IEEE 802.11
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IEEE 802.11i
IEEE 802.11iは、通信規格そのものではなく、無線LANにおけるセキュリティ標準を定める規格である。WPA (Wi-Fi Protected Access) やWPA2などもIEEE 802.11iに準拠した規格である。脆弱性が指摘されるWEPに代わり、標準暗号規格として、WPAではTKIP(WEPの改良版)を、WPA2ではCCMP(暗号化アルゴリズムとしてAESを利用)を採用している。
IEEE 802.11j
これはIEEE 802.11aを日本向けに修正した規格である。 ただし文字 j はJapanの頭文字を意味するものではなく、IEEE内のプロジェクト名として偶然割り当てられたものである。
日本国内でデータ通信用として割当てられた周波数のうちで、IEEE 802.11aが使用する5.2 GHz付近のCバンドの周波数は日本では衛星通信・気象レーダーや地球観測衛星で使用しているので、屋外での使用はできず[9]、電波法の一部改正及び周波数の割当によりデータ通信用として新たに割当られた4.9–5.0GHzの利用(「5GHz帯無線アクセスシステム」として、屋外での利用も許可された。ただし届出制による免許を必要とする[10]。)に合わせてIEEE 802.11aを修正したものがIEEE 802.11jである。
当初、4.4–5.0 GHzは 5 GHz帯電気通信業務用固定無線システム(テレビ中継など)との共用であったため、2005年11月から2012年11月までは地域限定での利用となっていたが[11]、2012年11月までに他の周波数・光回線への移行が完了したため[12]、地域制限を撤廃して全国で利用できるようになった。
4.9 GHz 帯を利用している他の機器は無いので電波の干渉が少ない。 電波法の規定により、利用局の登録が必要であるが、屋内・屋外のどちらでも利用ができる。 取り付けアンテナにより、屋内での用途に留まらず、屋外の離島間通信のような10 km程度の距離の通信用バックボーンとしてデジタル・ディバイド解消への活用が期待されている。
- 諸元
-
- 周波数帯
- 4900 MHz–5000 MHz
- チャンネル
- 4920 MHz / 4940 MHz / 4960 MHz / 4980 MHz の合計4ch
- チャンネル間隔
- 20 MHz / 10 MHz / 5 MHz
- 空中線電力
- 250 mW (= 23.98 dBm)
- ※参考 電力デシベル表示 1 mW = 0 dBm
広大な工事現場・農場・工場[13]などの構内LANや、離れた施設間を繋ぐLAN回線[14][15]、自治体[16][17]・自治会[18]などの自営無線IP通信、ADSL・光回線を引くことが困難な地域で提供されている無線インターネット回線「スカイネットV」・「宜野座村ブロードバンドサービス 宜野座BB」[19]などで使用されている。
IEEE 802.11n (Wi-Fi 4)
2.4 GHz/5 GHzの周波数帯域を用い、最大伝送速度600 Mbps(40 MHzチャネルボンディング、4ストリーム時)、実効速度で100 Mbps以上の実現に向け策定された規格。
IEEE 802.11a/gに比べ、サブキャリアの本数が増え、最大の符号化率も向上した[注 1]。またオプションでショートGI (400 ns) が利用できるようになった(IEEE 802.11a/gでは800 ns)[注 2]。また「MIMO (Multiple Input Multiple Output)」を使用し(MIMOについては多元接続の項を参照)、複数のアンテナで送受信を行うこと(マルチストリーミング)や通信手順の見直し、複数のチャンネル(通信に用いられるバンド幅)を結合するチャネルボンディング(チャンネル結合)などにより、高速化・安定化を実現する。IEEE 802.11aやIEEE 802.11b、IEEE 802.11gとの相互接続も可能。2006年3月にドラフト版1.0、2007年6月にドラフト版2.0が策定され、2009年9月に正式規格として認定された。
IEEE 802.11nの規格に適合していても、使用する周波数帯や同時に通信できるチャネル数(空間ストリーム数)、チャネルボンディングへの対応などは、個々の製品によって異なる。よってIEEE 802.11n対応の製品であっても最大通信速度は製品によって異なる上に、表記されている最大通信速度で利用できるかどうかも、製品の組み合わせに依存する。USB端子に接続する小型ドングル型の製品や、宿泊先のホテルで使用するために携帯性を重視した製品などでは、150 Mbps程度の速度までの製品が多い。
