責任 社会的な責任

責任

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/20 05:02 UTC 版)

社会的な責任

社会で行われた行為について生じる責任。特に、責任能力が失われていた人を除き、有害な行為を行った人が負う責任である。社会的な責任の発生について、行為者の意図や感情や無知は関係がない。

結果責任

結果責任(けっかせきにん)とは、ある行為によって発生する結果に対する責任のことである。原則として全ての行為において結果責任が発生するが、ある行為を行った者と責任を負担する者が常に一致するわけではない。

例えば、選挙において投票した行為、棄権した行為、それぞれの選択行為によって発生した結果に対する責任が発生し、あとは各人に責任をどのように分配するかの問題となる。法的な責任においては過失責任主義が原則であるので、より広い範囲を指す結果責任はしばしば道義的責任にとどまることも多いが、無過失責任のように法的に規定される場合もある。

結果責任は現代社会の基本原則で、社会に参加する場合は実害が生じないように注意を払う義務がある。実害が発生した場合には必ず誰かが責任を負うことになり、悪気がなかった、知らなかった、気づかなかった、と言う理由で責任を免れる事は出来ない(例えば、公共の場で無自覚に他人に迷惑を掛けても謝罪が要求される)。理由としては、実害発生を未然に防止したり、発生した実害に対して誰かが対応しなければ、社会の機能を損なうからである。

故意に実害を発生させた者は当然のこととして、自身の行為の結果に対する想像力が欠如している者も実害の原因となった場合には加害者になるため、民事訴訟を起こされて多額の賠償金を要求されたり、刑事訴訟を起こされて刑罰が課されることもあり得る。更に、勤務先からの懲戒処分実名報道による世間一般への犯罪者としての周知、社会との繋がりが断絶された結果の一家離散、といった社会的制裁が別途行われ、加害者人生で積み上げてきた様々なものが一瞬で無になる可能性もある。例えば、無自覚な行為の結果であっても、他人を物理的に傷つければ過失傷害罪に問われ、勤務先の会社においても懲戒処分が行われる可能性が高く、加害者が属する家庭にも経済的・社会的な側面で暗い影を落とすことになる。従って、何人たりとも普段から様々な状況に対して想像力を働かせて生活を行う必要がある。

自己責任

自己責任(じこせきにん)という詭弁は現在、多岐に亘るレトリックとなっている。反対の意味の語として「連帯責任」がある。

第一に、「自己の危険において為したことについては、他人に頼り、他人をあてにするのでなく、何よりもまず自分が責任を負う[8]」という意味がある。「お互いに他人の問題に立ち入らない」という大義名分によるものである。アメリカ社会における名目上の国家観に立脚した行政改革・司法改革による事後監視、事後救済社会における基本原則の一つである。もっとも、この原則は十分な情報と判断能力がない場合には妥当しない。

第二に、「個人は自己の過失ある行為についてのみ責任を負う」という意味がある。個人は他人の行為に対して責任を負うことはなく、自己の行為についてのみ責任を負うという近代法の原則のことである。

第三に、「個人は自己の選択した全ての行為に対して、発生する責任を負う」という意味がある。何らかの理由により人が判断能力を失っていたり、行為を制限・強制されている場合は、本人の選択とは断定できないため、この限りではない。

なお、「証券取引による損失は、たとえ予期できないものであっても全て投資者が負担する」といわれることがあるが、これは、上記第一あるいは第三の意味の責任が証券取引の分野に発現したものと捉えられよう。証券取引はもともとリスクの高いものであるから、たとえ予期できない事情により損害が発生したとしても、投資者が損失を負担しなければならないということである。(参照⇒投資家の自己責任原則損失補填の禁止)

