児の成長と発達
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/24 22:26 UTC 版)
詳細は「小児科学」を参照 成長と発達は似た言葉だが発達は神経学的な成熟を示している。発達は反射といった神経学的な所見や運動などによって評価する。 新生児で認められ消失する反射 これらの反射の消失の合目的性は反射が消失することで手や足が器用になり運動の発達が促されると考えられている。手の反射としては以下のものが知られている。 反射名出現時期内容手掌把握反射新生児〜4か月 手掌を圧迫すると指が屈曲する。(物を握る頃消失) 吸啜反射新生児〜4か月 口の中に指を挿入すると規則的な吸引運動がおこる。上唇から口角をこすると口をとがらせる。(離乳の頃消失) モロ反射新生児〜4か月 頭部を落下させると両腕を伸展、外転し、手を開大する。(首が座る頃消失) 足底把握反射新生児〜10か月 足底を圧迫すると指が屈曲する。(立つ頃消失) バビンスキー反射新生児〜2歳 足底外側部をこすると母趾が背屈し他の趾の幅が広がる。 新生児で認められず発達とともに出現する反射 これらは出現することで寝返りやハイハイができるようになると考えられている。 反射名出現時期内容緊張頸反射1か月〜6か月 首を横向きにすると同側の上下肢が進展し、反対側が屈曲する。(寝返りができる頃消失) ランドウ反射6か月〜2歳 児を水平に抱いて首を挙上させると体幹、下肢が進展し、腹部を前屈させると体幹下肢が屈曲する。(ハイハイするための反射) パラシュート反射8か月〜永続 抱き上げた児を手の中で落下させると、児は防御的に両上肢、指を伸展させる。 行動の発達 デンバーII発達判定表が有名である。 粗大運動(体幹)微細運動(四肢)言語社会性1か月 顔を左右に向ける 3か月 首が座る、腹臥位で顔をあげる。 手を口に持っていく、ガラガラを握る 声をだして笑う、声の方に振り向く、追視する 母の顔をじっと見る 6か月 寝返りをする、お座りをする 物を手から手へ持ちもちかえる、顔に布をかけると取る バババと喃語を反復 母親を識別し人見知りをする 10か月 ハイハイをする、つかまり立ちをする 母指、示指でつまむ、箱から積み木を出す 名前を呼ぶと振り向く、物まねする 母のあとを追う 1歳 ひとり立ちをする 箱の中に積み木をいれる 意味のある単語を2つ以上言う、バイバイの動作をする 1歳6か月 手を引くと階段を歩く 積み木を2つ積める、なぐり書き 単語を表現する、身体の部分を指す コップを使って飲む 2歳 階段を歩く、平地を走る 積み木を4つ積める 2語文を話す スプーンを使う 3歳 片足立ちをする、三輪車をこぐ 丸を書く、くつ、上着を脱ぐ たずねると名前が言える はしを使う、パジャマがきれる 4歳 ケンケンができる 四角を書く、はさみが使える 自分の名前を読む かくれんぼ、じゃんけんができる 5歳 スキップする、ぶらんこを立ってこぐ 三角をかく、はさみで線の上を切れる しりとりができる 友達と競争する 健康診断 これらの成長、発達をスクリーニングするサービスとしては健康診断があげられる。日本の場合は1カ月検診にはじまり、3か月、6か月、9か月、12か月、3歳児の健康診断がある。Ameriacan Academy of Pediatricsでは2週間、1か月、2か月、4か月、6か月、9か月、12か月といったように回数が多いのが特徴である。この回数の違いは分娩時の入院日数に関係していると考えられる。米国の場合は経腟分娩ならば2日間、帝王切開ならば4日間の入院期間であるが、日本は5日~7日間の入院期間が一般的である。そのため日本では新生児に関しても十分な診察を行う時間的余裕もあり、母乳の指導や黄疸の評価まで行うことができる。そのため、健康診断の回数を少なくできるとされている。母乳は1回20分で毎日8~12回程が目安とされる。栄養が不十分であると乳児はよく泣き、泣き疲れて寝てしまい、最終的には体重増加不良となる。通常は生理的な体重減少後の体重増加は日々20~30gである。