劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは? わかりやすく解説

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げきしょうがたようけつせいれんさきゅうきん‐かんせんしょう〔ゲキシヤウがたヨウケツセイレンサキウキンカンセンシヤウ〕【劇症型溶血性連鎖球菌感染症】

読み方:げきしょうがたようけつせいれんさきゅうきんかんせんしょう

《「劇症溶血性レンサ球菌と書くことが多い》突発的に発症し急速に進行する溶血性連鎖球菌による感染症原因となるA群溶血性連鎖球菌皮膚やのどに常在し、咽頭炎扁桃炎などを起こすが、血液筋肉、肺などに侵入する重症化することがある発症すると、手足皮膚筋肉壊死急速に進み多臓器不全からショック状態に陥り、数十時間死に至ることもある。


劇症型溶血性レンサ球菌感染症

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劇症型溶血性レンサ球菌感染症は突発的に発症し急速に多臓器不全進行するA群溶血性レンサ球菌による敗血症性ショック病態である。メデイアなどで「人食いバクテリア」といった病名で、センセーショナルな取り上げ方をされることがある

疫 学
劇症型溶血性レンサ球菌感染症は1987年米国最初に報告されその後ヨーロッパやア
ジアからも報告されている。日本における最初典型的な症例1992年報告されており、現在までに200人を超える患者確認されている。そして、このうち30%が死亡しており、きわめて致死率の高い感染症である。A群溶血性レンサ球菌感染による一般的な疾患咽頭炎であり、その多く小児罹患する一方、劇症型溶血性レンサ球菌感染症は子供から大人まで広範囲年齢層発症するが、特に30歳上の大人に多いのがひとつの特徴である(IDWR 2002年40, 41参照)。近年A群のみならずB群C群G群による劇症型溶血性レンサ球菌感染症も報告されている。


病原体
劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、A群溶血性レンサ球菌Streptococcus pyogenes により引き起こされるS. pyogenes はグラム陽性球菌で、連鎖状の配列形成する鞭毛有していなく、芽胞形成しないまた、カタラーゼ陰性である。ヒツジまたはウマの脱繊維血液を5%の割合に添加した血液寒天平板培地上でS. pyogenes を24 時間培養すると、直径0.5mm上のコロニー形成し発育集落周囲が完全に透明な溶血環が認められるβ溶血、または、β溶血比べる溶血環は大きくなく、透明度輪郭鮮明さが劣るα溶血を示す。このS. pyogenes には数多く表層抗原因子知られている。このうちM蛋白質は疫学マーカーとしてよく用いられているが、宿主細胞への付着や抗貪食作用をもつ病原因子のひとつでもある。また同時に感染防御抗原としても重要な機能果たしている。

臨床症状

劇症A 群溶血性レンサ球菌感染症severe invasive streptococcal infection 、または streptococcal toxic shocklike syndrome ;TSLS)の患者は、免疫不全などの重篤基礎疾患をほとんど持っていないにもかかわらず、突然発病する例が多い。初期症状としては四肢疼痛腫脹発熱血圧低下などで、発病から病状進行が非常に急激かつ劇的で、発病後数十時間以内には軟部組織壊死急性腎不全成人型呼吸窮迫症候群ARDS)、播種性血管内凝固症候群DIC)、多臓器不全MOF)を引き起こしショック状態から死に至ることも多い。近年妊産婦症例報告されている。
Stevens らの報告によると、本症の最も一般的な初期症状疼痛であり、急激に始まり重篤である(Stevens,1992,Stevens et al,1989)。続いて圧痛あるいは全身症状見られる疼痛通常四肢見られる疼痛開始前に、発熱悪寒筋肉痛下痢のようなインフルエンザ様症状20%患者みられるStevens,1992, Stevens et al,1989)。全身症状としては、発熱が最も一般的である(ただし、患者10%ショックによる低体温を示す)(Stevens,1992, Stevens et al, 1989)。錯乱状態(confusion)が患者55%でみられ、昏睡好戦的な姿勢みられることもある(Stevens,1992, Stevens et al,1989)。局所的な腫脹圧痛疼痛紅斑のような軟部組織感染徴候は、皮膚の進入口が存在する場合によくみられる発熱中毒症状を示す患者紫色水疱みられると、壊死性筋膜炎筋炎のような深部軟部組織感染起こしている可能性考えられるStevens,1995)。
2002年10月30日までに衛生微生物技術協議会溶血性レンサ球菌レファレンスシステムセンターに集められ劇症A 群溶血性レンサ球菌感染症確定診断96 例中、肝障害は56.3%(54症例)、腎障害は72.9%(70症例)、成人型呼吸窮迫症候群ARDS )は31.3%(30 症例)、播種性血管内凝固症候群DIC )は70.8%(68 症例)、軟部組織壊死壊死性筋膜炎および筋炎を含む)は79.2%(76 症例)、紅斑皮膚発赤疹は13.5%(13 症例)、中枢神経症状は38.5%(37 症例)の頻度でみられた。

