可視光通信

私たちは日常の行動や判断のおよそ80%を目から入ってくる情報「視覚」に頼っているといわれています。可視光通信とは、私たちの身の回りにありふれている可視光(目に見える光)を使って通信を行う最新技術です。
オフィスの照明や街路灯、交通信号機や広告の電光掲示など可視光を発光する電子機器に使用されているLED(Light Emitting Diode)は、超高速で点滅する特性があります。この可視光素子を人間の目には見えない高速で点滅させることで、データ送信ができます。すでにデジタルカメラ、携帯電話に装備されたカメラのように、可視光を受け取るシステムは少しずつ普及しています。
至る所に設置されている照明機器に通信機能を付加するだけで、ワイヤレスの通信環境が構築できる可視光を用いた通信には、従来の通信にはない様々なメリットがあります。
携帯電話や無線LANなどの無線通信は、電磁波の人体への影響から送信電力を上げることができません。しかし可視光は人体にとって無害な波長領域なので、照明機器で用いている高電力のまま送信することができます。また、精密電子機器への影響がないため、病院や実験施設など、従来、電波が使えなかった場所での利用も可能です。さらに、目に見える光を使うため通信範囲が視認しやすく、光の直進性を利用したピンポイントの通信も可能。遮光するだけで通信を遮断できるので、情報漏えいのリスクは低いといえます。
可視光通信は、LED先進国である日本発の通信技術。その普及には、光源(発信装置)として使われるLEDの研究・開発が欠かせません。まずは通信の高速化。現状のLEDを使った単純な振幅変調(光源の点滅)では数10Mbpsレベルまでの高速化が可能。今後、ギガビットクラスのブロードバンド化を目指すためには、変調方式の工夫と高速化に対応した受光素子の開発が必要です。
そして、照明・伝送兼用装置を普及させるためには、白色LEDの大型化と量産化によるコストダウンも不可欠です。さらに制度上の課題としては、技術の標準化。現在、慶應義塾大学を中心に、NECや東芝など産学協同の可視光通信コンソーシアム(VLCC)で、標準化作業が進められています。
ユビキタス(遍在的)で超高速、人体に安全で電子機器に影響しない可視光通信は新しい近距離無線通信技術として今後大きな期待と注目を集めることでしょう。
写真提供:慶應義塾大学情報工学科中川・春山研究室Webサイト「可視光通信とは」
赤・青・緑の3色のLEDからそれぞれ別の変調信号(音楽)を送っています。そして、台の上にある受信機をそれぞれの光が当たる部分に持っていくことで、各光に対応する音楽がスピーカーから流れます。
(掲載日:2007/02/01)
可視光通信
【英】Visible Light Communications, VLC
可視光通信とは、人の目に見える光(可視光)を利用してデータ通信を実現する技術のことである。
可視光通信では、照明器具の明滅を制御することによって、オン・オフから成るデジタルデータが表現される。データは光の照射によって受信器へと送信される。
可視光は、電磁波や赤外線などに比べて、人体や精密機器へ悪影響を及ぼす懸念がなく、電波法による制約も受けないというメリットがある。また、すでに充実している照明インフラを応用できるため、ユビキタス通信の媒体としても期待できる。照射範囲が目に見えるので、データの届く範囲が把握できることも特徴のひとつである。
可視光通信には光の明滅が伴うが、近年になって照明や交通信号として普及しつつある発光ダイオード(LED)を利用することによって、人間の目には常時点灯しているようにしか見えない超高速な明滅を実現することができる。
可視光通信は、グラハム・ベルによって1880年に世界初の実験が行われている。しかしその後は、もっぱら赤外線通信の研究が行われてきた。2000年代の半ば以降、日本を中心に本格的な検討が推進されており、可視光通信コンソーシアム(VLCC)の発足やJEITA(電子情報技術産業協会)による可視光通信システムの規格化、交通信号機などによる実験などが行われている。
参照リンク
可視光通信コンソーシアム(VLCC)
可視光通信とは - (慶應義塾大学情報工学科 中川研究室)
可視光通信
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/31 14:25 UTC 版)
