オートファジー オートファジーの概要

オートファジー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/12 23:34 UTC 版)

auto-はギリシャ語の「自分自身」を表す接頭語、phagyは「食べること」の意で、1963年クリスチャン・ド・デューブが定義した[2]。この経緯から自食(じしょく)とも訳される。

歴史

リソソームの発見

1953年から1955年にかけてクリスチャン・ド・デューブにより多様な加水分解酵素を含む細胞小器官としてリソソームが発見された[3]。そして1962年1月、ロックフェラー大学のキース・ロバーツ・ポーターとトーマス・アシュホードによって初めてオートファジーが観察された。このとき、飢餓状態のラットから発見されたため、当初から自分自身を食べることで栄養を摂り、飢餓を防いでいると推測されていた[4]。のちに、この推測は正しいことが明らかにされる[4]

ド・デューブは、1963年に細胞が自身のタンパク質を小胞としてリソソームと融合して分解する現象をオートファジー、その小胞をオートファゴソームと命名した[3][5]

その後、ユビキチン-プロテアソーム系によるタンパク質分解機構の解明は進むが、一方、オートファジーの分子生物学的な解明についてほとんど進展がみられなかった。これは電子顕微鏡による観察がオートファゴソームを検出する唯一の手段であったことが大きな要因であった[3]。また、オートファジー現象を否定する論文も発表されていた[5]

酵母のオートファジー

1992年大隅良典(当時東京大学教養学部助教授)らは出芽酵母 (Saccharomyces cerevisiae) のオートファジーを初めて観察した[3]。大隅らは1988年に出芽酵母の液胞内にタンパク質などが取り込まれていく現象を確認しており、1992年の観察で、出芽酵母でのオートファジーを実証する形となった[6]

液胞はリソソームと似た性質を持つ小器官で多数の加水分解酵素を内在しており、出芽酵母においては細胞体積の25%以上を占める最大のコンパートメントである[3][7]。出芽酵母は窒素源が枯渇すると減数分裂胞子形成を起こすが[3][5]、液胞の加水分解酵素を欠損した株は胞子形成が不全になる事が知られており、液胞が栄養飢餓状態で重要な生理機能を持つことが示唆されていた[3]

これらの事に着目した大隅らは、タンパク質分解酵素欠損株を飢餓状態にして観察した。大隅の予想は当たり、タンパク質分解酵素欠損のため分解されずに液胞に蓄積した小さな顆粒状のものがブラウン運動で激しく動き回っているのを認めた[3][5][8]

電子顕微鏡を用いた更なる観察により次のような事が判明した。顆粒は一重膜の構造体であることが示され、オートファジックボディーと名付けられた[3][9]。飢餓に応答して隔離膜が出現し、膜の伸長と共に細胞質のタンパク質などを取り囲みオートファゴソームを形成する[3]。オートファゴソームは直ちに液胞と融合する。融合時にオートファゴソームの外側の膜と液胞の膜が融合し、オートファゴソームの内側の膜に囲まれた部分が液胞に放出され一重膜のオートファジックボディーとなる[9]。出芽酵母で観察された、これら一連の膜動態はド・デューブの提唱したオートファジー現象そのものであった[3]

オートファジー遺伝子の同定

大隅らは出芽酵母を突然変異誘起剤で処理し、ランダムに遺伝子を傷付けることでオートファジー不能変異体の作成を試みた。5000個の突然変異体の中から1つだけ変異株が見つかり、オートファジー (Autophagy) のスペルから「apg1変異体」と名付けられた[3][10]。詳しい解析より、当時役割が知られていない遺伝子に傷が付いていることが分かり「APG1遺伝子」と名付けられた[3][11]。大隅らはAPG1を含め14種類のオートファジー不能変異体を同定し、それらの遺伝子解析からオートファジーに必須となる14種類の遺伝子を確定し、1993年にFEBS Lettersに論文を発表した[3][11]

2003年に外国の複数のグループがAPGと同じ遺伝子を異なる名前で研究していたことが明らかとなり、オートファジー関連遺伝子の名前がATG (Autophagy) として統一された。APG1ATG1APG16ATG16と、大隅の付けた番号がそのまま引き継がれた[12]

