明治末期の国体問題とは? わかりやすく解説

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明治末期の国体問題

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 14:34 UTC 版)

国体」の記事における「明治末期の国体問題」の解説

日本日露戦争勝利したのち国体論が盛り上がる時期にあって国体問題に関して国民思想刺激する事件がおきる。1910年明治43年)の大逆事件1911年明治44年南北朝正閏問題である。 幸徳秋水無政府主義者天皇暗殺準備したとされる大逆事件は、それまで国民夢想すらしなかった大不祥事といわれ、その突発人々愕然として、識者日本国体宣明にしなければならない思い立ち国体に関する研究が更に盛り上がり見せる。井上哲次郎設立していた東亜協会中心に国体研究会設けたのも大逆事件影響であったといわれる国体研究会講演機関誌東亜之光』に連載される。 山田孝雄国体論に手を染めたきっかけ大逆事件であったという。山田孝雄は後に文部省『国体の本義』起草にも関わる著名な国語学文法学者である。大逆事件に関する報道解禁され当日山田孝雄は「深く心に感ずところあり」として、即日筆を執り身体論国家観にもとづく一書一週日のうちに完成し、これを『大日本国概論』と題して出版する同書に「国体は国の体なり。喩えば、人の体あるが如し。人とは何か。之を物理学的に見れば一個有機体なり。之を科学的に見れば各種元素組織体なり。之を生理学的に見れば幾多細胞組織せる有機体なり」という。ここに見られる類比思考西欧広範に見られる<自然>な身体モデルにした国家有機体説であった時事新報が「ペストコレラ病毒の如き」「無政府共産主義如きものゝ伝来接し仮初にも之に感染する偏狂」と表現し井上哲次郎が「破壊思想源流」と題して病気衰弱した身体バチルス入り易い様に毒は直ちに食ひ込んだ」「日露戦後世間疲弊した弱身にくひ込んだ病気である」と記し有機的な国家身体から排除されるであった幸徳秋水ですら「所謂愛国心は実に之が病菌たり、所謂軍国主義は実に之が伝染媒介たる」ゆえ「愛国的病菌朝夜上下蔓延し帝国主義的ペスト世界列国伝染し二十世紀文明破毀し尽さずんば已まざらんとす」と同様の比喩用いたこのように隠喩としての病>は猛威振るっていた。国家有機体として想像される時代にあって山田孝雄はその空気吸いながら最初国体論を書いたのだった南北朝正閏問題大逆事件発覚直後帝国議会起こり国体に関する一大議論惹起する南北朝正閏論については、明治時代には大日本史同じく南朝正統認めるものが多く中には南北朝対立説を採るものもあったが特に問題とならず済んでいた。問題発端は、国定教科書における南北朝対立に関する編者所見である。文部省尋常小学校日本歴史南北両朝同等に認め、その教師参考書に「容易にその間正閏軽重論ずべきにあらざるなり」と明記していた。これが皇統一系国体反するという理由一部小学校教師激昂させ、やがて新聞記者動かし1911年明治44年1月19日発行読売新聞報じられる。これを読んだ早稲田大学教師松平康國牧野謙次郎善後策講じ衆議院議員藤澤元造から帝国議会質問案として提出することを謀る藤澤元造2月16日質問演説に立つことになるが、政府百方手を尽くして彼を翻意させ議員辞職追い込む。 ここに世論興起する。まず水戸市教育会運動起こし2月18日に同会長菊池謙二郎から文部大臣建議書を提出する建議書に「大日本史南北朝正閏論唱道せし以来、これに関する国民倫理思想一定し南朝方の将士は当然忠誠の士にして北朝方の将士佞姦の輩なりと固く信じて疑わざるところなり」、「もし大日本史正閏論誤謬ありて、これに準拠せり倫理思想大害生ずるものとせば、これを変改するは正当の業なりといども、正閏論は、国体の上より見るも、史実の上より見るも、また教育の上より見るも、錯誤なきのみならず当の説なり。いやんや明治三十三年十一月十六日大日本史撰者たる徳川光圀卿に正一位追贈せられし時、詔をもって光圀皇統正閏人臣を是非せしことを是認し称美給いに於いてをや」という。 また2月21日には国民党大逆事件ならびに南北朝正閏論に関する決議案衆議院提出する。