テーゼ
「テーゼ」とは・「テーゼ」の意味
「テーゼ」は哲学の用語で、ある観念を一つにまとめて提示することを意味する表現である。「テーゼ」はドイツ語に由来する表現で、theseと表記する。他の訳語に定立あるいは措定などがある。ただ定立などの訳語は硬い表現となるので、哲学の専門書以外ではあまり使われない。日常的には「テーゼ」のほうがよく使われる傾向がある。哲学から発生した言葉であるが、数学などでも利用されている。証明問題でよく出てくる命題は、「テーゼ」と同じ意味を持つ。元の意味から派生して、「テーゼ」には政治の活動を支えている綱領という意味も生まれている。哲学史の中で最も有名な「テーゼ」を生み出したのは、フランスの哲学者ルネ・デカルトである。彼の遺した我思う故に我ありという「テーゼ」は、哲学に興味のないものでも一度は耳にしたことがある言葉だ。ドイツの哲学者イマヌエル・カントも、自身の哲学の中で「テーゼ」に重要な役割を与えている。彼は主著の中でアンチノミーという考えを打ち出した。アンチノミーとは本来なら矛盾対立しているはずの2つの「テーゼ」が、両立する状況のことを指す。日本語ではドイツ語のアンチノミーに二律背反という訳語をあてている。カントは二律背反は理性の誤謬だと結論づけている。彼が主張し証明しようとしたことは、理性には限界があるということだ。
カントの後継者と目される哲学者に、同じドイツ出身のフリードリッヒ・ヘーゲルがいる。ヘーゲルはカントが理性の限界だと結論したものに積極的な意味を見出した。彼は弁証法を用いて相反する「テーゼ」の対立を解決できると主張したのだ。ヘーゲルの弁証法では、1つの「テーゼ」と対立する「テーゼ」をアンチテーゼと呼び、この2つのものに優劣はないと考えた。「テーゼ」とアンチテーゼは互いに葛藤し合いながら高め合い最終的に一つの命題に合体する。この合成された命題のことを、ヘーゲルはジンテーゼと呼び、この総合の中に「テーゼ」とアンチテーゼの要素が批判的に吸収されると考えた。弁証法のようなものの考え方は西洋では馴染みのあるものだったので、ヘーゲルの思考法は人々に受け入れられていった。
日本で有名なアニソンに、残酷な天使のテーゼという歌がある。ほとばしるパトスや自由を知るためのバイブルのような、哲学的で衒学的な歌詞が受け、現在でもよく口ずさまれている。この歌のタイトルに出てくる「テーゼ」は、哲学の用語から引用されたものだ。
「テーゼ」の熟語・言い回し
ここでは「テーゼ」が用いられている熟語について、解説していく。アンチテーゼとは
アンチテーゼとは、ある主張に対して対立した内容をもつ主張のことである。対立命題または反立とも呼ばれている。対立しているからと言って正しい内容を含んでいないとも限らないので注意しなければならない。アンチテーゼという観念は、「テーゼ」とともに古代ギリシャで生まれたものだ。
天使のテーゼとは
天使のテーゼをそのまま日本語にすると、天使の命題となる。アニメソングのタイトルの一部だと考えられる。
残酷な天使のテーゼとは
残酷な天使のテーゼは、新世紀エヴァンゲリオンというアニメ作品のオープニング曲である。歌手の高橋洋子の11枚目のシングルとしても知られている。及川眠子が作詞をし、1995年にアルバムの中の一曲としてリリースされた。
「テーゼ」の使い方・例文
「テーゼ」は哲学の専門用語ではあるが、日常的にも頻繁に使われている表現だ。実際に使われる場合は、「このテーゼを証明せよ」「残酷な天使のテーゼを歌う」「テーゼとアンチテーゼを示せ」「デカルトの有名なテーゼを覚えよ」「日本は住みやすいというテーゼを提出した」「そのテーゼは間違っている」「弁証法はテーゼをジンテーゼしていく過程だ」「アンチノミーは矛盾するテーゼを集めたものだ」「テーゼが観念的なのは当然だ」のような形となる。命題
(テーゼ から転送)
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注釈
出典
- ^ 小学館デジタル大辞泉「命題」2
- ^ 詳しくは数学書における「命題」項目を参照
- ^ 小学館デジタル大辞泉「命題」3
- ^ 山川偉也「西周『致知啓蒙』に見る西洋形式論理学の本邦への導入について(共同研究 : ことばと理論(II))」『総合研究所紀要』第19巻第3号、1994年3月30日、35-46頁、CRID 1050564287545307264、ISSN 09187758。
- ^ 三省堂・大辞林(第三版)「命題」『②英語propositionの訳語として西周が考案。「百学連環」(1870-71年)にある』
- ^ “the conception we associate with the word ‘proposition’ may be something of a jumble of conflicting desiderata,”Lewis, David K.,1986, On the Plurality of Worlds, Oxford: Blackwell. p. 54
- ^ "Propositions" McGrath, Matthew and Devin Frank, The Stanford Encyclopedia of Philosophy (Winter 2020 Edition), [2]
- ^ 小説神髄(上)文体論。小学館日本国語大辞書「命題」
- ^ 精選版日本国語大辞典「命(めい)」③、あるいは小学館デジタル大辞泉「命(めい)」漢字項目2.3.5[3]
- ^ 精選版日本語大辞典(小学館)「命題」。なお井上哲次郎・有賀長雄ら編「哲学字彙」(1881)では「演題」は「推測式」に改訳されたが「命題」はそのまま取り入れられ、明治20年(1887)以降に一般化したとする。
- ^ 堀達之助「英和対訳袖珍辞書」改正増補(明治2、出版:蔵田屋清右衛門)P.322、国立国会図書館蔵[4]
- ^ 高崎金久『数理論理学入門』「Ⅲ.命題論理の意味論(その1)」1.1.1 命題とは何か[5]
- ^ 高崎金久『数理論理学入門』「Ⅲ.命題論理の意味論(その1)」1.1.1 命題とは何か[6]
- ^ A. G. Hamilton, Logic for Mathematicians, Cambridge University Press, 1980, ISBN 0521292913
- ^ * 伏見康治「第I章 数学的補助手段 6節 命題算、集合算 p.50」『確率論及統計論』河出書房、1942年。hdl:10787/00033830 。"応用数学第8巻"。 ISBN 9784874720127 2024-01-18閲覧。
- ^ 小学館・デジタル大辞泉「定立」
- ^ 小学館・日本大百科全書「テーゼ」加藤尚武(ニッポニカ)
- ^ 高井一「空言舌言 百七十三、至上命題」2009/11/27
- ^ 新潮社、大正15年11月5日発行、P.65、この他P.195には「最上の命題」の用例あり。
- ^ 神戸大学新聞記事文庫[7]
- ^ 第90回衆議院本会議(昭和21年6月24日)中野四郎
- ^ 竹山美宏「数学書の読み方」(森北出版、2022.3.8)P.P.7-8
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「ラグナロク (小説)」の記事における「テーゼ」の解説
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