ピーシーエーティー‐ごかんき〔‐ゴクワンキ〕【PC/AT互換機】
PC/AT互換機
【英】PC/AT compatible machine
PC/AT互換機とは、IBMが開発したパーソナルコンピュータであるIBM PC/ATとアーキテクチャの互換性を持ったコンピュータの総称である。
PC/AT互換機が構成上基づいているPC/ATは、1984年に発表された。当時、Appleが先進的な個人やホビーユーザーを主な対象としていたのに対して、IBMは、PC/ATによって企業向けの需要を掘り起こしていた。PC/ATは、ビジネス用途のパソコンの元祖であるとも言うことができる。当時、IBMは、主に大型汎用コンピュータ(メインフレーム)を手がけていたが、パソコンの市場の展望を見据え、短期に参入することを決めていた。そこで、ハードウェアの基本的なアーキテクチャを公開した上、主要な部品を外部調達できる仕組みを作り上げた。
IBMがマシンのアーキテクチャを公開したことで、その公開された仕様を元に多数のベンダーが自由に参入できる市場が形成された。そして、IBM仕様のパソコンを、IBM以外の会社が製造するという、いわゆる互換機メーカーが登場した。また、モジュールごとに特定のコンポーネントを製造するメーカーも多数登場した。IBMが仕様公開を行ったことは、今日のオープン技術の先駆けとしても位置づけることができる。
なお、PC/ATの開発の際、IBMはハードウェアを公開するだけでなく、アプリケーションを扱う上で必要となる基本ソフトウェア(オペレーティングシステム)を自社開発ではなく他社から調達することに踏み切っている。このとき採用されたPC-DOS、いわゆるDOSは、後のMicrosoftが発展を進めるための決定的な要因となったということができる。
PC/AT互換機は、徐々に仕様の拡張が行われ、現在では当初のものとかなり変わってきている。その意味で、現在のパソコンは、PC/AT互換機の延長線上にはあるが、単なる延長ではなく、むしろ発展系と言える存在である。例えば、バス規格は当初ISAバス(ATバス)であったが、後にPCIバスとなっている。キーボードやマウス用のインターフェースも、パラレルインターフェースやシリアルインターフェースから、現在ではほぼUSBに置き換えられている。
PC/AT互換機はオープン化され、その仕様は、業界団体の規格化や提案、強力なベンダーの提案に端を発する事実上の標準(デファクトスタンダード)などによって進化していく流れが形成されている。
PC/AT互換機
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/06 17:08 UTC 版)
PC/AT互換機(ピーシーエーティーごかんき、英語: IBM PC/AT Compatibles)とは、IBM PC ATの互換機であるパーソナルコンピューター(PC)であり、広義にはその後の拡張を含めたアーキテクチャの総称。16ビット以降のPCのデファクトスタンダードとなった。世界的にはIBM PC互換機、単にPCとも呼ばれる。日本ではDOS/V機などとも呼ばれる。当記事では1981年の初代IBM PC以降の「IBM PC互換機」を含めて記載する。
名称
世界的には「IBM PC互換機」と呼ばれる場合が多い。その「IBM PC」とは、1981年にIBMが発売したオリジナル(元祖)のIBM PCで、更には後継のIBM PC XT、IBM PC ATを含めたシリーズを指す。従って「IBM PC互換機」とは、そのシリーズのアーキテクチャを受け継ぐ互換機の事であり、広義にはIBM社自身の後の製品も含まれるが、IBM社製品でも独自仕様など異なるアーキテクチャのものは含まれない。また「IBM PCクローン」は初期の比較的単純な複製品を指す場合が多い。また主にMacintoshと対比させて、単に「PC」「PCs」と総称する場合も多い。
日本では以下の経緯もあり「PC/AT互換機」や「DOS/V機」などの表現が普及した。
- 日本では普及時期が1990年のDOS/V登場以降で、当時は「PC/AT互換機」が普及していた。
- 日本では「IBM PC」の知名度が低く、日本IBMの独自仕様PCや、PC-9800シリーズなどと誤解されやすかった。
- 後にWindows 95が導入メディアを「PC-9800シリーズ用」と対比して「PC/AT互換機用」と表記した。
なお大手メーカーの多くはブランド戦略やサポート範囲上、「互換機」の表現を使用しない傾向があり、コンパック(現HP)は日本でのDOS/V参入時に「業界標準機」(Industry Standard Machine)、日本電気はPC/AT互換機であるPC98-NXシリーズ発売時に「世界標準機」と呼んだ。
概説
