後方互換性
別名:後方互換,バックワード・コンパチビリティ,旧製品との互換性
【英】backward compatibility
後方互換性とは、互換性(コンパチビリティ)の区分のうち、より新しい製品が既存の(古い)製品を扱うことができることを特に示す区分である。
後方互換性は、言い換えれば、旧製品に対して互換性を持っている新製品の性質である。例えば、CDが再生できるDVDドライブは、CDの規格に対して後方互換性がある。CDもDVDも再生できるブルーレイドライブは、CDおよびDVDの規格に対して後方互換性を持つことになる。オフィススイートの新バージョンは基本的に旧バージョンで作成した文書を問題なく扱うことができるよう設計されており、これも後方互換性の確保と形容することができる。
後方互換性は新製品を話題の中心に置いた表現であるが、これとは逆に旧製品を話題の中心に据えて「より新しい製品でも扱える」ことを述べる場合は「前方互換性」と表現される。
互換性
互換性(ごかんせい、英語: Compatibility)とは、ある部品やコンポーネント(構成要素)などを置き換えても同様に動作させることができる性質のこと。
特に工業製品では、互換性を確保することで新たなシステムを用意する必要がなくなり、設計や部品の再利用性が高まることでコストカットを見込めることや、過去の製品からの買い替えなどを進めることができたりする。ただし、古に縛られてしまうために技術革新の妨げとなるという側面もある。互換性を確保するために余計なコストがかかる場合は軽視されることがあるほか、メーカー間の互換性はベンダーロックインを狙うため、あえて削ぐものもある。
互換性の種類
互換性はその性質により、以下のような種類がある。
- 相互互換性(英語: Interchangeability)
- 機能・性能などが類似しており、相互に置き換えが可能なこと。交換可能性、可換性とも呼ばれる。[1]
- 前方互換性(英語: Forward compatibility)
- 新しいシステム向けのデータなどが古いシステムでも破綻なく使用できること[2]。
- 後方互換性(英語: Backward compatibility)
- 古いシステム向けのデータなどが新しいシステムでも全て使用できること[3]。
- 上位互換性(英語: Upper compatibility, Superset)
- 機能・性能・グレードが上位の製品が、下位の製品の全ての機能を有すること。[4]
- 下位互換性(英語: Lower compatibility, Subset)
- 機能・性能・グレードが下位の製品が、上位の製品の一部の機能を有すること。[5]
後発の製品はそれ以前に発売されているものよりも機能や性能が優れていることが多く、後発の製品は後方互換性と上位互換性を有することがよくある。後発の製品が以前に発売された製品の廉価版であるときなどにこれは成り立たない。逆に先発の製品が、前方互換性・下位互換性を持つこともある。
上位互換という表現は英語から輸入されたものであるが、英語圏においてはUpper compatible/Lower compatibleという言い方は一般に使われず、Forward compatibilityなどが通常である。[6]
2000 年代中頃までは、下位互換=後方互換性の意味で任天堂やソニー、MSなどによって使用されており、今とは意味が逆であった(下位互換がより新しい製品)[7]。
またソフトウェアにおいては、異なる規格間で仕様に互換がある場合、上位集合的互換性を持つものを「スーパーセット」と呼び、部分集合的互換を持つものを「サブセット」とも呼ぶことがある。例えば、データ形式の1つであるYAMLはJSONのスーパーセットであり、JSONはYAMLのサブセットであったり、画像形式の1つであるMNGはPNGのスーパセットであるなど。なお、制約の集合と、「その制約を満たす何か」の集合では、サブセットとスーパーセットの対応が逆になるため、この集合ベースの考え方もまた混乱の原因になりやすい。敢えて単純化した例を示すと「0以上の整数」と「0以上の整数で、かつ、3の倍数」を比較すると、前者のほうが制限の数は少なく(サブセットであり)、一方でそれが意味している整数自体は、後者のほうがサブセットになっている。
互換性の実現
相互に互換性を有する部品やコンポーネント(構成要素)は、なんらかの標準化された規格にしたがっていることが多い。これは、なんらかの機関、団体によって規定されたデジュリスタンダードと、市場で大きなシェアをもつものに倣ったデファクトスタンダードの2通りがあり、いずれもその規格の範囲内で互いに交換することが可能である。
また、市場のシェアや普及率が大きいことなどを理由としてのちの製品に前方・後方互換を持たせることも多い。例えばビジネスで多くの文書が作成・運用されているMicrosoft Officeは、過去のバージョン製品とファイルをやりとりできるように新しいバージョンの製品にファイル形式の前方互換および後方互換を持たせている。Office 2007以降で採用されたOffice Open XML形式ファイルは、Office 2007以降の製品間で相互にやりとりできるものの、Office 2003以前では(互換機能パックを使わない限り)利用することはできないが、Office 2007以降でも旧製品で利用可能な旧形式(Office 97 - 2003)で読み書きすることは可能である。[8]そのほか、すでに広く普及していたUSB 2.0規格の後継となるUSB 3.0ポートでも、USB 2.0までしか対応していない既存の古い周辺機器(USBメモリなど)が接続できるよう、後方互換を持たせたりといった例がある。[9]また、ユーザーの慣れやユーザビリティも互換性を確保するための大きな理由となりうる。
利点・欠点
大まかに言えば既存のデータやシステム、知識などが無駄にならないことがユーザー側の視点に立ったときの利点である。
対して、より効率のいい手段・方法があるにもかかわらず古い方式(レガシーシステム)に拘束されてしまうため、互換性を確保しつづけるためのコストがかかってしまうことがメーカー側の視点に立ったときの欠点となる。PC/AT互換機のBIOSのようにレガシーシステムのサポートが肥大化した結果、規格の拡張に支障を生じてしまうケースもある。
脚注
- ^ “「相互互換(そうごごかん)」の意味や使い方 わかりやすく解説 Weblio辞書”. www.weblio.jp. 2024年7月19日閲覧。
