鞘
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/22 18:21 UTC 版)
木刀の鞘
日本武術の居合術において、初心者または一部の流派では江戸時代から鞘木刀を稽古に使用している。鞘は木または紙で作られるが武道店では合成樹脂製のものも見られる。漆については伝来木刀の写しの場合は塗る。
錆の原因となる悪い鞘
「鞘当り」といって刀身が鞘の部分に接触していると錆びの原因となる。また、古い鞘の場合、内部に錆や汚れが残っていて、再び錆が生じることもあり、悪い鞘は刀身を保護するどころか劣化の原因となる為、前者は鞘師に直してもらい、後者は新調しなければならない[4]。従って、鞘に納めた状態での打撃は、刀剣の保護の観点からは好ましくなく、鞘の状態確認や手入れも必要となる。
備考
- 鞘作りの専門職は、「拵(こしら)え下地」と呼ばれ[5]、戦の激しかった時代に漆を用いた鞘塗り(別称・変わり塗り)も専業化し、「鞘師」、「鞘塗師」になったとみられる。鞘塗師によれば、材料となるホオは、木曾・会津地方の寒冷で陽当たり良く、風当たりの強くない、内陸育ちのホオがよいとされ[6]、産地にこだわりが見られる。
- 鞘は結果的には防具としての面(防御性)も含む。特に近世の武士は左腰に二刀を帯刀することで、左胴(剣道でいう逆胴打ち)に対する斬りつけを防ぐ効果(斬撃の緩和)があり、平服時の剣術において、相手の右胴を狙う方が確実とされた。
- 鞘を簡素的な防具として利用した記述があり、「野中の幕」とは諸流においても語られているもので[7]、羽織その他の防ぎ用になるものを、鞘や棒先に吊るし、これを左手にとって盾とし、弓矢など飛び道具を防ぐ対処法の事を指した。このように武術では鞘は組み合わせ次第で、対飛道具用盾としての利用法が説かれている[注釈 1]。
- 「武士の二刀」といわれるが、長刀の鞘内には小柄が仕組まれており、刃物は3つ備えられている。この他、一つの鞘に二つの刃物を入れる武器として、中国の双剣(双刀)がある。
- 天神真楊流柔術の場合、相手の抜刀を防ぎながら相手の鞘を利用して肘関節を極める技がある。逆に居合道では背後から鞘を掴まれた際の対処法・型が存在し[注釈 2]、武術では鞘を利用する・されることが想定される。
- 敵が潜伏している建物の戸を開ける際、鞘を利用することで、襲撃をまぬがれることも可能であり、また、月明かりのない暗闇では白杖の代用(崖などの段差確認)となり[8]、縄や紐を結んで投げれば、簡素的な鉤縄の代用(ただし対象に絡める必要がある)になるなど、その用途は広い。
- 宮本武蔵と佐々木小次郎の巌流島の決闘で、小次郎が鞘を水中に投げたのを観て、武蔵が動揺を誘うセリフ(勝つ気があるのなら鞘は捨てまい)を吐いた逸話がある。解釈次第では、小次郎が物干し竿と呼ばれる長刀の鞘が決闘の邪魔になる為に捨てたとも、武蔵が塩水に投げ捨てる非常識さを指摘したとも捉えられる。
- 「反りが合わない」という人間関係を表した日本語は鞘があって成立した言葉[9]。軍刀のうち工業的に量産された規格刀についても、刀身と鞘は個別に調整されているため、異なる鞘の混用は困難である。この他、鞘に由来する言葉として、「鞘走り」=行き過ぎる事、出過ぎた真似をする事(刀身が独りでに鞘から抜け出る事より)、「元の鞘に収まる」=絶交、または離縁した者が、再び元の関係に戻る事(刀が鞘に収まる様子より)、などがある。
脚注
注釈
- ^ 補足・矢は矢柄の部位が12束(1m近く)と長い為、宙に下げられた柔軟性のある厚めの羽織でからめ取りやすい。さらに鞘が長いからこそ、当たった矢を緩和して受け流すまでの時間稼ぎとなる(ただし、近世刀は刃渡りが1mにも満たない事から、鞘もギリギリの長さといえる)。従来の手持ち盾は矢が多く刺されば、バランスも崩しかねないが、「鞘と衣を利用した盾」は、取っ手が長くかつ一点の方向に下げられている為、問題なく、大穴が開いても、取り替えが可能であり、合理的である。
- ^ 例として、長谷川英信流の「滝落」があり、柳生新陰流においても右手前に置いた鞘を正面から掴まれた際の型(長刀を奪おうとする動作を逆に利用した攻撃)がある。
出典
- ^ 鳥栖市教育委員会 2002, p. 1.
- ^ 岩滝町教育委員会 2000.
- ^ 豊島 2010.
- ^ 「(財)日本美術刀剣保存協会 高崎支部」刀剣の扱いに関するパンフレット、一部参考
- ^ 佐々木英 『漆芸の伝統技法』 理工学社 1986年 ISBN 4-8445-8532-0、 「刀の鞘塗り」 6-16より
- ^ 同『漆芸の伝統技法』 6-16
- ^ 参考・『月刊剣道日本 1980 特集 不動智神妙録』 p.112より。
- ^ 『新陰流兵法伝書』において、闇夜における鞘の利用法が説かれている(防具と白杖の両面の意味で鞘を用いている)。
- ^ 『雑学 実用知識 特装版』 三省堂企画編修部 編 第6刷1991年(1988年)
鞘と同じ種類の言葉
- >> 「鞘」を含む用語の索引
- 鞘のページへのリンク