20世紀:批判理論、ポストモダニズム、実証主義の復権
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「社会学史」の記事における「20世紀:批判理論、ポストモダニズム、実証主義の復権」の解説
20世紀初期にはアメリカ合衆国で社会学が発展し、社会文化的進化に関わるマクロ社会学と、日々の人間の社会的相互作用に関わるミクロ社会学とが興隆した。ジョージ・ハーバート・ミード(1863年–1931年)、ハーバート・ジョージ・ブルーマー(1900年–1987年)、そして後のシカゴ学派、のプラグマティックな社会心理学に基づいて、社会学者たちはシンボリック相互作用論を発展させた。1920年代には、ルカーチ・ジェルジが『歴史と階級意識』(1923年)を発表したが、一方でデュルケームとヴェーバーの著作が死後に発表された。1930年代には、タルコット・パーソンズ(1902年–1979年)が行為理論を発展させ、社会秩序の研究をマクロ要因やミクロ要因の構造的・自発的な面の研究と統合させ、また一方では、この議論をシステム理論とサイバネティクスの高度に説明的な文脈の中に位置づけた。オーストリアで、後にはアメリカ合衆国で、アルフレッド・シュッツ(1899年–1959年)は社会現象学を発展させ、これがのちの社会構築主義を形成した。同時期にフランクフルト学派のメンバーのテオドール・アドルノ(1903年–1969年)やマックス・ホルクハイマー(1895年–1973年)が批判理論を発展させ、マルクスの史的唯物論の要素とヴェーバー、フロイト、グラムシの資本主義的近代は啓蒙の中心的教理からの退去だという知見と統合―必ずしも名目上に留まらず、理論上で―した。 戦間期に、社会学は表面上の政治的支配という理由で全体主義政府によって傷つけられた。ロシア革命の後に、社会学はソ連の中で存在しなくなるまで徐々に「政治化・ボリシェヴィキ化され、最終的にはスターリン化された。」 中国では、社会学は1952年に記号学、比較言語学、サイバネティクスとともに「ブルジョワ偽科学」として禁止され、1979年まで復興しなかった。しかしながら、同時期に社会学は西側の保守的な大学でも傷つけられた。これは社会学がそれ自体の目的と権限を通じてリベラルあるいは左派思想へ向かう生得的傾向を持っているものと認識したからというのもある。社会学が有機的結合や社会的団結に関心を持つ構造機能主義者によって創設されたと仮定すれば、この考えは幾分無根拠なものとなる(が、デュルケームをアメリカの大衆に紹介したのはパーソンズであり、彼の解釈は潜在的に保守主義であるとして批判されてきた)。 20世紀中頃には一般的な―しかし普遍的ではない―傾向がアメリカ合衆国に存在した―アメリカ社会学が当時の行為理論やその他のシステム理論的アプローチの交流によって本性上さらに科学的になるという傾向が。ロバート・キング・マートンが『社会理論と社会構造』(1949年)を発表している。1960年代の転機までに、社会学的研究は道具として政府や企業によってますます世界的に用いられるようになった。社会学者たちは新しい種類の量的・質的研究法を発展させた。ポール・ラザースフェルドがコロンビア大学で応用社会学研究局を創立し、そこで社会調査の手法にも組織にも巨大な影響を及ぼした。社会学的方法に対する多大な功績のために彼は「近代経験的社会学の父」の称号を得た。ラザースフェルドによって、統計調査分析、パネル法、潜在構造分析、文脈解析において長足の進歩が遂げられた。彼は数理社会学の共同創立者の一人ともみなされている。彼の考えの多くは今日でも明らかなこととされているほど影響力が高い。 1959年に、アーヴィング・ゴッフマンが『行為と演技――日常生活における自己呈示』を発表して、ドラマツルギー分析理論を導入して、各個人が自分の印象を他者の心の中に残すために特有の表現を作ろうとしていると主張した。チャールズ・ライト・ミルズは『社会的想像力』を著し、ぼんやりした経験主義や大理論を否定して人間中心主義的な言明を力づけた。1960年代には様々な社会運動の興隆と並行して、特にイギリスで、新マルクス主義やフェミニズム第二世代のように社会的闘争を強調する紛争理論の中から文化論的転回が起こった。ラルフ・ダーレンドルフとラルフ・ミリバンドは階級闘争や先進国の先駆的理論を提示した。この時代に、宗教社会学が世俗化テーゼ、グローバリゼーション、まさに宗教的実践の定義といった新しい論題とともに復興した。ゲルハルト・エマヌエル・レンスキやジョン・ミルトン・インガーといった理論家は宗教の「機能主義的」な定義を提示した; 言い換えれば、「宗教とは何か」と尋ねるのではなくむしろ宗教は「何をするのか」と尋ねるようにしたのである。