アルフレッド・セイヤー・マハン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/12 16:53 UTC 版)
アルフレッド・セイヤー・マハン Alfred Thayer Mahan |
|
---|---|
![]() |
|
生誕 | 1840年9月27日![]() |
死没 | 1914年12月1日(74歳没)![]() |
所属組織 | ![]() |
軍歴 | 1861 - 1896、1898 |
最終階級 | 海軍少将 |
除隊後 | 歴史家 |
アルフレッド・セイヤー・マハン(Alfred Thayer Mahan [məˈhæn][1], 1840年9月27日 - 1914年12月1日)は、アメリカ合衆国の海軍軍人・歴史家・地政学者。最終階級は海軍少将。
マハンはアメリカ海軍の士官であるだけでなく、研究者としても名を馳せた。その研究領域は海洋戦略・海軍戦略・海戦術などに及び、シーパワー・制海権・海上封鎖・大艦巨砲主義などに関する研究業績がある。中でも古典的な海洋戦略を展開した『海上権力史論』は世界各国で研究されている。「世界の諸処に植民地を獲得せよ。 アメリカの貿易を擁護し、かつ外国に強圧を加えるために諸処に海軍根拠地を獲得し、これを発展させよ」との持論を持っていた[2]。また、初めて中東という呼称を使ったとも言われている。
19世紀フランスの研究者アントワーヌ=アンリ・ジョミニや父デニス・ハート・マハンの影響を強く受けており、マハンの研究に影響を受けた人物にはセオドア・ルーズベルト、ヴィルヘルム2世、ジュリアン・コーベット、佐藤鉄太郎、秋山真之などがいる。彼に因んでいくつかの艦船が「マハン」と命名された。
生涯・人物
マハンはニューヨーク州ウェストポイントで、陸軍士官学校の教授であったデニス・ハート・マハンとメアリー・ヘレナ・マハン夫妻の間に生まれる。親の希望に反してコロンビア大学で2年間学び、その後海軍兵学校に進んだ。
1859年に卒業後、1861年に少尉に任官し、南北戦争ではフリゲートのコングレス (USS Congress)、外輪船のポカホンタス (USS Pocahontas)、ジェームズ・アジャー (USS James Adger) に乗艦した。この勤務中に1865年には海軍少佐、1872年に海軍中佐と昇進している。イロコイ号 の副長として幕末・明治維新の日本を実見した[3]。
1885年には論文『メキシコ湾と内海』が評価されたため、海軍大佐に昇進して海軍大学校の初代教官を務め、海戦術の教育を担当した。1890年に『海上権力史論』が発表され、1892年から翌年まで海軍大学校の第二代校長として務める。
1896年に退役してからは、アメリカ歴史学会会長およびハーグ平和会議のアメリカ代表団顧問を務めた他は研究に専念しており、『ネルソン伝』『米西戦争の教訓』『フランス革命とナポレオン帝国におけるシーパワーの影響』『海軍戦略』を発表した後の1914年にワシントンD.C.で死去した。
著書
- The Gulf and Inland Waters (1883)
- The Influence of Sea Power Upon History, 1660-1783 (1890) [available online from Project Gutenberg]
- The Influence of Sea Power upon the French Revolution and Empire, 1793-1812 (1892)
- Admiral Farragut (1892)
- The Interest of America in Sea Power, Present and Future (1897)
- The Life of Nelson: The Embodiment of the Sea Power of Great Britain (1899)
- Lessons of the War with Spain, and Other Articles (1899)
- The Problem of Asia and Its Effect Upon International Policies (1900)
- Types of Naval Officers Drawn from the History of the British Navy, with Some Account of the Conditions of Naval Warfare at the Beginning of the Eighteenth Century, and of Its Subsequent Development During the Sail Period (1901)
- Sea Power in Its Relations to the War of 1812 (1905)
