有明海 歴史

有明海

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/28 06:23 UTC 版)

歴史

有史以前

有明海の海岸線の変遷
佐賀市川副町大詫間水田。圃場整理はされているが、上空から見ると干拓の痕跡が海へ向かって同心円状に残っているのが分かる。
福岡県柳川市沖のノリ網群。

更新世氷期における有明海は、東シナ海、黄海、渤海の沿岸に続く広大な干潟の一部だったと考えられている。このとき中国大陸の干潟に分布していたムツゴロウシオマネキなどが有明海にも分布するようになった(大陸遺存種)。その後の海面上昇により、約1万年前にこの干潟が分断されたが、有明海は筑後川をはじめとした大規模河川の流入が保たれ、干潟と固有の生物も維持された。

干潟は30万年前から9万年前の間に4回あった阿蘇山の大噴火(特に4回目の噴火による堆積が主なもの)により堆積した厚い粘土層が雨により河川を経て流出し、大きな潮差によって川に押し戻されたり、再び海に流されたりを繰り返し、河口付近に堆積して形成されたと考えられている。

縄文時代前期(紀元前4000年頃)には筑紫平野・菊池平野の大部分と熊本平野・諫早平野の一部がそれぞれ満潮時に海面下となっていたが、河川による土砂運搬で次第に海岸線が後退していった。

干拓の歴史

日本最古の干拓は現在の佐賀県で行われた。推古天皇15年(605年)に大連秦河勝が行なった「九十九万代」の干拓である[11]。下って鎌倉時代末期には、現在の佐賀市の南、熊本県天明村や旧銭塘村で干拓が行われた文献が残されている[12]元寇直後から干拓が進められるようになるが、元寇後の食糧不足や参戦した武士への恩賞不足のため、干拓に目が向いたものと推測されている[13]

中世より人間の手によって少しずつ干拓が進められ、江戸時代に入るとの生産拡大を目的とした干拓が次々と行われるようになり、海岸線の後退は加速した。熊本藩の干拓事業は、藩費のほかに藩主の私費、家老の出費、手永(村より大きい単位)の共同事業としておこなう大規模なものであった。江戸時代佐賀藩では500箇所、約6300[14]の水田が作られたが[13]、そのほとんどは藩営事業としてではなく、農民の手によって進められたもので、個々の干拓地は小規模なものであった[13]。長崎県の諫早平野は鎌倉時代末期以降干拓によって造成されたものであるが、江戸時代には諫早領主(佐賀藩重臣の諫早家)による干拓も行われた。

近代以後、公営の干拓事業や、国による干拓事業が続いた。

1989年平成元年)からは諫早湾において国営諫早湾干拓事業が開始され、1997年(平成9年)に諫早湾奥部を一気に締め切る工事が行われた。干拓によって有明海全体で陸地化された面積は、昭和60年代の時点で260km2を超えており[15]、諫早湾干拓によってさらに約9km2拡大した。


  1. ^ a b c d e f g h 環境省「閉鎖性海域ネット」59.有明海 および 島原湾(2023年2月9日閲覧)
  2. ^ a b c d 福岡博. “有明海の歴史と文化 -日本の文化はここから始まった-”. 特定非営利活動法人有明海再生機構. 2021年8月14日閲覧。
  3. ^ a b c d e 3.有明海及び諫早湾の概要”. 農林水産省. 2021年8月14日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g 日本歴史地名大系 41 福岡県の地名』平凡社、2004年、65頁。 
  5. ^ a b 小田巻実、大庭幸広、柴田宣昭. “有明海の潮流新旧比較観測結果について”. 海上保安庁海洋情報部. 2021年8月16日閲覧。
  6. ^ a b 第2章 有明海・八代海干潟等沿岸海域の現状と変遷・課題[リンク切れ] 熊本県「有明海・八代海再生に向けた熊本県計画」2007年5月9日
  7. ^ 先史時代の鯨・捕鯨図など”. 2015年10月2日閲覧。
  8. ^ 志佐 喜栄: “多久物語 六角川の迷い鯨”. 佐賀新聞 LIVE、多久市郷土資料館. 2017年11月3日閲覧。
  9. ^ 山田 格: “熊本県天草市でセミクジラ迷入”. 国立科学博物館 - 海棲哺乳類情報データベース. 2015年10月2日閲覧。
  10. ^ 有明海の2カ所の干潟が「ラムサール条約」登録湿地にWWFジャパン(2015年6月24日)2022年6月6日閲覧
  11. ^ 西尾[1985:11]
  12. ^ 西尾[1985:11-12]
  13. ^ a b c 佐賀県 嘉瀬川農業水利事業 農民によって造られた平野”. 水土の礎. 農業農村整備情報総合センター. 2014年5月30日閲覧。
  14. ^ 1は約0.99ヘクタール
  15. ^ 諫早湾干拓事業「有明海と諫早湾の干拓の歴史」農林水産省九州農政局
  16. ^ 「海苔不漁―有明海以外も」『毎日新聞』2001年5月22日
  17. ^ a b c 有明の海・ノリの現場「かさむ機械費」朝日新聞(2001年12月19日配信)
  18. ^ 有明ノリ 異例の不作:季節外れの赤潮■少雨で栄養塩不足/肥料やカキ投入 試行錯誤」『朝日新聞』朝刊2023年2月9日(経済面)同日閲覧
  19. ^ a b c d e 有明海で続々「奇形魚」『読売ウイークリー』2008年4月6日号
  20. ^ 「ノリ養殖の酸処理剤で海が死ぬ」有明海漁業者らが国提訴 産経ニュース(2015年3月6日)2016年12月9日閲覧






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