全微分
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/03 18:48 UTC 版)
微分積分学における多変数函数の全微分商、全微分係数あるいは単に全微分(ぜんびぶん、英: total derivative)は、外生的な変数の(任意に小さな)変分に対する函数の変分の割合(差分商)の極限である。このとき、外生的な変数による直接的な影響のみならず函数が持つ他の内生的変数を通じてもたらされる影響をも考慮する必要がある。これは(差分商の極限として定義される通常の実函数の微分を形式的に多変数化して得られる)より弱い概念である偏微分を用いるのでは有効な結果を得られないような解析学的主張に対して、より多くの結果を得られるということであり、またこの意味において、微分積分学の様々な概念がこの全微分をもとにして定義される。現代数学の多くの文献において、全微分(全微分可能)を単に微分(微分可能)のように言うことはよくある。というより偏微分との区別のための強調語の過ぎないのでこの姿勢の方が本来自然である。
多変数函数に対する全微分可能性は、多変数の微分積分学における基本性質の一つである。函数の与えられた点における全微分可能性は、函数が局所的に線型変換で近似されることを意味している。これに対し、(任意方向の)偏微分は、任意方向を持つ直線上における線形近似に過ぎず、全体としては線型近似になるとは限らない。函数 f の変数 t に関する全微分の計算において、t 以外の変数を定数と見なすことは必要でなく、実際他の変数が t に依存することが許される。全微分では f の t に対する依存関係として、このような変数間の陰伏的な従属関係も含めて考えるのである[1]:198-203。その意味において函数の全微分商は、函数の偏微分商とは異なる。
例えば、函数 f(t,x,y) の t に関する全微分商は
全微分
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/19 04:41 UTC 版)
詳細は「全微分」を参照 f が Rn の開集合から Rm への函数ならば、f の方向微分は、その点における f の選択した方向への最適線型近似を与える。しかし、 n > 1 のときは、位置方向への方向微分だけでは f の挙動を完全に捉えることはできない。全微分は、全ての方向を一度にまとめて考えることで函数の挙動を完全にとらえるものである。 f の a における全微分係数(あるいは単に全微分)は lim h → 0 ‖ f ( a + h ) − f ( a ) − f ′ ( a ) h ‖ ‖ h ‖ = 0 {\displaystyle \lim _{\mathbf {h} \to 0}{\frac {\lVert f(\mathbf {a} +\mathbf {h} )-f(\mathbf {a} )-f'(\mathbf {a} )\mathbf {h} \rVert }{\lVert \mathbf {h} \rVert }}=0} を満たす唯一の線型写像 f ′(a): Rn → Rm と定義される。ただし、h ∈ Rn だから分母におけるノルムは Rn における標準ノルムであり、他方 f ′(a)h ∈ Rm であり分子のノルムは Rm の標準ノルムである。v が a を始点とするベクトルならば、f ′(a)v は f による v の押し出しと呼ばれ、f∗v とも書かれる。f の点 a における全微分係数 f ′(a) は a を始点とする任意のベクトル v に対して、線型近似公式 f ( a + v ) ≈ f ( a ) + f ′ ( a ) v {\displaystyle f(\mathbf {a} +\mathbf {v} )\approx f(\mathbf {a} )+f'(\mathbf {a} )\mathbf {v} } が満足される。一変数の微分係数のときと同じく f ′(a) はこの近似の誤差が可能な限り最小となるように選ばれる。高次元の場合に、この線型近似公式が意味を持つためには f ′(a) は Rn のベクトルを Rm のベクトルへ写す線型写像でければならず、また f ′(a)v はその写像の v における値でなければならない。
※この「全微分」の解説は、「微分」の解説の一部です。
「全微分」を含む「微分」の記事については、「微分」の概要を参照ください。
全微分と同じ種類の言葉
- 全微分のページへのリンク