E型肝炎とは? わかりやすく解説

E型肝炎

E型肝炎は、従来経口伝播型非A非B型肝炎よばれてきたウイルス性の急性肝炎で、その 病原体E型肝炎ウイルスHEV)である。E型肝炎の致死率A型肝炎10倍といわれ、妊婦 では実に20%達すことがあるまた、日本ヨーロッパ諸国北米大陸においては非A非B 肝炎といえばC型肝炎意味するが、発展途上国では事情異なり大部分はE型肝炎である といわれる。E型肝炎はアメリカ日本ヨーロッパ等の先進各国では散発的に発生し、その大 半は輸入感染症考えられてきた。しかし最近アメリカ日本において全く渡航歴の無いE型 急性肝炎患者がみつかるようになってきたことから、従来、非流行地と思われる地域にもHEV は既に土着していると考えられる

疫 学
HEVアジアにおける流行性肝炎重要な病因ウイルスである。中央アジアでは、E型肝炎はA型肝炎同じく秋にピークに達するが、東南アジアでは雨期に、特に広い範囲洪水の後に発生する伝播糞口経路で、主に水系感染である。1955年ニューデリーで共通感染源による流行発生したが、これは飲用上水糞便汚染原因であった。この流行では、黄疸肝炎診断され症例だけでも29,000人に及んだ。これに似た水系感染流行インド中央アジア中国北アフリカメキシコなどでも報告されている。

E型肝炎の多発地域でのIgG抗体保有率は通常80%以上である。一方、E型肝炎の非流行地域考えられている日本で、900人の健常人IgG抗体保有率をELISA法調べたところ、地域間抗体保有率の差が見られたが、平均抗体保有率は5.4%であったヒト以外の動物では、アメリカをはじめ、日本台湾中国韓国インドネパールカナダオーストラリアスペインなどの国々の豚から血中HEV抗体検出されている。豚以外の動物ではラット、牛、羊、山羊ニホンザルなどでやはり血中HEV抗体報告されており、多く動物HEV暴露されている可能性がある。一方HEV遺伝子検出されたのは豚、ラット、それにシカだけである。
現在、HEVにはG1からG4まで4つ遺伝子型報告されているが、理由不明であるが、豚から検出され遺伝子型G3とG4だけである。

感染実験では、種を超えてHEV感染成立するとの報告いくつかある。G3とG4のヒト由来HEVブタ静脈注射すると、臨床的に無症状経過するが、肝組織明らかな肝炎呈し血液肝臓などの組織からHEV遺伝子検出されるヒトHEV対す抗体急速に上昇する。このことから、ヒトHEVブタ複製することが示唆されている。興味深いことに、G1とG2HEVでは感染成立しない。つまり、遺伝子型によって、HEV宿主対す感受性異なることが推測されるブタ由来HEVヒト感染するかどうかはまだ明らかではないが、ブタ由来HEV接種したアカゲザルではウイルス血症がおこり、便にウイルス排泄される

わが国でも、イノシシ生レバー摂食原因と見られる急性型肝炎での死亡例報告されるなど、これまで動物由来HEVヒト感染することを間接的に証明する症例いくつか報告されている。市販豚レバー調べた結果1.9%からHEV遺伝子検出され、さらに10人のE型肝炎患者について豚レバー摂取歴を調べたところ、発症の2~8週間前に9人の患者が生豚レバー、あるいは加熱不十分の豚レバー食べたことがある答えている。また、野生シカ肉を生で食べた4人がE型肝炎を発症したことが報告され患者血清残存しシカ肉から、ほぼ同じ配列を持つG3遺伝子検出されている。これは、動物からヒト感染することが直接証明された初め症例でもある。このように、E型肝炎が人獣共感染症である可能性強く示唆されている。しかし、シカ抗体保有率やHEV保有状況などはまった把握されておらず、感染状態は依然として不透明である。

病原体

 HEV直径約38nmのエンベロープ持たない小型球形ウイルスで、内部に約7.2Kbのプラス一本鎖RNA遺伝子として持っている形態学的にはノロウイルス類似し、かつてカリシウイルス科分類されていた。しかし、ウイルス遺伝子上のウイルス蛋白配置、特に非構造蛋白機能ドメイン配置カリシウイルスとは全く異なることが明らかになり、2002年国際ウイルス命名委員会では一時的に、「E型肝炎様ウイルス属(“Hepatitis E-like viruses”;一時的な命名であるので、ダブルクオーテーションくくられる)に分類されている(http://www.ictvdb.iacr.ac.uk/Ictv/fr-fstg.htm)。 図1

