2020年2月以後の推移
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「イギリスの欧州連合離脱」の記事における「2020年2月以後の推移」の解説
紆余曲折を経て、離脱協定が成立し、イギリスは2020年2月1日午前0時(ベルギー時間)からEUの加盟国ではなくなった。しかし離脱協定により2020年12月31日までは移行期間としてイギリスはEUの加盟国とみなされEU法が適用され、EUが他の国と提携した国際約束(例えば、日本・EU経済連携協定)はイギリスに適用される。 移行期間は、イギリスとEUが合意すれば最大2年間延長できるとなっているがそのためには2020年6月末までに合意を行うことが必要である。しかし2020年6月12日にイギリスのゴーブ内閣府担当相は以降期間を延長しない方針をEU側に正式に通告した。 移行期間中の交渉として、EUとの包括的な自由貿易協定交渉が3月2日に開始された。3月18日の交渉会合は、同時期より流行し始めた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で中止(延期)となり、新しい日程の設定とビデオ会議による交渉が合意された。交渉は公平な競争条件の確保などの点でイギリスとEUとの間に意見の相違があり、合意が達成されない場合のEU英国間貿易への影響を懸念する声があがっている。2020年6月15日、ジョンソン首相は、欧州理事会(EU首脳会議)のシャルル・ミシェル常任議長、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長、欧州議会のダビド=マリア・サッソーリ議長とビデオ通話で会談した。双方は、イギリスが移行期間を延長しないと決定したこと、移行期間は2020年12月31日に終了することを確認した。離脱協定に基づき、移行期間は2020年12月31日に終了すると続けた。その上で、双方は将来関係の協議について過去4回の交渉ラウンドを踏まえ、新たな契機が必要との認識で一致した。ジョンソン首相はこれまで、将来関係に関する大筋合意を目指した6月までに妥結のめどが立たない場合は、EUとの協議を打ち切る可能性も示唆していたが、これは回避されたが、双方の溝は埋まらない状況が続いている。 EU以外との通商協定については、イギリスは、米国、日本、オーストラリア、ニュージーランドの4カ国を交渉の優先国と方針を明らかにしており、米国との交渉は、2020年5月5日に、日本との交渉は2020年6月9日に、オーストラリア及びニュージーランドとの交渉は2020年6月17日に開始された。また、2020年6月17日に、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)への加盟を目指す方針を改めて表明した。 英国政府資料などを基にジェトロ作成した資料によれば、EUがFTAを締結している37カ国・経済圏のうち、韓国、モロッコ、スイスなど20カ国・経済圏とは妥結・署名済みであり、カナダ、エジプト、メキシコなど16カ国と協議中である。日本については他の36カ国・経済圏とは異なり、現行の日EU・EPAを上回る野心的な協定を掲げ、他の継承対象国とは別格の扱いとして新規に締結交渉をしている米豪NZ、CPTPPと同じくパブコメも実施している。 2020年7月21日、英紙テレグラフは、政府筋の話として、「合意は成立しないというのが英政府の前提で、ただ、EUが秋に譲歩する場合には「基本」合意は可能だとみている。」と報道した。 2020年8月7日、ロイター通信は、「ゴーブ英内閣府担当相は7日、ここ数週間でEU側に明確な姿勢変化があったため、EUとの自由貿易協定(FTA)締結を確信していると述べた。」と報道した。この報道は更に3日のロイター自身の報道を引用する形で「外交筋の話として、EUは難航している英EU離脱後交渉を進展させるために、英政府による企業への国家補助に関して、最初からEUの規則を義務付けるのではなく、将来的な順守を求める形に姿勢を軟化させる意向」とも報じている。 2020年9月7日、ジョンソン首相は難航する英国とEUの将来関係交渉について声明を発表。8日からのロンドンでの交渉第8ラウンド開始を念頭に、「EUとの交渉は最終局面に入った」とコメント。「2020年末までに施行するならば、10月15日の欧州理事会までに協定(の妥結)が必要」と交渉期限を示した。 