2010-2015年
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2010年2月、光通信に勤務していた男性(当時33歳)が虚血性心疾患により突然死した。この男性は2006年から営業課長職に、2009年にはクレーム対応部署に異動したが、男性の両親と弁護士がタイムカード打刻記録以外での時間外労働を算出したところ、死亡前3年間で100時間超の時間外労働を行っていた月が17回(最高153時間)存在し、また携帯電話の販売で過酷なノルマが課されていた。両親は2014年6月24日に同社に対し「会社は安全配慮義務を怠り長時間労働を放置した」などとして、神戸地方裁判所に約1億6,450万円の支払いを求める訴訟を起こした。 2010年4月、東京キリンビバレッジサービス(キリンビバレッジの子会社)の男性社員(当時23歳)が自殺した。遺族らは、男性が2009年10月から2010年3月にかけて長時間勤務を強いられていたのが原因と主張し、品川労働基準監督署に労災申請。2011年10月5日付で同監督署は、過労による自殺として労災認定した。 2010年10月29日、医療法人社団明芳会新戸塚病院(神奈川県横浜市)に勤務していた理学療法士の男性(当時23歳)が急性心不全で死亡しているのが発見された。遺族らは担当患者の増加や、在籍していたリハビリテーション科内の研究発表会の準備業務などによる長時間勤務が原因であるとして、横浜西労働基準監督署に労災申請。同監督署は2011年10月4日付で労災認定。理学療法士の労災認定としては日本初の事例となった。 2011年5月13日から福島第一原子力発電所事故の収束作業に当たっていた建設会社の男性社員が、翌14日以降に体調不良を訴え、その後心筋梗塞で死亡した。遺族は短期間の高負担の作業による過労として、労災と認めるよう横浜南労働基準監督署に申請し、2012年2月24日に同監督署は労災と認定した。 2011年4月末、富士通海外マーケティング本部で課長を務めていた男性社員(当時42歳)が急死した。この男性は東日本大震災で外国人上司が国外脱出するなどした影響で過重労働となり、死亡前日から過去2か月間の時間外労働の平均は最低でも月82時間に及ぶとされた。三田労働基準監督署はこの男性について、震災に伴う過労死であるとして労災認定した。 2009年にJR西日本に入社した男性が、2012年10月に自宅マンションで飛び降り自殺した。この男性は2011年6月から鉄道保安システムを管理する部署に配属されていた。遺族らは、職場と工事現場との往復を繰り返させられ、昼夜連続勤務や休日出勤の日数が月平均162時間にも及んだことなどが原因で、うつ病を発症したことが自殺につながったとして、同社を相手取り契約1億9,000万円の支払いを求め大阪地裁に訴訟を起こした。 2011年4月からファミリーマートの大阪府大東市内のフランチャイズ店舗で勤務していた62歳の男性が、その後2012年4月以降に別の店舗でも勤務するよう店主から命じられた。この男性は8か月後の同年12月に作業中に意識を失い脚立から転落死した。この男性と店主との間の雇用契約では、勤務時間は1日8時間とされていたが、実際には過労死ラインを大幅に超える1か月当たり218 - 254時間に及ぶ時間外労働をしていたことが明らかになった。男性の遺族は、男性の死亡原因が過労であるとして大阪地方裁判所に5,800万円の損害賠償を求め訴訟を提起。その後2016年12月22日付で、ファミリーマートと店主側が遺族に対し解決金計4,300万円を支払うことで和解が成立したことが判明した。直接の雇用関係にないフランチャイズ店の従業員に対し、本部が労働災害に解決金を支払うのは異例の対応とされる。 2012年に自殺したアニメ制作会社A-1 Pictures(ソニーミュージックグループ)の元社員男性が、過労によるうつ病が原因と労災認定された。通院先の診療録には「月600時間労働」との記載があり、残業時間は多いときで344時間に上ったという。 2012年10月に過労自殺で亡くなった肥後銀行行員の遺族が、翌2013年に熊本地方裁判所に損害賠償請求訴訟を起こした。この件に関して熊本労働基準監督署から労働基準法違反(過重労働)として役員ら3人が書類送検された。同年11月、熊本区検察庁が同法違反で同行を熊本簡裁に略式起訴した。その後、同簡裁は罰金20万円の略式命令を出し、同行は罰金を納付した。また同容疑で書類送検された取締役執行役員らは、嫌疑不十分で不起訴、起訴猶予処分とされた。これを受け、当時の頭取が自身の月額報酬を30%カットするなど関係者の処分を明らかにしたほか、本店・支店すべての部屋に監視カメラを設置するなどの労務管理対策を実施することを表明した。その後2014年7月18日、同行は当初の主張を撤回し、自殺と長時間労働の因果関係を認め結審し、熊本地裁は同年10月17日、銀行が過重な長時間労働に従事させた結果、行員はうつ病を発症し自殺したとして同行が注意義務を怠ったとし、銀行に約1億3,000万円の支払いを命じる判決を言い渡した。判決を受け肥後銀行は、コンプライアンス意識の徹底と適切な労働時間管理態勢の強化について、なお一層安全な労働環境の構築に努めるとするコメントを発表し。控訴しない方針とした。