禁制
『阿漕』(能) 伊勢国阿漕が浦は、大神宮に奉る魚を取る所ゆえ禁漁であるが、阿漕という漁師がたびたび密猟をし、捕らえられて沖に沈められた。彼の亡魂は旅人に救いを請い、密猟のさまと地獄の苦とを見せた。
『鵜飼』(能) 甲斐国石和川は殺生禁断だったが、夜、老人が鵜を使って漁をし、捕らわれてふしづけにされた。老人の亡魂は旅僧に供養を請い、法華経の効力で成仏できた。
『十訓抄』第6-19 白河院の時、天下に殺生禁断の令が出たが、貧僧が老母を養うために、桂川で魚をとって捕らえられた。白河院は、僧の孝養の志を哀れんで罪を許し、褒美を与えた。
『半七捕物帳』(岡本綺堂)「むらさき鯉」 草履屋の藤吉は、殺生禁断の川で紫鯉を釣り、隠していた。役人の囲い者の女がそれを知って藤吉の留守宅へ行き、「昨晩の夢に、紫衣の人が命乞いに現れ、目覚めると枕元に紫の鱗があった」と告げて女房を気味悪がらせ、紫鯉を持ち去る。女は紫鯉を、食道楽の悪役人たちに振舞う〔*→〔命乞い〕1の「私を殺すな」と言う魚の物語の変型〕。
*毒を用いて魚をとることの禁制→〔一人二役〕4aの『毒もみのすきな署長さん』(宮沢賢治)。
★2.鹿の殺生禁断。
『妹背山婦女庭訓』2段目「芝六住家」 猟師芝六と息子三作が、春日の爪黒の神鹿を弓で射殺す。その血が、逆臣蘇我入鹿を倒すのに必要なのだった。三作は、神鹿殺しの罪を1人で引き受け、死んだ鹿とともに石子詰めにされる。しかし三作を埋めるための土中から、盗まれた神璽と内侍所(鏡)が発見され、三作は赦免される〔*十三鐘の伝説にもとづく〕。
『鹿政談』(落語) 奈良では鹿を殺すと死罪になった。ある朝、豆腐屋の六兵衛が、きらず(=おから)を食べている鹿を犬と間違え、割り木を投げつけて殺してしまう。しかし、町奉行・根岸肥前守が「これは鹿に似ているが、犬だ」と慈悲深い裁きをし(*→〔鹿〕4d)、六兵衛の命を助ける。奉行「そのほうは豆腐屋じゃな。きらずにやるぞ」。六兵衛「はい。まめで帰ります」。
十三鐘の伝説 子供たちが手習いをするところへ春日社の神鹿が来て、習字の紙を食べる。13歳の少年三作が筆(あるいは文鎮)を投げて追い払おうとするが、運悪く当たって鹿は死ぬ。三作は掟どおり、死んだ鹿とともに石子詰めにされる。母が三作の年齢に合わせ、明け7つと暮れ6つに鐘をついて供養する。
★3a.女人禁制の寺。
『柏崎』(能) 越後柏崎の女が、在鎌倉の夫の死と息子花若の遁世を知り、物狂いとなって信州善光寺まで旅をする。寺僧が「御堂の内陣は女人禁制」と告げて押しとどめるが、女は「禁制とは阿弥陀如来が仰せられたのか」と反論し、本尊を拝む。寺には出家した花若がおり、母子は再会を喜ぶ。
『道成寺』(能) かつて女が大蛇となって、道成寺の鐘に巻きつき、中に隠れた山伏もろとも焼き尽くした。多年の後、鐘が再鋳されたが、女人禁制の鐘供養の場に白拍子が来て舞い、「思えばこの鐘恨めしや」と言って、鐘の中に入る。白拍子は、蛇体の女の化身であった→〔鐘〕2。
★3b.女人禁制の山。
『かるかや』(説経)「高野の巻」 苅萱道心の妻が、夫に対面するため高野山へ登ろうとする。麓の学文路(かふろ・かむろ)の宿の玉屋与次が、「高野山は女人禁制である」と説き、空海の老母の故事を語る。「かつて83歳の老母(=あこう御前)が、息子空海に会おうと高野山に向かった。その時、山は震動雷電した。空海は『女人禁制』と告げて、袈裟を岩上に敷いた。老母がそれを越すと、41歳で止まったはずの月の障りが芥子粒ほど落ち、袈裟は燃え上がった」。
『南総里見八犬伝』第9輯巻之53上第180勝回下編大団円 60歳を超えた八犬士たちは、致仕して富山の峯上の観音堂の側に庵を結び、同居した。富山は伏姫の死以来女人禁制のため、八犬士の妻たち(*犬江親兵衛の妻静峯姫は早世したので、7人)は、従うことを許されなかった。それから20年を経て、7人の妻たちは皆老死したが、八犬士はなお壮健だった。
*女人禁制の山に登ろうとして、石になる→〔石〕1aの『遠野物語拾遺』12。
★3c.女人禁制の島。
『竹生島』(能) 醍醐天皇に仕える朝臣が、老人と若い女の乗る釣り船に便船して、竹生島の弁才天に参詣する。女も神前に来るので、朝臣は「この島は女人禁制のはずだが」と不思議がる。老人と女は「弁才天は女体ゆえ、女人を差別しない」と教え、「我々は人間にあらず」と言って姿を消す。やがて社殿から、女の本体である弁才天が現れ、湖水から、老人の本体である龍神が現れて、舞を見せる。
★4.花見の禁制。
『西行桜』(能) 西山に住む西行法師が、1人静かに桜を楽しむため、庵室の花見を禁制とする。そこへ下京辺から花見の一行が訪れ、西行も良い機嫌の折だったので、彼らを招き入れる。しかしやはり花見客は迷惑ゆえ、西行は「花見んと群れつつ人の来るのみぞあたら桜の咎にはありける」と詠ずる→〔花〕1。
