映画
★1.映画の怪。
『影』(芥川龍之介) 横浜、日華洋行の主人陳彩は、妻房子の不貞を疑って鎌倉の自宅に戻る。そこで陳彩は、房子を絞め殺している陳彩自身の姿を目撃する。以上のような内容の、『影』というタイトルの映画を、「私」は1人の女とともに東京の活動写真館で観る。しかし女が渡してくれたプログラムに、『影』という標題はなかった。
『仮面の恐怖王』(江戸川乱歩) 少年探偵団員2人が、映画『黄金仮面』を観る。黄金仮面の顔がスクリーンに大写しになり、口を三日月形に曲げて笑うと、白黒映画なのに、口の右すみから赤い血が流れ落ちる。観客は恐怖し、映写技師は驚いて機械を止める。それは怪人二十面相が、フィルムの1コマ1コマに赤い絵の具を塗っておいたのだった〔*絵の具を血に見せかける点で→〔血〕8の『カンタヴィルの幽霊』(ワイルド)に類似〕。
『人面疽』(谷崎潤一郎) 乞食青年が花魁(おいらん)菖蒲(あやめ)を恨んで死に、やがて菖蒲の右膝に乞食青年そっくりの人面疽が生ずる、という映画がある。人面疽に苦しめられた菖蒲は発狂して自殺するが、人面疽はなお生きているかのごとく笑う。無声映画であるのに、その笑い声が微かに聞こえてくるのだった。
『キートンの探偵学入門』(キートン) 映画館の技師がうたた寝をする間に、その分身が肉体から抜け出てスクリーンの中に入る。すると背景が市街地・崖・アフリカの平原・海、と次々に変わり、彼は自動車にひかれそうになったり、谷底へ転落しそうになったりする。しかし映画の中で彼は悪漢の手から美女を救い、やがて夢から覚めた彼も、現実世界で恋人と結ばれる。
『素晴らしき日曜日』(黒澤明) 雄造と昌子は『未完成交響楽』のコンサートに出かけるが、安い席が売り切れて、入場できない。夜、2人は誰もいない野外音楽堂へ行く。雄造が舞台に上がって、指揮者の真似をする。聞こえるのは木枯らしの音だけである。晶子はスクリーンの中から観客にむかって、「皆さん、拍手を送って下さい」と訴える。そして自ら拍手をして、雄造を励ます。その時、オーケストラの音合わせの音が2人に(観客にも)聞こえてくる。雄造が編み棒をタクトにして振ると、『未完成交響楽』が響きわたる。
★4.映画の登場人物が観客に呼びかけ、スクリーンから出て来る。
『カイロの紫のバラ』(アレン) 人妻セシリアは大の映画ファンで、毎晩のように映画館に通う。上映中の『カイロの紫のバラ』の登場人物トムが、客席のセシリアに語りかけ、スクリーンから出て来る。映画は進行が止まり、共演者たちは途方にくれ、客席は大騒ぎになる。トムを演じた俳優ギルが、トムをスクリーンに戻すために、駆けつける。トムもギルもセシリアに恋するが、セシリアは現実の存在であるギルを選び、トムはスクリーンの中に戻る。するとギルは安心し、セシリアを捨ててハリウッドに帰ってしまう。傷心のセシリアはまた映画館へ行き、新たな映画に見入る。
*テレビ画面から亡霊が出て来る→〔井戸〕1cの『リング』(中田秀夫)。
『完全映画(トータル・スコープ)』(安部公房) 東洋映画会社は諸方面から多額の資金を集め、観客が映画の内容をそのまま事実として体験できる、「完全映画」を開発する。しかし、試写会で『怪獣ゾガバの東京見物』を体験したAはゾガバ同様に狂暴化し、『ナポレオンの生涯』を体験したBは肉体が消滅してしまうなど、思わぬ事態が起こり、「完全映画」開発は失敗に終わる〔*実はこれは、破産寸前の東洋映画が金を集めるための詐欺だった〕。
『雨に唄えば』(ドーネン他) 1920年代。美男美女のドンとリナは、サイレント映画の大スターだった。しかしリナは、かん高い悪声だったので、新たなトーキーの時代には向かない。そこで、コーラス・ガールのキャシーがリナの声の吹き替えをし、映画は大成功を収める。リナはキャシーの存在を秘密にして、自らのスターの座を守ろうとするが、ドンはキャシーを「真のスター」として、観客たちに紹介する。
★7.映画の中の時間進行と、現実の時間進行(=上映時間)を、おおむね一致させる。
『終着駅』(デ・シーカ) ローマ中央駅。人妻であるアメリカ人女性メアリーが帰国すべく、午後7時発の列車に乗る。ローマ滞在中に知り合い恋人となった青年ジョヴァンニが、発車直前に駆けつけ、メアリーは列車を降りる。メアリーが「別れねばならない」と言うので、ジョヴァンニは彼女を平手打ちして去る。しかし、すぐまた彼は駅に引き返してメアリーを捜し、2人は引き込み線の客車に入って抱擁し合う。駅員が2人を構内の警察に連行する。署長は事情を察して2人を釈放し、メアリーが8時半の特急に乗れるよう計らう〔*上映時間88分。アメリカの短縮版は72分〕。
『真昼の決闘』(ジンネマン) 西部の町。保安官ケインは任期を終え、エミィと結婚式を挙げた。午前10時40分。「凶悪犯ミラーが釈放され、ケインに復讐すべく汽車でやって来る」との電報が届く。駅にはミラーの仲間3人が、彼の到着を待っている。ケインは、ミラー一味を迎え撃つため町の人々に協力を請うが、皆に断られる。正午。汽車が着き、町へ乗り込んでくるミラー一味4人に、ケインは単身で立ち向かう。エミィが敵の1人を撃って助け、ケインは銃撃戦に勝利する〔*上映時間84分〕。