- Naval Administration and Warfare: Some General Principles, with Other Essays (1908)
- Naval Strategy Compared and Contrasted with the Principles and Practice of Military Operations on Land (1911)
- Armaments and Arbitration; or, The Place of Force in the International Relations of States (1912)
- The Influence of Sea Power Upon History, 1660-1805 (abridged ed, 1980)
著作(邦訳)
- The Influence of Sea Power Upon History, 1660-1783 (1890)
- 『海上権力史論(上・下)』(水交社訳、東邦協会、1896年)- 近代デジタルライブラリーにて閲覧可能(全国書誌番号:40015155)
- 『海上権力史論』(北村謙一訳、原書房、1982年、新装版2008年6月) ISBN 978-4562041640 - 原著の5・6・9・11・12・13章を割愛し、各章を抜粋訳
- The Influence of Sea Power upon the French Revolution and Empire, 1793-1812 (1892)
- The Interest of America in Sea Power, Present and Future (1897)
- Naval Strategy Compared and Contrasted with the Principles and Practice of Military Operations on Land (1911)
- 『海軍戦略』(尾崎主税訳、千倉書房、1932年)
- 復刻『海軍戦略――陸軍作戦原則との比較対照』(尾崎主税訳、原書房、1978年)
- 『海軍戦略』(井伊順彦訳、戸高一成解説、中央公論新社、2005年2月)ISBN 978-4120036118
- 『海軍戦略』(尾崎主税訳、千倉書房、1932年)
- The Life of Nelson: The Embodiment of the Sea Power of Great Britain (1899)
- 日本で編まれたアンソロジー(編訳著)
- 『アメリカ古典文庫(8)アルフレッド・T・マハン』(麻田貞雄編、研究社、1977年)
- 新版『マハン海上権力論集』(麻田貞雄編訳、講談社学術文庫、2010年12月)。ISBN 978-4062920278
- 『戦略論大系(5) マハン』(山内敏秀編、芙蓉書房、2002年)ISBN 978-4829503065 - Naval StrategyおよびThe Influence of Sea Power Upon History, 1660-1783の抄訳抜粋
日本への紹介
同時代の日本においてマハンの著作・思想の紹介・導入・応用に関わった人物として、金子堅太郎・肝付兼行・小笠原長生・佐藤鉄太郎・寺島成信がいた。それぞれの項目を参照。
脚注
- ^ 2020 Issues in National Security Lecture Series: John Maurer on Alfred Thayer Mahan U.S. Naval War College
- ^ 朝日東亜年報. 昭和17年版 (大東亜戦争特輯)国立国会図書館デジタルコレクション コマ番号:26
- ^ イロコイ号が天保山沖に停泊中、徳川慶喜を開陽丸に移るまで一夜泊めている。(中原裕幸「海軍戦略家アルフレッド・マハンと将軍徳川慶喜」『Ocean Newsletter』第336号、笹川平和財団海洋政策研究所、2014年8月5日。)を参照。また、開港直後の兵庫港では神戸事件を経験している。
関連項目
- マハン (駆逐艦)
- 地政学
- 海洋国家
- 坂の上の雲 - NHKが製作した長編ドラマ。2009年放送の第1部で、ジュリアン・グローヴァーがマハンを演じた。
- ワシントン海軍軍縮条約
参考文献
- 谷光太郎 『アルフレッド・マハン-孤高の提督』(白桃書房9、1990年5月)ISBN 978-4561510130
- 谷光太郎 『海軍戦略家 マハン』(中央公論新社〈中公叢書〉、2013年11月)
- 『米国東アジア政策の源流とその創設者-セオドア・ルーズベルトとアルフレッド・マハン』(谷光太郎、山口大学経済学会、1998年8月)
- ジョン・スミダ「地政学者アッフレッド・セイヤー・マハン」(コリン・グレイ、ジェフリー・スローン編著『進化する地政学--陸、海、空 そして 宇宙へ』五月書房、戦略と地政学1、2009年)ISBN 978-4-7727-0479-3
