20世紀後半の脱分化仮説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/09/07 21:41 UTC 版)
Champyの提唱した脱分化仮説は、20世紀後半までにおおかた否定された。決め手となった論文のひとつはSatoらによるものである。 前記論文中でSatoらは、肝臓の初代培養から得られる細胞が何者であるか判定するために、まず、抗肝臓血清と抗培養細胞血清を作った。いずれの組織からも同様な細胞が得られるという観察から、抗培養細胞血清は腎臓由来の培養細胞を用いて作っている。さらに、それらの抗血清を肝臓細胞、あるいは肝臓切除個体の断片に吸着させて、特異性を高めた抗血清とした。準備した抗血清は以下の6つである。すなわち、「抗肝臓血清」、「抗肝臓血清から肝臓に吸着する抗体を除いた血清」、「抗肝臓血清から肝臓以外の組織に吸着する抗体を除いた血清」、「抗培養細胞血清」、「抗培養細胞血清から肝臓に吸着する抗体を除いた血清」、「抗培養細胞血清から肝臓以外の組織に吸着する抗体を除いた血清」であった。6つの抗血清を用いて初代培養に用いる肝臓細胞を処理し、その後抗血清を遠心分離して洗い流して培養した。1週間後、培養皿底面に接着した細胞を染色して数えた。結果、3種の抗肝臓血清を用いた培養ではいずれもコントロールより細胞数を減らしていたものの、一定量の細胞を観察できた。一方、抗培養細胞血清を用いた培養では、抗培養細胞血清と抗培養細胞血清から肝臓に吸着する抗体を除いた血清を用いた場合には、ほとんど細胞が観察できなかった。これは培養して増殖してくる細胞が抗培養細胞血清によって取り除かれた事を意味する。そして、抗培養細胞血清から肝臓以外の組織に吸着する抗体を除いた血清、これはこの動物の肝臓以外の抗原ほぼ全てに結合すると思われるが、これを用いた場合には一定量の細胞を観察する事ができた。これらの結果から、肝臓の初代培養より得られてくる細胞は個体から得られた時点で肝臓の特性を有していない細胞である事がわかり、Champyの脱分化仮説が否定され、Satoの選択仮説が採られた。 カンギレムによれば、培養環境に移された細胞や器官は解き放たれている。 〔外植の場合には〕その存続を可能とするような、特別に合成され、条件を付与され、維持される媒質〔環境〕のなかに、ある組織あるいは器官を置くことによって(組織培養あるいは器官培養)、その組織あるいは器官を、それといっしょに全体的有機体をつくりあげている他の組織とか器官の調整された総体が正常な内部環境を通じてそれに及ぼすところの、すべての刺激作用とか禁止作用から解き放つ。 和訳本の「解き放つ」は原文(フランス語)の「libère」に対応している。
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