戦略
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/26 09:03 UTC 版)
戦略構造の概念図
現代において戦略・戦術の概念は大きく発展し、概ね多くの国で以下のように体系化されている[5][6][7][要ページ番号]。
- 国家理念
- あらゆる戦略の根幹となる基本理念であり、究極的な最終目的やそれを踏まえた目標などを定める
- 国家方針[注釈 2]
- 国家理念に基づいた国家目的を達成するために政治的・軍事的・外交的・経済的・心理的な政策を整合的な方針としてまとめたもの
- 国家戦略[注釈 3]
- 国家方針に沿って国家目的を達成するための統合的な戦略であり、大戦略・統合戦略・全体戦略とも言う
- 軍事戦略[注釈 4]
- 国家戦略に基づいた軍事行政・軍事作戦の全体的な戦略である
- 作戦戦略[注釈 5]
- 軍事作戦を実行する上での戦略であり、部隊の作戦行動を指導する
- 戦術[注釈 6]
- 戦闘を指導する術策。狭義の戦略を一部含むに留まり、戦略とは異なる概念である。
また以下のような政治・軍事以外の戦略も国家戦略の下位に設けられる:
- 外交戦略
- 国家戦略に基づいた外交政策の全体的な戦略
- 経済戦略[注釈 7]
- 国家戦略に基づいた国家経済の全体的な戦略
- 技術戦略
- 国家戦略に基づいた国際的な技術開発競争の全体的な戦略
- 心理戦略
- 国家戦略に基づいた国家心理戦の全体的な戦略
国家の戦略
国家戦略の概観
国家指導の立場に立った政治の戦略は、国家戦略・政戦略などと呼ばれる。国家目的と国力に基づいて、国内外の情勢を総合的に判断して策定される総合的な戦略である。これに基づいて軍事戦略・外交戦略などの戦略を規定する。その重要性は部分的な軍事的・経済的な合理性を凌ぐ。国家戦略によりもたらされる致命的な失敗は軍事戦略・外交戦略などの下位の戦略では回復できない。
国家戦略は歴史においてしばしば軍事戦略とその関係が逆転することがあったが、総じて「戦略的な失敗と引き替えの戦術的な勝利は回復できない」[要出典]ことを示している。第一次世界大戦のドイツ軍参謀総長エーリヒ・ルーデンドルフは、国家総力戦の状況に鑑みて「政治は戦争指導のために実施して総力戦に対応すべき」と主張した。このような軍事的な合理性を重視する考え方はヘルムート・ヨハン・ルートヴィヒ・フォン・モルトケなどにも受け入れられたため、当時のドイツの政策決定に大きく関与した。しかし軍事的な合理性を追求した結果、ドイツ軍は中立国であったベルギーを経由するフランスへの攻勢作戦によりイギリスの、また無制限潜水艦作戦によってアメリカ合衆国の参戦を招くという戦略的な失敗を犯した。この代償としてドイツは170万人を超える戦死者、莫大な賠償金、社会的な混乱、そして国家体制の破綻を支払うこととなった。
国家戦略という概念やその実態は非常に包括的で曖昧である。国家戦略を「その国家の地理や基本理念を踏まえた上で軍事・外交・経済・心理などから国際関係の情勢を判断し、歴史的な経験やその中で培われた戦略文化に基づいて組織的に形成・運用されるもの」と位置づけられるが、人間社会の複雑性・曖昧性に鑑みた場合には国家戦略の概念はかなり不確かなものとならざるをえない。ただ「国家とはさまざまな社会システムの有機的な複合体であり、それらシステムの総力を調和的・計画的に運用して生存・発展を維持するためには、総合的な情勢認識、政治的決断とその支持、各分野の長期的な目標や行動方針、すなわち戦略が必要である」とは確実に言える。そして「国家戦略の中核となるのは軍事・経済・文化などあらゆる面に於いて支配的な影響を及ぼす政治における戦略である」と位置づけることができる。
軍事戦略
軍事戦略の概観
軍事戦略は平時と戦時における戦力整備・教育訓練・戦力運用に関する全体的な戦略である。外交戦略とも密接に関係しており、まとめて安全保障戦略として考えられることもある。これは戦争指導という概念でもある。
決戦戦略・持久戦略
軍事戦略は戦争の勃発を想定して、国家の軍事政策の実行を指導する。軍事戦略はしばしば決戦戦略・持久戦略に区分される:
- 決戦戦略
- 勝利を狙って迅速かつ効率的に敵戦力の殲滅を実行する。攻勢戦略に相当し、優勢な軍事力をもって現状の優位を拡張しようとする。
- 持久戦略
- 不敗を狙って戦力温存と長期戦を実行する。防勢戦略に相当し、劣勢な軍事力をもって現状の劣位を縮小しようとする。
抑止戦略・間接戦略
第一次世界大戦・第二次世界大戦を通じて「直接的な武力行使では不用な殺戮や破壊をもたらしかねない」という反省が得られた。そのため戦争勝利の戦略だけでなく、抑止戦略が形成された。抑止とは戦力の準備により、敵が軍事行動に出ることによって予想される費用と効果が吊り合わない状況を作り出し、軍事行動を防ぐことである。
間接戦略とはボーフルが提唱したもので、軍事上の勝利以外の手段によって政治目的を達成する戦略である。これと似たものにリデル・ハートの間接アプローチ戦略がある。これは敵との正面衝突を回避しながら後方の敵の弱点を叩くことで勝利する戦略である。
陸上・海洋・航空戦略
- 陸上戦略
- 陸上における戦略、すなわち陸軍の戦略。陸上権の確立という要点がある。クラウゼヴィッツらによって構築された。
- 海洋戦略
- 海洋における戦略、すなわち海軍の戦略。「制海権の確立」および「陸上権の確立のための制海権の活用」の2つの要点がある。コルベット、マハンらによって構築された。
- 航空戦略
- 空域における戦略、すなわち空軍の戦略である。「航空優勢の確立」「陸上権・制海権の確立のための航空優勢の活用」という要点を持つ。ドゥーエらにより構築された。
これらの戦略に加えてゲリラ戦略もある。これはゲリラ戦の戦略であり、従来の軍隊による戦争ではなく、非正規の軍事組織による持久的な武力戦またはその他の手段による総合戦の戦略であり、特殊性がある。毛沢東、ホー・チ・ミン、ザップ、カストロ、ゲバラらによって構築された。
注釈
出典
- ^ 松村 2005, p. 1.
- ^ 前原 & 片岡 2003.
- ^ 喬 & 王 2001.
- ^ a b 栗栖 1997, p. 170.
- ^ 防衛学研究会 2000, p. 141.
- ^ ニコラス et al. 1987.
- ^ 服部1980.
- ^ 岡田 2011, p. 20.
- ^ ギボンズ 1995, p. 3.
- ^ ギボンズ, p. 116.
- ^ グレーヴァ 2011, p. 6.
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