- 大久保桂子「マハン」(『歴史学事典 5 歴史家とその作品』(弘文堂、1997年) ISBN 978-4-335-21035-8)
外部リンク
- Past Presidents of the Naval War College - from the Naval War College website[リンク切れ]
アルフレッド・セイヤー・マハン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/03 15:33 UTC 版)
「戦略地政学」の記事における「アルフレッド・セイヤー・マハン」の解説
アルフレッド・セイヤー・マハンはアメリカの海軍士官であり、アメリカ海軍大学校の学長であった。彼ら 彼は、海軍の優位性が大国同士の戦争における決定的な要因であると説いた著書『海上権力史論』で最もよく知られている。1900年、マハンの著書『アジアの問題』が出版された。この本の中で彼は近代における地政戦略学を初めて展開した。 マハンは『アジアの問題』において、アジアの3つの地帯に区分している: 北部地帯:北緯40度線の以北に位置するで、寒冷な気候が特徴で、ランドパワーが支配している。 「議論の余地のある("Debatable and Debated" )」地帯:北緯40度線と北緯30度線の間に位置し、温帯気候を特徴とする。 南部地帯:北緯30度線以南に位置し、熱帯気候が特徴で、シーパワーが支配する。 マハンは、「議論の余地のある」地帯には、アジアの両端にある2つの半島(アナトリアと朝鮮半島)、スエズ運河・パレスチナ・シリア・メソポタミア、山脈が特徴的な2つの国(イランとアフガニスタン)、パミール山地・ヒマラヤ・揚子江、そして日本が含まれていると考察した。この地帯の中には、外部からの影響に耐えうる、あるいは自国の国境内で安定を維持できるような強大な国家は存在しないと、マハンは主張した。つまり、マハンの見解では、北部と南部の政治情勢は比較的安定しており確立されているのに対し、中央部は 「議論の余地のある」地帯にとどまっているのである。 北緯40度線以北の広大なアジアはロシア帝国が支配していた。ロシアは大陸の中央に位置し、一方をコーカサス山脈とカスピ海、他方をアフガニスタンと中国西部の山々に囲まれた中央アジアへ楔状に突出していた。マハンは、ランドパワーであるロシアの拡張主義とアジア大陸での優位性の獲得を防ぐのには、アジアの側面に圧力をかけることが、シーパワーが唯一実行可能な戦略であると考えていた。 北緯30度線以南は、英国・米国・ドイツ・日本といったシーパワーの支配地域とされた。マハンにとって、イギリスによるインド領有は戦略的に重要な意味を持つものであり、インドは中央アジアでロシアに対してバランスのとれた圧力をかけるのに最適であった。エジプト・中国・マレーシア・オーストラリア・カナダ・南アフリカにおけるイギリスの優位性も重要視されていた。 マハンは、シーパワーはロシアが海上交易から得られる権益の阻止を戦略の旨とすべきだとした。彼はトルコ海峡もデンマーク海峡も敵対国によって閉鎖される可能であることが、ロシアの海上進出を阻止することになると指摘した。さらに、この不利な立場によって、ロシアは富や不凍港を得るための拡張主義的傾向を持つことになるとした。自然、海へのアクセスを求めるロシアの地理的目標は、中国沿岸部・ペルシャ湾・そしてアナトリア半島となる。 このランドパワーとシーパワーの戦いでは、ロシアはフランス(本来はシーパワー国であるが、この場合は必然的にランドパワーとして行動する)と同盟を組み、ドイツ・イギリス・日本・アメリカはシーパワーとしてこれに対抗することになる。さらにマハンは、効率的に組織された陸軍と海軍を持ったトルコ・シリア・メソポタミアからなる近代統一国家を樹立し、これをもってロシアの拡大に対抗させることを構想した。 マハンは地理的特徴によってさらに世界を区分し、スエズ運河とパナマ運河が最も影響力のある2つの分界線になると述べている。先進国や資源は世界地図上の北側に集中しているため(南北問題)、2つの運河の北側の政治や商業は、運河の南側のものよりもはるかに重要である。このように、歴史的な発展の大きな進展は、北から南へではなく、東から西へと流れていくことになり、この場合はアジアを前進拠点とすることになる。
※この「アルフレッド・セイヤー・マハン」の解説は、「戦略地政学」の解説の一部です。
「アルフレッド・セイヤー・マハン」を含む「戦略地政学」の記事については、「戦略地政学」の概要を参照ください。
固有名詞の分類
幕末の外国人 |
ローレンス・オリファント フェリーチェ・ベアト アルフレッド・セイヤー・マハン エドワード・チャールズ・キルビー マシュー・ペリー |
アメリカ合衆国の歴史学者 |
マイケル・ホーガン オットー・メンヒェン=ヘルフェン アルフレッド・セイヤー・マハン イグナス・ゲルブ リチャード・パイプス |
- アルフレッド・セイヤー・マハンのページへのリンク