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可視光通信(かしこうつうしん)とは、人の目に見える可視光線帯域の電磁波を用いた無線通信の一種。
将来的に、全ての照明が、高速変調可能なLED照明や有機EL照明に置き換わることで「照明が通信インフラになる」、という社会応用面からの点で注目され実用化が推進されている。(このように照明を使う可視光通信は、特に照明光通信と呼ばれる)
しかし照明の流用以外にも様々な研究開発がなされており、「可視光通信」はきわめて多岐にわたる技術・応用領域の総称となっている。
特徴
可視光を通信に利用することの長所や短所には以下のものがある。
- 長所
- 生体に影響がなく安全、電磁波で他の機器に影響を与えることがない
- 発信源・通信経路が目に見えるので、通信範囲が一目で分かる
- 従来の電波を用いた通信は、遮蔽物の材質により透過・反射・減衰など予測ができないが、可視光であれば人間にとって非常に直感的である。(欠点でもある)
- 電波の知識を要さず、遮蔽板、鏡、レンズなど身近で一般的な道具により容易に通信範囲の変更ができる
- 非常に高い指向性での伝播制御や、空間分解能を得られる
- 指向性を利用し、特定の相手とだけ通信するなどの応用が可能である。
- 通信のエネルギーを照明に流用できる
- 短所
用途
- 近傍端末間通信
- 高速で数Mbpsから数百Mbpsの速度で数mの範囲で情報伝送を行う。電波、赤外線に対して、送信光のビーム・スポットを意識して向けられるので、使い勝手がよく、同じ通信パワーで伝送速度の高速化や、到達距離を長くしやすい。さらに機器につけられているインジケータや表示のバックライトを通信に流用できる点も利点である。
- 水中通信
- 電波の伝播が困難な水中で、ダイバー間通信などを行う。
- 照明からの片方向情報配信(照明光通信)
技術
送信デバイスと変調方法
LED、EL、レーザー、蛍光灯などが用いられる。 特に照明光通信においては、通信機能を実現しながら、ちらつき、輝度や配光、色味への配慮、調色や調光など、照明としての品位・機能を同時に満たすことが求められる。
変調は、光の輝度をパルスとする変調を用いるが、確定的な変調方法は定まっておらず、搬送帯域伝送を使うものもベースバンド伝送のものもあり様々である。(蛍光灯を利用する場合は搬送帯域伝送に限る) 変調周波数も、応用領域により異なり、数百MHzのものから、数kHz、などと様々である。また、周波数多重として、多色を用いた変調も提案されている。
なお、変調方法として光源発光を直接制御するのでなく、ミラー等の反射を用いるものもある、この方法で具体的なものは、マイクロミラーのアレイであるDMDプロジェクターで面投影の際に1画素ごとに異なる変調を出す可視光通信の研究[2]もある。
受信デバイス
フォトダイオード
通常受信デバイスには、フォトダイオードが用いられる。 高感度のためにPINフォトダイオードが用いられる。 また、長距離(数十m)のために、レンズによる集光を用いることもある。
イメージセンサ
受信デバイスにイメージセンサ(カメラ)を用いる通信も可視光通信として提案されており、イメージセンサ通信といわれている。[3] 結像レンズと、イメージセンサを使うことで、通信としての特性に加えて、ユーザインタフェースの特性をもち、画像表示との組み合わせにより、AR(拡張現実)などの独特の応用が可能となる。
- 長所
- 外乱や干渉にきわめて強い
- 通信以外の光源からの干渉を「空間分離」といわれる特性で排除できる。
- 1画素が見えていれば良い(長距離通信が可能)
- 数十 m程度の通信距離を比較的容易に確保できる。が、2 km先の灯台(海上ブイ)からの情報受信の実験などに成功した例がある。
- 通信源の位置が把握できる
- 受信を行うと、必然的な副産物で画像上の座標が得られる。画像と情報を完全に重ね合わせができる。(ARにおける幾何的整合問題が発生しない)
- 同時に多数の信号を捕らえられる、ないしは空間的並列による高速化ができる
- 情報の受信と二次元的な位置把握が同時にでき、画像と組み合わせることができる
- 外乱や干渉にきわめて強い
- 短所
変調光の諸問題
変調光とフリッカー(ちらつき)