周波数に5 GHz帯を使う場合、11a同様、電子レンジの影響を受けにくい利点があるが、信号強度の空間伝搬損失は通信に使用する周波数の2乗に比例するため、2.4 GHz帯の信号ほど遠くまで伝搬しない。
また、フレームアグリケーションと言う技術を採用している。データリンク層(第二層)で、同一の宛先のフレームを連結して通信を行い、スループットを向上させる。ただし、フレーム長が長くなる分だけ通信路を占有することになる。
帯域幅 | MIMO不使用 | 2x2 MIMO使用 | 3x3 MIMO使用 (オプション) |
4x4 MIMO使用 (オプション) |
---|---|---|---|---|
20 MHz (必須) |
72.2 (65.0) Mbps | 144.4 (130.0) Mbps | 216.7 (195.0) Mbps | 288.9 (260.0) Mbps |
40 MHz (オプション) |
150.0 (135.0) Mbps | 300.0 (270.0) Mbps | 450.0 (405.0) Mbps | 600.0 (540.0) Mbps |
(変調方式 64QAM, 符号化率 5/6, GI 400 (800) nsの時)
日本国内においては電波法上の制限により当初の対応製品では20 MHzのバンド幅(1つのチャンネル)しか利用できなかったが、2007年(平成19年)6月には電波法の一部改正が施行され、無線通信にて同時に使用できるバンド幅が従来の20 MHzから40 MHzに引き上げられた[21]。これによりチャネルボンディング(デュアルチャネル、ワイドチャネルなどの表記もある)が可能となり、最大伝送速度の理論値は従来の144 Mbpsから300 Mbpsに増えた。ただし、2.4 GHz帯でチャネルボンディングを利用すると、近隣の無線LAN機器の干渉を受けずに利用出来るチャンネルが2つだけになってしまい[22]、他者の設置した無線LANや、自らの設置する別の無線LANと電波が干渉しやすくなって却ってスループットが低下することがあるので注意を要する。
2012年(平成24年)現在、発売済の製品でチャネルボンディングのみを使用する製品は理論値150 Mbps (MCS index 7)、チャネルボンディングとMIMOの双方を使用する製品は理論値450 Mbps (MCS index 23) である[23][24][注 3][注 4]。
IEEE 802.11n は、正式規格策定完了前に市場投入された802.11nドラフト版2.0準拠製品と同じ周波数帯で基本機能の変更なく相互接続性を確保する。ドラフト認定された機器は最終的な認定プログラムの中核となる要件を満たすため、再テストを受けることなく「802.11n認定機器」として扱える[25]。
2012年頃から無線LAN機器の激増により、2.4 GHz帯で電波の干渉による速度低下が特に都市部で多く発生するようになった[26]。まだ普及が少ない5 GHz帯では比較的安定した通信が可能である。大手通信キャリアなどによる公衆無線LANの5 GHz対応が進んでいる。
なお、市販の無線LAN機器が5 GHzに対応しているかどうか不明な場合、11a/b/g/n対応機器と記されていれば5 GHz対応、11b/g/nならば2.4 GHzのみ対応というように見分けることが出来る。
注釈
- ^ サブキャリアの本数は52→56(ただしうち4本はパイロット信号用のため、実質的には48→52)に増え、最大の符号化率は3/4→5/6に向上した。これに伴い、最大伝送速度の理論値は (52/48)×(5/6)/(3/4) = 65/54倍になった。
- ^ 1シンボル当たりのデータ送信時間は 3200 ns のため、このオプションを利用すれば、最大伝送速度の理論値はさらに (3200 + 800) / (3200 + 400) = 20/19 倍になる。
- ^ IEEE 802.11n-2009(英語版)を参照
- ^ 2011年(平成23年)現在、最大伝送速度が300 Mbpsの無線LANルーターは「11n準拠」、150 Mbpsの無線LANルーターは「n (11n) テクノロジー対応」としてそれぞれ販売されている。
- ^ 40 MHzチャンネルボンディング時の802.11nに比べ、データ信号用サブキャリアが108→234本に増えるため、最大伝送速度は234/108 = 13/6倍になる。
- ^ 64QAMに比べ、1シンボル当たりのビット数が6bit→8bitに増えるため、最大伝送速度は8/6 = 4/3倍になる。
- ^ 1ユーザーに対しては最大4ストリームのため、1つの端末に対する最大速度は4x4 MIMOと同等。下記数値は親機側の通信速度合計の理論値。
出典
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