給与・待遇の問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 02:45 UTC 版)
サービス残業の恒常化・過重な責任 常に収益の向上を名目とし、人件費削減を過剰に追求しているため、仕事量と内容に対して人数が絶対的に不足しており、作業量が過重な上に増員や分業もできない。例えば技術的な知識の浅い素人が「セールスエンジニア」「技術営業部」などの肩書きで、「外回り営業」をしながら同時に「自社製品のメンテナンス」を兼任させ、本来は專門技術や資格が必要な「修理作業」も行わせる。 サービス残業が恒常化し、定時に終わらせることなど到底無理な仕事量を押し付ける。定時に社員全員のタイムカードを押させるなど工作し勤怠記録の偽造や捏造、あるいは悪質なケースでは勤怠記録の改竄する場合もある。または「定時までに仕事をこなせなかったお前が悪い」などと叱責し、サービス残業を強制することも。 残業手当を大幅な時間ごとで区切る(実際は1分でも超過すると残業代が発生するが、そのことを従業員には伝えない)。1時間の場合は1時間になる前(59分)にタイムカードを切らせ、1時間分の残業手当を支給させないようにする。 余程の重症や周囲に支障が発生するもの(法定伝染病など)でない限り、病気になっても休暇・早退を認めない(法定伝染病でも休暇を認めない場合もある)、あるいは解雇する。虫歯の場合治療の時間が取れず重症化した例もある。 勤務時間外や休日の「接待」(特に「接待ゴルフ」)の頻度が異常に高い。 部下や社員を付き人や家政婦のような扱いをする。休日や業務終了後に私的に呼び出し、雑用係として連れまわしたり、掃除や家事をさせたりする。自分からの呼出しに最優先で応じられるように休日の過ごし方や仕事のやり方も指導する(ほとんどの場合「社員が自主的に応じた」「仕事とは無関係」として「休日出勤」「残業」の扱いにしない)。 過労や心身の不調(風邪、虫歯、アレルギーなど)、労働災害に対し自己責任論を持ち出す。従業員に非現実的な身体能力や根性論(絶対に疲れない、眠くならない、人体に有害な環境でも平気、炎天下で水分補給しなくても大丈夫、泥酔しても安全運転etc)を求め、全ては従業員の能力不足に起因するというスタンスを貫く。 社用車での営業、配送、レンタカーの回送業務の場合、無茶苦茶な納期や制限時間を従業員に与え間に合うためにあらゆる交通違反行為(スピード違反、あおり運転、過労運転など)を行うことをいとわなくさせる。 人事考課制度や給与システムの恣意的な運用 「成績や頑張りに見合う」「努力が報われる」などという、主観のみの給与制度として成果主義や年俸制を導入する。営業部門・技術部門だけでなく定量的な判断が難しい人事・総務部門にすら導入。上層部は難癖をつけて社員の俸給を上げないように意図的に悪い評価を付ける。 残業手当の支給を免れるため、裁量労働制やフレックスタイム制やみなし労働時間制を悪用して、社員の拘束時間を無制限に延ばす。 トライアル雇用や若者チャレンジ訓練、特定求職者雇用開発助成金といった、国(厚生労働省)の就業支援のための雇用制度の悪用。補助金などを搾取し、相手をしごきや過重労働で肉体的、精神的に疲弊させ用済みとなったところで解雇する。 当直の労働基準監督署への届出をしていないのに、当直と言い張り、時間外の勤務に対して労働対価を支払わない。 交代勤務(2交代)の場合、拘束時間が12時間であることを直接記載せず、実働時間が8時間であるように誤認させる。例:「昼勤 9:00 - 18:00 / 夜勤 21:00 - 6:00」(昼勤の18時 - 21時、夜勤の6時 - 9時も残業として拘束時間に含まれる)。交代勤務の中で休憩が与えられていないにもかかわらず休憩を取得したように申告させる。 週休一日のみで週40時間の労働を順守できないにもかかわらず、届出に「週40時間」などの虚偽を記載させる(残業時間を除く)。 有給休暇を認めない、あるいは可能であっても取得理由の提示、日時の変更、私事では利用できないなどの条件、制限などがある。もしくはセミナーや社内イベントなど強制参加の行事を有給扱いとし消化させる。 「不況で給与(賞与)が出ない」と言っても実際は減らした分を経営者・上層部が私的に流用したり、上層部の給与に上乗せしている。 「毎年全社員の給与をゼロベースで見直す」といった荒唐無稽な制度を社内制度と公言して憚らず、実際に運用する。本来、賃金の減額は賃金の「減額事由、減額方法、減額幅等の点において、基準としての一定の明確性」(ユニデンホールディングス事件(東京地裁平成28年7月20日))を持つ賃金規定を持っていなければできないが、そのような公正な制度を持っているわけではない。 育児休業の制度がないか有名無実化している。育児休業の制度がある場合でも「育児休業の取得は職場の迷惑でしかなく、経営者にとっては甚大な損害である」という経営側の利益のみを追求する考えから、結婚・妊娠・出産した女性社員を、自宅通勤が困難もしくは不可能な遠隔地への異動といった人事で退職に追い込んだりする(マタニティハラスメント)。 薄給の上に経費が自腹。 