栄養飢餓
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/12 23:34 UTC 版)
細胞が生命活動を行うためには、必要な遺伝子を発現させて、タンパク質などの生体高分子を生合成する必要がある。タンパク質はアミノ酸からなる高分子であり、細胞が生命活動を行うためにはその材料となる必須アミノ酸を、栄養源として細胞外から取り込む必要がある。 個体が飢餓状態におかれて栄養が枯渇し、アミノ酸の供給が断たれることは、細胞にとっては生死に関わる重大なダメージになりうる。飢餓状態で細胞分裂が行われると、染色体の数などに異常が生じやすくなり、これががんの原因にもなる。しかしオートファジーが働くことによって、細胞は一時的にこのダメージを回避することが可能で、染色体数などの異常を抑制し、がんなどの病気の発生を予防している。オートファジーが起きると、細胞内に常に存在しているタンパク質(ハウスキーピングタンパク質)の一部が分解されて、ペプチドやアミノ酸が生成され、それが細胞の生命活動にとって、より重要性の高いタンパク質を合成する材料に充てられると考えられている。この機構は動物の個体レベルにおいても観察され、例えばマウスを一晩絶食させることで、肝細胞でオートファジーが起きることが知られている。 哺乳類の出生時、出産によって胎盤を介しての栄養の供給がなくなると、胎児は母乳から栄養を摂るまで一時的な栄養飢餓となる。この時オートファジーによってアミノ酸を生成することで、栄養飢餓を凌いでいる。 オートファジーによる栄養飢餓の回避はあくまで一時的なものであり、飢餓状態が長く続いた場合には対処することができない。この場合、オートファジーが過度に進行することで、細胞が自分自身を「食べ尽くし」てプログラム細胞死に至ると考えられている。実際にオートファジーが直接の原因となって細胞死に至るのは極めてまれで、プログラム細胞死はあくまでもオートファジーを伴っているだけである。 飢餓状態になると栄養センサーであるTORC1の活性が低下し、Atg13が速やかに脱リン酸化される。これによりAtg13はAtg1とAtg17に対する高い親和性を獲得し、Atg1複合体が形成されオートファジーが始動する。
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