全柔連会長の辞任表明
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「女子柔道強化選手への暴力問題」の記事における「全柔連会長の辞任表明」の解説
7月30日には講道館で臨時理事会が開かれて、全柔連会長の上村をはじめ、藤田弘明・佐藤宣践の両副会長、専務理事の小野沢弘史、事務局長の村上清の執行部全員が、一連の不祥事の責任を取って8月中にも辞任することを表明した。理事でない村上を除き、理事職からも全員退くことになった。なお、上村はIJF指名理事も今季限りで退任するものの、講道館館長の座は継続することになった。続いて、執行部及び理事全員の即時解任を求めていた評議員の了徳寺の意向を受けて臨時評議員会が開かれた。評議員59名のうち58名が出席して議長を除く57名が、先月新任された6名を除く理事23名について1名1名解任するか否か無記名による投票を行った結果、反対多数により1名も解任には至らなかった。上村に対する解任は「賛成」16名、「反対」39名、「棄権」2名だったという。その後、今日2度目となる臨時理事会が開かれた。そこでは新任の外部理事である参議院議員の橋本聖子が理事の辞任をも表明した執行部の4名を除く以前から在任していた19名の理事も、再任を妨げない形で一旦は総辞職した上で理事会を再構築すべきだとの意見を提出すると、異論は出なかったという。同じく新理事の谷亮子は「理事会と評議員会が互いに独立した関係であるだけでなく、意思疎通のできる枠組みも作るべき」との意見を表明した。 臨時理事会後の記者会見で上村は不十分な形で辞めるわけには行かないという思いが強かったが、内閣府からの勧告が辞任を決める一番のポイントになった、臨時評議員会での解任動議は非常に重く受け止めている、新会長は外部の人材をも視野に入れた上で、次の百年の計をきちんと作れる人物が望ましいと語った。対して、臨時評議員会で全理事の即時解任を求めていた了徳寺健二は、解任動議が悉く否決されたことに関して「自浄作用が働かなかった。重大な判断ミスだ。国民に見捨てられつつあるのに、評議員会は理解していない。」と怒りを表明するとともに、上村が「辞めると言っているのに、そこまですることはなかろうという心理が働いた」と、解任の反対票が多数を占めた点について分析した。 新会長候補と目されていた理事の山下泰裕は信頼を取り戻すために理事は全員辞職すべきだとした上で、現体制に関わった人々が改革を行うことは非常に難しいと述べて、自らが会長になる意思がないことを示唆した。新会長は高い見識があり、柔道をよく理解している外部の有識者が望ましく、そのような人物なら自分たちがやれる改革とは桁が違うとの見解を示した。また、必要とされるならば、そのような人物の下で柔道界のために働きたいとも付け加えた。また、副会長の藤田は「上村会長と一緒ということ。国民の皆さんにご心配をお掛けしたことを深くおわびしたい。」、同じく副会長の佐藤も「今回の一連の問題は大きな罪だと受け止めている。内閣府からも厳しい勧告を受け、その通りだと思う。」とそれぞれ語った。全柔連強化委員の山口香は「上村会長の辞任は遅きに失した感があります。最後の最後まで醜態をさらした。同じ柔道家として恥ずかしい限り。新しい会長はぜひ柔道界以外の人に来ていただきたいと思います。」とコメントした。 一方で、これを受けた改革担当大臣・稲田行政は上村を始めとした執行部が自発的に辞めただけでは、ガバナンス(統治能力)の再構築には到底ならないと述べるとともに、臨時評議員会で理事全員の解任が否決された点に関して、内閣府の勧告書の趣旨が理解できているのかと疑問を投げかけ、場合によっては全柔連の公益法人認定の取り消しもありえるとの見解を示した。 7月31日には外部理事の藤原庸介が評議員改革も必要だとして、47都道府県の各柔道連盟会長、学生柔道連盟、実業柔道連盟の代表者各1名及び、講道館職員ら10名の指名評議員の計59名からなる全柔連評議員会のうち、指名評議員は取り止めにすることを改革案に盛り込むべきだとの言及を行った。 8月1日には外部の意見を組織運営に反映させるために新たに創設した、全柔連会長の上村を始めとした執行部と、理事の山下泰裕、田辺陽子、北田典子など11名の陣容による常務理事会が初めて開かれた。上村の後任となる会長には、外部からの人材を優先して招聘する方針となった。ただし、理事の山下は、場合によっては必ずしも外部からとは限らないとの見解も示した。すでに辞任を表明している上村ら執行部を除いた非公表の4名のメンバーによる「新体制検討チーム」が、8月中旬までに具体的な人選を進めることになる。 