米国を始めとする世界的には1980年代以降(日本では特殊事情より1990年代半ば以降、後述参照)、パーソナルコンピュータ (PC)の大多数はMacintoshやタブレット端末を除くとPC/AT互換機であり、デファクトスタンダードとなっている。また各種のスーパーコンピュータや産業用機器、携帯情報端末などのベースとしても使用されている。
PC/AT互換機はオリジナルのIBM PC ATとハードウェアとソフトウェアの両面で互換性を持つところから出発したが、現在では拡張を重ね、ATバス(ISA)やHDDのインターフェース、キーボード・マウスのコネクタを含めてハードウェア面の互換性はほとんど失われている。しかし、ソフトウェア面から見れば、ほぼ後方互換性を持つCPU (x86) やディスプレイ仕様(VGAなど)などを引き継いでいる。このため現在ではPC/AT互換機とは「オリジナルのPC/ATと直接の互換性があるマシン」という意味ではなく、「PC/ATをベースにソフトウェア面の後方互換性を維持しながらも、各種の拡張や標準化を重ね、事実上の標準を確立したマシンや仕様の総称」といえる。
事実上、1980年代後半から日本を除く世界的なPCのシェアの過半はPC/AT互換機で占められ、ハードウェアやBIOSのインタフェースを共通にすることで、ソフトウェアや周辺機器がメーカーを問わずどのPCでも利用できる様になった。なお、日本では1980年代の半ば頃から1990年代の前半頃まで、日本語で使用できるシステムを実用化させた日本電気のPC-9800シリーズが市場をほぼ独占していたが、1990年代半ばよりPC/AT互換機が普及した。
PC/AT互換機がデファクトスタンダード化した後には、多くの互換機メーカーや、台湾などを中心とした部品メーカーが登場し、競争によるコストダウンが進み、事実上の標準PCの地位を築いた。これにより、低価格なホビーPCや独自規格(PC-9800シリーズ、X68000など)はMacintoshシリーズを除いて1990年代半ば以降ほぼ消滅し、PC市場はPC/AT互換機が寡占するようになった。また、AppleのMacintoshシリーズも2005年にIntel系CPUを採用しPC/AT互換機となった(2020年の自社開発Appleシリコンへの移行開始まで)。
PC/AT互換機の仕様は各社や各種標準化団体によるデファクトスタンダードの積み重ねであり、汎用の部品を組み合わることにより比較的容易にコンピュータを作成できる。このため大手メーカーの他、零細なガレージメーカー、ショップブランド、BTO、個人による自作パソコンなども広く存在している。ただし、組み合わせによっては、各ベンダーによるサポートの有無、サポートのレベルの違い、また、特定のパーツの組み合わせで問題が発生するいわゆる相性なども存在し、サポート外の部分には自己責任が求められる。
歴史
IBM PC互換機の誕生
IBMによって発売された、1981年のオリジナルのIBM PC、1983年のマイナーチェンジであるIBM PC XT、1984年のIBM PC ATは大ヒットとなり、ビジネス用途を含め広く普及し、多数のアプリケーションソフトウェアや周辺機器が市場に普及したが、合法的な互換機や標準化の試みにより、段階的に互換機市場が形成されていった。
1981年に発売されたオリジナルのIBM PCは、短期間でパソコン市場に参入するためにCPU、メモリ、入出力デバイス、周辺ロジックに市場で入手可能な汎用の部品ならびに既存のソフトウェアのみを用いて構成され、拡張スロットにビデオカードを追加する事によってビデオ(テキスト、グラフィック)機能を拡張することが容易であった。更にIBMはアプリケーションソフトウェアや周辺機器の開発のためにマニュアル中に回路図やBIOSのソースコードを公開し、サードパーティー製品の普及に努めた。またIBM PC用の主要なオペレーティングシステムであるPC DOSの普及のため、開発元のマイクロソフトが他メーカーにOEM供給する事を許可した。IBM以外の各社へ提供したDOSは、当初はOEM先の各社の名称がつけられたが、総じてMS-DOSと呼ばれるようになった。IBMは後にこれらをオープンアーキテクチャと呼んでいる[1][2]。但し、互換機の作成にはBIOSが必要であり、公開されているBIOSのソースコードをそのまま使用する事は著作権侵害となるため、当時IBMは互換機自体の作成は避けられると考えていた。