2020年9月9日、ロイター通信は下記のように報道した。イギリス政府は、離脱協定の一部を無効化する法案を議会に提出した。離脱協定では北アイルランドとアイルランド間の国境を越えた自由な貿易が認められるが、北アイルランドと英国本土間を通過する物品に関しては検問が必要になる場合があるとしている規定に対し、輸出申告の形式や他の手続きを修正することで無効にする権限をイギリス政府に付与するものであり、EUは英国が離脱協定の修正を試みれば英国との自由貿易協定(FTA)は実現しないと警告、交渉を巡る混迷が一段と深まった。 ロイター通信が伝えた法案は、「英国国内市場法(United Kingdom Internal Market Bill)」案をであり、これに対してEU側が説明を求めてEU離脱協定を実行に移すための英国・EUの合同委員会の特別会合の開催を申し入れ、特別会合は、2020年9月10日にロンドンで開催された。欧州委員会は会合後に声明を発表し、その中で「欧州委のマレシュ・シェフチョビチ副委員長(EU機構関係・将来展望担当)は英国の法案について、現行案のまま採択されれば、離脱協定と国際法の極めて重大な違反を構成すると厳しく批判した。同法案の北アイルランド議定書に規定する通関手続きや国家補助に関する箇所の一部の規定が「国際法や他の国内法令との不一致または不適合性(inconsistency or incompatibility)にかかわらず効力を有する」と明記している。欧州委は、こうした内容が北アイルランド議定書第5条(通関手続き)と第10条(国家補助)に明白に違反するだけでなく、離脱協定本文の第4条(協定の実施方法)と第5条(信義誠実原則)にも反すると指摘した。 英国国内市場法は、離脱協定の一部を無効にする権限について、行使前に議会の承認を求めるとする修正がされ、9月29日にイギリス下院を賛成340、反対256で下院を通過した。これに対し、EUは10月1日、法的措置として、離脱協定の条項に基づきイギリスに正式通知の書簡を送付し1か月以内の回答を求めた。 2020年10月14日、ブルームバーグ通信は「英国政府はEU首脳が通商合意成立に向け最後の努力する用意があると示唆する限り、ジョンソン首相が期限に設定した10月15日を過ぎても交渉を続ける見通しだと、事情に詳しい関係者が明らかにした。」と伝えた。最終的な期限については、「双方とも10月末または11月初めを合意成立の現実的な期限と見なしていると、交渉状況に詳しい関係者らは語った。」とも伝えている。 2020年10月15日、EU理事会は声明を発表し、交渉継続の意向は示しつつ、イギリス側の譲歩の必要性を強調した。これに対し、ボリス・ジョンソン英首相は10月16日朝、声明を発表。英・EU間の自由貿易協定(FTA)不成立への備えを呼び掛ける一方、打ち切りは明言しなかった。 この状況について2020年10月20日付日経ビジネスは、慶応義塾大学の庄司克宏教授へのインタビューとして「これはブラフ。11月上旬までに何らかの妥協が成立する」と報じた。庄司克宏教授は、理由として 1 イギリスは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を、大きく受けており、ノーディール離脱の影響を背負うのは現実的でない 2 スコットランド独立運動の激化をまねく 3 北アイルランド紛争の再燃を招く 4 金融サービスをめぐる同等性の付与 5 個人情報の保護の十分性の承認の5の理由で、イギリスは妥結をする必要があるとしている。この4と5はイギリスの金融機関がEUにおいて離脱後も十分な業務を行うために不可欠であり、これを認めるかはEUが一方的に決めることができので(これを「隠し玉」と表現している)、イギリスは妥協せざるを得ないと考えるとしている。 2020年10月21日、ロイター通信は、20日にビデオ会議方式で実施されたアトランティク・フューチャー・フォーラムにおける発言として、「ライトハイザー米通商代表が、米英自由貿易協定(FTA)交渉について、近いうちに合意できるとの見方を示した」と報道した。 イギリス政府は10月21日午後、EUとの将来関係に関する交渉を再開すると発表し、再開決定後の最初の交渉は、22日から25日までロンドンで行われる。当初19日から行われる予定であったが、イギリス政府は欧州理事会の結論は不十分と判断し、EU交渉団の受け入れを留保していたものである。