『花折』(狂言) 毎年、花見客が寺庭を荒らすので、住持が「今年は花見禁制」と、新発意(=弟子)に言いつけて外出する。花見客たちが来るが、寺内に入れず、やむなく門前で塀越しの花見をする。酒をふるまわれた新発意は、客たちを寺庭に招き、花の枝を折って土産に渡す。住持が帰って来て、新発意をさんざんに叱る。
★5a.帯剣の禁制。
『平家物語』巻1「殿上闇討」 帯剣して殿上の間に昇ることは禁じられていた。しかし豊明(とよのあかり)の節会の夜、平忠盛は短剣を持って昇殿した(*→〔にせもの〕4)。後日これが問題になることを忠盛は見こして、主殿司(とのもづかさ)に短剣を預けて退出した。案の定、殿上人たちが忠盛を咎めたが、短剣を調べると、木刀に銀箔をおしたものだったので、処罰できなかった。鳥羽上皇は、かえって忠盛を褒めた。
『水滸伝』第7~8回 林冲が手に入れた名刀を、高大尉が「見せてほしい」と言って呼びつける。林冲は剣を持って高大尉の屋敷へ行き、奥の間で待たされているうちに、「白虎節堂」の額(がく)がかかった部屋に足を踏み入れてしまう。ここは軍機の大事を評議する所で、無断立ち入りは禁ぜられている。高大尉が現れ、「帯剣して白虎節堂に入るとは、本官を殺すつもりであろう」と決めつけ、林冲を捕らえる〔*すべて林冲を罪に落とすために仕組んだ罠であった〕。
★6.禁酒法。
『アンタッチャブル』(デ・パルマ) 禁酒法下のシカゴ。酒の密造や売買によって、アル・カポネは莫大な利益を得ていた。財務省の捜査官エリオット・ネスは3人の部下とともに、アル・カポネ逮捕に向けて彼らに闘いを挑む。ネスたちは、カポネからの賄賂を突き返したために、「アンタッチャブル」という異名をとる。カポネの雇った殺し屋がネスの部下2人の命を奪ったが、ネスはカポネの脱税の証拠をつかみ、裁判で彼を有罪にした。
『お熱いのがお好き』(ワイルダー) 禁酒法時代。ギャングたちが、見せかけの葬儀場を営む。霊柩車の棺に酒瓶を入れて運び、葬儀場の奥に秘密の酒場を開く。飲み物はコーヒーだけ、というたてまえで、客は「コーヒーのスコッチをデミタスで」などと言って注文する〔*酒場の楽団員、ジョーとジェリーは、ギャングたちに追われ、女装して逃げる。ジェリーは金持ち男に求婚され、ジョーは男姿に戻って恋人シュガーを得る〕。
★7.切支丹の禁制。
『青銅の基督』(長与善郎) 奉行所における踏み絵の儀式が、萩原裕佐の作った青銅のピエタを用いて行なわれる。切支丹信者の1人モニカは、ピエタの前にひざまづき、それを胸に押し当てて接吻し、また台上に置くと、手を合わせて拝んだ。彼女は、ピエタを踏めなかった他の信者たちとともに、火あぶりの刑になった〔*ピエタの見事な出来栄えゆえに、モニカも奉行所の役人も、萩原裕佐を「切支丹だ」と誤解した〕。
『沈黙』(遠藤周作) 司祭ロドリゴは、信徒たちを拷問の苦しみから救うため(*→〔聞き違い〕1)、銅版の踏絵の前に立つ。踏もうとして、彼は足に鈍い重い痛みを感じる。その時、銅版のあの人は「踏むがいい」と言った。「お前の足の痛さを、この私が一番よく知っている。私はお前たちに踏まれるため、この世に生まれ、お前たちの痛さを分かつため、十字架を背負ったのだ」。ロドリゴが踏絵に足をかけた時、朝が来て鶏が鳴いた。
*ペテロがイエスを裏切った時も、鶏が鳴いた→〔三度目〕5の『マタイによる福音書』第26章。
『現代民話考』(松谷みよ子)6「銃後ほか」第1章の4 太平洋戦争末期。空襲警報が出たが、敵機がこちらへ来ないので、ベートーベンの第9交響曲のレコードを大音量で聴いた。防空団のおじさんが飛んで来て、「敵国の音楽を鳴らすとは何事か」と怒鳴った。「ベートーベンはドイツ人です」と説明すると、「ああ、そうか」といったん納得したが、「大きな音で、敵機に聞こえるじゃないか」と、また怒鳴った(東京都)。
★9.神父は、罪を犯した人の懺悔を聞いても、その内容を他言してはならない。
『私は告白する』(ヒッチコック) ローガン神父は、教会の雑役夫ケラーから「強盗殺人を犯した」との懺悔を聞く。神父には守秘義務があるので、ローガンはケラーに自首を勧めることしかできない。しかしケラーは自首するどころか、ローガンに殺人の濡れ衣を着せる。ケラーの妻がたまりかねて「神父は無実です」と叫ぶが、ケラーは妻を射殺してしまう。警察はケラーが真犯人であると知り、追いつめて射殺する。
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