互換機のうち、初期に登場した各オリジナルのコピー(模倣)に近いものをクローンと呼ぶ。クローンは先行したApple IIなどでも存在したが、その中にはBIOSなどの著作権を侵害しているものも含まれる。1982年のコロンビア・データ・プロダクツによるMPC [1] は、クリーンルーム設計による著作権侵害とならない互換BIOSを搭載し、初めての合法的なIBM PC互換機とされている。またCPU周辺の回路を構成する部品等については、当初は汎用のTTL等を用いていたが、市場性があるとみたLSIメーカが同等の回路を集積した安価な互換LSI等を供給し始め、後にはわずかな数のチップに集積されたチップセットが提供される様になった。これらにより合法的な互換機の作成が容易となった。
1982年には代表的な互換機メーカーであるコンパックが設立され、1983年出荷のCompaq Portableもクリーンルーム設計による互換BIOSを搭載した。さらに、1984年にはBIOSメーカーであるフェニックス・テクノロジーズがクリーンルーム設計による互換BIOSを各メーカーに供給開始し、後にはアメリカンメガトレンドなども参入し、合法的な互換機市場が広く形成された。後にアメリカンメガトレンドは、自社が開発したBIOSのソースコードの大部分をBSDライセンスで公開[3]している。
上位互換による互換機市場の確立
1986年 コンパックがIBMに先駆けて80386 CPUを採用した際に、従来のXTバスやATバスにバスブリッジを導入し、CPUのクロックと外部バスのクロックを分離した。これは後にEISA陣営によりISAバスと呼ばれ、さらにIEEEで標準化された。このことはIBMオリジナルの各モデル(CPU)のローカルなバス規格であったXTバスやATバスが標準化され、コピーから生まれた互換機が、以後は独自に高速CPUを搭載したり周辺機器を設計することが可能となり、PC/AT互換機市場が確立した。
ハードディスクの規格も当初のST-506やESDIから、1986年にコンパックとコナー・ペリフェラルが開発したIDE、さらには標準化されたATA、SATAが主流となり、特定メーカーの影響力は低下した。
ディスプレイ(テキストおよびグラフィック)の規格も、上位互換が徹底され、各社による拡張とデファクトスタンダード形成が継続した。オリジナルのIBM PCで採用されたMDAとCGAでは、CGAはMGAの全ての画面モードを含んでいた(MDAの上位互換)。次にIBM PC ATで採用されたEGAには、CGAの全ての画面モードと追加された画面モードが含まれた(MDA/CGAの上位互換)。各社はEGAに独自の解像度や色数のモードを追加して速度や価格を競い、これらはスーパーEGA(SEGA)と総称された。更にIBM PS/2で採用されたVGAには、EGAの全ての画面モードが含まれた(MDA/CGA/EGAの上位互換)。従来のPC AT用にもATバス用のVGAアダプターが発売された。各社はVGAと上位互換性を持つビデオチップやビデオカードを発売し、これらはSVGAと総称された。後にSVGAでは一部の画面モードがVESAで標準化された。後のXGAもVGAの上位互換(広義にはSVGAの一種)であった。これらの画面モード切替は、ユーザーがハードウェア的な切替操作をすることなく、ソフトウェアが行えた。なおHercules Graphics Cardや8514/Aなどは、EGAやVGA等の画面モードを内蔵するのではなく、EGAやVGA等と共存することができた(HGAはユーザーが2画面使用できた、8514/Aは本体側のVGA信号をパススルーできた)。またBIOS画面やOSのインストール画面などではデファクトスタンダードとなった画面モード(MDA/EGA/VGA等)を使用する事で、互換性と拡張性を両立できた。
規格競争とIBMの影響力の低下
CPUやメモリの性能が上がるなかで、従来のATバス(ISA)は性能や機能の限界が表面化してきた。1987年、IBMが発売したPS/2は、次世代バスとして従来のATバス(ISA)とは互換性の無い新しいマイクロチャネル(MCA)を採用したが、その使用にはライセンス料の支払いが求められた。対抗する互換機メーカーはISAを拡張したEISA規格を掲げ、規格競争が行われた。しかし、いずれの規格も法人向け上位モデル以外には広く普及せず、従来のATバス(ISA)が使われ続けた。このため特にグラフィック専用の中継ぎ的な規格として1992年にVLバスが策定され一時普及したが、後に多種のデバイスを扱える幅広い標準化を掲げたPCIが登場すると、両陣営とも段階的に移行してデファクトスタンダードとなった。
なおIBM PS/2で採用されたMCAは普及しなかったが、ディスプレイ規格であるVGA、キーボード・マウス用のPS/2コネクタ、3.5インチフロッピーディスクなどは、その後の各社SVGAを含めて「PC/AT互換機」のデファクトスタンダードとなった。
性能向上と「Wintel」の影響力増大