生後2週間までならば新生児は寝る、栄養をとる、排泄する、の繰り返しであり、泣く理由も分かりやすく対処しやすいが、2週間を過ぎると夜泣きも始まる。夜泣きは3時間泣くことが週3回以上、合計3週間以上続くことである。18時から0時の間にのみおこり、ミルクをあげる、オムツを替える、あやすといった対処法が無効である。1か月ほどすると母親にもマタニティーブルーや産後うつ病の発生のリスクがある。アメリカではこれらの指導を健康診断で行うが、日本では出産入院中の母親学級で行われる場合が多い。下痢、嘔吐、黄疸、発熱、発疹、結膜炎出現時は医療機関受診とし、それ以外は1か月検診まで新たに指導を加えることは一般的ではない。母親の1カ月検診では産後うつ病のスクリーニングとしてエジンバラ産後うつ病自己評価表の記入なども行われる。 歩行 デンバー発達判定法によると1歳5か月過ぎになると90%の子供は上手に歩けるようになる。この時期に歩けていない場合は歩き出すのが遅いということになり専門機関の受診が必要である。それ以前の6カ月における首座り、お座り、1歳時におけるつかまり立ちが遅れた場合も同様に精査が必要である。この場合は先天性の異常や広汎性発達障害などが疑われる。軽度の精神発達異常ではこの時期は知的な遅れは認められず、筋力の低下が認められるのみで経過観察の場合が多い。この場合は遅れを治療することは非常に難しく、社会的支援が必要となる。しかし頻度としてはシャフラー(いざり児)と呼ばれる良性の発達遅延であり、その後発達が追い付き正常化する。仮に歩き出す時期が正常であっても歩き方がおかしく転びやすい児、具体的にはペタペタ歩行、内反歩行(うちわ歩行)、外反歩行(そとわ歩行)、尖足歩行などが認められた場合は筋疾患、脳性麻痺、運動失調、骨格異常が認められる可能性があり精査が必要となる。 言語 言語の発達が正常に経過するには4つの条件が必要である。まずは発声器官や構音器官が正常であること。これらの器官を合目的に使用するための知能が発達すること。合目的使用を学習するための適切な場が存在すること。聴覚、視覚の機能に支障がないことである。6カ月頃まで(目安としては3か月)には名前を呼ばれると振り向いたり、イナイイナイバーをすると声を出して笑ったりする。8か月までには人見知りが始まり、いかにも話しているような喃語を話している。声の出し方にも強弱がつくようになる。10か月頃には簡単な指示行動が可能になる。指さしに反応し、おいでおいでとするとハイハイでやってきて頂戴という動作も行う。1歳の時点ではパパといえたとしても母親もパパと言ったり確信できない要素がかなり含まれるが1歳6か月位になると感情表出もできて「いや」と表現したり二語文が出現したりする。2歳の時点ではこれらが完成していることが多い。 離乳 母乳は1歳を過ぎる時期でも免疫グロブリンを含んでおり感染防御という点では優れている。子育てには文化があり、医学的な根拠は見出しにくい。吸啜反射が4か月ほどで消失してくるため、この頃から6か月あたりで間離乳食の導入が行われるのが一般的である。月齢を重ねても母乳を飲んでいても問題はないが、栄養の観点から12か月までには主たる栄養を母乳以外の離乳食にて行われることが望ましいとされている。この頃には卒乳をしても問題はない。パキスタンなどでは9か月の時点で通常のカレーを摂取している。 排泄 排泄コントロールに関しても文化がある。かつては日本は物質が乏しかったため極めて早期に排泄の自立を促してきた。トイレットトレーニングはかつては大便は4か月、小便は12か月より開始していた。しかしこの方法では、一定の割合で脱落し、おむつ使用に戻る例も見られていた。夜間の大便、日中の大便、日中の小便、夜間の小便という順にトイレットトレーニングを行う2歳過ぎからトレーニングを始めれば4歳で77%、6歳で91%がひとりで後始末ができるようになる。これ以前にトレーニングを行っても平均的には殆ど変わらないとされている。 早期乳児の発熱 早期乳児は免疫システムが完成しておらず細菌感染のリスクが高いと考えられている。母乳によるIgGの経口投与が早期乳児の感染防止に役立っている。