これにより、様々な新しい社会制度・社会運動がその宗教的な役割という観点から調査できるようになった。マルクス主義の理論家は類似した用語で消費者主義と資本主義イデオロギーを精査し続けた。アントニオ・グラムシの『獄中ノート』[1929年-1925年]は最終的に1970年代初頭に英語で発表された。 1960年代~1970年代にはいわゆるポスト構造主義およびポストモダンの、古典的社会科学だけでなく構造主義や現象学を用いた理論が社会学的研究に大きな影響を与えた[要出典]。間テクスト性・パスティーシュ・アイロニーといった特色を持つ文化的スタイルである「後-モダニズム」としてしばしば理解されつつ、ポストモダンの社会学的分析は(1)(特にリオタールの作品における)メタ物語の分解、(2)物神崇拝論と後期資本主義の消費活動による自己の「鏡像」(ドゥボール; ボードリヤール; ジェイムソン)、と結びついたそれぞれの「時代」を提示した。ポストモダニズムはミシェル・フーコー、クロード・レヴィ=ストロースや、より低い度合いではあるがルイ・アルチュセールのマルクス主義をアンチヒューマニズムと調和させようという試みによって、人間主体という啓蒙的概念を否定することとも関連付けられてきた。この運動と結びつけて考えられる理論家のほとんどは積極的にこのレッテルを否定し、どちらかといえばポストモダンを分析手法というよりもむしろ歴史的現象と認める方を好む。それにもかかわらず、自覚的なポストモダン的意見が一般的に社会・政治科学において生まれ続けている。 1980年代には、フランス以外の理論家は、独立した新しい時代自体よりもむしろ近代の「第二の」様相としてのグローバリゼーション、コミュニケーション、再帰性(英: reflexivity)に注目する傾向にあった。ユルゲン・ハーバマスはコミュニケーション的行為を批判理論およびアメリカのプラグマティズムによって形成し、近代性に関する言明に対するポストモダンからの挑戦に対する応答として確立した。同輩たるドイツの社会学者ウルリッヒ・ベックは『危険社会』(1992年)を近代国家が組織される方法の説明として発表した。イギリスでは、アンソニー・ギデンズが周期的に起こる理論の二分化を構造理論によって調停した。1990年代にはギデンズは「ハイ・モダニティ」に対する挑戦を続けるとともに、新たな「第三の道」を提示してイギリスの「新しい労働党」やアメリカ合衆国のクリントン政権に大きく影響した。ポーランドの主導的な社会学者ジグムント・バウマンは広範にモダンおよびポストモダンの概念について、特に歴史的現象としてのホロコーストおよび消費者主義について著作活動を行った。ピエール・ブルデューが文化資本に関する研究を続けて大きな批判的絶賛を得た一方で、特にジャン・ボードリヤールやミシェル・マフェゾリのようなフランスのある種の社会学者は錯乱状態にあるとか、相対主義に陥ったなどとして批判された。 ニクラス・ルーマンのような機能主義体系の理論家は世紀の終わりまで社会学に支配的な影響力を保った。1994年に、ロバート・キング・マートンが科学社会学における功績によってアメリカ国家科学賞を受賞した。今日に至るまで実証主義学派は、特にアメリカ合衆国において一般的である。社会学を扱っている中で最もよく引用されるアメリカの雑誌、『American Journal of Sociology』と『American Sociological Review』は主に実証主義学派の研究を掲載しており、特に前者は極端な多様性を排除している(一方『British Journal of Sociology』は主に非実証主義者の研究を掲載している)。20世紀には社会学で用いる定量的方法の発展が顕著であった。経年で同じ人々を調査する縦断的調査の発展により、研究者が長期にわたる現象を調査できるようになり、研究者の因果関係を推論する能力が増大した。新たな調査法によるデータセットの増大に伴って、このデータを分析するための新たな統計手法が発明された。この種の分析は大抵SAS、Stata、あるいはSPSSといった統計解析ソフトウェアを用いて行われる。 実証主義学派の新たなパラダイムの一例として社会的ネットワーク分析がある。社会ネットワーク分析の影響は経済社会学(例えば、ジェームズ・クライド・ミッチェル、ハリソン・ホワイト、マーク・グラノヴェッターの研究を参照)、組織論、歴史社会学、政治社会学、教育社会学といった社会学の多くの下位分野に浸透している。より独立した、ホワイト・ミルズの精神を受け継いだ経験的社会学や、スタンリー・アロノヴィッツによるミルズの研究していたアメリカ合衆国のパワー・エリートの研究の小規模な復興も見られる。
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