- ^ 前方互換とは|前方互換性|フォワードコンパチビリティ|forward compatible - 意味/定義:IT用語辞典
- ^ 後方互換とは|後方互換性|バックワードコンパチビリティ|backward compatible - 意味/定義:IT用語辞典
- ^ “上位互換性とは何? わかりやすく解説 Weblio辞書”. www.weblio.jp. 2024年7月19日閲覧。
- ^ “下位互換性とは何? わかりやすく解説 Weblio辞書”. www.weblio.jp. 2024年7月19日閲覧。
- ^ “上位互換性の英訳”. eow.alc.co.jp. 2024年7月19日閲覧。
- ^ [1]
- ^ 日経クロステック(xTECH) (2007年3月7日). “8:Word/Excel 2003で作成したファイルを2007で開くときの注意点”. 日経クロステック(xTECH). 2024年7月19日閲覧。
- ^ “USB 2.0機器はUSB 3.0スロットに互換性がありますか? - トランセンド|メモリ製品のスペシャリスト”. jp.transcend-info.com. 2024年7月19日閲覧。
関連項目
- ライセンスの互換性 - ソフトウェアライセンスにおける互換性
- 互換モード
- 相性
- インタフェース (情報技術)
- アプリケーションプログラミングインタフェース(API)
- アプリケーションバイナリインタフェース(ABI)
後方互換性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/02 10:00 UTC 版)
ext4ファイルシステムはext3およびext2に対する後方互換性を持つ。すなわち、ext3およびext2ファイルシステムをext4ファイルシステムとしてマウントすることができる。その場合でも、わずかにパフォーマンスの向上が見られる。なぜなら、ブロック確保アルゴリズムなどの新しい機能はext3やext2でも使用できるからである。
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後方互換性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/18 23:50 UTC 版)
「NT File System」の記事における「後方互換性」の解説
仮想DOSマシン上で動作するソフトウェアに対して、ファイル システム上で一意なパス名であることを保証した8.3形式ファイル名を保存することができる。この機能は任意に有効・無効を設定することができるので、NTFSのファイルシステム最適化の代表的なものとされるが、非推奨とされていた。Windows 7では有効・無効をボリューム単位で設定できるようになりシステムボリュームでは有効、データボリュームでは無効といった運用が可能となった(フォーマット時の規定値は有効)。Windows 8ではパフォーマンス上の理由により8.3形式のファイル名は非推奨となりフォーマット時の規定値がシステムボリュームを除き無効となった。 原則としてファイル名の大文字小文字は区別されるが、サブシステムがこの機能の有効無効を選択している。Win32サブシステムではファイル名の大文字小文字は区別されず、ファイル名の大文字小文字が異なるファイルを上書きした場合は、最後に使われたファイル名のファイルが保存される。POSIX・Interixサブシステム・Windows Subsystem for Linuxではファイル名の大文字小文字は区別され、ファイル名の大文字小文字が異なるファイルは上書きされず別のファイルとして保存される。 さらに高度な応用としてファイル システム フィルターを備え、ファイルシステム機能やファイルシステム上の名前空間を任意のソフトウェアでオーバーライド(継承)できる。この機能をもとに圧縮機能・暗号化機能・ファイル変更ジャーナル・スナップショット機能・クォータ機能をサブシステムを含むユーザー プロセスからは何ら変更の無いアクセスで利用できる透過的な実装が行われたほか、サードパーティによるファイル システムに対するフォレンジック監査の実装などに活用されている。
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後方互換性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/13 04:35 UTC 版)
Micro-ATXはATX規格に対する後方互換性が確保されている。例えばMicro-ATXマザーボードを取り付けるネジ穴の位置は、ATXマザーボードの該当ネジ穴と一致しており、I/Oパネルも同一であるためATX用のケースにも取り付けることができる。また通常電源コネクタも共通なためATX用電源を使用することができる。チップセットに関しても、従来の2チップ構成(ノースブリッジ、サウスブリッジ)、あるいは現在の1チップ構成いずれも、マザーボードメーカーは製品シリーズで共通のチップセットを搭載し、フォームファクタ毎の制約を除くと、電源フェーズ、オンボード機能のグレード、Wi-Fi、コネクタ数など付加価値のみによる差別化がほとんどである。
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後方互換性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/24 14:07 UTC 版)
「Linux Standard Base」の記事における「後方互換性」の解説
LSBは、バイナリ互換で安定したソフトウェアベンダから独立したABIを作るよう設計されている。後方互換性を達成するために、それぞれのそれに続くバージョンは純粋に追加的なものとなっている。言い換えると、インタフェースは加えられるのみで、除去されない。LSBは、LSBからインタフェースが除去されるときのためにアプリケーション開発者に十分な時間を与えるため、インタフェース廃止ポリシーを適用している。 これは、開発者にLSB中の全てのインタフェースに頼ることを許し、驚きなしに変更を計画し、周知する時間のためのものである。インタフェースは、3つのメジャーバージョンか、約11年、"deprecated"とマークされた後にのみ除去される。 LSB 5.0は、それ以前のバージョンとの後方互換性を壊した初めてのメジャーバージョンである。
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