積分法
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積分法(せきぶんほう、英: integral calculus)は、微分法とともに微分積分学で対をなす主要な分野である。
説明での数式の書き方は広く普及しているライプニッツの記法に準ずる。
実数直線上の区間 [a, b] 上で定義される実変数 x の関数 f の定積分(独: bestimmtes Integral、英: definite integral、仏: intégrale définie)
√x の 0 から 1 までの積分の近似:5個の■は右上の点を標本点として上からの評価を与え、10個の■は左上の点を標本点として下からの評価を与える。 手始めに、x = 0 から x = 1 までの間で f (x) = √x によって与えられる曲線 y = f (x) を考え、
- x = 0 から x = 1 までの区間において f の下にある領域の面積はいくらか
という問いを立てて、この(未知の)面積を f の積分と呼んで
リーマン和 実数 a 、b が a < b であるとき、区間 E = [a, b] の分割とは、
リーマン和が収斂する様子の模式図 区間 E の点付き分割 Δ* = {(Ei, ξi) : Ei = [xi−1, xi], ξi ∈ Ei} があたえられたとき、
ある分割に対する下ダルブー和および上ダルブー和 リーマン=ダルブー積分(青)とルベーグ積分(赤) リーマン積分は広い範囲の関数や応用上重要な状況(および理論的に興味深い状況)では定義されないことも多い。例えば、鉄骨の密度を積分してその質量を得ることはリーマン積分で容易に求められるが、その上に静止している鉄球にまでは適応することができない。これが動機となって、より広い範囲の関数を積分することのできる新しい定義が生み出された(Rudin 1987)。特にルベーグ積分は、重み付き和の重み付けの方に注目することによってきわめて柔軟な性質を持つに至った。
ルベーグ積分の定義は測度 μ を考えることから始まる。最も単純な場合は、区間 A = [a, b] のルベーグ測度 μ(A) を区間の幅 μ(A) ≔ b − a で定義するもので、従ってルベーグ積分は、(狭義)リーマン積分と(両者が存在する限りは)一致する。より複雑な場合には、連続性も持たず、区間とは全く類似点の無いような、高度に断片化した様々な集合も測度を測ることができる。
このような柔軟性を十分に引き出すために、ルベーグ積分は重み付き和に対してリーマン積分とは「逆」なアプローチをとる。Folland (1984, p. 56)に言わせると、「 f のリーマン積分を計算するには領域 [a, b] を小区間に分割する」が、一方ルベーグ積分は「実質的に f の値域を分割する」ものである。
よくある仕方では、まず可測集合 A の指示関数の積分の定義を
曲面の下にある体積としての二重積分 区間以外の積分領域を考えることもできる。一般に写像 f の集合 E 上でとった積分を
線積分は曲線に沿って元を足し合わせる 積分の概念はもっと一般の積分領域にも拡張することができる。例えば曲線や曲面を積分領域とする積分は、それぞれ線積分や面積分と呼ばれる。これらはベクトル場を扱うような物理学に応用を持つ。
線積分は曲線に沿って評価された関数の積分である。線積分にも様々なものがあり、特に閉曲線に関する線積分を周回積分などとも呼ぶ。
積分の対象となる関数はスカラー場であるかもしれないし、ベクトル場であるかもしれない。線積分の値というのは、曲線上の各点における場の値に曲線上の適当なスカラー関数(普通は弧長、あるいはベクトル場に対しては曲線における接ベクトルとの内積)を重みとして掛けたものの和である。この重み付けこそが、線積分と通常の区間上で定義される積分とを区別するものである。物理学における簡単な公式の多くは、線積分を用いることで自然に連続的な類似対応物に書き換えることができる。例えば、力学における仕事が力 F と移動距離 s との積(ベクトル量としての点乗積)
面積分は曲面を微小な面素に分割して足し合わせることの極限として定義される。 面積分は空間内の曲面の上で定義される定積分で、線積分の二次元的な類似物である。積分される関数はやはりスカラー場かもしれないしベクトル場かもしれない。面積分の値というのは、曲面上の各点における場の値の総和であり、曲面を面素に分割することによって得られるリーマン和の極限として構成される。
面積分の応用例としては、曲面 S 上のベクトル場 v(つまり、S の各点 x に対して v(x) がベクトル)が与えられているとき、S を通過する流体で x における流体の速度が v(x) で与えられる状況を考えればよい。流束は単位時間当たりに S を通過する流体の量として定義される。流束を求めるためには、各点で v と単位法ベクトルとの点乗積をとる必要があり、その結果得られたスカラー場を曲面上で積分した
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関連項目
- 微分法
- 不定積分
- 積分方程式
- ガウス求積
- 積分器
- 置換積分
- 部分積分
- 対数積分
- 微分積分学
- 解析学
- 原始関数の一覧
- 三角関数の原始関数の一覧
- 逆三角関数の原始関数の一覧
- 対数関数の原始関数の一覧
- 積の微分法則
- 商の微分法則
外部リンク
- Weisstein, Eric W. "Integral". mathworld.wolfram.com (英語).
