ノモス_(エジプト)とは? わかりやすく解説

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ノモス (エジプト)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/13 02:33 UTC 版)

ノモス古希: νόμος, pl.: νόμοι, 古代ギリシア語ラテン翻字: nomos)とは、古代エジプト行政的かつ社会的な地域単位であり、現代のに相当するものである[1]。古代エジプト語ではセパト(spȝt[2])と呼ばれた。本記事では、エジプト語に触れる場合を除きノモスの語を使用する。時代による変遷を経て、最終的に上エジプトに22、下エジプトに20のノモスが確定した[3][4]。ノモスは行政単位であると共に信仰、土木、水利等を管理する地域共同体であり、古代エジプトの人々の生活空間としての役割を果たしていた。

名称と起源

ノモスと言う用語はギリシア語に由来する。ギリシア語におけるノモスと言う語の意味、起源についてはノモスの記事を参照されたい。この用語はアレクサンドロス大王によるエジプト征服と、その後にマケドニア人[注釈 1]によるプトレマイオス朝が成立したことによって使用されるようになり、現代エジプト学での用語としても定着している。エジプト語ではセパトspȝt)と呼ばれた。この語は本来「地区」という意味の語であった[5]。セパトを表すヒエログリフ灌漑用水路を表す格子状の象形である[5]。このことは、その起源が農耕と密接に関係していたことを示す[3]

セパト(ヒエログリフ)
ノモスの位置。特に下エジプトについては未確定の要素が大きいことに注意。メンフィス(Memphis)の南が上エジプト、北が下エジプト。

現代エジプト学では各ノモスは一般的に番号によって言及されるが、各ノモスには固有の名前も存在した。以下にプトレマイオス朝時代のノモスの番号と名称を記す。原則として参考文献『古代王権の誕生 3 中央アジア、西アジア・北アフリカ編』の記述に依った[18]。なお、古代エジプト語名については復元形の差異が激しいことを付言する。

プトレマイオス朝時代のノモス一覧
No. エジプト語 州都(エジプト語) 州都(ギリシア語) 現代の地名(アラビア語) 備考
上エジプト
1 タ・セティ アブウ エレファンティネ ジャジーラ・アスワーン
2 ウチュス・ホル ベフデト・ホル アポロノポリス エドフ 羅:アポロノポリス・マグナ[注釈 2]
3 ネケン ネケン
ネケブ
ヒエラコンポリス
エイレイシアスポリス
コーム・エル=アハマル
カーブ
4 ワセト(ウアセト) イウニ
ワセト(ネウト・アメン)
ヘルモンティス
テーバイ(テーベ、ディオスポリス)
アルマント
ルクソール
5 ネチェルイ(ビクルイ) ゲブチウ コプトス キフト
6 イケル(イティ) タ・ヌ・タレル
イウンティ
タンティラ デンデラ
7 セシェシェト(バト) バティウ
ホウト・セケム
ボポス?
ディオスポリス
ファーオ・キプリー?
ヒーウ
羅:ディオスポリス・パルヴァ[注釈 2]
8 タ・ウア テニ
ヌシャイ
ティニス
プトレマイス
ビルバ?
ムンシャー
アビュドス
9 ムヌウ ムヌウ(イプウ) パノポリス アクミーム
10 ワジェト(ウアジェト) チェブウ(ジャウカ) アンタエオポリス カーウ・アル=クブラ
11 シャイ(スティ) ミケル
セホテプ

ハイプセリス(ヒプセリス)

シュトプ
12 アテフト(ジュウフト) イアクメト
ペル・アンティ

ヒエラコン

アターウラ
13 ヌジュ・フト・ケンテト サウティ リュコポリス アシュート
14 ヌジュ・フト・ベヘテト カイス(キス) クーシス クースィーヤ クサエ
15 ウント ウヌウ(ペル・ジェフティ、フウト・クムヌウ) ヘルモポリス アシュムーナイン 羅:ヘルモポリス・マグナ[注釈 2]
16 マ・ヘジュ ヘベヌウ ヒビス クム・アル=アハマル
17 インプウ ヘヌウ
ハルダイ(カサ)