ヒトの視覚の時間周波数特性によると、フリッカー(ちらつき)の知覚限界 (CFF; 融合周波数) は50 - 70 Hzであり、交流電源で駆動する照明、映画、TVなど、我々は特に気にする事もなく使えている。 ちなみに、日本の通常の家庭用電源の照明は50 Hz/60 Hzの交流で駆動されており、100 − 120 Hzで点滅している(電力は電圧の2乗に比例するので、駆動周波数の倍の点滅回数となる。ただしインバータを用いた照明ではこれよりはるかに高い周波数で点滅している) しかし、これらは周期的な単純点滅であり、データによって変調を行う場合はONやOFFの連続が発生する。このように変調された光では単純な点滅よりはるかに高い変調周波数でもフリッカを感じることが知られている。[5]
従って、ほとんどの可視光通信は、フリッカレスになるよう、変調周波数を数十 kHzから数 MHzとしており、十分に配慮されている。 ただし、イメージセンサ通信においては、データ速度より広画角や多数光源の並列受信を優先した結果、フリッカが知覚できる変調周波数(数十 Hzから数百 Hz)で通信を行わせるものがある。これの場合は、ちらつきが問題となる照明でなく、視覚上で小さいインジケータLEDを送信源とするとしている。
変調光と生物への影響
10 - 30 Hzの強い光の点滅[6]が、光過敏性発作を引き起こされることが知られており、近年では、TV放送におけるポケモンショックなどの事例もある。
ただし、可視光通信では、その変調周波数は完全にヒトの知覚限界以上であり、現状では、高速変調光がなんらかの悪影響を与えることは知られていない。
なお、変調光の生物への影響として、植物栽培において数 kHzのパルス点滅させた照明で光合成の効率が上がるという事例がある。しかし、誤解していはいけないのは、これは「光合成サイクルの中に光を必要としない反応過程があるので、その期間は光を止める」というものである。つまり「照明への同一投入電力で効率が上がる」という効果であり、変調が直接影響を与えているわけではない。[7]
その他
日本では2003年に、慶應義塾大学理工学部教授の中川正雄らが中心になって「可視光通信コンソーシアム」が結成され、可視光通信の実用化に向けて様々な普及促進活動が行われてきたが、2014年5月に「可視光通信コンソーシアム」が発展解消されて、「一般社団法人可視光通信協会」が設立された。
標準規格
- JEITA CP-1221/1222/1223
- 片方向4.8kbpsの主に照明光通信用
- ARIB STD-T50 4.0版
- 下り可視光、上り赤外を用いた光LAN(赤外光LANの可視光拡張)
- IrDA「可視光通信標準規格」1.0版
- IrDAの可視光通信拡張、互換性確保規格
- IEEE
- 802.15.7 規格リリース済みの可視光通信規格
- 802.15.SG7a イメージセンサを使った可視光通信規格。現在、策定作業中
脚注
- ^ ARIB STD-T50 4.0版
- ^ “DMDを用いた空間分割型可視光通信 の基礎検討”:北村、苗村ほか, FIT2006, Vol.5, pp.293–295, 2006
- ^ 「可視光通信の世界」工業調査会 (2006/01) ISBN 978-4769312512
- ^ 「位置・画像情報を利用するインテリジェント波長多重高速屋内光無線 LAN に関する研究」大阪大学 香川景一郎 戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE) 第5回成果発表会(平成 21 年)
- ^ 「可視光通信におけるちらつき軽減の方法」IEICE technical report. Communication systems 106(450) pp.31-35 20070104
- ^ Percentage of patients with photosensitive epilepsy responding to repetitive flashes [Harding, 1994] 60 % の発生確率の周波数範囲とした
- ^ “パルス光が植物の光合成速度 に与える影響”. 2009年10月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年1月24日閲覧。
関連項目
外部リンク
可視光通信と同じ種類の言葉
- 可視光通信のページへのリンク