- definite integral - PlanetMath.
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オンライン本
- Keisler, H. Jerome, Elementary Calculus: An Approach Using Infinitesimals, University of Wisconsin
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- Mauch, Sean, Sean's Applied Math Book, CIT, an online textbook that includes a complete introduction to calculus
- Crowell, Benjamin, Calculus, Fullerton College, an online textbook
- Garrett, Paul, Notes on First-Year Calculus
- Hohenwarter, Markus; Schmidtpott, Sandra. Einführung in die Integralrechnung, Online-Lehrbuch und Aufgaben
- Hussain, Faraz, Understanding Calculus, an online textbook
- Kowalk, W.P., Integration Theory, University of Oldenburg. A new concept to an old problem. Online textbook
- Rudolph, Dennis, Integralrechnung, Online-Lehrbuch
- Sloughter, Dan, Difference Equations to Differential Equations, an introduction to calculus
- Numerical Methods of Integration at Holistic Numerical Methods Institute
- P.S. Wang, Evaluation of Definite Integrals by Symbolic Manipulation (1972) - a cookbook of definite integral techniques
積分法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/09 06:14 UTC 版)
ウォリスの最も重要な著作 Arithmetica Infinitorum は1656年に出版された。この論文はデカルトとカヴァリエーリの解析的手法を体系化して拡張したものである。円錐曲線についての節の後、べき乗の標準的記法を自然数から有理数に次のように拡張している。 x 0 = 1 , x − 1 = 1 x , x − 2 = 1 x 2 , etc. {\displaystyle x^{0}=1,\ x^{-1}={\frac {1}{x}},\ x^{-2}={\frac {1}{x^{2}}},{\text{ etc.}}} x 1 / 2 = square root of x , x 2 / 3 = cube root of x 2 , etc. {\displaystyle x^{1/2}={\text{ square root of }}x,\ x^{2/3}={\text{ cube root of }}x^{2},{\text{ etc.}}} x 1 / n = n th root of x . {\displaystyle x^{1/n}=n{\text{th root of }}x.} x p / q = q th root of x p . {\displaystyle x^{p/q}=q{\text{th root of }}x^{p}.} この記法の様々な代数的応用を示した後、積分法に主題を移し、y = xm という曲線と x 軸と x = h という垂線に囲まれた部分の面積が、底辺と高さが同じ平行四辺形の面積に対してこの領域の面積が常に 1/m + 1 という比率であることを証明している。彼は明らかに、y = axm という曲線についても同じことが成り立つと見なしていた(a は任意の定数、m は任意の正または負の数)。しかし、彼が論じたのは m = 2 の場合と m = −1 の場合だけで、後者についての彼の解釈は間違っている。そしてウォリスは次の形式の任意の曲線に同様の結果が得られる可能性があるとした。 