転勤(引越し)や備品の購入に要する諸経費の全額(または一部)を自己負担させ、会社側で全額を負担しない。出張に必要な交通費や宿泊費でさえ、自己負担もしくは給与から天引きされる。 勤務に必要な制服や道具などを会社が負担・支給せず、逆に従業員に購入させる。購入が入社の条件というケースもある。 勤務に必要な設備や備品を「稟議が通らない」「なくても仕事はできる」などの理由を付けて購入せず、「どうしても欲しかったら自分で買え」と事実上の自己負担を強制する。さらに、自腹で購入させた後に社用物扱いにさせ、会社のものにしてしまうケースもある。 ミス・ノルマ未達成の過酷なペナルティ ノルマの達成を「できて当たり前」という認識しか持たない。 ノルマが達成できない場合やミス(例:報告書・企画書での誤字・脱字、誤発注、商品・機械・社用車(運転者の過失の有無を問わず)の破損)をした場合、所得税や保険料などを控除した手取り額を時給に換算した場合の額が最低賃金以下になる。「罰金」「修理代」「弁償」などの名目で控除したり、給与を自主返納させたり、成績下位や未達成者の給与を成績上位者や達成者に何らかの形で移転したり、「自爆営業」「自爆」行為を強制させて手取りがマイナスになる場合もある。 ミスの防止、ノルマの達成率向上を理由に管理者や同僚からの職場いじめが放置、無視、黙認されており、会社都合退職や懲戒解雇(やみくもに行えば逆に訴訟を起こされたり会社が行政処分を受ける)が難しいことで却って嫌がらせによって自主退職を迫らせてる。事実上の退職勧奨(強要)状態に置かれる。 仮にノルマを達成し、かつ1つのミスがないにしても、売上や利益が賃金に還元されない(ノルマ達成・超過に対するインセンティブや報酬がない)。 あらゆる不可抗力に対しても罰金を取ったり始末書を書かせる。例:設備の故障や、悪天候・自然災害などによる電車の遅延や運休(「遅れるのであればもっと早い電車に乗れ、始発に乗れ」「前日に会社やその周辺のビジネスホテルやネットカフェに泊まれ」「ニュースを見て天候を予測しろ」と叱責する場合もあり)、事件・事故の被害者になった場合でも「欠員が出て当該社員が会社に損害を与えた」として例外なく罰金を取る(従業員が死亡した場合でさえ遺族へ請求する)。 また、こうして徴収した罰金や半ば強制的に「自主返納」させた給与を上司や経営者側が記録に残さず詐取して私的に使用したり、膨大な内部留保、不正蓄財の根幹を成している。 心身の健康を害するほどの身体的・精神的ストレス 2交代制や3交代制の交代勤務や、交代制勤務でなくても終電過ぎまでの勤務や何日も会社に泊まり込んでの仕事など、体調を崩したり、鬱病(うつ)などの精神障害を発症する。さらに過剰なストレスによるPTSDの発症、発作的な自殺や過労死など生命を失う事態もある。 上述の「クラッシャー上司」にまつわる諸問題。「クラッシャー上司」の部下にされた者は過剰なプレッシャーとストレスを掛け続けられ鬱病を発症し、次々と倒れていく。倒れて出社できない状態になれば「用はない」として事実上解雇させられる。懲戒解雇にさせられる場合さえある。 スキルアップとキャリアアップは皆無 ブラック企業では従業員は短期間で退職に追い込まれるケースが多いが、仮に何年も勤続したところで業務スキルや専門的なノウハウがほとんど身に付かないなど、キャリアアップのシステムや支援は実質的にない。 対外的に通用しスキルアップに繋がる国家資格など公的資格の取得に対しては、消極的な姿勢を取る。資格取得は使役する側にとっては資格手当など人件費増加の要因でもあり、特にブラック企業では企業が必要とする従業員である場合にも対外的に通用する資格の取得完了が退職の契機になるため。さらには受験資格の証明などの必要書類を発行しない、社内行事の日程を資格試験の当日にぶつける、実技試験がある場合でも社内の機械・工具での練習を許可しないなど、受験自体を妨害する。 同業他社などにもその様な実情がニュース報道などで知られており、退職後や不正発覚や事故(作業中の死亡事故の多発、食品工場の場合は食中毒の発生など)による倒産後の転職活動では職歴がマイナスにのみ働く。 資格取得のノルマ化 「ベンダー資格#ベンダー資格の注意点・問題点」も参照 「社内全体のスキルアップ」などを名目に、社外では通用しない内容の社内資格制度が乱発され、その取得数を部署や営業拠点の単位で競わされ、従業員単位で見れば事実上ノルマ化している(「接客マイスター」「お客様対応エキスパート」など)。 社外でも通用する資格の取得を会社が命令することもあるが、この場合、会社と取引関係がある企業の運営する民間資格・ベンダー資格であったり、国家資格・公的資格の場合は合格率の低い難関資格など、会社の都合による資格の取得で、これが絶対ノルマとして課される。 忌引制度の有名無実化 肉親や配偶者、実子が死亡しても職場の都合を優先させて忌引を認めない。あるいは、有給休暇がない場合、事実上忌引を認めないか、忌引制度を行使できる対象が制限される。
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