ヨルダン川西岸地区
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ヨルダン川西岸地区(ヨルダンがわせいがんちく、アラビア語: الضفة الغربية aḍ-Ḍiffah l-Ġarbiyyah、ヘブライ語: הגדה המערבית HaGadah HaMa'aravit)、あるいは単に西岸地区は、パレスチナ国(パレスチナ自治区)の行政区画である。ヨルダン川の西側、ヨルダンとイスラエルの間に存在し、パレスチナ領域の一部を占めている。
- 1 ヨルダン川西岸地区とは
- 2 ヨルダン川西岸地区の概要
ヨルダン川西岸
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詳細は「ヨルダン川西岸地区」および「イスラエル西岸地区の分離壁」を参照 パレスチナのヨルダン川西岸地区は、パレスチナ自治政府が行政権、警察権共に実権を握るA地区、パレスチナ自治政府が行政権、イスラエル軍が警察権の実権を握るB地区、イスラエル軍が行政権、軍事権共に実権を握るC地区に分けられ、2000年現在、面積の59%がC地区である。なお、イスラエルはこの他に「軍事基地(Military base)」「射撃場(Firing zone)」「自然保護区(Nature Reserve)」も分類しているが、実質的にC地区の一部である。また、イスラエル軍占領地、ユダヤ人入植地は、これらの面積には含まれない(詳細はヨルダン川西岸地区#統治者による区分参照)。 C地区はイスラエルの占領地であるが、イスラエルは占領地であること自体を認めておらず、法的には係争地であると主張している。 「イスラエル国防軍軍律#法的根拠」も参照 イスラエル支配下のパレスチナ人地区では、住居はじめ建造物・構築物の建設はイスラエルの許可が必要だが、イスラエルの市民団体「ピース・ナウ」によれば、申請の94%が却下される。特にC地区では、2008年2月現在、パレスチナ人の住居は、自分の土地であっても過去10年間1軒も許可されていない。国際連合人道問題調整事務所(OCHA)によると、2010年 - 2014年の間に、C地区でパレスチナ人住民に建造許可が下りた割合は1.5%だった。 イスラエル軍は、「不法建築」を主たる根拠として、パレスチナ住民の建築物の破壊を行っている。OCHAがイスラエル民政局(ICA)のデータを参照したところによると、1988年から2014年にかけて、イスラエル民政局はC地区でパレスチナ人の建造物に対する、14087件の破壊命令を出した。実際に被害を受けた建造物は、約17000軒と推定されている。建物の破壊は年ごとに増加傾向にあり、1995年は164軒だったが、2010年には1020軒と始めて1000軒を超え、2013年には1090軒を記録した。2014年12月末時点で、約20%、2802件の破壊命令が実行された。約1%、151件は命令が取り消され、11134件の未処理の案件があった。また、2015年上半期には、パレスチナ人建造物245軒の破壊・解体・没収が行われた。20年以上前の命令を根拠に破壊が実施された例もあり、命令の効力は事実上無期限である。破壊に要した費用は、全てパレスチナ人から取り立てられる。イスラエル民政局は、ユダヤ人入植地の「不法建築」も取り締まっている。それによると、1991年から2014年にかけて、6949件の破壊命令を出した。約20%、1357件が実行され、約7%、486件は取り消された。約5%、368件は執行準備完了としており、約4%、295件は保留、残る4443件は未処理だった。ユダヤ人入植地は、「不法建築」認定されても、取り消される確率はパレスチナ人の約7倍である。またパレスチナ人と異なり、たとえ破壊されても、当局から代地を含む補償・支援を受けられることがある。 また、イスラエルは自国領・占領地・入植地と、パレスチナ人居住区とを分断する壁を一方的に築いている。イスラエルは「壁(חומה, wall)」ではなく「フェンス、柵(גדר, fence)」であると主張し、「反テロフェンス」と呼んでいる。壁は、イスラエル領土だけで無く、イスラエル領域外の入植地を囲む形で建設が進められている。第1次中東戦争の停戦ラインでパレスチナ側とされた領域も壁の内部に取り込まれており、事実上の領土拡大を進めている。2004年7月9日、国際司法裁判所は、イスラエルによる占領下にあるパレスチナにおける壁の建設が国際法に違反するという勧告的意見を下した。イスラエル側は現在も壁の建設を続行している(エルサレム周辺地図(英語) 青地がイスラエル入植地、灰地がパレスチナ人居留区、黒実線が壁、灰実線が計画中の壁。全体図は外部リンクからパレスチナ赤新月社による地図参照) イスラエルは単に壁を作るだけではなく、道路の通行規制も行っている。パレスチナ自治区であるべき地域に、イスラエル人専用道路(パレスチナ人立ち入り禁止)や、パレスチナ人の通行制限されている道路が多数存在している(地図:ヨルダン渓谷沿い入植地群)。 また、イスラエル軍や、ユダヤ人入植者などのイスラエル民間人は事実上治外法権であり、たとえパレスチナ自治政府が警察権を握るA地区であっても、イスラエル軍民の犯罪を摘発することはできない状況にある。イスラエルは、ユダヤ人入植者の犯罪にしばしば協力している。イスラエルの人権団体・Yesh Din(英語版)によると、2015年時点で、イスラエルの司法は、ユダヤ人入植者の被疑の85%を不起訴とし、有罪となったのは1.9%であった。 パレスチナ人在住・所有の土地の没収も、日常的に行われている。イスラエルの行政法は、今日でもオスマン帝国・イギリス委任統治領パレスチナ時代の法律が多く残っており、イスラエルはこれらの法律も利用している(ヨルダン川西岸では、さらにヨルダン占領当時の法律が加わる)。