キュノポリス

キース
18 アンティ(ニムティ) ホウト・ニスウ コーム・アル=アハマル・サワーリス?
19 ウアブウィ ウンスィ
スペル・メル
ペル・マジャイ


オクシュリンコス

カイヤート
バフナサ
20 ナルト・ケンテト ナルト・ケンテト(フウト・ネン・ニスウ、フウト・ネン・ネス) ヘラクレオポリス イフナースヤ・アル=マディーナ 羅:ヘラクレオポリス・マグナ[注釈 2]
21 ナルト・ベフウト スメヌ・ホル
シェン・ケン
クロコディロポリス
アルシノエ
ファイユーム
22 メジュニト ペル・テプ・イフト アフロディトポリス アトゥフィーフ
下エジプト
1 イネブ・ヘジ(イネブ・ヘジュ) イネブ・ヘジ(メン・ネフェル) メンフィス メンフ(ミート・ラヒーナ)
2 イウア ケム レトポリス アウシーム
3 イメンテト ペル・ニブ・イマウ
フウト・イヒト
イマウ
ジナエコポリス

ジナエコポリス
コーム・アル=ヒスン

コーム・アル=ヒスン
4 ナルト・レシト ジェカプル プロソビス? ミノーフ?
5 ナルト・メフテト フウト・ネト サイス サー・アル=ハガル
6 カスウ カスト(カスウ) クソイス サカー
7 ウア・ム・フウ・イムン
ペル・ハア・ニブ・イメンテイ

メテリス

アタフ近隣?
8 ウア・ム・フウ・イアブ グセム?
ペル・イトム

ヘロオンポリス

テル・アル・マスクータ
9 アンジェティ ペル・ウセル・ニブ・ジェドウ ブシリス アブー・シール・バンナー
10 カム・ウア フウト・ヒリィ・イブ(カム・ウア) アトゥリビス テル・アトゥリーブ
11 ヘセブウ チェント・レムウ
テル・レムウ
レオントポリス テル・アル=ミクダーム
12 チェプ・ネチェル チェプ・ネチェル セベンニュトス サマンヌード
13 ヘカ・アンジュウ スウ
イウヌウ

ヘリオポリス

マタリーヤ
14 ケンティ・イアブティ ベヌウ
タルウ

スーレ

カンタラの東
15 ジェフティ バフ(ペル・イクル) ヘルモポリス テル・アル=バクリーヤ 羅:ヘルモポリス・パルヴァ[注釈 2]
16 ハト・メヒト ジェデト メンデス テル・アッ=ルバア
17 ベフデト(スマ・ベフデト) イウ・ヌ・イモン(ベフデト) バラモン(ディオスポリス・パルヴァ) テル・アル・バラモーン
18 イメティ・ケンティ ペル・バステト ブバスティス テル・バスタ
19 イメティ・ベフウ イメト(ペル・ワジェト、ペル・ウアジェト)
ジャント(ジャト)
ブト
タニス
テル・ナバシャ(テル・アル=ファライーン)
サーン・アル=ハガル
20 ソブドゥ ペル・ソポドゥ アラビア サフト・アル=ヘンナ

脚注

注釈

  1. ^ ギリシア語を使用する古代ギリシア人の一派。
  2. ^ a b c d e 古谷野はギリシア語名としてリストするが、ラテン語形であるため備考欄に記す[要検証]。以下のラテン語形も同じ。

出典

  1. ^ 古谷野 2003, p. 259
  2. ^ Provinces of Egypt”. www.ucl.ac.uk. 2017年6月14日閲覧。
  3. ^ a b 古谷野 1998, p. 63
  4. ^ a b 近藤 1997, p.71
  5. ^ a b 古谷野 1998, p. 59
  6. ^ a b c d e f 古谷野 2003, p. 260
  7. ^ a b c 古代エジプト百科 1997, pp. 406-407, 「ノモス」の項目より
  8. ^ a b 古谷野 2003, p. 261
  9. ^ 古谷野 2003, p. 265
  10. ^ a b c d e 古谷野 2003, p. 266
  11. ^ 例えば屋形ら 1998
  12. ^ 州侯位の世襲化、自立、エジプト古王国の崩壊の概略については#屋形ら 1998, pp. 410-416、フィネガン 1983, pp. 254-264 等を参照。
  13. ^ ウィルキンソン 2015
  14. ^ a b c 古谷野 2003, p. 267
  15. ^ 古谷野 2003, pp. 269-272
  16. ^ a b 古谷野 2003, p. 273
  17. ^ 古谷野 2003, p. 269
  18. ^ 古谷野 2003, pp. 264,268

参考文献

主要参考文献

  • 古谷野晃『古代エジプト 都市文明の誕生』古今書院、1998年11月。ISBN 4-7722-1682-0 
  • 古谷野晃「古代エジプトにおけるノモスの形成と発展」『古代王権の誕生Ⅲ 中央ユーラシア・西アジア・北アフリカ篇』角川書店、2003年6月。ISBN 4-04-523003-3 

その他の参考文献

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