秘密曼荼羅十住心論(巻第六補写)
主名称: | 秘密曼荼羅十住心論(巻第六補写) |
指定番号: | 2463 |
枝番: | 00 |
指定年月日: | 1990.06.29(平成2.06.29) |
国宝重文区分: | 重要文化財 |
部門・種別: | 書跡・典籍 |
ト書: | |
員数: | 10帖 |
時代区分: | 平安 |
年代: | |
検索年代: | |
解説文: | 『秘密曼荼羅十住心論』(十巻)は、弘法大師空海の著作で、天長年間(八二四-三四)の撰述になり、人間の宗教意識を異生羝羊住心【いしようていようじゆうしん】から秘密荘厳住心【ひみつしようごんじゆうしん】までの十の段階(住心)に分け、真言宗の奥義を説いている。本書を要略した『秘蔵宝鑰【ひぞうほうやく】』(三巻)とともに空海の思想を集大成した代表的著作とされている。 仁和寺本は、巻第六が江戸時代の補写になるが、他の九帖は平安時代後期の写本で、体裁はもと巻子装を半葉五行の折本装に改装したもので、紺紙の旧表紙に「十住心論巻第『幾』と外題を金字で書いている。料紙は黄蘖染の楮紙に墨界を施して用い、各帖とも首題、尾題を「秘密曼(漫とするものもあり)荼羅十住心論巻第『幾』」と存している。本文は各帖筆跡が異なる寄合書であるが、巻第七、八、九の三巻は同一人の筆になるものと認められる。いずれも一行一五ないし二〇字前後に端正に書写している。文中、後筆の墨書による仮名、校異、後筆朱書の返点、声点、注記等が書き込まれている。各帖の末には「承安二年三月三十日書写畢、二校了」(巻第一)のように承安二年(一一七二)および同四年の書写奥書がある。この奥書は各帖同筆と認められ、全十巻を書写せしめて校合に際して付けられたものと考えられるが、なお検討を要する。また各帖、朱書の永正六年(一五〇九)加点奥書があり、この本が一時堺(境)の常楽寺に伝来したことを明らかにしている。 『秘密曼荼羅十住心論』は鎌倉時代以来、高野版が流布したためか、古写本は多くなく、その中でこの仁和寺本は書写年時を明らかにするまとまった平安時代古写本として、日本仏教史研究上に貴重である。 |
秘密曼荼羅十住心論
十住心論
『十住心論』(じゅうじゅうしんろん)、正確には『秘密曼陀羅十住心論』は、空海の代表的著述のひとつで、830年ころ、淳和天皇の勅にこたえて真言密教の体系を述べた書(天長六本宗書の一)。10巻。
人間の心を、凡夫(一般人)から最終的な悟りの境地に至るまでの10段階に分けて整理・解説したもので、それぞれに当時の代表的な思想(第4段階以降が、初期仏教や大乗仏教)を配置することによって、仏教全体の体系的整理・解説をも築いている。9段階目までの顕教に対し、10段階目を言語的な伝達が可能な域を超えた密教と位置づけ、人間の心の到達できる最高の境地であるとしている。
- 異生羝羊心 - 煩悩にまみれた心
- 愚童持斎心 - 道徳の目覚め・儒教的境地
- 嬰童無畏心 - 超俗志向・インド哲学、老荘思想の境地
- 唯蘊無我心 - 小乗仏教のうち声聞の境地
- 抜業因種心 - 小乗仏教のうち縁覚の境地
- 他縁大乗心 - 大乗仏教のうち唯識・法相宗の境地
- 覚心不生心 - 大乗仏教のうち中観・三論宗の境地
- 一道無為心(如実知自心・空性無境心) - 大乗仏教のうち天台宗の境地
- 極無自性心 - 大乗仏教のうち華厳宗の境地
- 秘密荘厳心 - 真言密教の境地
『十住心論』の内容を簡略に示したものが、『秘蔵宝鑰』である。
主な刊行文献
- 『定本弘法大師全集 第2巻』 同著作研究会編、高野山密教文化研究所、1993年
- 『弘法大師空海全集 第1巻』 同編輯会(福田亮成ほか校訂・訳)、筑摩書房、1983年、復刊2001年
- 改訂版『秘密曼荼羅十住心論 空海コレクション3・4』 筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉、2013年
- 『原典日本仏教の思想3 空海』 川崎庸之校注、岩波書店、1991年
- 元版『日本思想大系5 空海』 岩波書店、1975年
- 『大乗仏典 中国・日本篇18 空海 秘密曼荼羅十住心論』 津田真一訳注、中央公論社、1993年。現代語訳のみ
参考文献
- 宮坂宥勝『密教世界の構造』筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉、1994年8月。ISBN 4-480-08149-6
- 吉村均『空海に学ぶ仏教入門』ちくま新書、2017年10月。ISBN 978-4-480069962。
外部リンク
- 吉村均「空海に学ぶ仏教入門」(動画) - 十住心論を中心に空海の教えの概要を解説。
- 秘密曼荼羅十住心論のページへのリンク