ナチスとしての哲学者とは? わかりやすく解説

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ナチスとしての哲学者

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 04:53 UTC 版)

哲学」の記事における「ナチスとしての哲学者」の解説

ナチズムの模倣 ― 日本・イスラム圏」および「ナチズムと文化への批判」も参照 社会哲学者イヴォンヌ・シェラットの学術書ヒトラー哲学者たち Hitler's Philosophers』によると、第三帝国ナチス・ドイツ様々な形哲学者たちと相互協力しており、アドルフ・ヒトラー自身も「哲人総統」、「哲人指導者」を自認して活動していた。 「哲人王_(プラトン)」および「哲人政治」も参照 シェラットは以下のように述べている。 哲学は<道徳学モラル・サイエンス)>の子孫である。そしてそれを相続するという意味でも、哲学関わる者はその通ってきた不穏な道筋意識し続け必要があるのだ。 第三帝国時代生きていた人々キリスト教徒優生学者理想主義哲学者たち、これらの人々がみな、ヨーロッパ土壌にかつて現れたものの中でも最悪プロパガンダいくつか普及させ、そこに名を連ねているのである「第三帝国」という概念について、『日本大百科全書』は以下の解説をしている。 第三帝国 哲学上では、物質的な世界第一帝国精神的な世界第二帝国両者統合した理想の世界第三帝国称するが、「第三帝国」とは要する理想的な人間社会をさすことばである。このためドイツ保守派政治家学者ナチス国家ドイツ民族優れた性格十分に発揮され、その世界的使命達成される帝国考えた。 シェラットによれば、「ナチ哲学者」の多く刑罰から逃れて学界残った例えマルティン・ハイデガー21世紀でも、哲学における「スターのような学者として見なされ続けている。かつて1933年ナチ党となったハイデガーは、学術機関の「新総統」と公称し、また他者から「大学総統」とも呼称されるようになったハイデガーが「新総統」を宣言したのはナチ党になって週間後の1933年5月27日、彼がフライブルク大学総長としてハーケンクロイツ掲げ就任演説行った時だった。ハイデガー聴衆ナチ党員たちと同種の隊服着ており、ナチ式敬礼をして壇上登ると、ナチズムを「精神的指導」、「ドイツ民族運命特色ある歴史刻み込んだあの厳粛な精神的負託」と呼びナチズムによって「初めて、ドイツの大学本質明晰さ偉大さと力をもつに至るのである」と述べたハイデガーナチス内での出世目指したが、彼は当世風社会進化論者というよりロマンチックロマン主義的)で文化的なナショナリストであると見なされ、出世頭打ちになった。それでもハイデガー哲学者かつ「大学総統」として、人種的排外主義においても行動していた。彼は 国民社会主義ナチズム〕の内的真理偉大さ論じたり、地方文部大臣に「人種学および遺伝学」のポスト新設要請して 国家の健康を保全するために … 安楽死問題が真剣に熟慮されるべきである と主張したりした。 1935年にはハイデガーが「形而上学入門」という題の講義始めており、再び この運動ナチズム〕の内的真理偉大さ論じた。かつての同僚かつ友人だった哲学者カール・レーヴィット対面した時も、ハイデガーヒトラー賛美変えなかった。レーヴィット論考によればハイデガーナチズムは《ハイデガー哲学本質に基づくもの》であり、深い忠誠から由来している。そしてハイデガーの「存在」や「在る」という概念は、《形而上学的なナチズム》であるとレーヴィット述べた。またハイデガー自著存在と時間』で、かつての恩師かつ友人だったユダヤ人フッサールへの献辞載せていたが、その献辞削除することを出版社快諾したハイデガーは「国民社会主義大学教官同盟フライブルク科学協会」から、 国民社会主義ナチズム〕の先駆者たる党同志 とも呼ばれるようになった。彼は「ナチ哲学者」たち──アルフレート・ローゼンベルクカール・シュミット、エーリヒ・ロータッカー、ハンス・ハイゼ、アルフレート・ボイムラーエルンスト・クリークなど──とおおよそ友好的付き合い続けると同時にナチズム教育学生全般実行していった。そこでハイデガーは《人権道徳憐憫時代遅れ概念であり、ドイツ弱体化を防ぐため哲学から追放されるべきだ》などと論じていた。1942年講義ヘルダーリン詩歌イースター』についての講義)でも彼は、ナチズムと「その歴史独自性」を一貫して高評価していた。 