モラトリアム
「モラトリアム」とは、金融や心理学において使われる猶予期間のことを意味する表現である。
「モラトリアム」とは・「モラトリアム」の意味
金融における「モラトリアム」とは、金融機関に返済すべき融資の支払いを先延ばしにすることを指す経済用語である。例えば、恐慌や不景気などの深刻な景気後退が起こった時に、国家が主導して債務の支払いを一定期間猶予する措置を取ることがある。これがモラトリアムであるが、転じて他の分野でもモラトリアムという表現を使うことがある。そのため、他の表現と区別する場合に、金融における猶予期間のことを「金融モラトリアム」と表現することがある。心理学におけるモラトリアムは、アメリカの発達心理学者であるエリク・ホーンブルガー・エリクソンによって考え出された概念である。大人になるまでの猶予期間を意味する心理学用語であり、具体的には青年期から社会的な責任を負う成人になるまでの期間を指す。青年期は、アイデンティティ(「自我同一性」とも表現され、自分が誰であるかを自覚すること)が次第に確立していく時期であるが、このアイデンティティを確立して社会に適応するまでの期間をモラトリアムと表現する。モラトリアムは、社会の一員として一人前になるために、自己を見つめ直し、自己を高めていくという意味で意義深い期間であると言える。
一方で、モラトリアムという言葉は、アイデンティティの確立や社会的責任を負うのを先延ばしにする「大人になりきれない大人」というネガティブな表現として使われることもある。例えば、大学生の期間を無気力に過ごし、卒業後も定職に就かず、フリーターやアルバイトをして過ごす人をモラトリアム人間と呼ぶことがある。
モラトリアムは、他の分野でも使用されることがある。例えば、結婚できる状況なのに結婚を先延ばしにする「結婚モラトリアム」、輸入品の輸入を一定期間制限する「輸入モラトリアム」、電子商取引に関税を課すのを猶予する「関税不賦課モラトリアム」などの表現もある。いずれも場合も、猶予していることや猶予された期間を意味している。
「モラトリアム」の熟語・言い回し
モラトリアム人間とは
モラトリアム人間とは、医学者で精神分析家の小此木啓吾氏によって造られた言葉であり、「精神的に大人になり切れない大人」を意味する表現である。小此木啓吾氏は、『モラトリアム人間の時代』という著書において、青年期に特有だったモラトリアムが、社会全体に広がっていることを、社会的な背景を踏まえて論じている。
どんな人がモラトリアム人間になるのかについては、ひと言で言えば「精神的に未成熟な人」だと言える。具体的には、決断力がない人、責任から逃れようとする人、自己分析が正しくできていない人、社会に適応しようとしない人、何事にも無気力な人などである。なぜこのようなモラトリアム人間が広がったのかについては、社会的要因が指摘されている。
社会的要因の1つ目が、社会の多様化である。例えば職業で言えば、「親の仕事を継ぐ」のが当たり前の時代では、職業を決めたり、仕事の責任を負ったりすることにほとんど選択の余地がなかった。しかし、社会が多様化し、職業の選択が多岐に渡ったことによって、決断することが困難になった。何かを決断することは、他の可能性を捨てることであり、それを拒むことによってモラトリアム人間になるわけである。
社会的要因の2つ目が、平和で経済的に豊かなことである。生きることに必死だった時代は、日々の生活を送るために社会に出て働く必要があった。しかし、平和で経済的に豊かな時代になったことで、大学や大学院へ進学して社会に出るのが遅くなったり、卒業後も社会に適応できずに親に依存していたりする人が出てきた。平和で経済的に豊かなことは肯定的に捉えるべきことであるが、その反面モラトリアム人間が社会的に広がる要因ともなっている。
モラトリアム症候群とは
「モラトリアム症候群」とは、社会に適応するのを拒むという症状を指す言葉である。似た言葉に、「ビーターパン症候群(ヒーターパン・シンドローム)」がある。
モラトリアム傾向とは
「モラトリアム傾向」とは、適性検査などにおいて、モラトリアム人間の傾向がどの程度あるかを表す指標として用いられる言葉である。
モラトリアム期とは
「モラトリアム期」とは、金融においては、支払いが猶予された期間のことを意味している。心理学においては、アイデンティティが確立して社会的な責任を負うことができる大人になるまでの青年期を意味する。
モラトリアム期間とは
「モラトリアム期間」とは、モラトリアム期と同じ意味を持つ表現である。
モラトリアムファイターとは
「モラトリアムファイター」とは、2021年にリリースされたコレって恋ですか?というアーティストの楽曲である。
無罪モラトリアムとは
「無罪モラトリアム」とは、1999年にリリースされた椎名林檎というアーティストのスタジオアルバムである。「歌舞伎町の女王」「丸の内サディスティック」「幸福論(悦楽編)」などの全11曲が収録されている。
人生のモラトリアムとは
「人生のモラトリアム」とは、人生におけるモラトリアム期間を表す言葉である。大学生活を人生のモラトリアムと表現することもあれば、卒業後も含めた社会に適応するまでの期間を人生のモラトリアムと表現するなど様々である。
翼モラトリアムとは
「翼モラトリアム」とは、2020年にリリースされたALKALOIDというアーティストの楽曲である。