その後、自殺した男性の妻で同銀行の株主である女性が、株主としての立場で当時の役員らに対し、損害賠償を求めて同行に提訴するよう要求したが受け入れられず、このため女性は2016年9月7日に同行を相手取り、当時の役員らに同行への損害賠償を求める株主代表訴訟を熊本地裁に起こした。 2014年1月、システム開発会社「オービーシステム」(大阪市)に勤務していた男性社員(当時57歳)が東京都内のマンションで飛び降り自殺した。長年、男性社員はシステムエンジニア(SE)として働き、多忙な日々を送っていた。2013年2月に東京に単身赴任し、東京消防庁のシステム開発事業を担当するが、2013年9月にうつ病を発症した。男性社員は2013年4月から9月までの残業時間を月20~89時間と自己申告していたが、品川労働基準監督署は、当時の職場のパソコン記録から男性社員の実際の残業時間を月127時間~170時間と認定し、2014年9月に労災認定した。 2014年10月、福井県若狭町立上中中学校の男性教諭(当時27歳)が自殺した。この教諭は同年4月から同校で勤務していたが、同年6月までの3か月間に残業が月120 - 160時間超に上ったとされ、受け持っていた生徒の無断外泊や保護者とのトラブルもあったとされた。地方公務員災害補償基金福井県支部はこの教諭の自殺の原因が公務災害であると、2016年9月6日付で認定した。 2015年12月25日、電通の女性新入社員(当時24歳)が社員寮で飛び降り自殺した。この女性新入社員は2015年4月に電通に入社し、同年10月からインターネット広告部門を担当した。その職場は人数が少なくて、それで仕事の業務量が多かった。2015年10月9日から1か月間で、その女性新入社員の時間外労働時間はその前の1か月間の2.5倍の約105時間に増えていた。当時、女性新入社員は知人や友人にLINEやツイッターなどで 「休日返上で作った資料をボロくそに言われた もう体も心もズタズタだ」(10月13日)、「眠りたい以外の感情を失った」(10月14日)、「もう4時だ、体が震えるよ…、死ぬ、もう無理そう、疲れた」(10月21日)、「残業代のおかげで、入社7ヶ月目のお給料は初任給の1.5倍になりました、圧倒的成長」(10月28日)、「生きているために働いているのか、働くために生きているのか分からなくなってからが人生」(11月3日)、「土日も出勤しなければならないことがまた決定し、本気で死んでしまいたい」(11月5日)、「毎日、次の日が来るのが怖くてねられない」(11月10日)、「がんばれると思ってたのに予想外に早くつぶれてしまって自己嫌悪だな」(11月12日)、「道歩いている時に死ぬのにてきしてそうな歩道橋を探しがちになっているのに気づいて今こういう形になってます…」(11月12日)、「はたらきたくない、1日の睡眠時間2時間はレベル高すぎる」(12月6日)、「死にたいと思いながらこんなストレスフルな毎日を乗り越えた先に何が残るんだろうか」(12月16日)、「1日20時間とか会社にいるともはや何のために生きてるのか分からなくなって笑けてくるな」(12月17日)、「死ぬ前に送る遺書メールのCC(メール送信の相手先)に誰を入れるのがベストな布陣を考えてた」(12月17日)、「男性上司から女子力がないと言われるの、笑いを取るためのいじりだとしても我慢の限界である、鬱だ」(12月20日)などと心の気持ちを明かしていた。それでも、職場の上司はそんな彼女を厳しく叱責をした。三田労働基準監督署はこの女性新入社員について、2016年9月30日付で労働災害と認定し、労災保険を支給することにした。この件に関連して東京労働局は2016年10月14日に、電通本社のほか、関西支社・京都支社・中部支社の3支社にも労働基準法に基づく強制調査を実施した。詳細は「電通#社員の過労・パワハラ自殺」を参照 2015年10月、広島市の区役所で勤務していた20代の女性が自殺した。この女性は、保健福祉課で児童手当の支給などを担当していたが、2014年12月から2015年9月にかけて1か月当たり100時間前後の時間外労働が続いていた。女性の遺族はその後、地方公務員災害補償基金広島市支部に対し、公務災害認定を請求した。 2015年2月、前身の日本道路公団時代の2013年から西日本高速道路に勤務していた男性が同社の寮で自殺した。この男性は2014年10月に第二神明道路事務所へ異動後、橋の補強や撤去工事など未経験の業務をさせられた上、最長で月に約178時間の時間外労働を強いられたほか、約36時間連続の勤務もあったことでうつ病を発症していたとされる。神戸西労働基準監督署は2015年12月に労災認定したが、男性の遺族は同社が社員の勤務実態を把握しておらず、長時間労働を減らす対策を怠ったことが自殺に繋がったとして、2017年2月16日に同社の本社人事部長や関西支社長、第二神明道路事務所長らを神戸地方検察庁に刑事告訴した。その後、同社の酒井和広社長は2018年10月31日に、業務軽減措置が不十分だったと責任を認めた。一方、告発されていた男性の上司らは書類送検されたものの、2018年11月16日に同地検は上司らを不起訴処分としており、遺族らは検察審査会に審査を申し立てるとしている。
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