1. HEV粒子電子顕微鏡直径は約38nmである。この図では抗体によってウイルス粒子凝集しているようにみえる

HEV効率よく増殖する培養細胞系は確立されておらず、その複製機構はあきらかではない。チンパンジータマリンミドリザルのほか、アカゲザルカニクイザルなどが感受性を示す。これら感染サル胆汁中には多量ウイルス排泄され研究出発材料として有用である。精製ウイルスの塩化セシウム平衡密度勾配遠心法での比重は1.35g/cm3蔗糖密度勾配遠心法での沈降定数176 s~183 sである。図1 に感染サル胆汁中にみられたウイルス粒子を示す。

臨床症状

他の肝炎ウイルス同様、HEVにとって肝臓主たるターゲット器官考えられる。E型肝炎の臨床症状A型肝炎似ている(図2)。潜伏期間1550日、平均6週間で、これは平均4週間といわれるHAV感染潜伏期比べ、やや長いボランティア糞便材料経口投与した実験では、投与後約5週間発症見られている。悪心食欲不振腹痛等の消化器症状を伴う急性肝炎呈する症状としては、褐色尿を伴った強い黄疸急激に出現し、これが1215日続いた後、通常発症から1カ月経て完治する

図2

図2. E型肝炎の典型的な臨床経過

黄疸先立ってウイルス血症出現しウイルスは便へも排泄されるA型肝炎と同様、E型肝炎は慢性化しないが、稀にIgM抗体長時間持続したり、便中への排泄伴って長期間ウイルス血症状態が続く例も見られる

E型肝炎の特徴一つとして妊婦劇症肝炎割合高く致死率20%にも達すことがある母子感染に関してはっきり分かっていないが、治癒した妊婦胎児発育には影響がないとする報告がある。HEV感染による致死率は1~2%であるが、これもHAV比べ10倍の高さである。E型肝炎の罹患率は、大流行でも散発例でも青年大人1540歳)で高い。小児における不顕性感染A型肝炎比べて低く対照的である。E型肝炎での肝臓の病理所見は、急性期組織学的病変を示す。胆汁うっ滞性の肝炎像は一つ特徴である。

病原診断
遺伝子型間でよく保存される領域塩基配列基づいて、共通のプライマー設計し、これを用いたRT-PCR遺伝子増幅可能になっている。使われるプライマー増幅領域は各研究グループ異なっているが、よく使われる領域ORF1N末端500塩基、およびORF2中間部分500塩基である。通常患者血清糞便検査材料として使われるサンプル採集時期によってRNA検出率異なるが、RNA検出期間は発症後2週間程度考えられる。しかし、発症1カ月後に検出されケース報告されている。増幅される領域塩基配列系統解析することによって遺伝子型同定できるので、ウイルスの感染源の手かりにもなる。ただし、HEV遺伝子RNAであるため、検出感度サンプル保存条件などに左右される
また、操作中のコンタミにも十分な注意を払う必要がある

 肝炎発症した時点で、HEV対す特異的な血中IgM抗体大量に産生されるので、診断にはこのIgM抗体検出迅速、かつ最も確実である。抗原には組換えバキュロウイルス作製した平均密度1.285g/cm3直径23~24nmの中空粒子用いる(図3)。この粒子用いたELISAによって、急性期患者血清感染サル血清からHEV特異的なIgMIgG抗体を、回復期患者血清感染サル血清からIgG抗体検出することができる。また、この粒子免疫原として作製した高力血清用いて患者糞便からHEV抗原特異的に検出するELISA開発されている。したがってこの中粒子は、ネイティブ粒子に近い抗原性免疫原性を持つ粒子であることも明らかになった。
海外ではAbott、Gene Labなどから診断販売されているが、わが国へは輸入されていない上記中空粒子用いたELISA市販されていないが、血清診断下記行政検査として受け付けている。

図3

図3 . H E Vウイルス中空粒子VLP
組換えバキュロウイルスウイルス構造蛋白ORF2)を発現することによって、この粒子無限に産生することができる。直径は約24nmである。

連絡先
  国立感染症研究所ウイルス第二部第一
  〒208-0011 東京都武蔵村山市学園4-7-1
  電話:042-561-0771(内線357
  ファクス:042-561-4729、あるいは042-565-3315
  電子メール:ntakeda@nih.go.jp


治療・予防
治療としては、他の急性肝炎同様に対症療法のみである。劇症肝炎に対しては、血漿交換などによる治療が必要となる。一般的な予防としてはA型肝炎同様に汚染地域考えられる地域旅行する場合に、飲料水食物注意し基本的に加熱したもののみを摂取するように心がけるワクチンはまだ開発されていない

感染症法における取り扱い
E型肝炎は4類感染症定められており、診断した医師直ち最寄り保健所届け出る報告のための基準以下の通りとなっている。
○  診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下のいずれか方法によって病原体診断血清学診断なされたもの
血清抗体検出
  例、 特異的IgM抗体陽性のもの
病原体遺伝子検出
  例、 RT-PCR法による遺伝子検出

国立感染症研究所ウイルス第二部 武田直和

  









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