「モラトリアム」の使い方・例文
「モラトリアム」の使い方として、以下に例文を挙げていく。例1モラトリアムという概念は、エリクソンによって考え出された。
例2世界恐慌への対策として、モラトリアムに関する法案が可決された。
例3大学生活は、モラトリアム期間と言われることがある。
例4彼は、なかなか社会に適応できないモラトリアム人間だ。
例5大学卒業後も定職には就かず、自分を見つめ直すためにモラトリアム期間を延長した。
例6いつまでものんびりしていないで、早くモラトリアムを脱したほうがいい。
例7モラトリアム期には、多くの人と関わる中で多様な価値観を知るべきである。
例8先日の適性検査で、彼にはモラトリアム傾向があることが分かった。
例9国連総会で、死刑のモラトリアムが賛成多数で決議された。
例10彼はもう40歳になるのに、まだモラトリアムから脱していないようだ。
モラトリアム
モラトリアムとは、モラトリアムの意味
モラトリアムとは、猶予のこと。金融用語としては支払い猶予のことを指す。モラトリアム期間は、支払いを猶予された期間のことである。天災、戦争、恐慌などの非常事態には支払いを猶予することで債務者を保護する。この支払猶予をモラトリアムと呼ぶ。日本国内でも国際間の金融でも、モラトリアムにかかわる法令が定められている。非常事態が起きたときに、このようなモラトリアムが実施されなければ多くの事業者が破たんしてしまい経済的な混乱を招くからである。契約や条約におけるモラトリアム
契約、条約などにもモラトリアムという言葉が使われる。たとえば、急に実行または完了できない事柄について契約や約定をするときには、実行期間や完了期限に猶予期間を設定する。この猶予期間をモラトリアム期間と呼ぶ。国際条約では商業捕鯨禁止にかかわるモラトリアム期間がよく話題に上る。人生におけるモラトリアム
経済や金融以外にも、大人になるまでの猶予期間、社会へ出るまでの猶予期間などの意味に使われる。未達成、不完全、一時停止などの意味をいう。学校を卒業してからすぐに就職をしない場合、就職までの猶予期間をモラトリアムと呼ぶ。日本の大企業では新卒採用が主になるので、モラトリアム期間を持たない人が多いが海外ではよくある。学校を卒業してから1、2年を自己啓発や将来に向けての研修のためのモラトリアム期間を持つ人が多い。バックパッカーとして海外旅行をしたりボランティアに参加したりして社会勉強をする。心理学におけるモラトリアム
モラトリアムの語を心理学に使い始めたのがアメリカの心理学者エリクソンである。青年がアイデンティティを確立するには一定の猶予期間が必要であるとし、この猶予期間をモラトリアムと呼んだ。アイデンティティを確立できてこそ自分がいかに生きるべきかを確立できるとする考え方である。アイデンティティを確立するのを先延ばしにしている人のことをモラトリアム人間と呼ぶ。モラトリアム人間という言葉は、成人していて特に病気でないにもかかわらず職を持たずに親などに扶養されている人に使う。また、たとえ一流企業で働いていて多額の収入があったとしても自己を確立することができずに成熟した社会性を持たない人にも使う。日本では1978年に、「モラトリアム人間の時代」という著書が爆発的に売れ、一般的にも広く知られるようになった。この著書では、日本ではモラトリアム人間が増え続けていることに警鐘を鳴らしている。
モラトリアム症候群
モラトリアム症候群は青年期の精神的な悩みや理想などにとらわれたまま大人になり切れない状態を指す。アイデンディティ拡散症候群ともいう。青少年期から青年期にそれまでの価値観を狂わせるような出来事にあうと、その後の価値観や自己が確立しにくくなる。そのため、人生の目標が立てられなくなるのである。時間認識があいまいになりいつまでもモラトリアム状態を引きずって、社会の中で自分の役割を果たせない状態が続く。仕事をもたなかったり持ったとしても物事を自分で決定できなかったりする。時には引きこもり状態に陥ったりすることもある。過剰な自意識を持っているために現実的な社会に適応する力が弱って悪循環に陥ってしまう。モラトリアム症候群では人間関係が希薄で長期間一つの組織や集団に所属することができない。そのため転職を繰り返すこともある。以前はモラトリアム症候群の要因を精神疾患とらえていたが、現在では精神疾患ではなく誰にでも起こりうる心理的な停滞状態であると考えられている。逆境に弱い気質や不規則な生活が停滞を長引かせる要因になる。主にカウンセリングなどで治療するが、精神的に不安定な状態が続くときには薬物療法も実践されている。治療法の確立されていないのが現実である。
モラトリアム【moratorium】
モラトリアム(Moratorium)
モラトリアム moratorium
モラトリアム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/24 10:18 UTC 版)
モラトリアム(moratorium)とは、主に政府による一時停止や猶予、またその期間を意味する語。語源はラテン語の mora (遅延)から派生した morari (遅延する)である。
- 1 モラトリアムとは
- 2 モラトリアムの概要
モラトリアム
「モラトリアム」の例文・使い方・用例・文例
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