調査会の民営化に関する議論
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「日本産業標準調査会」の記事における「調査会の民営化に関する議論」の解説
上記の省庁再編以降、日本の標準化行政における調査会の位置づけ、役割、存廃、民営化の可否などについて議論がしばしば行われるようになった。調査会の民営化推進論と国営維持論の主な内容は、次の表のとおりである。民営化推進論者にはメーカー等の出身者が、国営維持論者には経済産業省(旧通商産業省出身者を含む)の関係者が多い傾向にある。 表:調査会の組織に関する議論の概要 会議名・資料名民営化推進論国営維持論21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会(2000年) 野村堯雄三菱化学株式会社技術部長(当時) 「先進国の中で大臣が規格を制定しているのは日本だけであると聞いている。工業標準化法制定当初は国がイニシアティブを取ることによりかなりの成果をあげたのであろうが、現在はそのような時代ではない。今後は、国が引っ張るより民間の活力を引き出す仕組みを作るべきであろう」「時代が変わっているのだから、いつまでも国が引っ張るのではなく、民間が引っ張って行くようにするべきではないか。」 増田優通商産業省工業技術院標準部長(当時、現:お茶の水女子大学教授) 「『民間にできる』といっても、能力面・品質面・時間面という様々な評価軸があり、その上で受益者である企業が負担すべきであるという考え方ができるのではないか。」「そうした場合にJISCに何が残るかということが問題となるが、まずは国家規格として承認するという役割が残っている。」 齋藤紘一財団法人日本規格協会理事(当時、元:通商産業省工業技術院総務部研究開発官、独立行政法人製品評価技術基盤機構理事長) 「『民間中心の標準化』という方向性は結構である。一方で、民間には500近い標準化団体があるが、資金的・人材的・ノウハウ的には皆ご苦労されていると思うので、引き続き政府の支援も期待したい。民間で作れということになると、これまで工業技術院に蓄積されてきた標準化のノウハウも拡散してしまうのではないか?国際的な標準化委員会に対応するための国が持っていたノウハウなども、継続的に蓄積していくことが重要であろう。」「規格は作成するのみならず、社会に浸透していくということが重要というのもそのとおり。著作権の問題にも関係するが、規格はJISのみならず、ISOやASME、ASTMなどといった国際規格も実際に使われているということを踏まえるとなると、ある場所でそうした規格を一括して管理し、常に提供可能な体制を整えることが必要となるのではないか?」 『21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書案』パブリックコメント(2000年) 吉木健日本プラスチック工業連盟規格部ISO/TC61国内審議委員会事務局及びISO/TC61/SC11/プラスチック/製品 国際幹事(当時) 今後の標準化システムの完全な民営移管 「今後の日本の標準化システムは、主要規格先進国のシステムである『国家標準化機関が政府機関でない国』(注:下記『主要国の政府と国家標準化機関の状況』の米国、英国、ドイツ、フランス等参照)の形態をとるべきであるとの考えにいたっている。(注:工業標準化)法第12条による民間の自主的な規格が、いまだに担当する大臣の名において制定されているのは、もはや時代にかなった方式ではない。」 日本工業標準調査会21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会事務局 「我が国の場合、欧米において存在するような中立性及び財政的自立性をもった標準化団体(SDO)が我が国に存在しない代わりに、民間団体が作成した原案に対し、幅広く民間の有識者を集めたJISCの議決を得た上で、利害関係者のバランスや非差別性の有無に関し主務大臣が最終チェックを行う体制をとっています。これにより実質的に相当程度民間の意見を採り入れつつ、規格の中立性や非差別性を国が最終的に認証するバランスのとれた策定方式といえるというのが当委員会の評価であります。一方、民間団体に著作権を残す等、民間による規格作成インセンティブを一層高めるような政策が(注:『21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書案』)第4章第2節(1)において提言されています。」 情報処理学会情報規格調査会 NEWSLETTER(1998/2010年) 高橋茂東京工科大学長(当時、故人) 「標準化は政府の仕事なのか? 国家規格とは?」 「『国家規格』とは 本来 "International Standard" に対応する "National Standard" であって、少なくとも欧米先進諸国では "National Standard" は政府制定の規格ではない。米国のANSIを始め先進国の多くの標準化団体は経費を企業メンバーの会費、規格文書の売り上げなどによって賄っており、政府からは助成金さえもらっていない。…政府が制定していること自体が間違っていて、是正が必要だというのが筆者の考えである。 」「我が国が経済大国になってからも、発展途上国と同様に官庁が加盟していることは許されないのではないか。