早期乳児が発熱した場合、大抵はウイルス性感染症であることが殆どであるが約10%程に細菌性髄膜炎や敗血症といった重症感染症が含まれている。そのため、小児科専門の医師の診察が求められるが1か月以内であると各種検査の有効性も疑問視される。生後3ヶ月未満で感染のフォーカスが明らかにならない場合は入院適応となることもある。1か月以降であればメイヨークリニックによるRochster criteriaをもとに非専門医の診察で十分なことが多い。 Rochster criteria 一般状態良好 既往に特に問題なし満期出生で周産期抗菌薬投与歴なし、原因不明の黄疸に対する治療歴なし 現在あるいは最近の抗菌薬投与なし、入院歴なし、慢性疾患あるいは基礎疾患なし 母親より長期の産科入院歴なし 皮膚、軟部組織、骨、関節、耳に感染兆候なし 検査所見末梢血白血球数5,000~15,000/μL 桿状核球数<1,500/μL 尿沈渣白血球数<10/hpf 便塗抹白血球数<5/hpf(下痢例のみ) これらの基準を満たすとき、重症感染症は否定的となる。 幼児の発熱 3か月以後の乳児から3歳頃の発熱は救急外来では非常に多い主訴である。注意深く身体所見をとったとしても30%程度は熱源不明となってしまう。その場合は潜在性菌血症、尿路感染症、潜在性肺炎、悪性腫瘍や膠原病が考えられる。特に前二者は抗菌薬による治療にて早期介入可能なことから注意深い診察が必要となる。潜在性菌血症は全身状態良好な良好であるのにもかかわらず血液培養にて細菌が検出されることである。3か月から3歳頃で頻度が高いと言われている。肺炎球菌であればそのまま自然経過で改善するが、インフルエンザ桿菌の場合は90%以上の確率で敗血症や髄膜炎にいたるといわれている。体温39度以上で白血球数15,000/μl以上であると潜在性菌血症の可能性が高くなる。尿路感染症も1歳以下の男児や2歳以下の女児では見つけにくい疾患となる。尿検体をカテーテルや膀胱穿刺で無菌的に摂取すると診断できる。体温が体温39度以上で白血球数20,000/μl以上のときは聴診上ラ音を認めず、痰もないのにもかかわらず胸部X線では浸潤影を認める潜在性肺炎という病態も知られている。いずれにせよ重篤な病態は肺炎球菌による場合が多く、予防接種による予防が望まれる。発熱が敗血症のサインかどうかを見分けるにはバイタルサインを用いるという方法も知られている。これらは患者が安静にしている場合の指標であるため泣き出してしまうと心拍数、呼吸数とも上昇してしまうので判定が難しくなる。正常範囲より+2SD以上の心拍数の変化や呼吸数の変化は発熱だけが原因とは考えられず敗血症の可能性も考える。 年齢呼吸数±2SD呼吸数±1SD呼吸数正常範囲心拍数±2SD心拍数±1SD心拍数正常範囲出生~3か月 10~80 20~70 30~60 40~230 65~205 90~180 3か月~6か月 10~80 20~70 30~60 40~210 63~180 80~160 6か月~1歳 10~80 17~55 25~45 40~180 60~160 80~160 1歳~3歳 10~40 15~35 16~24 40~165 58~145 75~130 3歳~6歳 8~32 12~28 12~28 40~140 55~125 70~110 6歳~10歳 8~24 10~24 14~20 30~120 45~105 60~90 解熱剤の効果 解熱剤を用いると熱が下がるため発熱による全身症状の軽減には役に立つ。しかし重症度を示す発熱というサインが病態に関係なく改善するため重症感染症を経過を追う上では不利になることがある。一般的に発熱が起こっていれば解熱剤は病態に関係なく解熱を行う。発熱があっても全身状態が良好な場合は解熱剤を飲むメリットはない。解熱効果によって安静を保てないため逆に感染症が遷延する場合もある。解熱剤を用いても発熱が改善しない場合は重症感染症を疑うこともあるが、体温にてそれらを鑑別するのは困難とされている。解熱剤を用いても全身状態が全く改善せず、重篤感が続く場合は細菌性髄膜炎の可能性は高くなる。
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