たとえば、第三次中東戦争での占領後、1967年7月31日にイスラエル国防軍は命令59を布告し、「敵国」、すなわち従来ヨルダン・エジプトが国有地としていた土地を全て自国の国有地と宣言した。しかし私有地の没収については1979年、イスラエル最高裁で違法判決が出たため、新たな法的根拠を用意する必要があった。そこでイスラエル軍は、命令59を改正し、イスラエルが国有地と宣言した土地に対しては、私有地であることを証明する手続きが必要であるようにした。占領地には、未登記でパレスチナ人が生活の用に供している土地が少なくなく、イスラエル軍は全てこれを国有地と宣言した。また、異議申立は通常の裁判所では無く、イスラエル軍運営の「異議申立委員会」でしか行えないようにした。これにより、イスラエル軍はさらに多くのパレスチナ人を追放した。さらに、イスラム法に端を発する、「3年間未耕作の土地はスルタンが収公する」規定を国家の収公と読み替え、パレスチナ人の耕作を妨害することによって、私有地についても多くの土地を国有地として没収した。 しかしそれでも、イスラエルの裁判所でパレスチナ人の私有が認められ、私設の(イスラエル政府が承認していない)ユダヤ人入植地に対して違法判決が出ることはあった。2017年2月6日、クネセトは私設入植地をさかのぼって公認し、パレスチナ人私有地の強制収用(ただし、補償金は支払われる)を可能にする法案を可決した。同法は、占領地におけるパレスチナ人のいかなる土地の没収も合法化する内容だったが、2020年6月9日、イスラエル最高裁は同法を基本法違反(事実上の違憲)とする判断を下したため、廃止された。 これらのパレスチナ人から没収した土地は、ユダヤ人に入植地として、本来のイスラエル領内の1/3程度の価格で販売されている。 OCHAは、イスラエル軍のパレスチナ人住民に対する振る舞いを、占領地の被保護者の追放を禁じた1949年ジュネーヴ諸条約第4条約第49条に違反していると指摘している。他方、イスラエルは、1907年のハーグ陸戦条約第43条に基づくイスラエルの義務と一致しており、1995年の、PLOとの暫定合意にも合致していると主張している。 OCHAの報告 によると、2019年の第1四半期(1~3月)に、ヨルダン川西岸地区でイスラエル軍によって、136のパレスチナ人による建造物が破壊された。イスラエル軍が破壊したのは、42%が住宅、38%が住宅関連施設、7%が水道・衛生施設だった。これにより、218人が事実上追放され、約25000人が影響を受けた。もっとも深刻な被害は、2月17日に行われた水道管の破壊で、ベイトフリック村、ベイトダジャン村(いずれもB地区)のあわせて約18000人が影響を受けた。また、ヘブロン南部のマッサファー・ヤッタ地区(イスラエルは「射撃場」に指定し、住民の立ち退きを要求)では、2018年10月にoPt人道基金の寄付で灌漑が整備されたが、2019年2月にイスラエル軍によって破壊された。また、A地区・B地区においても、住宅2軒がイスラエル軍によって破壊され、8人が避難した。 2020年9月のOCHA報告によると、イスラエル軍によるパレスチナ人所有の建造物の破壊は、2017年は月平均35件、2018年は38件であったが、2019年は52件と増加した。2020年は、新型コロナウイルス感染症流行初期の1-2月は、月平均45件に減少したが、3-8月は65件と、2017年からの4年間で最も多くなった。また、2020年3月から8月の間だけで、442人のパレスチナ人が家を失った。特に、8月は205人が家を失ったが、これは過去4年間で最多であった。7月21日に破壊されたヘブロンの建造物には、新型コロナウイルスのPCR検査場予定地が含まれていた。OCHAは、2018年に布告された命令1797によって建造物の迅速な破壊が可能になり、所有者が異議申立の手続きを取れなくなっていることを懸念している。 OCHAによると、2009年から2020年までの12年間に、パレスチナ人所有の建造物7236棟が破壊され、10920人が家を失い避難民となった(同一人物の複数回の被害もあるため、人数は延べ)。2020年中に破壊された建造物は836棟、避難民は984人に上り、これは2016年に次ぐ多さである。 水利権についても、同様にイスラエルによる占有が進められている。イスラエル軍は、1967年にヨルダン川西岸、ガザ地区、ゴラン高原、東エルサレム、シナイ半島を占領すると、同年8月15日の命令92で、イスラエル軍が水利権の全権を握ると布告した。同年11月19日の命令158で水道施設の許認可権を布告し、拒否に際して理由を示す必要はないとした。また、無許可の全ての施設・資源は、有罪判決を待たずに没収できると布告した。1968年11月29日の命令291では、1967年以前(イスラエル占領以前)の地権・水利権の契約は全て無効と布告した。 オスロ合意では、ヨルダン川西岸におけるパレスチナ人の水利権が公認されたが、地下水の1/4に留まり、ヨルダン川については水利権が認められなかった。オスロ合意では、パレスチナへの将来の水利権拡大を含めた最終的な地位協定が予定されていたが、実施されていない。2009年時点でも、イスラエルが8割の水利権を握っている。 OCHAによると、C地区のパレスチナ人住民27万人のうち、9万5000人は、WHOの推奨する1日の水消費量である100リットルの、半分以下の水しか利用できていない。また、パレスチナ・トゥーバース県の推計によると、県内のイスラエル人入植者は、パレスチナ人の8倍の水を割り当てられているという。
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