攻撃的カウンターインテリジェンスの理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 13:41 UTC 版)
「防諜」の記事における「攻撃的カウンターインテリジェンスの理論」の解説
現在のカウンターインテリジェンスにおける攻撃ドクトリンは、基本的には人的資源に対して直接狙いを定めるものであり、それゆえカウンターエスピオナージは攻撃的カウンターインテリジェンスの一部と考えることができる。作戦を展開する上での核心は、敵の諜報機関またはテロリスト組織の活動の有効性を落とさしめることである。攻撃的カウンターエスピオナージ(とカウンターテロリズム)は2つの方法で行われ、どちらもいくつかの方法によって敵(外国の諜報機関またはテロリスト)を操作するまたは敵の通常の作戦を混乱させることによって行われる。 防御的カウンターインテリジェンスの作戦は、容疑者を逮捕することにより、秘密のネットワークを突き破るか、または外国の諜報機関に対してそれが全く捕捉可能であり、もし防諜活動が正しく行われるならばそれが効果的であることを彼らの活動を示威することによって進められる。もし防御的カウンターインテリジェンスによってテロリストの攻撃を阻止することができているならば、それはうまくいっているといえる。 攻撃的カウンターインテリジェンスは、長期的な観点から敵の能力にダメージを与えようとする。もしそれによって自国に敵対する勢力が存在しない脅威に対して大規模なリソースを投入することにつながる、またはテロリストがその国における彼らの『スリーパー・エージェント』がすべて信頼できるものではなく、代わりの人材に置き換えなければ(そしてセキュリティ上のリスクを潰さ)なければならないと考えるようになれば、単独の防衛の作戦上の見地からはそれ以上はない大成功といえる。しかしながら、攻撃的カウンターインテリジェンスを実施するためには、検知以上のことをしなければならない。敵と関係のある人物を騙さなければならない。 カナダ国防省はその軍警察国家防諜隊の指令においていくつかの論理的に意義のある分類をしている。その用語法は他で使われているものと同じではないが、その分類は有益である。 『カウンター・インテリジェンスとは敵意のある諜報機関、またはスパイ活動、破壊活動、国家転覆、テロリストの活動、組織化された犯罪や他の犯罪行為と関係があるおそれがある個人によって提起された国防省の職員、カナダ軍の隊員、そして国防省とカナダ軍の所有物と情報の安全に対する脅威となる懸念の特定とそれへの対応の活動を意味する』。これは他でいう防御的カウンターインテリジェンスに相当する。 『セキュリティ・インテリジェンスとは敵意のある諜報機関やスパイ活動、破壊活動、国家転覆、テロリストの活動、組織化された犯罪や他の犯罪行為と関係があるおそれがある個人の身元や属性、能力の特定、意図を探ること意味する』。これは攻撃的カウンターインテリジェンスに直接あたるものではない(強調が付け加えられている)が、攻撃的カウンターインテリジェンスを実施するための諜報活動の準備の必要性を示している。 カナダ軍国家防諜隊の任務には、『国防省とカナダ軍に対するスパイ活動、破壊活動、転覆、テロリストによる活動や他の犯罪行為の脅威となる存在の素性の特定、捜査と対処、高度の機密情報または特別な国防省またはカナダ軍の所有物を危険にさらすおそれのある現実のまたは起こりうる脅威の身元や属性の特定、捜査と対処、防諜の捜査、作戦の実施と国防省とカナダ軍の権益を脅威から守るため、または予防するためのセキュリティに関するブリーフィングとデブリーフィング』が含まれる。この指令は攻撃的カウンターインテリジェンスを実施するうえではよい文章の指令である。 国防省は、『セキュリティ・インテリジェンスのプロセスは刑事事件の犯罪者情報の獲得が目的であり、この種の情報の収集がその任務の範囲内に止まるカナダ軍国家捜査局による捜査と混同してはならない』とさらに有益な定義づけをしている。 防諜の訓練を受けた本職の諜報員を操ることは、彼の気が向いていない限り容易ではない。思いやりのある人物から始めない試みは、長期間の従事と、自らが防諜の標的であることや防諜のテクニックも理解している誰かの防御を打開するための創造的な思考力を要するだろう。 