エジプト式分数
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/27 07:56 UTC 版)


エジプト式分数(エジプトしきぶんすう、単にエジプト分数とも、英: Egyptian fraction)とは、いくつかの異なる単位分数(分子が 1 の分数)の和、あるいは分数をそのように表す方式を意味する。例えば、通常 5/6 で表す分数を 1/2 + 1/3 などと表す。任意の正の有理数はこの形式で表すことができるが、表し方は一意ではない。この形式で分数を扱う方法は、古くは古代エジプトのリンド・パピルスに見られ、ヨーロッパでは中世まで広く用いられた。現代でも数論の分野において、エジプト式分数に端を発する数学上の未解決問題が多く残されている。
単位分数展開
以下、特に断らない限り、単に「分数」といった場合、正の真分数、すなわち 0 より大きく 1 より小さな分数のみを考えているものとする。
例えば 2/5 は単位分数の和として 1/5 + 1/5 と表せるが、エジプト式分数では同じ単位分数を繰り返し用いることはせず、2/5 = 1/3 + 1/15 のように表す。いかなる分数に対してもこのような単位分数展開が必ず存在することは自明ではないが、後述するように今日ではあらゆる分数が無数に多くの単位分数展開を持つことが証明されている(#強欲算法の節参照)。さらに例を挙げると、3/7 = 1/4 + 1/7 + 1/28 = 1/6 + 1/7 + 1/14 + 1/21 であって、前者の展開は項数が最小であり、後者の展開は最大分母の値が最小である[1]。このように、どのような単位分数展開が最も「単純」であるか、は明らかではない。
古代エジプト

エジプト中王国では、ホルスの目を用いたそれ以前の不完全な分数体系(1/2k (k = 1, 2, …, 6) の和で表す)に替わって、エジプト式分数による方法が発達した。エジプト式分数が見られる古い文献としては、エジプト数学革巻き、モスクワ・パピルス、レイズナー・パピルス、カフン・パピルス、アクミム木刻版がある。特に有名なリンド・パピルスは、紀元前1650年頃に書かれたものであり、5 以上 101 以下の奇数 n に対して 2/n を単位分数の和で表している(#リンド・パピルスの展開一覧の節参照)。
古代エジプト人が、いちいちこのように単位分数の和で表した理由については、よく分かっていない。ただ、リンド・パピルスにはパンを分け合う問題がいくつもあって、実際にパンを分け合うにはエジプト式の表示が理に適っている場合がある。例えば、リンド・パピルスの問題3は、6斤のパンを10人で分け合うとき、1人分は 1/2 + 1/10 であることを答とする。6斤のパンをそれぞれ5等分するよりも、5斤を1斤づつ2等分して1片ずつ取り、残りの1斤を10等分する方が簡単である[2]。一方では、合理的とは思えない表示を選ぶ場合もある。リンド・パピルスの問題4は、7斤のパンを10人で分け合う問題であるが、1/2 + 1/5 ではなく、2/3 + 1/30 を答としている[3]。2/3 は単位分数ではないから、この表示は狭い意味でエジプト式ではないが、古代エジプト人にとって 2/3 は特別な数であったらしい。2/3 = 1/2 + 1/6 であることを知っていたにもかかわらず、好んでこの数を用いている。
リンド・パピルスにおける 2/n の表を参照すれば、分母が 100 以下の奇数である多くの分数が、機械的に単位分数の和で表せる。例えば、表より 2/21 = 1/14 + 1/42 であるから、
- 5/21 = 1/21 + (1/14 + 1/42) + (1/14 + 1/42) = 1/21 + 1/7 + 1/21 = 1/7 + 1/14 + 1/42
と計算できる[4]。リンド・パピルスにおいて、2/n に特に注意が払われているのは、古代エジプトの乗法アルゴリズムが2倍を基礎においているためであろう、とも考えられている[5]。
表記
古代エジプト人たちは、2/3 を唯一の例外として、単位分数のみを表記した。単位分数 1/n を表すために、神官文字では点を、神聖文字では
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