上述のようにオリジナルのIBM PCは16ビットCPUである8088であったが、1985年には32ビットCPUのIntel 80386が登場し、1986年にはコンパックが搭載した。当初はMS-DOSなどで高速な16ビット環境として使用されていたが、OSの32ビット対応も段階的に進展した。
1990年代にはいわゆるWintelが規格主導権を持つようになり、CPUへのRISC技術導入を契機に1994年、IBM・Apple・モトローラはPowerPC搭載パーソナルコンピュータの規格(PReP)を発表し、対抗するインテル・HPはIA-64を発表したが、どちらも一般のPC/AT互換機には普及せず、以後もx86(IA-32)のソフトウェア互換性を維持しつつ性能向上が継続した。
2000年代にはCPUの64ビット化が進んだ。インテルのIA-64が広く普及しなかった事もあり、2003年にAMDが出荷開始したIA-32の64ビット拡張である「AMD64」(x86-64命令セット)が普及した。2006年にインテルも同規格を「Intel 64」としてリリースしたため、この64ビット拡張はx64 (x86-64)と総称され、PC/AT互換機でのデファクトスタンダードとなり、WindowsなどのOSはIA-32用(通称32ビット用)とx64用(通称64ビット用)が用意された。
Wintelの増収増益の一方で、PCのコモディティ化の波により伝統的なPCメーカーが衰退し、業界再編が進行した。2002年、互換機市場の創成期からのリーダーであったコンパックはヒューレット・パッカードに買収された。2004年、元祖IBM PCを生んだIBMはPC事業をレノボに売却した。2007年、家庭向け低価格PCの小売大手のパッカードベルはエイサーに買収された。他方、受注直販方式により在庫を最低限としたデルやゲートウェイがシェアを増加したが、2007年 ゲートウェイもエイサーに買収された。また日本では、2011年にNEC、2017年に富士通がPC事業でレノボと提携した。
レガシーフリー
レガシーフリーPC、PCシステムデザインガイドも参照
その他のハードウェア面では、いわゆるレガシーデバイスを代替するデバイスへ移行した。具体的には、キーボードの接続はATコネクタ(DIN5ピン)からPS/2コネクタ(ミニDIN)を経由してUSBに、マウスの接続はバスマウスからシリアルポート、PS/2コネクタを経由してUSBに、プリンターの接続はパラレルポート(セントロニクス)からUSBに、などである。なお、フロッピーディスクのインターフェースは削除されている。
しかし、ソフトウェア面ではアプリケーションプログラムの後方互換性はほぼ維持されている[注 1]。また、パーソナルコンピュータ以外の用途を含め「x86サーバー」「x86システム」と総称される事も増えている。
以上のように、当初はIBM製品のクローンから始まったAT互換機だが、各種の規格争いと標準化を繰り返して発展しており、現在は、IBMはほぼ撤退し、有力メーカーやインテルでも市場(業界、ユーザー)の支持を得られない規格は普及しないデファクトスタンダードとなっている。
年表
オリジナルのIBM PCを含め、歴史的にIBM PC互換機に大きな影響を与えたものには以下がある。
IBM PC互換機の年表 年 世界 日本 1981 IBMがIBM PC発売(8088, MDA/CGA, PC DOS。汎用部品によるPC、ビデオカードによる拡張性、BIOS等の情報公開、マイクロソフトによるMS-DOSの各社へのOEM供給) 1982 コロンビア・データ・プロダクツがMPC 1600発売(クリーンルーム設計による互換BIOSを搭載した、初の合法的なIBM PC互換機。)
コンパック設立(代表的なIBM PC互換機メーカー)1983 IBMがIBM PC XT発売(XTバスは後に8ビットISAとして標準化。PC DOS 2.0による階層化ファイルシステム対応。) 1984 フェニックス・テクノロジーズが互換BIOSの供給開始
IBM PC AT発売(80286, ATバス, EGAによる上位互換)IBMがJX発売(IBM PCJrベースの日本語化) 1985 東芝がJ3100/ダイナブック発売(IBM PC XTベースの日本語化) 1987 コンパックがDeskpro 386発売(IBMに先駆けて80386採用。CPUクロックとATバスの分離は後にISAとして標準化。)
IBMがPS/2発売(VGAによる上位互換、後の各社SVGAのベースに。上位モデルのMCAは、後にEISA陣営との規格競争へ。)IBMがPS/55発売(PS/2ベースの日本語化) 1988 AX協議会各社がAX発売(PC/AT互換機ベースの日本語化) 1990 IBMがPS/1発売(IBMが個人向けPCでATバスを復活、広義のPC/AT互換機) IBMがDOS/V発売(ソフトウェアによるIBM PC互換機の日本語化) 1991 PCIバスの登場(MCAとEISAの規格競争は収束へ) マイクロソフトがDOS/V発売(日本IBMからマイクロソフト日本法人への技術提供)