一方、テロリストはセキュリティの機能として偽装工作に関与するが、外国の諜報機関よりもうまく配置された敵に操られたり騙されたりする傾向があるようだ。これは部分的には多くのテロリスト集団のメンバーが「しばしばお互いを信用せず、争いあい、意見が異なり、様々な信念を持っている」という事実によるものであり、外国の諜報機関として内部的に団結しているわけではなく、彼らが欺騙と操作によってより脆弱になる可能性を表している。 特に本職として始めたわけではない、攻撃的カウンターインテリジェンスの役割を果たそうとする人物は、様々な方法で存在する。研ぎ澄まされた感覚を磨くよう注意深く養成された人物は、Aという機関に対して敵対的な行為を行おうとするか、あるいは日和見的になり、離反してしまうかもしれない。 離反のように日和見的に獲得された者は、事前に予想されておらず、そのため計画もされていないという不利な点がある。二重スパイになるという決断は大いなる熟考、分析、評価の末に行われ、もしその人物が志願した場合、それを受け入れる組織は影響について考える十分な時間がないまま行動せざるをえない。このような状況では、殊にその人物が秘密裏に接近してきた場合には、志願者について精査する必要性と危険を回避する必要性とが抵触する。志願者と離反者は油断のならない相手であり、扇動の可能性は常に存在する。他方で最善の作戦は志願者によってもたらされることもある。諜報機関のプロフェッショナルとしてのスキルはこのような状況を処理する能力によって試される。 エージェントとしての志願者が現れたとき、作戦が意味があるものであるかどうか、志願者が作戦にふさわしい人物かどうか、組織がその作戦を支援することができるかどうかを判断するためには4つの基本的な質問が必要になる。 候補者がふさわしいかどうかの判断問い答え彼はすべてを語っているか? 通常は、候補者に対するポリグラフ検査、幹部による審査、そして書類選考などを行うことによって十分な情報を得ることができる。これらの手続きは採用されない者には行われないため、意思決定は非常に迅速に行われなければならない。特に危険な隠蔽の可能性があるふたつの点は、かつての諜報機関との繋がりとside-commoである。 彼には耐性があるか? この用語は2つの概念、彼が近い将来に防諜の対象となる人物にアクセスし続ける能力、および彼が二重スパイを演じる際に生じる恒常的な(また時には着実に増え続ける)プレッシャーに耐えられるだけの精神的なスタミナを持っているか、をつなぎあわせるものである。もし彼に耐性がないならば、彼は有用であり続けるかもしれないが、作戦は短期間のものにしなければならない。 敵は彼を信頼しているか? 敵が彼を信頼しているかどうかを示すものは、彼に与えられた通信システムのレベル、勤続年数、階級、与えられた訓練の種類や内容の中に見つかることがある。もし敵がそのエージェントと距離を置いているならば、彼を二重スパイとして採用することによって大きな見返りが得られる可能性はほとんどない。 彼との連絡をどちらの側からも管理下に置くことができるか? 連絡を管理下に置くことはこちら側にあっても十分難しいが、特にエージェントが敵の領地に住んでいる場合はなおさらである。しかし敵のチャンネルを管理下に置くことは最善の状況ですら難しい。そのためには時間、技術、そしていつもの通り、マンパワーが必要となる。 これらの質問に対して、1つもしくは2つの否定的な答えがあったからといって、作戦が実行不可能であるとしてただちに拒絶される根拠にはならない。But they are ground for requiring some unusually high entries on the credit side of the ledger. 最初の選考は穏やかな雰囲気で行われるデブリーフィングまたは面接によって行われる。面接官はリラックスしたカジュアルな格好をしているかもしれないが、彼のそうした表面的な態度の裏には入念に考え抜かれた目的がある。彼は対象となる人物の目的に対する動機、情緒の状態と精神的なプロセスについて最初の判断をしようとしている。 例えば、もし他の諜報機関の職員であった離反者が自らの善意を表すために他の諜報機関の職員なら絶対に明かさないようなとても敏感な情報を明らかにしながら接近してきた場合、そこには2つの可能性がある。 