行財政改革や規制緩和が叫ばれているときに、なぜこれを産業界に戻そうとしないのか。それは官僚が一度手にした権限を自ら放棄することは絶対にないからである。…一方産業界の方も通産省が嫌がることは言い出したがらないし、近視眼的にはISOやIECの国際分担金を政府が税金から払ってくれるならその方が得だと考えるに相違ない。 」「政府が標準化に口を出すことを止めてもらい、委託金のようなものも徐々に当てにしないようにして、その間に本当にボランタリーな標準化団体を確立すべきであろう。」 山中豊経済産業省産業技術環境局情報電子標準化推進室課長補佐 「現在有効な法令約7,400件の中で、JIS規格を引用した法令は約360件(5%)もあります。…さらに法令の中には、数は少ないのですが、ISO規格やIEC規格を直接引用したものも23件あります。このようにデジュール標準は、単なる技術標準としてだけでなく、行政制度とのつながりも深いものとなっています。」「国の機関とするかしないかの違いは、経済発展過程だけでなく、ルールに対する欧米と日本の考え方の違いにも根ざしているように思えます。…標準化の世界でも、欧米はルールを変えることを考えるのに対し、日本はルール内での改善を考えるといわれます。このような状況は、『お上』に対する信頼でもあり、ある意味では依存といえるのかもしれません。」「JISCの機能としては、国内のJIS制定だけではなく、ISOおよびIECへの登録メンバとしての国際標準化活動も含まれます。具体的な標準を作成するTC(注:技術専門委員会)やSC(注:技術専門委員会・分科会)では、情報規格調査会などの各種団体が主体となった活動となりますが、組織運営にかかわる上層の委員会では、JISCからの委員が活動を支えています。時には、国と国の交渉ごととなる場合もありますので、この部分では,国の機関である方が有益かと思われます。」 その他(2006/2007/2009年) 江藤学経済産業省産業技術環境局認証課長(当時、現:独立行政法人日本貿易振興機構ジュネーブ事務所長) 「諸外国を見ると、欧米の先進諸国では、殆どの国が国家規格の作成を覚書や契約により民間に委ねている。政府は、作成された規格の利用に関して政策的な活用を図る立場だ。…日本の標準化体制は後進国ということが出来るかもしれない。」 原田節雄財団法人日本規格協会国際標準化支援センター主幹(当時、現:一般財団法人日本規格協会技術顧問、元:ソニー株式会社スタンダード&テクノロジーアライアンス戦略グループダイレクター) 「標準化先進国では民営の標準化団体および認証機関のビジネスになっている。日本は中途半端な状態で、行政から民間への移行ができていない。…富裕の時代には、規制ビジネス・認証ビジネスおよび市場ビジネス・知財ビジネスが全部民営化され、これら4種類のビジネスが融合することになる。行政の仕事の多くが民営化されている欧米では、これらすべてのビジネスが民間企業主体で行われている。やがて日本も、それにならうことになるだろう。」 田中正躬ISO会長(当時、現:財団法人日本規格協会理事長、元:通商産業省工業技術院標準部長) 「世界の中でJISCというのは、国が事務局をやっているかけがえのない組織です。標準の分野は公共財的な性格を持った財を提供する分野でもあって、私はその意味でJISCについて、国がタッチしていることによるいろいろなやり方は世界的にも評価してもらえるし、世界に貢献できると思っています。」 以上の議論においては、①国家標準化機関としての国の役割はJISCが設立された第2次大戦直後と比べて変化があったのか、ある場合は民営化すべきなのか、②民間団体が国家標準化機関である欧米先進国と同様にすべきであるのか(下記の表参照)、③国際標準化活動においては政府機関が中心的な役割を担うべきなのか、④JISの公共財的な性格と民間団体の利益の関係が、主な論点になっている。 このうち④については、民間団体にJIS原案の著作権を残すことを以って対処する旨の見解を調査会事務局が示しているが、JISのように主務大臣が制定し、その普及の徹底を目的とする規格については著作権法第13条第2号が適用されることから、JIS本文は著作権法で保護されない著作物であるとの指摘がある。これに対して調査会事務局側は、規格本文が官報に掲載されていないこと、また必ずしも官公庁自らが作成したものではないことを理由として、否定的な見解を示しているが、官報への本文掲載や官公庁自らの作成が著作権法第13条第2号の適用の要件となっていないことから、その妥当性に疑問があるとの批判がある。 調査会は現在、『21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書』(平成12年5月29日)の提言に基づいて日本工業標準調査会標準部会議決・平成14年4月24日適合性評価部会議決)を定め、財団法人日本規格協会はこれらに基づく運用により、JIS規格票、JISハンドブック等の販売で1,574,901,508円の収入(平成21年度)を得た。しかしJIS本文が著作権法により保護されなければ、このような販売や標準化活動の資金源などについて見直す必要がある。さらに、平成13年の中央省庁再編の際に問題となった調査会の民営化について再度検討する可能性がある状況となっている。 詳細は「日本産業規格」を参照
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