OADG発足(IBM PC互換機の標準化・普及活動)1994 VBE 2.0 (VESAによるSVGAの標準化) 1996 USBの登場(PS/2コネクタ等は移行へ)
インテルとマイクロソフトがPC97発表(PCシステムデザインガイド)1997 NEC PC98-NXシリーズ発売(最後まで残った日本独自仕様PCの最大手メーカーが、PC/AT互換機へ路線転換) 2000 Windows Me発売(9x系の稼働対象がPC/AT互換機のみとなる) 2001 Windows XP発売(NT系の稼働対象もPC/AT互換機のみとなる)
UEFI採用が本格化[4]2005 AppleがMacintoshに搭載するCPUをIntel製へ移行(PC/AT互換機へ路線転換)
日本における普及
各社独自仕様による日本語化
日本では日本語表示が必要なため、日本IBMはIBM PCシリーズ(IBM PC、IBM PC XT、IBM PC AT等)や、その後のATバスモデル(PS/2下位モデル、PS/1等)を一般販売せず、日本IBMを含めた主要各社は日本語表示のために日本独自仕様PCを開発し発売した。16ビット以降の主なものには以下がある。
日本の主なPC(1981年 IBM PC登場後 ~ 1990年 DOS/V登場迄、16ビット以降) 登場年 メーカー シリーズ ベース 拡張スロット 英語モード(主な解像度) 日本語モード(主な解像度) 備考 1982 NEC PC-9800 - 独自(Cバス) - 独自(640 x 400) 互換機EPSON PCシリーズあり。後のPC98-NX以降はPC/AT互換機。 1983 日本IBM 5550 - 独自 - 独自(1024 x 768) 主に法人向け、後継はPS/55 1984 日本IBM JX IBM PCjr 独自 CGA(640 x 200) 独自(ECGA 640 x 200) 後のPS/55note・5510-Z・PS/V以降はPC/AT互換機 富士通 FM-16β/FMR - 独自 - 独自(640 x 400) 後のFMV以降はPC/AT互換機。 1985 東芝 J3100/ダイナブック XT互換機 (XTバス) CGA(640 x 200) 独自(DCGA 640 x 400) 後のダイナブックはPC/AT互換機 1987 シャープ X68000 - 独自 - 独自(768 x 512) 個人向け 日本IBM PS/55 PS/2 MCA VGA(640 x 480) 独自(5550互換 1024 x 768) 主に法人向け、後にDOS/VやXGAもサポート 1988 AX協議会各社 AX AT互換機 ISA EGA(640 x 350) 独自(JEGA 640 x 400) 主に法人向け 1989 富士通 FM TOWNS - 独自 - 独自(640 x 480) 個人向け 1990 日本IBM 5535-S AT互換機 (MCA) VGA(640 x 480) VGA(640 x 480) 法人向けラップトップ。日本語表示をソフトウェア(DOS/V)のみで実現。
日本独自仕様PCでも、内部的にはIBM PCベースのもの(IBM純正を含め、IBM PCとソフトウェア互換を持つ広義のIBM PC互換機)には以下があった。
- JX - IBM PCjrをベースに独自の日本語化(日本語16ドットフォント)を行い、個人向けに発売された。拡張スロットは独自だが、標準の「日本語DOS」の他にオプションの英語版PC DOSを起動すればIBM PC用ソフトウェアも稼働した。日本で公式発売された最初のIBM PC互換機だが、普及しなった。
- ダイナブック - IBM PC XTのCGAベースのノート型PC。後にはIBM PC AT (VGA)ベースとなった。ノートPC市場で普及した。
- PS/55 - PS/2(MCAモデル)をベースに、5550互換の独自の日本語化(MCAアダプタの形で日本語ディスプレイアダプタ搭載、日本語24ドットフォント)を行った。英語版PC DOSを起動すればIBM PC用ソフトウェアも稼働した。後にXGA搭載モデルも登場した。後の個人用モデル(PS/55Z 5530-Z、5530-S)は広くは普及しなかった。
- AX - IBM PC AT(EGA)をベースに独自の日本語化(JEGA)を行った。拡張スロットはISA。各社分業の影響で高価格となり広くは普及しなかった。
- 5535-S - PS/55シリーズの法人向けラップトップだが、VGAのグラフィックモードを使用して、ソフトウェア(DOS/V)のみで日本語表示(当時は日本語16ドットフォント)を実現した。このため日本語専用ハードウェアはキーボード程度となった。