現在(2016年)では41種類のATG遺伝子が同定されている。その内、合計18個 (Atg1 - Atg10Atg12 - Atg14Atg16 - Atg18Atg29Atg31) がオートファゴソームの形成に必須の遺伝子とされている[3][13]

哺乳類ホモログ

大隅らが酵母でのオートファジー遺伝子の同定を行っていた当時、ヒトマウスの全ゲノム解読DNAが行われていた。これらの成果を基にATG遺伝子のヒトやマウスのホモログが発見されていった。1998年に初の哺乳類AtgホモログであるAtg12とAtg5が、1999年にAtg6ホモログであるBeclin1が発見された。2000年にはAtg8の哺乳類ホモログであるLC3の論文が発表された[14]

オートファゴソームの起源

隔離膜の起源について決定的な証拠がなく長年結論の出ない状態であった。2008年、オートファゴソームが小胞体の近くで形成されることが示され、オートファゴソームの小胞体起源説が強く示唆された。その後、ミトコンドリア起源説も提唱され論争が起きるが、2013年に発表された論文で、隔離膜が形成される小胞体上の箇所はミトコンドリアと小胞体の接触部位であることが示され、小胞体起源説とミトコンドリア起源説はどちらも正しいことが判明した。この結果は、小胞体とミトコンドリアという機能も由来も全く異なる2つの独立した細胞小器官が協働して第3の細胞小器官・オートファゴソームを作るという驚くべき結果であった[15]

専門誌

2005年、ダニエル・J・クリオンスキー (Daniel J Klionsky) はオートファジーに特化した科学雑誌『Autophagy』誌を立ち上げ、編集長となった[16]

分類

オートファジーは、そのメカニズムの違いから、マクロオートファジー、ミクロオートファジー、シャペロン介在性オートファジーの3つに分けられる。単にオートファジーといった場合は、普通マクロオートファジーのことを指す。

マクロオートファジーとミクロオートファジーの模式図
オートファジーが行われる過程とその写真
マクロオートファジー
主要なオートファジーの経路である。細胞がある種のストレス(アミノ酸飢餓の状態や、異常タンパク質の蓄積)に晒されると、細胞質中の一部で、過剰に作られたタンパク質や異常タンパク質と共にリン脂質が集まり、オートファゴソーム(Autophagosome、APもしくはAutophagic vesicle[注釈 1])と呼ばれる細胞内構造の形成が始まる。ミトコンドリアに接する小胞体で、集積したリン脂質は隔離膜(Isolation membrane、IMもしくはPhagophore、PG)と呼ばれる脂質二重膜を形成し[17]、さらにそれが成長していくことで、細胞質成分やオルガネラなどを二重のリン脂質の膜で取り囲んだ小胞が形成される[18]。この小胞形成には、Atg (autophagy-related) タンパク質と呼ばれる一群のタンパク質が関与している[18]
酵母や植物細胞では、形成されたオートファゴソームは液胞と膜融合し[18]、その内部に取り込まれた異物などは液胞内部の分解酵素によって分解される。動物細胞においては、オートファゴソームが形成されると、次にオートファゴソームと細胞内のリソソームが膜融合を起こす[18]。こうしてリソソームと融合したものをオートリソソーム(Autolysosome、AL、こちらもオートファジー小胞に含まれる)と呼ぶ。オートリソソームの内部で、オートファゴソームに由来する分解すべきタンパク質と、リソソームに由来する様々なタンパク分解酵素が反応し、この結果、オートファゴソームに取り込まれていたタンパク質はアミノ酸やペプチドに分解される。このとき、オートファゴソームの二重膜のうち、内側の脂質膜も同時に分解される。
ミクロオートファジー (microautophagy、mA)
リソソーム膜の一部が内側にくびれ込みリソソーム内の小さな袋となったり細胞が突出したりすることで、細胞質成分を直接取り込み分解する[19]。マクロオートファジーとは違い、オートファゴソームを介さない。言葉自体は1966年にド・デューブらにより使用されてきたが[20]、2011年現在、その実体はほとんど明らかとなっていない[21]
シャペロン介在性オートファジー (chaperone-mediated autophagy、CMA)
シャペロン介在性オートファジーでは、分解標的となるタンパク質がHsc70シャペロンタンパク質に識別されリソソームへ導かれる。タンパク質はリソソーム表面で高次構造を解かれ、その状態でトランスポーターを通過する。こうしてリソソーム内部に入ったタンパク質を分解するオートファジーである。Hsc70シャペロンが認識するアミノ酸配列として、リジン-フェニルアラニン-グルタミン酸-アルギニン-グルタミン配列(KFERQ様配列)が知られている。シャペロン介在性オートファジーも生理的役割の多くは不明である[22][23]。細胞質中にあるタンパク質のうち約30%が基質になっているといった特徴があることが解明されている[24]
脊髄小脳失調症[注釈 2]の原因となるタンパク質が機能することでシャペロン介在性オートファジーの活性も低下する[25]

