伝染性単核症とは? わかりやすく解説

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でんせんせい‐たんかくしょう〔‐タンカクシヤウ〕【伝染性単核症】

読み方:でんせんせいたんかくしょう

ウイルスの感染によって、発熱リンパ節腫脹(しゅちょう)などの症状呈し血液中に球の増加みられる感染症伝染性単核球症


伝染性単核症

伝染性単核症(infectious mononucleosis, 以下IM)は思春期から若年青年層好発し、大部分EpsteinBarr ウイルスEBV)の初感染によっておこる。主な感染経路EBV を含む唾液介した感染一部輸血による感染報告されている)であり、乳幼児期に初感染をうけた場合不顕性感染であることが多いが、思春期以降感染した場合IM発症することが多くkissing disease とも呼ばれている。EBV の既感染者の約1520%唾液中にウイルス排泄しており、感染源となりうる 1)。

疫 学

IM は、1889年Pfeiffer らによって腺熱として初め報告され疾患で、IM という名称は1920年Sprunt とEvans らによって初め用いられるようになったその後1932 年Paul とBunnell が異好抗体(heterophile antibody)を用いた血清学的な診断IMとの関連について報告し1937年Davidsohn はこの方法を応用して、さらに簡単で迅速なDavidsohn 吸収試験開発した。しかし、この方法は特異性欠けていた。
1964 年Epstein, Barr らによってアフリカのBurkitt リンパ腫患者から新しヘルペスウイルス発見されEpsteinBarr virusEBV)と命名された。IMEBV との関係が報告されたのは、1968年Henle らによるもの最初である。
日本人でのEBV 抗体保有に関して1997年のKusuhara らの報告によると、1223カ月齢児において54.5%~55.8%であり2)、同じヒトヘルペス科ウイルスであるヒトヘルペスウイルス6(HHV‐6)やヒトヘルペスウイルス7(HHV‐7)に比して感染時期は遅い。
年齢別抗体保有率は国により異なり我が国においては2~3歳までに70%位が感染を受け、20歳代で90%以上が抗体保有しているのに比して欧米では生活習慣違いなどにより、乳幼児期の感染20%前後で、それに伴い若年青年層における抗体保有率も低くIM発症本邦より多いと考えられる
現在の日本においては患者届け出義務はないため、正確な患者発生数不明であるが、米国報告では、年間一般人10万人当たり50人の患者発生認められている。ただし、感受性のある大学生においては10 万人当たり約5,000人がIM発症することから、不顕性感染者の数を考慮すると、大学生におけるEBV感染率年間10万人当たり12,000程度であると見積もられている 1)。
一方我が国においては好発年齢である思春期以降勿論のこと乳幼児期のEBV初感染においても注意深く観察すればIM症状認め場合があることが言われており、注意要する3)。さらに、従来ヒトサイトメガロウイルスCMV)の妊娠能年齢における抗体保有率は90%以上であったが、最近70%台に下がってきているという報告もあり、今後EBV対す抗体保有率についても注意深く観察する必要がある
いずれの場合においても、IM発症機序EBV対す細胞性免疫反応過剰反応であると考えられており、細胞性免疫発達した思春期以降の方が乳幼児期よりも発症頻度が高いのは、このことによる

