古代エジプト
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/08 00:04 UTC 版)
文化
食文化
主食はコムギから作るパンであり、エジプト人は「パン食い人」と呼ばれるほど大量のパンを食べた[19]。サンドイッチのように具を挟むのが一般的だったとされる[20]。また、サワードウによる発酵パンが誕生したのもエジプトである。パンを焼くための窯は時代によって異なっている[10]。労働者への給与として現物支給されるため、エジプト式分数の問題ではパンを配分する例が多く登場する。
自国原産のブドウ、ナツメヤシ、イチジク、ザクロなどの他、リンゴ、プラム、オリーブ、スイカ、メロン、モモ、ナシなど様々な果実が栽培された。なおスイカは種子を食べていたとみられている[21]。
酒
紀元前3800年頃にオオムギから作るビールの生産が始まり、紀元前3500年頃にワインの生産が始まった。ワイン用のブドウは麦と違い外来作物であり、ワインは高貴な酒で一般市民はビールを飲んだが、後に生産量が増えて市民にも広まった。ビールはパンと並んで主要な食物とされており、大量に生産・消費された[20]。当時のビールは嗜好品だけでなく、栄養ドリンクのような存在だったと推測されている[14]。
当時のビールはアルコール度数が3%程度、製法も自然発酵を利用した原始的な手法というのが通説であったが[10]、2014年に麒麟麦酒が壁画に残された絵を分析し製法を再現したところ、パン生地を使った酵母の培養など高度な技法で醸造され、度数が10%で白ワインにも似た味のビールが完成した[10]。この他にもヨーグルトのような食感のビールも存在していたとされる[14]。
芸術
黄金を使った彫金が発達しツタンカーメンの黄金のマスクなど王族の装飾品に利用されていた[12]。
建築物の内外はフレスコ画や彫刻で装飾されていた。
エジプトには森林が存在しないため木材を産出せず、建築材料には利用されなかったが、ツタンカーメン時代には国力を背景に交易で各地の木材を入手し、寄せ木や曲げ木などの高度な技法を用いたチャリオットを製作している[12]。
色彩には宗教的な意味合いがあるため、ファイアンス焼きなどで望んだ発色を生み出す技法が発達した[22]。
音楽
古代エジプトの音楽についての研究は考古学者と音楽研究者の間に交流がなく、あまり進んでいない[23]。
銀製のトランペットに似た楽器や、ヨシ製のフルートとされる楽器が出土している[23]。
宗教儀式の他、宴会や農作業時にも演奏されていたとされ、現代の西洋音楽の基礎となったという見解もある[23]。
文学
エジプトの文字は、統一王朝成立以前に表語文字であるヒエログリフ(hieroglyph、聖刻文字、神聖文字)とアブジャドであるヒエラティック(Hieratic; 神官文字)の二つが成立した。ヒエログリフの方がより正式な文字として使用されたが、この二つの文字は並行して発展した。この両文字が誕生してからはるか後世にあたる紀元前660年ごろに、ヒエラティックを崩してより簡略化したデモティック(民衆文字、Demotic)が誕生し、紀元前600年頃にはデモティックがもっとも一般的な文字となった。この文字を元に様々な文学が成立し、エジプト文学はシュメール文学と共に、世界最古の文学と考えられている。
古王国時代には、讃歌や詩、自伝的追悼文などの文学的作品が存在していた。
中王国時代からは物語文学も現れ、悲嘆文学、知恵文学、教訓文学などのジャンルが存在した『シヌヘの物語』などの作品は、現在まで伝わっている。
書写材料としてはカミガヤツリ(パピルス草)から作られるパピルスが主に用いられた。
ファッション
上流階級は各地から輸入した宝飾品や化粧品を利用していた。
娯楽
セネトやメーヘーンなどのボードゲームが存在していた。特にセネトは交易によりレバント、キプロス、クレタなどにも伝播している。
スポーツ
上流階級が観覧するためにショーとしてのスポーツが行われていた[24]。また軍人向けの身体訓練法も考案されていた。
宗教
宗教観は時代によって変化していったとされるが、死後も来世で永遠の生を得るため、魂の器となる肉体をミイラとして保存していた[25]。
古代エジプトの象徴ともいえるものがピラミッドであるが、初期の王墓の形式であったマスタバに代わりピラミッドが成立したのが古王国時代の第3王朝期であり、クフ王のピラミッドを含む三大ピラミッドが建設されてピラミッドが最盛期を迎えたのが第4王朝期と、著名なピラミッドの建設された時期は古王国時代の一時期に限られ、エジプトの長い歴史においては比較的短期間のことである。以後、古王国時代を通じてピラミッドは建設され、中王国時代にも一時建設が復活するものの、技術的にも材料的にも最盛期ほどのレベルに到達することはなく、徐々に衰退していった。ただしそれに代わり、付属の墓地群などが拡大し、葬祭における重点が移動していった。新王国期に入るとピラミッドは建設されなくなり、王の墓は王家の谷に埋葬されるようになった。