各社は日本語表示の性能や品質を求めて、漢字ROM搭載や、同時期のIBM PC等と比較して高い解像度などを実装した。その際に後発のIBM JX、ダイナブック、PS/55(MCAモデル)、AX等は、IBM PC系が拡張カードなどで画面拡張が可能な基本設計である事を活用し、英語モードに独自の日本語モードを追加する形で日本語化を行った。しかし各社の日本語化は各社独自規格で、各日本語モード間では原則として互換性は無かった。ただしベースがIBM PC系は、英語モードで起動すればIBM PC用ソフトウェアが稼働するなど、ソフトウェアから見れば広義にはIBM PC互換機であった(英語モードを公式サポートしたかはモデルにもよる)。
このため、世界市場ではIBM PC XT、IBM PC ATをベースとした各社の互換機が発達して表示規格もVGAや更に各種のスーパーVGAが普及するなどハードウェアおよびソフトウェアの互換市場が形成されて低価格化が進展したが、日本では世界市場と日本国内では大多数のハードウェアやソフトウェアの互換性も低く、PC-9800がデファクト・スタンダードとなって「ガリバー」と呼ばれ、硬直的な価格設定が続き、大多数のアプリケーションソフトウェアの画面解像度は横640ビット・縦400ビット(テキストモードは16ドット日本語フォントで80文字・25行)であった。
DOS/Vの登場による「開国」
日本でのIBM PC/AT互換機の本格的な普及は、1990年のDOS/V登場による。日本IBMはVGA搭載のPS/55ラップトップモデル(5535-S)用のオペレーティングシステムとして登場したが、このDOS/VがIBM PC/ATベースのノート型モデル(PS/55note 5523-S)にも搭載されると、PC/AT互換機でもソフトウェアのみで日本語化が実現できる事が当時のパソコン通信等のネットワーカー達により話題となり、多数の互換機での稼働報告や、価格性能比に優れた台湾製80486搭載パーソナルコンピュータの個人輸入などが拡大した。
日本IBMはDOS/V普及のためにOADGを組織し、日本語キーボードの標準化、開発者向けリファレンスガイド発行、ユーザー向けソフトウェアカタログ発行などの活動を行った。また1991年5月にPS/55ZエントリーモデルとしてATバス搭載のデスクトップ(5510-Z)を日本で初めて発売した[5]が、当時このモデルは「IBMが発売したPC/AT互換機」として各社の稼働検証用にも使用された。更にIBM DOS/V(後のPC DOS/V)を他社に提供する他、当時のOS共同開発契約に基づきDOS/Vの日本語化部分をマイクロソフトに提供し、マイクロソフトからもマイクロソフト版のDOS/V(MS-DOS/V)を各社に提供した。富士通、東芝、AX参加各社もOADGに参加し、AX協議会は発展的に解消した。またコンパック等も日本市場に参入した。なお、当時日本では「PC」とはPC-9800シリーズを指すことがほとんどだったこと、日本IBMにはPS/55など別の日本語化規格のPCも併存していたこと、当時のPC/AT互換機は既に80386や80486、VGAやSVGAなどオリジナルのIBM PC/AT(80286、EGA)より拡張されていたことなどもあり、日本では「IBM PC互換機」「PC/AT互換機」よりも、「DOS/V機」「DOS/Vパソコン」などの呼称が普及した。
当時はWindows 3.0の時代で、アプリケーションも少なかったが、その間、ネットワーカーたちによって環境の整備やノウハウの蓄積が行なわれた。例えば、DOSの日本語拡張表示機能であるV-Textは、西川和久やLeptonらネットワーカーたちによって考案され、IBM公認の仕様となり、当時のDOS/Vブームを支えた。ブームに伴い、日本語変換入力ソフト、各著名アプリケーションがDOS/Vパソコンに移植されていった。
日本でも標準機の地位を確立へ
リリースが大幅に遅れた日本語版Windows 3.1は、1993年に発売されるとブームになり、パーソナルコンピューターを急速に普及させた。Windowsはパソコンのアーキテクチャの違いを埋め、異なるアーキテクチャのパソコン同士であっても、同一のパソコン操作環境を提供した。その過程で、安価で高性能、かつ内外多数のメーカーから機種を選択できるということで、PC/AT互換機は日本でも一般層に徐々に浸透していった。そして、日本での標準機であったPC-9801 シリーズを供給していたNECは、PC-9800シリーズアーキテクチャーの維持が価格競争上困難であると判断し、その供給を終了することになる。