病原診断
通常無菌的である部位血液脳脊髄液胸水腹水生検組織手術創など)からA群溶血レンサ球菌検出される。本症では顕著な菌血症を示すので、血液グラム染色標本検鏡 するとレンサ球菌直接観察される分離培地には血液寒天培地用いるが、A群溶血性レンサ 球菌はこの培地上でβ溶血またはα溶血を示す直径0.5mm上のコロニー形成する。本グラム陽性球菌連鎖状の配列形成し鞭毛有していなく、芽胞形成しないまた、カタラーゼ陰性である。その後血清群別、糖分解試験等の生化学的性状試験検査キットにより、A群溶血性レンサ球菌であることを同定する

治療
抗菌薬としてペニシリン第一選択薬である。また、組織内密度上昇する発育抑制されβラクタム系効果低下する現象知られており、本症のように極端な敗血症病態では、細胞内移行性の高いクリンダマイシン推奨する意見もある(Stevens et al.,1994)。さらに、免疫グロブリン製剤効果報告されている(Burry et al.,1992)。
血圧維持には大量輸液が必要であるが、輸液量許容範囲が狭いため、肺動脈圧経時的観察が必要である。
壊死陥った軟部組織は本生息部位であり、筋壊死による腎不全および代謝性アシドーシス悪化防止するため、可及的広範囲病巣切除することが必要である。

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
劇症型溶血性レンサ球菌感染症は5類感染症全数把握疾患定められており、診断した医師7日以内最寄り保健所届け出る報告のための基準以下の通りとなっている。
診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下の3つの基準全て満たすもの。
1. 血液または通常ならば生息しない臓器からA群レンサ球菌検出末梢血塗抹標本または壊死軟部組織の鏡検によるレンサ球菌確認も含む)
2. ショック症状
3. 多臓器不全(以下の症状のうち3 つ以上)
 肝不全腎不全成人型呼吸窮迫症、播種性血管内凝固症候群軟部組織炎(壊死性筋膜炎を含む)、発しん痙攣意識喪失などの中枢神経症状
鑑別要する病態
   1. A群レンサ球菌による軟部組織炎(丹毒
   2. 他のによる敗血症または敗血症性ショック

参考文献
Stevens DLInvasive group A streptococcus infections. Clin Infect Dis 14:2‐ 13,1992.
Stevens DL :Streptococcal infections of skin and soft tissue. In “Atlas of Infectious DiseasesStevens DL, Mandell GL, ed)”.3.1‐3.11,Churchill Livingstone, New York, 1995.
Stevens DL, Tanner MH, Winship J et al: Reappearance of scarlet fever toxin A among streptococci in the Rocky Mountain Westsevere group A streptococcal infections associated with a toxic shocklike syndrome.N Engl J Med 3211‐ 7,1989.
Stevens DL,Bryant AE,Yan S :Invasive group A streptococcal infection:new concepts in antibiotic treatment.Int J Antimicrob Agent 4:297301,1994.
Burry W,Hudgings L, Donta ST et al.Intravenous immunoglobulin therapy for toxic shock syndrome.JAMA 267 :3315‐ 3316,1992.

国立感染症研究所細菌第一部 池辺忠義

  


化膿レンサ球菌

(劇症型溶血性レンサ球菌感染症 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/25 00:57 UTC 版)

化膿レンサ球菌(かのうレンサきゅうきん、Streptococcus pyogenes)とは、レンサ球菌属に属する細菌の一種。血液寒天培地上で培養するとβ溶血性を示し、またレンサ球菌の鑑別に用いられるランスフィールド抗原分類ではA群に属する。この性質から、A群β溶血性レンサ球菌(えーぐんべーたようけつせいれんさきゅうきん)とも呼ばれ、臨床医学分野ではこの名称が用いられることが多い。A群溶レン菌、あるいは単に溶レン菌(溶連菌)、またGAS(Group A Streptococci)という略語が用いられることもある(#名称の節を参照)。


  1. ^ 冨室哲也、菊池啓、松倉登、上田晃久、左足の蜂巣織炎から発症した劇症型A群化膿レンサ球菌(人食いバクテリア)感染症の1例 中部日本整形外科災害外科学会雑誌 Vol.49 (2006) No.3 P.571-572, doi:10.11359/chubu.2006.571(認証有り)


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