条約 条約の概要

条約

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/24 23:39 UTC 版)

日本国魯西亜国通好条約の原文(外務省外交史料館蔵)

現代では当事者能力を持つのは独立国家に加えて公的な国際機構があり、国際連盟(1920年-1946年)および国際連合(1945年-現在)などの国際機関締結の主体となり得る[2]。当事国は原則として、当事国の憲法ないし基本法における手続・制約に基づいて、国際法が禁止しない一切の内容を、交渉によって自由に作成することができる[2]

合意した文書には、「条約」という名称以外に「協約」「協定」「規約」「憲章」「宣言」「交換公文」「議事録」「議定書」などの名称も使用されるが、名称が異なる事によって効力の優劣があるわけではない(詳細後述)[2]外務省設置法では、これら広義の条約を「国際約束」と称している[3]

概説

歴史上確認されている最も古い条約は、国家間での交渉が始まった紀元前2400年ごろ、古代メソポタミアにおけるラガシュ・ウンマ戦争において都市国家ラガシュウンマの間で締結された国境画定のための条約であるといわれ、国境には両者の取り決めにもとづいて石碑が建てられたとされている[2]

条約法に関する一般条約である条約法に関するウィーン条約(条約法条約[注 1])では、条約を以下のように定義している。

第二条1
(a)「条約」とは、国の間において文書の形式により締結され、国際法によつて規律される国際的な合意(単一の文書によるものであるか関連する二以上の文書によるものであるかを問わず、また、名称のいかんを問わない。)をいう。

「名称のいかんを問わない」としているのは、国家間などで結ばれる個別の文書による合意(広義の「条約」)には、形式についての統一的な規則がなく、各種の名称が用いられているためである[4]。広義の条約には狭義の条約(treaty、convention、例:生物多様性条約)以外に、協定(convention,、agreement、accord、例:WTO設立協定)、議定書(protocol、例:京都議定書)、宣言(declaration)、憲章(charter、constitution、例:国際連合憲章)、規約(covenant)、盟約(pact)、決定書(act)、規程(statute)、取極(arrangement)、暫定協定(modus vivendi)、交換公文(exchange of notes)、交換書簡(exchange of letters)、合意覚書(memorandum of agreement)、合意議事録(agreed minutes)等の様々な名称を持つものがある[4]。これらは法的拘束力において相違はないが、主に慣習によって使い分けられているもので、例えば、議定書は一般に既存の条約を補完する条約の名称として用いられる(例:京都議定書気候変動枠組条約を補完する内容を持つ)。

なお、条約法条約は「国際法によって規律される(第2条)」という要件を規定している。従って国家間の合意であっても、国際法ではなくその国家の国内法によって規律される私法上の契約と同様の合意が起こり得るが、このような合意は条約法条約の適用範囲外である[5]

二国間条約と多国間条約

二国間条約

二国間条約の場合、政府代表が署名を行った時点で効力を発する行政協定英語版(行政取極)[注 2]あるいは簡易協定と、議会による批准等の承認を受けて初めて発効の手順(批准書の寄託等)を踏むことのできる通常協定[注 3]がある。いずれの場合においても、二国間の協定において「加入」するという手続を踏むことはない。すなわち、行政協定(行政取極)の場合は政府代表間で相互に署名を行うことで当該協定を締結したことになるが、通常協定の場合は相互の政府代表者による署名後に、議会による批准等の承認を得るまで当該協定は発効しないことになる。

例えば日本の場合、日米安全保障条約(安保条約)は議会の承認が必要な「通常協定」に当たり、2007年8月に閣議決定を経て署名・締結された「秘密軍事情報の保護のための秘密保持の措置に関する日本国政府とアメリカ合衆国との間の協定」(GSOMIA)は「行政協定(行政取極)」に当たる。これらの二国間条約は、いずれも加入の対象とならない。

多国間条約

多国間条約の場合、政府代表間での批准書の交換という手続は採らず、代わりに国連の条約局、専門機関、地域間条約などを管理・運営する事務局、条約作成地の政府などが、批准書、受諾書、加入書等の寄託を受ける仲介機関(寄託者)の役割を担う。


注釈

  1. ^ 条約法に関するウィーン条約を「条約法条約」、国と国際機関との間又は国際機関相互の間の条約についての法に関するウィーン条約を「国際機関条約法条約」、条約についての国家承継に関するウィーン条約を「条約承継条約」とそれぞれ表記するのが一般的である(国際法事例研究会(2001)v頁)。
  2. ^ : executive agreementadministrative arrangement
  3. ^ : conventional agreement

出典

  1. ^ a b 長谷部恭男(2008)395頁。
  2. ^ a b c d e 經塚(2004)
  3. ^ 中内 康夫(参議院常任委員会調査室・特別調査室・外交防衛委員会調査室) (2020年11月). “国会の承認を要する「条約」の範囲 ― 現在の運用と国会で議論となった事例の考察 ―”. 参議院. 2024年6月21日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m 衆議院憲法調査会事務局 (2004年4月). “「憲法と国際法(特に、人権の国際的保障)」に関する基礎的資料”. 衆議院. 2017年3月3日閲覧。
  5. ^ 国際法事例研究会(2001)5頁。
  6. ^ 家正治、「1970年代における国際連合」 『神戸市外国語大学外国学研究』 2巻 p.113-133, 1976-03-31, NAID 120005657364, 神戸市外国語大学外国学研究所
  7. ^ a b 国際法事例研究会(2001)15頁。
  8. ^ 参議院会議録情報 第055回国会 外務委員会 第16号
  9. ^ 衆議院会議録情報 第126回国会 外務委員会 第7号
  10. ^ a b 国際法事例研究会(2001)10頁。
  11. ^ 韓国法から考える、近年の日韓関係の齟齬について”. www.jicl.jp. 2021年10月8日閲覧。


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