世界標準のPC/AT互換機がそのまま日本語環境で使える事になったため、コモディティ化を招くことになった。海外、特にコスト面で競争力が強かった台湾製のPC/AT互換機パーツが大量に流入するに至って、日本メーカーはNEC他、細々と独自のものを維持していたメーカーも、そのアーキテクチャーを放棄した。加えて、ほぼNECの寡占状態であったパーソナルコンピューター市場は、広く日本の他のメーカーにも開かれた形になり、それらのメーカーはPC/AT互換のプラットフォームの上で独自性を持たせる製品開発の方向へと進んだ。以後は、多くの日本メーカーも中国や台湾などのメーカーからOEM供給を受けてパーソナルコンピューターを販売するようになった。
拡張されている機能
いわゆる「PC/AT互換機」はオリジナルのIBM PCやIBM PC ATより、ハードウェア面では多くの機能が拡張されており、既にオリジナルと共通するハードウェア規格はほとんど無いが、しかしソフトウェアから見た基本的な後方互換性はほぼ保たれている。
IBM PCシリーズと以後の「PC/AT互換機」の主要機能比較 IBM PC IBM PC XT IBM PC AT 以後の「PC/AT互換機」 出荷 1981年 1983年 1984年 - CPU 内部16ビット・外部8ビット(8088) 16ビット(80286) 32ビット、64ビット(x64) 拡張バス (IBM PC) XTバス(8ビットISA) ATバス(16ビットISA) VLバス、EISA、PCI等 表示規格 MDA、CGA EGA VGA、各種SVGA キーボード 83キーボード 84キーボード、101キーボード 104キーボード 主要OS PC DOS 1.0 PC DOS 2.0 PC DOS 3.0 MS-DOS、Microsoft Windows、Linux等
IBM PC AT以降の詳細は下表も参照。
IBM PC AT(1984年) | 過渡期 (1990年頃から2010年代前半まで) | 2021年現在 | |
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CPUアーキテクチャ | x86(16ビット) | IA-32(32ビット)→x86-64 (64ビット) | x86-64(64ビット) |
CPU | 80286 動作クロック6MHz | 80386, i486, Pentium, Pentium II, Pentium III, Pentium 4, Intel Core, Xeon K6, Athlon, Athlon XP, Geode, FX, Phenom, Turion X2, Opteron, Eden, 6x86, MediaGXその他 | Intel Core,Xeon AMD Ryzen, APU, EPYC Atomその他 |
BIOS | BIOS | BIOS→UEFI | UEFI |
フォームファクタ・電源 | AT | AT, ATX, MicroATX, ITX | ATX, MicroATX, ITX |
メモリ | 512KB | FPM DRAM, EDO DRAM, SDRAM, RDRAM, DDR SDRAM, DDR2 SDRAM, DDR3 SDRAM | DDR4 SDRAM 4Gから32GB程度[注 2] |
内部バス(拡張スロット) | ATバス(後のISAバス) | ISAバス、EISAバス、VLバス、PCI、AGP、PCI Express | PCI Express |
画面 | 640×350, 64色中16色表示 (EGA) | 640×480(VGA), 800×600(SVGA), 1024×768(XGA)から1920×1200(WUXGA) 8(256色表示)〜16(65536色表示)〜24ビット(1677万色表示)カラー | 1024×768(XGA)から7680×4320(8K解像度) 24ビットまたは30ビットカラー、ハードウエアによる3D描画, マルチディスプレイ |
モニタ | ブラウン管 | ブラウン管→LCD | LCD、有機EL |
モニタ(I/F) | D-Sub15ピン | D-Sub15ピン、コンポーネント端子 (5BNC)、DVI | DVI→HDMI、DisplayPort |
オーディオ | ビープ音 | Sound Blaster16(事実上の標準) Audio Codec 97 (AC97)→Intel High Definition Audio(HD Audio) S/PDIF接続音源 | Intel High Definition Audio(HD Audio)、S/PDIF、USB接続音源、Apple T2など |