またこの日には、先月の金鷲旗に参加した女子選手へのアンケート調査の結果が公表されて、過去に「練習場で体を触られた」「胸をもむぞと言われた」などのセクハラ被害を受けたという回答が10数件あったことが明らかになった。全柔連広報の委員長である宇野博昌は「こうしたことは一件でもあってはならない」と述べて、今後実態を正確に把握した上で現場を指導していくことになった。 8月2日に全柔連は、選手の意見を組織運営に反映させる目的で新設したアスリート委員会のメンバーを公表した。委員長には理事の田辺陽子が就任する運びとなったのを始め、委員には男子代表コーチの鈴木桂治、今春引退した天理大学職員である穴井隆将及び、了徳寺学園職員の福見友子、さらに現役選手である同じく了徳寺学園職員の小野卓志ら14名が選出された。オブザーバーとして理事の谷亮子も加わることになった。委員会では女子選手の役割拡大、引退後の生活設計、社会貢献などの話し合いがもたれることになるという。このメンバーでの任期は来年6月までを予定しており、その後はアスリート委員会内の選考委員会によって選出されたメンバーが2年間の任期を務めることになる。 またこの日に全柔連強化委員長である斉藤は、来年度から適用される日本代表選手選考基準の詳細について発表した。それによれば、オリンピックや世界選手権などの主要国際大会や、講道館杯、選抜体重別、全日本選手権など主要国内大会を対象にポイントシステムを導入する。大会レベルに応じて選手に付与されるポイントは2年間有効となり、直近1年より以前のポイントは半減される。また、対戦相手や組み合わせなどの傾斜配点も加味することになった。強化委員会ではこのポイントシステムのみならず、代表候補選手の将来性なども参考に審議した上で、出席した強化委員の過半数の支持を得た選手を代表に選出することに決めた。斉藤によれば、ポイントシステムのみで代表を選出しないのは「(柔道は)陸上競技や競泳と異なり、数値のみで選ぶのは難しい」からだと説明した。また、代表選考に不服を抱いた選手は、強化委員会側に選考結果の説明を求める権利や、日本スポーツ仲裁機構に異議申し立てを行う権利を有している点も明文化されることになった。 さらに、全柔連会長辞任を表明した上村は8月下旬の世界選手権前にリオデジャネイロで開かれるIJF総会には出席しないことになった。IJF指名理事ではあるものの、新会長への引継ぎをする必要性などもあり、総会に行けるような状況ではないと理由を語った。 8月6日には常務理事会が開かれて、12日の常務理事会で新体制検討チームが会長を始めとした新執行部の候補を報告して、14日の臨時理事会に諮られることが決まった。また、外部から会長を招いた場合、常勤を求めるのは難しいことから、新執行部には複数の外部理事が就任する可能性があるという。 8月7日には執行部以外の理事からも相次いで辞任が表明されていることが明らかになった。1964年東京オリンピック軽量級金メダリストである中国地区代表の中谷雄英は「理事職にしがみつくつもりはない。自分の意思で辞めたい。」、北海道地区代表の高梨幸輔も「責任の一端がある。同じ顔ぶれでは何も変わらず、体制を一新させたとはっきり示すのが正しい道だ。」とそれぞれ語った。また、全柔連広報委員長で理事の宇野博昌は、理事全員が辞任する方向で調整が進んでいると明かした。ただ、宇野自身もメンバーである常務理事会に関しては、執行部を除いて再任される可能性があることを示唆した。 8月10日には、全柔連の新会長に東京大学柔道部出身で全日本実業柔道連盟会長を務める新日鉄住金会長兼最高経営責任者の宗岡正二が就任する見込みになったことが複数の関係者の話から明らかになった。宗岡自身も全柔連側からの理事打診を了承したという。また、全柔連には経営と同じく透明性の確保と説明責任の遂行が求められると述べるとともに、人事に関しては外部登用の必要性にも言及した。14日の臨時理事会で上村ら執行部4名が理事を辞任した上で、宗岡を新理事候補として評議員会に推薦して、21日以降に開催される評議員会で正式な理事に選出された後に、新メンバーによる臨時理事会において理事の互選で正式な会長に就任する運びとなった。 8月12日には常務理事会が開かれて、新理事候補として宗岡とその東京大学柔道部時代の後輩にあたる元大阪府警本部長でトヨタ自動車顧問の近石康宏を14日の臨時理事会に推薦することを決めた。広報委員長の宇野は「改革に対する意識が非常に強く、遂行する力量があると判断した」と推薦理由を説明した。また、宗岡は近石を招聘することを条件に理事推薦を引き受けたこという。副会長や事務局長の選出は新会長が予定されている宗岡に一任されるが、副会長候補には山下が昇格する見込みとなった。山下も「できるだけ汗をかきたい」と意欲を見せた。全柔連強化委員の山口は執行部に外部から人材が登用されることに関して、「一歩前進。