分解する対象によって、別の呼び方がされる場合もある。

ペキソファジー
ペルオキシソームを選択的に分解する。オートファジーはペルオキシソーム分解の主要機構であり、不要になったペルオキシソームを除去している[26]
マイトファジー(mitopahgy、ミトファジー)
ミトコンドリアを選択的に分解する。ATPを産生できなくなった不良ミトコンドリアは、オートファジーにより選択的に分解されるという仮説が提唱されている。不良ミトコンドリアが蓄積すると、活性酸素が細胞質内に漏れ出し細胞にとって危険である。家族性パーキンソン病の原因の一つにパーキン遺伝子の異常が知られているが、ユール (Richard J. Youle) らは原因遺伝子の一つPARK2がコードしているタンパク質Parkinが膜電位の低下したミトコンドリアに局在すると、不良ミトコンドリアがオートファジーによって分解される事を発見した。若年性パーキンソン病関連遺伝子PINK1/PARK6がコードするタンパク質PINK1は、膜電位が低下したミトコンドリア上にのみ安定に局在し、このミトコンドリア上のPINK1がユビキチンリガーゼであるParkinと結合することで、ミトコンドリア上のタンパク質をユビキチン化する。これを引き金として不良ミトコンドリアは選択的にオートファジーによる分解を受ける。マイトファジーがミトコンドリアの品質管理に重要な役割を担っていることを強く示唆している[27][28]。マイトファジーでは、損傷を受けていないミトコンドリアも除去する場合がある[29]
ゼノファジー
細胞内に侵入した細菌を分解する。オートファジーには細菌ウイルス原虫などを分解または増殖抑制する能力を持つことが明らかとなりつつあり、このような細胞内に侵入した病原体に対する選択的オートファジーはゼノファジー (xenophagy) と命名されている。ゼノファジー誘導の引き金は明確とはなっておらず、細菌により損傷したエンドソーム膜を処理しようとして結果的に感染した細菌を分解している可能性が示唆されている。2004年に細胞質中に逃れた溶血性A群連鎖球菌 (Group A Streptococcus) がオートファジーによって捕獲・分解されることが発見されたことで明らかとなった[30]
リソファジー
リソソーム膜も損傷時にはオートファジーの標的となることが報告され,リソファジー (lysophagy) と命名された。実験的に損傷させたリソソーム膜の周囲にオートファゴソームが観察されたと報告されており、オートファジーが損傷リソソームの排除に機能していると示唆されている[30]

注釈

  1. ^ 日本語訳は「オートファジー小胞」。
  2. ^ 小脳萎縮や小脳性運動失調などを症状とする。

出典

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  72. ^ 【ノーベル賞】大隅さん発見「オートファジー」 少年ジャンプ漫画・トリコの解説が「正確」と学者絶賛 - BuzzFeedNews 2016年10月3日
  73. ^ トリコ:ノーベル賞「オートファジー」題材の3話分を緊急無料公開 - MANTANWEB 2016年10月5日
  74. ^ ノーベル賞受賞記念! 「トリコ」のオートファジー登場回が「ジャンプ+」で無料公開中 - ねとらぼ 2016年10月5日
  75. ^ 漫画「トリコ」の「オートファジー」登場回を無料公開 大隅教授ノーベル賞受賞記念 - ITmediaニュース 2016年10月5日





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