離反者が真実を語っているか または挑発しようとしているか のどちらかである。 時にはその人物の態度が、2つの可能性のうちどちらであるかを想起させることもある。さらにその人物の正体を特定し、彼に関する資料を調査するため、離反者が所属していた機関についての情報を獲得する必要もある。 動機とは精神と感情衝動の複合体であるから、エージェントがどのような人物でどのような活動を代表しているのかを立証するよりも、エージェントがなぜ自分自身を代表しているのかを判断する方が難しいかもしれない。二重スパイとなる動機への疑問は、面接官が2つの観点から判断しようと試みる。 エージェントによる理由の説明と、 面接官が彼の言っていることや振る舞いから推理する。 志願者が民主主義的なイデオロギーを尊重することについて語ることもあるかもしれないが、西側諸国の歴史や政治についての会話は潜在的な二重スパイが民主主義について真に理解していないことを明らかにするかもしれない。イデオロギーは彼が協力しようとしている本当の動機ではないかもしれない。そのような人物が民主主義についてのロマンティックな作り話を創作しているということもありえるかもしれないが、彼は自分が考える防諜の職員が聞きたいと思っていることを言っているのだと考えるほうがより現実的である。防諜の職員は志願者が基本的な動機、金銭または復讐、について心地よく言及することができるようにしなければならない。そのようなものをエージェントがそれらを見ることができるところに贅沢なカタログとして置いておき、彼がどのように反応するか、願望、嫌悪感、または不信感を示すのかを観察することは有益である。 職員が動機が何であるかと考えることとエージェントがそれについて何を語っているかとの間で判断することは簡単なことではない、なぜなら二重スパイは広範囲で様々な動機に基づいて行動するからであり、時には自虐的な願望から双方から罰せられることを願望を持つ者さえいるからである。経済、宗教、政治、または復讐が動機である者もいる。最高の二重スパイは彼の僚友のために行うすべての行為によって毎日喜びを感じる者である。 エージェントの心理学的および物理的な持続可能性の判断もまた困難なものである。時にはある理由から、心理学者または精神医が呼ばれることもある。そのような専門家、またはよく訓練された防諜の職員が二重スパイのなかに反社会性パーソナリティ障害の兆候を認識することもあるかもしれない。二重スパイの作戦の視点から、ここで鍵となる特徴は、 精神病質の特徴彼らはストレスがかかる状況ではたいてい穏やかで落ち着いてはいられないだけでなく、決まった作業や退屈な作業にも耐えることができない。 彼らは他人に対する態度が独善的であるために、形式的な、また大人の感情に基づいた他人との関係を持ち続けることができない。 彼らは平均以上の知能を持っている。彼らは言語が堪能であり、時には2つかそれ以上の言語を解する。 彼らは猜疑心が強く、他人の動機や能力については皮肉っぽくすらあるが、彼ら自身の競争力については誇大に評価している。 彼らがエージェントとして信頼できるは、主にどの程度、上司の指示が彼らの最大の興味と一致していると考えられるかによって決まる。 彼らが望むのは短期的に得られるものだけである。彼らは多くを望み、彼らはそれを今欲している。遠い将来の報酬を得るためにこつこつ努力を続けるような忍耐強さは彼らにはない。 彼らには秘密裏に物事を行うことが生まれつきであり、自分の目的を隠し、他人を欺くことを楽しんでいる。 志願者はひとりの人間として、また作戦を行う可能性がある者であるとして考慮されなければならない。手に余るものとして拒否された者が、防諜機関または二重スパイおよびその事例の両方について独立した見方を獲得し維持するための地位に就くことを受け入れることがある。 作戦の潜在的価値の推測には彼がふさわしい資質、施設、技術的支援を備えた人物であり、作戦を継続することによって彼の本国政府の他の活動に損害を与えることができるかどうか、遅かれ早かれ外国のとの連絡所の事例について共有することが必要であり、また望ましいものであるかどうか、そして事例が政治的な意味を包摂しているかどうかが考慮されなければならない。
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