病原体
ほとんどがEBV初感染によるが、一部サイトメガロウイルスCMV)、HHV‐6 、アデノウイルスADV)、単純ヘルペスウイルスHSV)、ヒト免疫不全ウイルスHIV)、A型肝炎ウイルスHAV)、B型肝炎ウイルスHBV)、トキソプラズマリケッチアによっておこりうるEBVはヒトヘルペスウイルス科γ亜科属する約172kbp の2本鎖DNAウイルスで、直径は約150~220nm である。ヘルペスウイルス性質上、ひとたび宿主感染する一生その宿主潜伏感染し、免疫抑制状態下で再活性化する性質有する
EBV はまず咽頭上皮細胞感染し、そこで増えたウイルスが、主にEBV標的細胞であるBリンパ球一部Tリンパ球natural killerNK細胞)に感染する。その機序は、EBVenvelope蛋白であるgp350/220 と細胞補体レセプターCD21 との結合細胞吸着することである。CD21は主にB リンパ球発現しているが、T リンパ球NK 細胞咽頭上皮を含む上皮細胞にも発現しており、感染ターゲットなり得るその後ウイルスendocytosis により細胞内取り込まれウイルスDNAウイルス粒子の中では線状存在し潜伏感染状態では環状変化し内で維持される。しかし、この状態ではウイルス産生されず、一部遺伝子(EBNA‐1,‐2,‐ 3a,‐3b,‐3c, ‐LP, LMP‐1,‐ 2a,‐ 2b, BARF0, EBER1,‐2)のみが発現している潜伏感染状態に入る。再活性化がおこると、まず前早期抗原immediate early antigenIEA ;BZLF1, BRLF 1)が作られその後早期抗原early antigenEA酵素類)、後期抗原late antigenLAcapsid 蛋白envelope 蛋白)が作られウイルス粒子産生が始まる。
EBVlytic cycle増殖サイクル)に入るとviral IL‐10vIL10)が産生されることが、Stewart ら(1992年)6)、Taga ら(1995年)7)によって報告されている。IL‐10Th1細胞機能抑制しT リンパ球増殖IFN‐γIL‐2産生抑制する。これは逆にB リンパ球の増殖免疫グロブリン産生EBV 感染B リンパ球増加にもつながる。
(以下はEBV による伝染性単核症に限定する。)

臨床症状1), 3), 5), 8)(表1

4 ~6週間長い潜伏期経て発熱咽頭扁桃炎、リンパ節腫脹発疹末梢リンパ球増加異型リンパ球増加肝機能異常肝脾腫などを示す急性感染症である。また、中枢神経症状呈する症例認められる発熱高頻度認められ多く場合38 上の高熱で1~2週間持続する場合が多い。扁桃には偽膜形成認め口蓋発赤著明出血斑を認めることもあり、咽頭痛を伴う。リンパ節腫脹は1~2週頃をピークとして全身認められるものの、頚部が主である。

伝染性単核症

1. IM臨床症状

発疹は主に体幹上肢出現し、斑状、丘疹状の麻疹様あるいは風疹紅斑であり、その形態多彩である。アンピシリン(ABPC)を内服すると薬疹生じて鮮明な浸出紅斑皮疹丘疹などを呈す同時に赤血球沈降速度亢進や、ポリクローナルな高ガンマグロブリン血症、リウマチ因子寒冷凝集素抗核抗体産生などが認められる。この現象EBV によるIM のみならずCMV によるIM においても認められる
リンパ球増加診断基準にも含まれており、特徴的な所見であるが、一部白血球減少認め場合もある。異型リンパ球は、Bリンパ球増殖に対しておこったCD4 陽性細胞や、NK 細胞から産生されサイトカインにより、CD8 陽性cytotoxic T lymphocyteCTL)が活性化したのであるといわれている。10%から中には50%と著増する場合もあるが、中には数%以下の症例認められる。CD4/CD8 比はCD4 陽性細胞減少CD8 陽性細胞増加により1以下である場合が多い。
肝機能異常はほとんどの症例認められるが、AST/ALT の増加第2週頃をピークとして300~500IU/L 程度のことが多い。黄疸を伴うことはまれである。なかにはAST/ALT が数千IU/L と著明肝機能異常を伴うことがあり、注意要する
肝脾腫頻度表1 に示すとおりで、肝腫大の方が頻度が高い。肝臓肋骨弓下1~2 横指触知されることが多い。脾腫に関しては、時に巨大脾腫から脾破裂に至ることもあるため、注意要する
合併症として認められる中枢神経症状には、無菌性髄膜炎脳炎急性片麻痺、Guillain‐Barre症候群視神経炎脳神経麻痺末梢神経炎、横断脊髄炎急性小脳失調中枢神経系リンパ腫などが含まれる。その他まれではあるが、溶血性貧血血小板減少再生不良性貧血B細胞リンパ腫心筋炎心膜炎肺炎気道閉塞などの報告もある。通常selflimited疾患であるが、遺伝疾患である伴性劣性リンパ球増殖症候群X‐linked lymphoproliferative syndromeXLPDuncan 病)の患者では、先天的にEBV 特異的CTL 活性誘導されないため、不死化したBリンパ球減少しないことと、NK活性が低いことも原因となり、致死性伝染性単核症となる。ここでは詳細について触れないが、IM とは別の病態である慢性活動性EBV 感染症長期予後依然不良である。
なお、一般にCMVによる場合は、EBVによる場合比して咽頭扁桃炎、巨大脾腫頻度少なく、異好抗体産生しない。