この決議案では、大逆事件について「彼がごとき狂豎を出し、もって国体尊厳汚瀆する」と断じ、さらに国定教科書について「万世一系皇祚対し奉り敢えて濫りに正閏なしとの妄説を容る」ものとして批判する衆議院では犬養毅問責演説に立つが、これは秘密会とされる3月貴族院では伯爵徳川達孝男爵高木兼寛文部大臣質問試み衆議院では国民党代議士村松恒一郎質問書提出する質問書に「政府、既にその非を認めて教科書改正着手したる以上、過去一年間忠奸正邪の別を紊り、国民思想動揺惹起し国体基礎危うくせんとしたるに対し内閣はなぜ速やかに処決してその責任明らかにせざるか」と問責するこの間大日本国擁護団なるものが設立され主意書を発表する3月国体擁護団は解散し、友声会を結成する。このほか弘道会丁酉倫理会などがそれぞれ活動し、また新聞雑誌議論縦横に出るなどして非常に混乱する学者真面目にこの問題論じるに至り結局は南朝正統論に決し責任者である文学博士喜田貞吉休職処分にし、国定教科書改訂することになる。5月には史学会より論文集南北朝正閏論』が出る。6月には文部省南北朝吉野朝改め教科書改訂し問題決着する7月には友声会が論文集正閏断案 国体擁護』を公刊し、南朝正統宣揚するこの後学者たちは、続々論説発表し各種団体作って南朝正統説を唱える南北朝正閏論主な論者として次の学者挙げることができる。 南北朝対立説は、喜田貞吉三上参次久米邦武など。 北朝正統説は、吉田東伍浮田和民など。 南朝正統説は、牧野謙次郎松平康國穂積八束井上哲次郎猪狩史山、笹川臨風黒板勝美菊池謙二郎福本日南副島義一姉崎正治三浦周行など。 国体関連にさせて南北朝正閏論じたものとして例えば以下のものがある。いずれも南朝正統説である。 万朝報は「南朝北朝正閏論」という記事を三回連載し、この問題国体に関することが最も深く、もし皇位二つあるとすれば国体国体を為さない、などと論じる。 井上哲次郎は「国体上より南朝正統なるを論ず」という記事などにおいて次のように論じる。曰く南北朝問題解決するには国体立場から見る必要がある国体主権所在により定まる日本では主権は常に皇位にあり、この国体万世不易である。しかし過去において一度だけ変がある。すなわち南北朝時代皇統が二系あったことである。これは史実であるが、国民道徳立場からはこれを対立見てならない日本では国民道徳基礎永遠不変である。なぜならば国民道徳国体より出て国体基礎万世一系皇統であり、この国体永久不変である以上は国民道徳基礎動揺するわけがないからである、と。 姉崎正治は『南北朝問題国体大義』を著して歴史家社会名教上に及ぼす影響考慮しなければならず、国体大本建国とともに定まっている以上、南北朝問題もこれに準拠して解決すべきであることを説く松平康国は『正閏断案 国体擁護所載論文史学趨勢国体観」において、歴史教育国体観念養成に最も重大に関係するから史家慎重な用意要する論じる。 1911年明治44年8月清水梁山という人物が『日本国体日蓮上人』を著す。内務省神社局 (1921) によれば同書は「日蓮国体論なるものを捻出し牽強附会、もって我が国体と日蓮宗とを結びつけんとせり。その論ずるところ奇怪、ほとんど説くに足らざるものなれど、かくしてまで我が国体と関連を保たんとするところに当時思潮見るべきなり」という。 同年12月には高楠順次郎が『国民道徳根底』を著し日本国体先祖崇拝の関係を説く1912年明治45年)、加藤玄智が『我建国思想本義』を著し祭政一致肇国主義日本国体であると論じて曰く日本祭政一致国柄であり、建国当初祭政一致をもって成立した。他にも祭政一致の国は数多いが、どれも国民と神とが一定の契約によって保護・被保護の関係を結ぶものであって日本のように実際血縁関係にあるものではない。これが日本国体が特殊である理由である。そして国民一般は、現在の天皇をその神の延長見做しいわゆる現人神信奉する。これが国体精華であり、万世益々国家栄え理由である、と。 同年丸山正彦(丸山作楽養子国学者)が『大日本神国也』を著して日本神聖が基を開き神孫継承し、ついに金甌無欠国体成立させたので、その神祇威徳崇敬することは国体擁護する所以であると論じる。

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