五蓋とは? わかりやすく解説

五蓋

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/11/17 02:52 UTC 版)

仏教用語
五蓋
パーリ語 पञ्च नीवरणानि pañca nīvaraṇāni
サンスクリット語 पञ्च निवारण pañca nivāraṇa;
中国語 五蓋
日本語 五蓋
(ローマ字: Gogai)
英語 Five hindrances
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五蓋(ごがい、: pañca nīvaraṇāni, パンチャ・ニーヴァラナーニ)とは、仏教における瞑想(禅定)を邪魔する5つの障害[1]、つまり5つの煩悩の総称。蓋(がい、: nīvaraṇa, ニーヴァラナ)とは文字通り、認識を覆う障害のこと[1]

解脱道論によれば、十結には五蓋すべてが含まれる[2]

なお、これと似た概念として、生存者を欲界へと結び付ける5つの束縛としての五下分結(ごげぶんけつ、: pañca orambhāgiyāni saṃyojanāni[注釈 1])という概念もある。下分(げぶん)とは、下の領域すなわち欲界のこと。(けつ、: saṃyojana, サンヨージャナ)とは「束縛」のこと。

内容

Pañcimāni bhikkhave nīvaraṇāni. Katamāni pañca:
Kāmacchandanīvaraṇaṃ, vyāpādanīvaraṇaṃ, thīnamiddhanīvaraṇaṃ, uddhaccakukkuccanīvaraṇaṃ, vicikicchānīvaraṇaṃ. Imāni kho bhikkhave pañca nīvaraṇāni.

比丘たちよ、これら五つの蓋がある。いかなる五か。
欲愛蓋、瞋恚蓋、惛眠蓋、掉悔蓋、疑蓋である。比丘たちよ、これらの五蓋がある。

パーリ仏典, 増支部九集念処品 Nīvaraṇa satipaṭṭhāna suttaṃ, Sri Lanka Tripitaka Project

五蓋の内容は、以下の通り[1]

  • 欲愛(よくあい、: Kāmacchanda-nīvaraṇaṃ
    カーマ(Kāma; 五根からの欲の情報[注釈 2])を恋しがる(chanda)蓋[1]
  • 瞋恚(しんに、: vyāpāda-nīvaraṇaṃ: vyāpāda
    怒り・憎しみ・敵意。
  • 惛沈睡眠(こんじん すいめん、: thīna-middha: styāna-middha
    倦怠および眠気。
  • 掉挙悪作(じょうこ おさ、: uddhacca-kukkucca: auddhatya-kaukṛtya
    心の浮動、心が落ち着かないこと。過去の間違いに対しての後悔[1]
  • (ぎ、: vicikicchā: vicikitsā
    疑い。チャレンジすることに対しての心の弱み[1]

経典での扱い

増支部念処経では、釈迦は五蓋の捨断のために四念処修習するべきと説いている[3]

沙門果経では、出家者が戒律を収めた後、初禅に入る前の段階として、この五蓋の除去が言及される[4]。この五蓋が取り除かれることで、その人には歓喜・喜悦、身体の軽安(きょうあん)・安楽・三昧が生じ、初禅へと入っていく準備が整うと述べられる。また釈迦は、これら五蓋が残っている状態を、借金奴隷のような形に喩えている。

大王よ、比丘はこれら捨断されていない五蓋を、負債、病気、牢獄、奴隷、荒野をゆく旅路のようにみなすのです。
また大王よ、比丘はこれら五蓋を捨断したことを、無借金、無病、拘束からの解放、自由人、安らぎの場所とみなすのです。[5]

適切業品では、釈迦は慧の具足(paññāsampadā)との形で、在家信者に五蓋を説いている[6]。五蓋に心が打ち負かされると「行ってはならなことを行い、行うべきことを行わないので、彼の名誉と幸福は破滅する」と釈迦は述べている[7]

脚注

注釈

  1. ^ 「パンチャ・オーランバーギヤーニ・サンヨージャナーニ」
  2. ^ rūpa/声 śabda/香 gandha/味 rasa/ sparśa、すなわち目耳鼻口体のこと[1]

出典

  1. ^ a b c d e f g アルボムッレ・スマナサーラ; 藤本晃『ブッダの実践心理学 アビダンマ講義シリーズ 第2巻 心の分析』サンガ、2006年、Chapt.2-I。ISBN 978-4901679169 
  2. ^ Upatissa, Arahant and N.R.M. Ehara (trans.), Soma Thera (trans.) and Kheminda Thera (trans.) (1995). The Path of Freedom (Vimuttimagga). Kandy, Sri Lanka: Buddhist Publication Society. ISBN 955-24-0054-6
  3. ^ パーリ仏典, 増支部九集, 念処経 Sāvatthinidānaṃ, Sri Lanka Tripitaka Project
  4. ^ 沙門果経』68-75節
  5. ^ パーリ仏典, 長部沙門果経 Nīvaraṇappahānaṃ, Sri Lanka Tripitaka Project
  6. ^ パーリ仏典, 増支部四集 7.パッタカンマ経, Sri Lanka Tripitaka Project
  7. ^ アルボムッレ・スマナサーラ『テーラワーダ仏教「自ら確かめる」ブッダの教え (スマナサーラ長老クラシックス)』2018年、45頁。 ISBN 978-4804613574 

関連項目


五蓋

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/22 03:35 UTC 版)

煩悩」の記事における「五蓋」の解説

詳細は「五蓋」を参照 また、 貪欲 瞋恚 惛沈こんじん掉挙じょうこ) 疑(ぎ) の5つを、五蓋(ごがい)と呼ぶ。は文字通り、心を覆うものの意味であり、煩悩異称。 これらは比丘瞑想修行妨げになるものとして、取り除くことが求められる

※この「五蓋」の解説は、「煩悩」の解説の一部です。
「五蓋」を含む「煩悩」の記事については、「煩悩」の概要を参照ください。

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