病原診断

表2の「3. EBV 抗体検査」にも示されているが、EBV対す抗体反応検査には多く種類がある。これらを総合的に判断してその病態理解することが重要である。
EBV 特異抗体大きく分けてVCAvirus capsid antigen抗体EAearly antigen抗体、EBNA (EBV nuclear antigen抗体3種類がある。

伝染性単核症

表2. 小児IM診断基準(Sumaya を改変

 VCA およびEAIgG,IgM,IgA 抗体測定できるVCA IgM通常初感染急性期検出されるが、乳幼児では検出されない場合があること、慢性活動性EBV 感染症場合にも陽性呈することがあるため、注意要するVCA IgG回復期上昇してくるが、年長児の方が早く上昇するので、IM急性期から陽性であることが多くその後陽性持続する一方VCA IgA上咽頭癌慢性活動性EBV 感染症などの特異な病態時に検出されることが多い。
EA IgGIM急性期終わりから回復期にEBNA 抗体より早く検出され数カ月経過陰性化するその後再活性化に伴い再び検出されるうになるEA IgM急性期のほとんどの症例検出されるが、検出期間が長いため回復期になって陽性であることが少なくなく、解釈には注意要する
EBNA 抗体感染後数カ月経過してから検出されるため、IM急性期では陰性である。しかし、EA IgG とは異なりその後陽性持続する。EBNA抗体の上昇が遅くEA IgM陰性化してもなおEBNA 抗体陰性時期がある場合があるので、注意が必要である。
いずれにしても一つ抗体価のみでEBV 感染症病態把握することは困難であり、必ず急性期と4 ~6 週後の回復期必要ならばさらに数カ月後の複数血清用いて結果判断すべきである
他に用いられる検査方法としてポールバンネル反応Paul‐Bunnell reaction test )があるが、最近は上記EBV 特異的抗体用いて診断することが多いこと、日本IM患者においては陰性例が少なからず存在することから、この方法を用いることは少なくなっている。これは、IM 患者血清中にはヒツジウマウシヤギ赤血球凝集させる物質(heterophile agglutinin )が存在するが、この凝集素特異な吸収パターン利用したのである
また最近では、分子生物学的手法用いた診断が行われるようになり、定量的polymerase chain reactionPCR)法を用いて血漿中のfree EBV genome 量を測定し診断応用できるようになってきた。Kimura らは 9)、IM急性期95%の症例では血漿1ml 中に平均10 2.4個のウイルス存在するが、その後徐々に減少し1カ月以内消失する報告している。一方重症例であるEBV associated hemophagocytic syndromeEB‐VAHS)や移植後のposttransplant lymphoproliferative disorderPTLD症例などでは著明ウイルス量増加しており、血漿1ml 中のウイルス量10 5.5~10 7.4個にまで達すとのことである。