かつてハイデガー親友だった哲学者カール・ヤスパースは、ハイデガーシュミット、ボイムラーという三人の哲学者精神面ナチ的な運動の頂点立とう試みた結論している。 ハイデガー愛人だったユダヤ人哲学者ハンナ・アーレントは、「ハイデガー潜在的な殺人者だとみなさざるをえないのです」と公刊著作批判した頃もあった。しかしハイデガー再開後のアーレントは、彼の本を世界中で出版させるためにユダヤ系出版人脈使って努力した。シェラットいわく「ハンナは、現代哲学様相一変させる計画手をつける」ことになったナチス戦争捕虜だった著名なフランス人哲学者ジャン=ポール・サルトルさえも、ハイデガー哲学自分思想取り入れて彼を支援したアーレントは、ナチズム哲学との繋がりを切り離そうとするようになった例えば彼女は、アドルフ・アイヒマン中心に悪の陳腐さ」やナチスの「凡庸さ」、知性無さ論じ政治哲学書を複数執筆していった。しかし、これはホロコースト生存者からの反発をも生むことになった。その原因例えば、 アイヒマン裁判受けている最中に《自分カント道徳哲学定言命法従っただけだ》などと、ヒトラー同様に哲学引用して自分知的根拠としていたこと アーレントはこの裁判傍聴していたにも関わらずナチス哲学性を軽視無視して論じたこと などだった。 『ヒトラー哲学者たち』を2014年翻訳した三ツ木道夫比較社会文化博士)と大久保友博(人間環境学博士)は ヒトラーをして<哲人総統>と自称せしめた一九三〇年代ドイツ精神的雰囲気は、まさしくドイツ哲学淵源から来るものである。 と述べている。訳者らによると、人文学者ナチスという暴力擁護したことは、ある種の「人文学敗北」、「教養主義挫折」である。何故なら、人間教養を身に着けたり本や音楽感動したりすることで素晴らし存在になるはずだったにも関わらずそのような人文学人間不条理な暴力認め加担しているからだという。批評家ジョージ・スタイナー次のように批判している。 人間というものは、夕べゲーテリルケ読みバッハシューベルト演奏しながら、朝(あした)にはアウシュヴィッツ一日業務につくことができるものであることを、<あとに>きたわれわれは知ってしまった。そんなことができる人間は、ゲーテ読みゲーテ知らずだとか、そんな人間の耳は節穴同然だとか、逃げ口上をいうのは偽善である。こういう事実知ってしまったということ──このことは、いったい文学社会どういうかかわりをもつのか。 プラトン時代マシュー・アーノルド時代このかた、ほとんど公理になっているあの希望──《教養人間人間らしくする力である》、《精神エネルギー高位エネルギー転ずることができる》という希望は、<あとに>きたために知ってしまったこの事実と、いったいどういうかかわりをもつのか。 三ツ木大久保は「訳者あとがき」で 日本でもここ数年科学者あり方がさまざまに問題となっているが、本訳書人文学をめぐる社会的倫理議論一助になれば幸いである。 と締めくくっている。 社会看護学者ダンカン・C・ランドール健康科学者アンドリュー・リチャードソンの論文によればハイデガー思想などナチ哲学向けられる擁護には、《哲学とは文化的に中立政治から切り離されているもの》だという考え方含まれている。しかしそもそもこの考え方自体が、哲学における特定の政治的・文化的な立場有利にようとしている。ここでは、哲学政治的であり文化的に中立なものだとする考え方拒絶されている、と同論文述べる。 同論文によれば哲学的テクスト文化的中立性や非政治性をいくら主張したところで、哲学的テクスト文化政治巻き起こした行動」(action)も「行動しないこと」(inaction)も、消え失せるわけではない。何故なら、いかなる哲学行動も「文化的かつ政治的」(cultural and political)であり、また、何らかの哲学や行動を選ばないこと自体一種文化的政治的行動であるからと言う。 必要とされているのは「政治的・文化的な側面を我々に見えなくさせるハイデガー解釈主義拒絶すること」である。《哲学者ハイデガー)たち自身についてはともかく、哲学的著作物については批判すべきでない》というような考え方は、(政治的・文化的な文脈からの)批判的研究無視している。それは検証無視したり、過ち繰り返したりすることに繋がると同論文結論している。

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「ナチスとしての哲学者」を含む「哲学」の記事については、「哲学」の概要を参照ください。

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