注釈
- ^ 上下というのはナイル川の上流・下流という意味であり、ナイル川は北に向かって流れているため、北にあたる地域が下エジプトである(逆もまた然り)。
出典
- ^ 年代区分は松本 (1998)およびスペンサー (2009)を参考にした。ただし、第3中間期の終了とそれに続く末期王朝時代の年代は学者により意見が分かれており定説を見ないが、ここでは26王朝で切るスペンサーの説に拠った。
- ^ 「地図で読む世界の歴史 古代エジプト」p18 ビル・マンリー著、鈴木まどか訳 河出書房新社 1998年7月15日初版発行
- ^ 『世界経済史』p64 中村勝己 講談社学術文庫、1994年
- ^ 松本 (1998), p. 18, 42, 98, 138, 278.
- ^ a b c d e Inc, mediagene (2012年7月20日). “なぜ1日は24時間なの?”. www.gizmodo.jp. 2021年7月20日閲覧。
- ^ 木村, 靖二、岸本, 美緒、小松, 久男 編『詳説 世界史研究』山川出版社、2017年11月30日、21頁。ISBN 978-4-634-03088-6。
- ^ a b c 古代オリエント集. 筑摩書房. (1978年4月30日)
- ^ a b Kodai ejiputojin. David, Ann Rosalie., Kondō, Jirō, 1951-, 近藤, 二郎, 1951-. 筑摩書房. (1986). ISBN 4-480-85307-3. OCLC 673002815
- ^ 吉村作治『ファラオの食卓』 1章
- ^ a b c d “特別プロジェクト:古代エジプトビールの再現 - キリンビール大学”. 麒麟麦酒. 2021年5月14日閲覧。
- ^ 「古代エジプトの歴史 新王国時代からプトレマイオス朝時代まで」p37 山花京子 慶應義塾大学出版会 2010年9月25日初版第1刷
- ^ a b c 古代エジプト人、痛恨のミス 日本の科学がツタンカーメンに挑む|中東解体新書| - NHK
- ^ 「海を渡った人類の遙かな歴史 名もなき古代の海洋民はいかに航海したのか」p138 ブライアン・フェイガン著 東郷えりか訳 河出書房新社 2013年5月30日初版
- ^ a b c “古代エジプトの暮らし<1> 「食」ビール醸造 大発明:中日新聞しずおかWeb”. 中日新聞Web. 2021年5月14日閲覧。
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- ^ Jean Towler and Joan Bramall, Midwives in History and Society (London: Croom Helm, 1986), p. 9
- ^ Reeko (2014年5月2日). “New Research Proves Clever Trick Egyptians Used To Move Those Massive Stones Across The Sand - Geek Slop” (英語). 2023年11月8日閲覧。
- ^ “Mystery Of How The Egyptians Moved Pyramid Stones Solved” (英語). IFLScience (2014年5月5日). 2023年11月8日閲覧。
- ^ 「パンの文化史」p106 舟田詠子 講談社学術文庫 2013年12月10日第1刷発行
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- ^ “スイカ”. いわき市. 2019年10月19日閲覧。
- ^ “古代エジプトの暮らし<2> 「美」青色は復活の願い:中日新聞しずおかWeb”. 中日新聞Web. 2021年5月14日閲覧。
- ^ a b c “古代エジプトの暮らし<3> 「娯楽」西洋音楽の「原型」:中日新聞しずおかWeb”. 中日新聞Web. 2021年5月14日閲覧。
- ^ 『図説 スポーツの歴史―「世界スポーツ史」へのアプローチ』稲垣正浩ほか著、大修館書店、1996年、pp. 14-15. ISBN 978-4-469-26352-7
- ^ “古代エジプトの暮らし<4> 「葬送」来世「永遠の生」を:中日新聞しずおかWeb”. 中日新聞Web. 2021年5月14日閲覧。
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