キーボード | 84キー→101キー(DIN 5ピン) | 101キー(DIN 5ピン→PS/2コネクタ、USB) | 104キー(+α), USB、PS/2コネクタ, Bluetooth |
マウス | オプション(バスマウス, シリアルマウス) | シリアルマウス→PS/2コネクタ、USB | USB、Bluetooth |
FDD | 5.25" 1.2MB | 3.5" 1.44MB | ほぼ非搭載[注 3] |
HDD(単体容量) | 5から30MB | 数百MBから10TB[6] | 500GBから18TB (システムドライブにはより高速なSSDが採用される事が多い) |
HDD(I/F) | ESDI | ATA, IDE, SASI, SCSI,Serial ATA, eSATA | Serial ATA, USB |
光学ドライブ | なし | なし→CD-ROM, CD-R (RW), DVD-ROM (DVD-RW, +RW)→スーパーマルチドライブ、Blu-ray | スーパーマルチドライブ、Blu-ray 非搭載化、外付け化も進む |
その他補助記憶装置 | MO, ZIP, PD, DVD-RAM | SDメモリーカード、USBメモリ SSD | |
外部 拡張ポート | シリアル(RS-232C)、パラレル | シリアル、パラレル、PCカード・ CardBus ・ExpressCard(主にノートブックタイプ)→USB1.x/2.0、IEEE 1394 | USB3.0以降 USB Type-C, USB PD, Thunderbolt |
ネットワーク | オプション(非同期通信、トークンリングなど) | モデム、イーサネット (10M, 100M,1G) | イーサネット (1G以上) Wi-Fi (IEEE 802.11n, ac, ax), Bluetooth |
電源管理 | なし | なし→APM→ACPI | ACPI |
OS | PC DOS(OEM版はMS-DOS) | Microsoft Windows 32bit | Microsoft Windows 64bit |
消費電力 | 不明 | 数十から500W程度(内部構成による) | 30Wから2000W(内部構成による) |
用途 | ゲーム、汎用業務端末、端末 | パソコン、各種サーバ、クライアント、一部組み込みシステム(産業用、工業用など)、アーケードゲーム基板(タイトー『WOLFシステム』) | パソコン、各種サーバ、オープンシステム端末(クライアント)、スーパーコンピュータ(クラスタまたはノードの一部) 組み込みシステム(キオスク端末、ATM、NAS等の各種アプライアンス、AV機器) |
脚注
注釈
- ^ ただし、OSのサポートに依存する。また、OS自体が、おおまかに言って特定の年代のハードウェアでしか動作せず(OSの動作要件で示される)、またOSのソフトウェアとしてのサポートも年限が限定されている。
- ^ IA-32、いわゆる32ビットOSでは容量の壁により4GB以上のメインメモリにプロセスはアクセスできない。実質的には3.25GB程度が利用可能メモリの上限となる。
- ^ まれに、USB I/F接続により内蔵する場合あり
出典
- ^ The birth of the IBM PC - IBM
- ^ The PC - Personal Computing Comes of Age - IBM
- ^ opencomputeproject/OCP-OSF-Aptio_Community_Edition, Open Compute Project, (2024-08-14) 2024年8月24日閲覧。
- ^ UEFI Today: Bootstrapping the Continuum, Intel Press
- ^ 20万円を切った低価格DOS/V専用パソコン登場 - 日本IBM
- ^ “HGST、世界初となる容量10TBの3.5インチHDD「10TB SMR HelioSeal HDD」発表 - エルミタージュ秋葉原”. 2021年3月閲覧。
- ^ Appleのみ
参考文献
関連項目
外部リンク
PC/AT互換機
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/16 17:18 UTC 版)
「ユニバーサル・シリアル・バス」の記事における「PC/AT互換機」の解説
最初のホストアダプタ製品は、1996年にPC向けのPCIインターフェースに増設するカードとして登場した。 またインテルが1996年にリリースしたPC向けチップセット430HXにおいてUSBホストアダプター機能を内蔵すると、USBを搭載したPCは急速に普及を開始する。
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