『ロープ』(ヒッチコック) 夕方。2人の青年が、アパートの一室で友人デイヴィッドをロープで絞殺する。2人は死体を衣裳箱に入れ、その上にテーブルクロスを敷いて料理を並べ、数人を招いてパーティを開く。1時間ほどでパーティは終わる。客の1人ルパート教授が、帰り際に自分の帽子と間違えてデイヴィッドの帽子を手にし、デイヴィッドがこの部屋を訪れたまま、帰っていないことを知る。ルパートは2人の青年を問い詰め、殺人を自白させる。窓の外はすっかり暗くなっている〔*上映時間80分〕。
*→〔癌〕4の『5時から7時までのクレオ』(ヴァルダ)は、上映時間90分で、夏至の日の午後5時から6時半までの90分を描く。
『最後の人』(ムルナウ) 高級ホテルの老ドアマンが、金ボタン・金モールの制服姿に喜びと誇りを持って、働いていた。ある日、支配人が、たまたま休憩中だった老ドアマンを見て「職務怠慢」と誤認し、制服を取り上げて、地階の洗面所掃除夫に格下げする。老ドアマンは屈辱と絶望のうちに、人生最後の日々を送る〔*これでは結末が暗いというので、ハッピーエンドのバージョンが作られた。洗面所で倒れた富豪の世話をしたため、老ドアマンは遺産を贈られ大金持ちになって、ホテルの上客として遇される、というものである〕。
『我等の仲間』(デュヴィヴィエ) 仲の良い5人の男たちが共同で、レストラン「我等の家」を開こうと、準備を始める。しかしいろいろな事情で2人が去り、1人が事故死する(*→〔五人兄弟〕2)。残った2人、ジャンとシャルルが開店までこぎつけるが、シャルルの別れた妻ジーナが金目当てで現れ、夫と縒りを戻そうとする。シャルルはジーナの甘い言葉を信じ、ジャンと手を切ろうと考える。ジャンは怒り、シャルルを拳銃で撃つ〔*別バージョンではジャンの説得によって、シャルルは「女との腐れ縁よりも、友情が大事だ」と思い直し、ジーナを追い返す〕。
★9.映画を愛する人々。
『ニュー・シネマ・パラダイス』(トルナトーレ) シチリア島の小さな村の映画館パラダイス座。映画好きの少年トトは映写室に入りびたり、技師アルフレードの手伝いをする。トトは、アルフレードの後を継いでパラダイス座の映写技師になり、やがてローマに出て、一流の映画監督サルヴァトーレとなる。何10年もの後、サルヴァトーレは、アルフレードの死の知らせを受けて、故郷シチリアへ帰る。アルフレードは1巻のフィルムを、サルヴァトーレへの形見として遺していた→〔接吻〕7。
『8 2/1』(フェリーニ) 映画監督フェリーニは、プロデューサーと新作の契約を交わし、スタッフ、キャスト、ロケ地などを決めた。しかし、肝心のシナリオが書けない。ストーリーも、主人公の人物設定も、何1つできないのだ。彼は制作を断念するが、その時、「今の自分の状態そのまま、つまり映画を作れない監督の物語を映画にしよう」とのアイデアが浮かぶ。フェリーニはそれまでに9本の映画を作っていた。そのうちの1本は他の監督との共同制作だったので2分の1と数え、映画のタイトルは『8 2/1』となった→〔温泉〕2d。
★11.物語の最後に、それが現実のことではなく、映画の撮影だったことが示される。
『蒲田行進曲』(深作欣二) 映画スター銀ちゃんは、妊娠した愛人小夏を、大部屋俳優ヤスにおしつける。病院の一室。小夏は女児を産み、ヤスは「おれとお前と赤ん坊と、3人で生きていこう」と言う。「カット!OK」の声があり、セットが解体されて、そこが映画の撮影所であることが示される。大勢のキャスト・スタッフが、花束を持ち、笑顔で集まって来る。『蒲田行進曲』の主題歌が流れ、皆、観客に向けて手を振る。
『シベリア超特急』(水野晴郎) 第2次世界大戦前夜。山下奉文陸軍大将が乗るシベリア特急の一等室車両で、連続殺人事件が起こる。山下大将が見事な推理で犯人を指摘し、事件は解決する。「カット!」の声がして、それまでの出来事は現実ではなく、映画の撮影だったことが示される。山下大将役の水野晴郎が、出演者をねぎらう。その時、主演女優が毒を飲まされて倒れる。しかしこれも、観客を驚かす芝居だった。
*現実なのに、映画の撮影と錯覚する→〔芝居〕2の『サンセット大通り』(ワイルダー)。
★12.試写会。
『朝の試写会』(志賀直哉) 「私」の住んでいる熱海の東宝映画館で、『パルムの僧院』の試写会があった。2月1日朝9時からの上映だったので身体が冷え、「私」は隣席の広津(和郎)君に「寒いから懐炉を買って来る」と言って、席をたった。広津君はそれを、「寒いから帰ろう」と聞き取った。「私」は懐炉で身体を暖めて、ふたたび席についた。映画は、「私」には好感の持てない内容だった。主人公ファブリスの行動は、与太者と変わりがないように思われた。
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