外から一度入ってもらった方がいい。」、「内部にずっといると、みんなお友達になる。大きな組織を改革する時は情が生じて踏み切れないという歴史がある。今回もそれが大きな問題につながった。」との認識を示した。 また、この日には全日本学生柔道連盟の理事会も開かれて同連盟代表として全柔連の理事を務めている佐藤宣践が一連の不祥事の責任を取って辞任するに当たり、後任として日本大学柔道部総監督で全柔連評議員を務める高木長之助を新理事に推薦することを決めた。 一方、「暴力の根絶プロジェクト」セクハラ部会の責任者を務める北田は金鷲旗やインターハイの際に女子選手からセクハラに関するアンケート調査を1278件ほど受け取ったものの、即座に対応すべき重要な案件はなかったことを明らかにした。ただ、今後も継続的な対策を行っていくことになった。 8月13日にはブダペストにあるIJF本部を訪問していた上村が帰国して、IJF会長のビゼールから指名理事を継続するように要請されていたことを明らかにした。上村はすでに指名理事の座も辞する意向にあり、後任の推薦をビゼールに要望したものの、上村が退任した場合は日本からの補充はないとの返答を受けた。その場合は国際的な発言力が低下することから、「私自身は辞めたいと思っているが、柔道界の発展のためにうまく対応しないといけない」と続投の可能性に含みを持たせることになった。 8月14日には臨時理事会が開催されて、会長の上村を始めとした理事23名(6月に新しく就任した6名を除く)と監事3名の計26名が、一連の不祥事の責任を取って21日付けで辞任届けを提出することになった。また、新理事候補として宗岡正二と近石康宏を21日の臨時評議員会に推薦することになった。その後の新理事会における互選を経て、宗岡が新会長、近石が専務理事に就任する運びとなった。理事を辞任する山下も臨時評議員会で理事に再任された後に副会長に就任する見通しとなった。理事会後の記者会見で辞任することになった前会長の上村は「一生懸命に改革、改善に取り組んだつもりだが、残念ながらスピード感がなかったのが一番の問題。私の判断も少し甘かった。」、「日本の柔道界は世界から尊敬され認められるところであってほしい」と述べた。山下は「極めて残念。自分がいかに無力だったか、ということを感じている。」とコメントした。谷理事は会長の宗岡らが理事推薦に決まったことに「信頼の厚い方々。速やかに改革が行われると思う」と話した。また、「我々女性理事や外部理事からも新理事の推薦をさせていただきたい」と、新理事の選出にも積極的に関わっていく姿勢を見せたという。さらに、59名に上る評議員会の縮小を踏まえた評議員会の規定改定を示唆した。一方、講道館で開催された世界選手権日本代表選手団の壮行式で上村は、「今、柔道界は大変困難な状況にありますが、日本の柔道界に元気を送るために、自分の目標を達成するために精いっぱい頑張っていただきたいと思います」と語りかけた。 加えて、臨時理事会において全柔連は、「暴力の根絶プロジェクト」が提出した「暴力行為根絶宣言」を承認した。宣言は「全柔道人の総意」として、「暴力は人間の尊厳を否定する卑劣な行為であり、柔道において決して許されない」とした上で、「指導者は、すべての暴力行為が人権の侵害であることを自覚し、暴力行為が指導における必要悪という誤った考えを捨て去る。柔道を行うすべての者は、いかなる暴力行為も行わず、黙認せず、柔道の場からあらゆる暴力行為の根絶に努める」と言った内容が盛り込まれることになった。 8月19日に前会長の上村は23日にリオデジャネイロで開催されるIJF理事会には出席せず、代わりに全柔連国際委員長の細川伸二を派遣するとともに、IJF会長に再選される見通しのビゼールによる指名理事留任の申し出も辞退することを明らかにした。上村としては指名理事の後任候補として細川らを送り込めるようにビゼールと交渉しているものの、受け入れられるのは難しいと語っており、これで日本からの理事が不在になる公算が大きくなった。その一方で、直接事情を説明するために、事務局長を辞職することになった村上清を伴ってリオデジャネイロまで赴く話も出ている。また、9月にブエノスアイレスで開催される2020年夏季オリンピック開催都市を決定するIOC総会には、東京招致のためのロビー活動の一員に加わる可能性があるという。複数のIOC委員に顔が利くと言われるビゼール会長に東京招致を働きかけるためだという。全柔連会長に就任予定の宗岡は、全柔連の活動に上村を一切関わらせない方針にあるが、国際関係を盾にこのような動きを見せることで上村が影響力を残そうとする見方も出ている。
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