さまざまな例

例えば、「内容の正確性が担保されていないウィキペディアに各自の判断で参加することによって生じた損害は、全て自己責任に帰される」というように用いられる。この言葉には英語のOwn riskの直訳的な意味が含まれており、契約などにおける免責事項の根拠として広く用いられている。ただ、例えば窓に施錠し忘れて邸内の所持品が窃盗にあったケースにおいては、「窃盗犯によって所持品が滅失・毀損・消費され、取り戻し不能になる危険が発生すること」が自己責任の内容であり、自己責任を理由にして、警察官の職務怠慢が正当化されたり、捜査費用を被害者に負担させられるわけではなく、また窃盗犯の刑罰が軽減されたり、所有権が国家により没収されるわけではない。また司法手続によらない自力救済(英:self-help)は、司法手続の確立した現在の社会においては急迫の場合を除いて原則として禁止される[9]

経済学では、外部性の問題がある。たとえば企業が大気を汚染することを負の外部性と呼ぶ。これに対し、たとえば浄化設備を設置した政府が大気を汚染した企業から税を取った場合、これを内部化(自己責任化)という。ほかにはリスクインセンティブのトレードオフが説かれる。たとえば保険会社が全てのリスクを負担すると仮定した場合、被契約者は危険を回避する意欲を完全に喪失するものと考えられる。これをモラルハザードという。

「自己責任」は本来、他者に対する責任転嫁をいましめる言葉であるが、他者に対して責任を負うべき者の責任回避だけでなく、強者が弱者を救済することを拒否した上、嘲笑する口実に利用される危険性さえある(たとえば前述の例では警官の職務怠慢が正当化される訳ではない)。このポジショントーク的な自己責任論は2000年以降の日本新自由主義の高まりと共に広く浸透し、助け合いのコミュニティを破壊したことで、格差拡大を助長した[10][11]。そして、社会から弱者を切り離そうとした結果、無敵の人と呼ばれる存在を生み出して、社会への報復といった動機での拡大自殺を引き起こしている[12]。こうした「自己責任」は優生思想とも関連がある[13]。自己責任論に対するカウンターカルチャーのようにして、特に格差社会に対して『親ガチャ』という言葉を使う者も現れている[14]

しかし、だからといって社会的弱者の本人が他責思考(全てにおいて他人に責任があるとする思考)に陥ったとしても、目先の問題が解決する訳ではない。むしろ本人が問題解決から目を逸らして他者を批判する事で、自身を取り巻く状況を更に悪化させることになる。無敵の人も他責思考が導く最悪の結果である。従って、厳しい現実ではあるが、理不尽で他者からの手助けにも乏しい現状の格差社会でも活路を見出だすためには、本人が置かれた悪い状況に対して自己責任として対応し、1つずつ問題を解決する必要がある。

「自己責任論」が問題視された事例

奥谷禮子のように、格差社会過労死を肯定する根拠に用いる経営者も存在する。貧困格差は労働者の怠慢、過労死は労働者の自己管理の失敗による当人の自己責任であるとして、経営者側に責任や救済義務はないとする主張である。


注釈

  1. ^ 例えば、遠足で生徒の引率者(引率の責任がある者)が生徒たちを適切に引率し、遠足の目的を果たし、かつ無事に生徒らを家に帰宅させれば「責任を果たした」ということになる。反対に、たとえば途中で事故などに巻き込まれそうな事態になったのに、事故を回避するための反応・行動をとらなかった場合は「(引率者は)責任を果たさなかった」と表現される。また、その結果、引率者が解雇されたり、賠償したりする状態などに陥った場合に「責任を取った」と言う。