21日にイギリスとEUの首席交渉官による電話協議で、イギリスが、交渉再開の条件のひとつに位置付けていた双方の協定条文案に基づき交渉を行うことなど10項目の基本原則に合意し協議再開となった。 11月9日、イギリス議会上院は、イギリス国内市場法に関し、北アイルランドの扱いでイギリス政府にEUとの離脱協定に違反する権限を与える規定を削除する案を可決した。法案はふたたび下院で審議されるが、北アイルランドの国境問題を巡りEUとの合意がまとまれば、離脱協定に反する規定自体が必要なくなるとの見方もあり自体は流動的となっている。 11月17日、ブルームバーグ通信は、英大衆紙サンが情報源を明らかにせずに報じたとして「イギリスのEU離脱後のFTAの交渉責任者を務めるデービッド・フロスト氏は、24日にも妥結の可能性がある「着地点」が見つかったとして、EUとの来週初めの合意に備えるようジョンソン首相に伝えた」と報道した。 12月8日、イギリス政府は、アイルランドと英領北アイルランドの国境管理についてEUと合意したと発表し、これを受けてEUとの離脱協定違反を可能にする法案の条項を撤回すると述べた。 12月9日、ロイター通信は、英政府関係筋が明らかにしたとして、『難航している英国と欧州連合(EU)の通商協議を巡り、ジョンソン英首相とフォンデアライエン欧州委員長は9日、双方には依然として「極めて大きな溝」があるとの認識で一致。「確固とした決定」を13日まで持ち越すことで合意した。』と伝えた。 12月13日、ロイター通信は、『英国と欧州連合(EU)は13日、通商協議の合意期限としていたこの日以降も交渉を継続することで合意した。』と伝えた。 12月24日、年末に移行期間が終了する1週間前になりようやく通商協定の合意は、合意された。 12月29日、EU理事会は書面手続により、協定の署名と2021年1月1日からの暫定適用に関する決定を採択した。 12月30日、EUのウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長と欧州理事会のシャルル・ミシェル常任議長(EU大統領)は、ブラッセルで通商協定に署名した。協定は、イギリス空軍の戦闘機でロンドンに送られ、続いてボリス・ジョンソンイギリス首相が署名した。 12月30日、英国において協定の実施のため必要な立法措置として2020年欧州連合(将来の関係)法(英語版)を議会に提出した。法案は、午後2時55分に庶民院を賛成521、反対73で通過、貴族院においては午後11時34分に通過した。法案は、12月31日午前0時30分に女王の承認がされ成立した。 12月31日、EUは、EU官報L444に12月29日に行われた協定の署名に関する決定及び協定条文を掲載し、2021年1月1日のEU官報L1で暫定的適用に必要な手続きの完了して2021年1月1日から暫定適用されると公表した。 協定の暫定適用は別途合意されない限り2021年2月28日までとなっていたが、通商・協力協定の下に設置された両者の「パートナーシップ協議会(Partnership Council)」の決定として、暫定適用を4月30日まで延長することとなった。欧州委員会のマレシュ・シェフチョビチ副委員長(EU機構関係・将来予測担当)は2月23日の声明で、延長の理由について、TCA協定全文をEUの24公式言語に翻訳するための十分な時間を確保するためと説明している。 またEU理事会は2月26日、欧州議会に対して通商・協力協定への「同意(Consent)」を与えるよう要請した今回の理事会による欧州議会への同意要請は、EUにおける通商協定の公式な承認手続きの一部であり、。欧州議会は要請に基づき、本会議において協定の採決を行い、過半数の賛成を得られれば同意が成立する。議会は、協定の内容を修正することはできない。議会の同意と、公式言語への翻訳が完了した上で、EU理事会が改めて最終的に協定の承認を決定することによって、ようやくEU側の批准が終了し、正式に発効する。 4月28日、欧州議会は賛成578、反対51、棄権68で通商・協力協定に同意し、4月29日、EU理事会が最終的に協定の承認を決定した。4月30日、EUは、EU官報L149にEU理事会の最終的な協定の承認決定(EU理事会決定2021/689号、協定の条文及び協定が2021年5月1日に発効する旨の告示を掲載した。
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