^ “Statement of the DFA on the Chinese vessels in the West Philippine Sea (or South China Sea), June 4, 2011” (英語). フィリピン共和国政府 (2011年6月4日). 2016年10月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年6月閲覧。
- ^ Indonesia declares 'North Natuna Sea' NHK WORLD(NHK)、2017年7月14日
- ^ 【緊迫・南シナ海】インドネシア、仲裁裁定受け地図を改訂 産経ニュース、2017年7月18日
- ^ “インドネシアも中国と舌戦 「南シナ海」の一部呼称変更”. 日本経済新聞電子版 (日本経済新聞社). (2017年7月20日) 2017年7月22日閲覧。
- ^ “南シナ海を「西フィリピン海」…中国に抗議の意”. YOMIURI ONLINE (読売新聞社). (2011年6月14日). オリジナルの2011年6月16日時点におけるアーカイブ。 2011年6月14日閲覧。
- ^ “人民解放軍副総参謀長、「中国は漢の時代から南シナ海を管理してきた」―中国紙” (Japanese). 新華社通信ネットジャパン. 新華経済 (2014年6月2日). 2014年6月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年6月6日閲覧。
- ^ a b “中国軍幹部 日米の発言に強く反発”. NHK (2014年6月1日). 2014年6月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年6月6日閲覧。
- ^ 永井央紀 (2014年6月1日). “中国軍幹部「首相発言は挑発」 アジア安保会議で日米批判”. 日本経済新聞電子版 (日本経済新聞社). オリジナルの2016年3月4日時点におけるアーカイブ。 2014年6月6日閲覧。
- ^ “南シナ海「2030年までに中国の湖に」米研究機関”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). (2016年1月21日). オリジナルの2016年10月5日時点におけるアーカイブ。
- ^ “「南シナ海」仲裁裁判 中国が不利な判断に備え対策検討”. NHK (2016年6月30日). 2016年7月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年7月2日閲覧。
- ^ “南シナ海規範「骨抜き」 枠組み合意”. 毎日新聞社 (2017年5月18日). 2017年11月7日閲覧。
- ^ “南シナ海行動規範を承認 ASEAN、中国主導で”. 日本経済新聞社 (2017年8月6日). 2017年11月7日閲覧。
- ^ “南シナ海行動規範、交渉開始で合意=中ASEAN首脳会議”. 時事通信社 (2017年11月13日). 2017年11月16日閲覧。
- ^ “北朝鮮懸念、中国には配慮=ASEAN首脳会議声明発表”. AFPBB (2017年11月16日). 2017年11月16日閲覧。
- ^ “南シナ海問題「懸念」消えた? ASEAN議長声明発表”. 朝日新聞社 (2017年11月16日). 2017年11月16日閲覧。
- ^ “安倍外交、対中けん制を抑制 南シナ海、トーンダウン”. 日本経済新聞社 (2017年11月15日). 2017年11月16日閲覧。
- ^ “Japan's new PM endorses Abe’s Indo-Pacific policy”. The Indian Hawk. (2020年10月20日). オリジナルの2021年2月7日時点におけるアーカイブ。
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