出典

  1. ^ 大辞泉「責任感」
  2. ^ 大辞泉「無責任」。(なお、責任が無いことも「無責任」と言う。(出典:大辞泉「無責任」)
  3. ^ 大辞泉「責任転嫁」
  4. ^ 進退については「知事としての責任は果たさなければならない」と述べるにとどめた
  5. ^ 大林検事総長は検察があるべき姿を取り戻すことが私の責任」と述べ、現段階での辞任を否定した
  6. ^ 運動会の選手宣誓のポーズ、「ナチスを想起させる」? ドイツ出身タレントの指摘で議論広がる (2017年6月21日)” (日本語). エキサイトニュース. 2020年11月3日閲覧。
  7. ^ 欅坂46「ナチス風衣装」の世界的炎上、いったい何が問題なのか?(辻田 真佐憲) @gendai_biz”. 現代ビジネス. 2020年11月3日閲覧。
  8. ^ 藤田宙靖「自己責任」の社会と行政法
  9. ^ 例えば、有料駐輪場でロックが掛からないようにして料金が発生しない状態にしてある自転車のロックを自己判断で掛けたり、盗まれた自転車を自己判断で取り戻したりする行為を言う。通行の妨げとなる自転車を自己判断で移動させる場合も自力救済である。
  10. ^ 「自己責任論」をあおると、じつは「経済成長」が難しくなるって知ってましたか?(現代ビジネス)” (日本語). Yahoo!ニュース. 2021年4月5日閲覧。
  11. ^ 防災対策まで自己責任論に傾く日本人の言行不一致 東日本大震災10年に思う、防災は自己責任ではなく国の義務 | JBpress(Japan Business Press)” (日本語). JBpress(日本ビジネスプレス). 2021年4月5日閲覧。
  12. ^ 「週刊文春デジタル」編集部. “「僕も通り魔を計画したことがある」なぜ“普通の子”はモンスターに育ってしまったのか?”. 文春オンライン. 2022年2月17日閲覧。
  13. ^ 「差別は許さないが、優生思想は見逃す」リベラル社会の矛盾(御田寺 圭) @gendai_biz” (日本語). 現代ビジネス. 2022年4月29日閲覧。
  14. ^ 金持ちにはわからない「親ガチャ」の悲しさ残酷さ” (日本語). 東洋経済オンライン (2021年12月28日). 2022年11月9日閲覧。
  15. ^ "「責務責任」とは、人がある立場・ 地位・役割を占めることによって発生する何らかの責務を意味する概念である" 蓮生. (2010). アカウンタビリティーの意味 : アカウンタビリティーの概念の基本的構造. 国際公共政策研究. 14(2) pp.1-15.
  16. ^ "事前責任とは、「予防基底的責任(prevention-based responsibility)」とも呼ばれ、何かが起こったときに責任を負うのは誰かを事前に指示する概念であり、事前責任を負う者は、未然に防ぐために予防措置をとることが期待されている。" 蓮生. (2010). アカウンタビリティーの意味 : アカウンタビリティーの概念の基本的構造. 国際公共政策研究. 14(2) pp.1-15.
  17. ^ "2次系列の責任概念に関して … liability(負担責任)の概念を採用している。" 蓮生. (2011). アカウンタビリティーと責任の概念の関係 : 責任概念の生成工場としてのアカウンタビリティーの概念. 国際公共政策研究. 15(2) pp.1-17.
  18. ^ "責任概念を大別して4つに分類 … 負担責任(liability-responsibility)" 蓮生. (2010). アカウンタビリティーの意味 : アカウンタビリティーの概念の基本的構造. 国際公共政策研究. 14(2) pp.1-15.
  19. ^ "法的責任や道徳的責任を指し、刑罰を科さられる、損害賠償をすること、道徳的非難を受けることなどを意味する。" 蓮生. (2010). アカウンタビリティーの意味 : アカウンタビリティーの概念の基本的構造. 国際公共政策研究. 14(2) pp.1-15.
  20. ^ "「事後責任(post-event responsibility)」 にそれぞれ対応させる見解がある … 事後責任は、「応答基底的責任(response-based responsibility)」とも呼ばれ、何かの出来事の後に観念される概念" 蓮生. (2010). アカウンタビリティーの意味 : アカウンタビリティーの概念の基本的構造. 国際公共政策研究. 14(2) pp.1-15.
  21. ^ "事後責任たる負担責任の執行の度合いを直接的に高めるだけでなく、フィードバック効果により事前責任である責務責任の執行の度合いも高めている" 蓮生. (2011). アカウンタビリティーと責任の概念の関係 : 責任概念の生成工場としてのアカウンタビリティーの概念. 国際公共政策研究. 15(2) pp.1-17.
  22. ^ "負担責任同様に転嫁可能性を持つ" 蓮生. (2010). アカウンタビリティーの意味 : アカウンタビリティーの概念の基本的構造. 国際公共政策研究. 14(2) pp.1-15.






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