治療・予防
特異的な治療法現時点では存在しないことと、一般的にはself‐limiting な疾患であるため、対症療法治療することがほとんどである。IM診断得られる前に抗菌薬を使う例も見られるが、ABPC を内服すると薬疹認めことがあるため、この薬剤使用避けるべきである。また、重症例や致死的IM疑われる場合には、抗ウイルス剤併用したウイルス特異的な治療法必要になる考えられるAcyclovir鼻咽頭へのウイルスの排泄抑制するものの、症状改善には効果認められていないGanciclovir, foscarnet, vidarabineAra‐A)などの有効例が報告されているが、いずれも重症型の慢性活動性EBV 感染症などに用いられているのみである。また、
最近移植医療進歩に伴いEBV によるPTLD発症問題になっているが、そのような病態場合には、化学療法EBV 特異的CTL 療法 10)、抗CD20単クローン抗体 11)、造血幹細胞移植などの治療法試みられている。

引用文献
1 )Katz BZ, Miller G: Epstein‐ Barr virus infections. Krugman's Infectious Diseases of Children,10th ed.1998, pp98‐115 MosbyYear Book, Inc.
2 )Kusuhara K, et al. Breast milk is not a significant source for early Epstein‐Barr virus or human herpesvirus 6 infection in infants: a seroepidemiologic study in 2 endemic areas of human T‐cell lymphotropic virus type I in Japan. Microbiol Immunol. 1997;41(4): 309‐12.
3 )脇口宏、高田今井章介:EB ウイルスと伝染性単核症、EB ウイルスEB ウイルスリンパ腫. ヘルペスウイルス感染症 監修・編集 新村眞人山西弘一. 発行臨床医薬研協会. 1996; 251258
4)Kieff E, Rickinson AB: Epstein‐ Barr virus and its replication. In Fields Virology 4th ed. 2001 pp2511‐2573 by Lippincott Williams &Wilkins
5)Rickinson AB, Kieff E:EpsteinBarr virus. In Fields Virology 4th ed. 2001 pp2575‐2627 by Lippincott Williams &Wilkins
6)Stewart JP, Rooney CM.The interleukin‐10 homolog encoded by EpsteinBarr virus enhances the reactivation of virusspecific cytotoxic T cell and HLA‐unrestricted killer cell responses. Virology. 1992;191(2): 773‐82.
7)Taga H, et al. Human and viral interleukin‐ 10 in acute EpsteinBarr virusinduced infectious mononucleosis. J Infect Dis.1995 ;171(5):1347‐ 50.
8)Sumaya et al.Epstein‐Barr virus infectious mononucleosis in children. I. Clinical and general laboratory findings. Pediatr 1985;75 :100310
9)Kimura H, et al. Monitoring of cellfree viral DNA in primary EpsteinBarr virus infection. Med Microbiol Immunol (Berl). 2000 ;188(4):197‐202.
10)Khanna R, et al.. Activation and adoptive transfer of EpsteinBarr virusspecific cytotoxic T cells in solid organ transplant patients with posttransplant lymphoproliferative disease.Proc Natl Acad Sci USA.1999 ;96(18): 10391‐6.
11Faye A,et al.Anti‐CD20 monoclonal antibody for posttransplant lymphoproliferative disorders. Lancet. 1998; 352(9136): 1285.

国立感染症研究所感染症情報センター 多屋馨子)

  


伝染性単核球症

(伝染性単核症 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/25 13:28 UTC 版)

伝染性単核症(でんせんせいたんかくしょう、: IM; Infectious mononucleosis)または伝染性単核球症とは、主にEBウイルス(エプスタイン・バール・ウイルス・EBV)の初感染によって生じる急性感染症。一般的にキス病とも呼ぶ[1]


  1. ^ 伝染性単核球症”. MSDマニュアル家庭版. 2022年1月29日閲覧。
  2. ^ 小児科 Vol.41 No.5 2000
  3. ^ Arch Otolaryngol Head Neck Surg 2007; 133: 61-64
  4. ^ イヤーノート 2015: 内科・外科編 メディック・メディア ISBN 978-4896325102
  5. ^ 日耳鼻 2004; 107: 199-202


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