y = ∑ m a x m . {\displaystyle y=\sum _{m}ax^{m}.} したがって、曲線のy座標が x の様々なべき乗に展開できれば、それも同様に扱えると考えた。つまり例えば、ある曲線の式が y = x0 + x1 + x2 + … と表される場合、その面積は x + x2/2 + x3/3 + … になるとした。次に y = (x − x2)0, y = (x − x2)1, y = (x − x2)2 といった曲線の数値積分にこれを適用し、x = 0 から x = 1 までの部分を計算し、それぞれ 1, 1/6, 1/30, 1/140 などと求めている。次に y = x1/m という曲線を検討し、この曲線と x = 0 と x = 1 で囲まれた部分の面積が同じ底辺と高さの三角形の面積と m : m + 1 の比率だという定理を導いた。これは次の計算と等価である。 ∫ 0 1 x 1 / m d x . {\displaystyle \int _{0}^{1}x^{1/m}\,dx.} 彼は m = 2 の場合について放物線を使って詳述している。続いて y = xp/q という形の曲線を論じているが、証明はしていない。 ウォリスは上述の曲線の方程式を一般化するに当たって、かなりの巧妙さを見せている。しかし彼は二項定理を知らず、 y = 1 − x 2 {\displaystyle y={\sqrt {1-x^{2}}}} という式を x のべき乗の多項式に展開できなかったため、円の求積ができなかった。そこで彼は内挿の原理を使った。円の式 y = 1 − x 2 {\displaystyle y={\sqrt {1-x^{2}}}} と座標軸で囲まれる部分の面積は、 y = ( 1 − x 2 ) 0 {\displaystyle y=(1-x^{2})^{0}} と y = ( 1 − x 2 ) 1 {\displaystyle y=(1-x^{2})^{1}} という曲線の幾何平均であるため、部分円の面積 ∫ 0 1 1 − x 2 d x = π / 4 {\displaystyle \int _{0}^{1}{\sqrt {1-x^{2}}}\,dx=\pi /4} は、次の2つの値の幾何平均で近似できると考えた。 ∫ 0 1 ( 1 − x 2 ) 0 d x and ∫ 0 1 ( 1 − x 2 ) 1 d x . {\displaystyle \int _{0}^{1}(1-x^{2})^{0}\,dx{\text{ and }}\int _{0}^{1}(1-x^{2})^{1}\,dx.} これらの値はそれぞれ 1 と 2/3 であり、その幾何平均は π を 4 2 3 = 3.26 ⋯ {\displaystyle 4{\sqrt {\tfrac {2}{3}}}=3.26\cdots } とした場合と等価である。しかし、ウォリスは 1, 1/6, 1/30, 1/140, … という級数が実際に得られているのだから、1 と 1/6 の間で内挿される項はこの級数の法則に従うはずだと考えた。この精巧な手法をここで詳述することはできないが、内挿した項の値は次のような式と等価となる。 π 2 = 2 1 ⋅ 2 3 ⋅ 4 3 ⋅ 4 5 ⋅ 6 5 ⋅ 6 7 ⋯ . {\displaystyle {\frac {\pi }{2}}={\frac {2}{1}}\cdot {\frac {2}{3}}\cdot {\frac {4}{3}}\cdot {\frac {4}{5}}\cdot {\frac {6}{5}}\cdot {\frac {6}{7}}\cdots .} これがウォリス積として知られている。 この著作では連分数についても論じている。 数年後の1659年、ウォリスはブレーズ・パスカルの提案したサイクロイドについての問題の解を含む論文を発表している。その中で Arithmetica Infinitorum で展開した理論を代数曲線の求長法に使う方法を説明している。そこで x3 = ay2 という曲線の長さを求めてみせている。この解法は1657年に弟子のウィリアム・ニールが発見した。それまで楕円や双曲線の長さを求める試みは全て失敗していたため、曲線の長さは求めることができないとされ、特にデカルトはそのように主張していた。円以外の曲線では対数螺旋の長さをエヴァンジェリスタ・トリチェリが既に求めていたが、ニールとウォリスが代数曲線にまでそれを拡張したのは画期的だった。サイクロイドの長さは1658年にクリストファー・レンが求めている。
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