21世紀 料理漫画の新世代
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/17 07:54 UTC 版)
「料理・グルメ漫画」の記事における「21世紀 料理漫画の新世代」の解説
1990年代から2000年代にかけて中華料理などジャンルの細分化が進んだのは、日本に多様な国の料理店が開店したり、中食の広まりや食べログの開設によって有名店でなくとも食べに行くようになったことで食文化が成熟したことがグルメ漫画にも影響を与え、特定の料理に特化した漫画が増加・細分化して掘り下げることの先駆となったカレーを主題とした『華麗なる食卓』(ふなつ一輝。週刊ヤングジャンプ)が登場した。ビジネス面も切り込む『ラーメン発見伝』シリーズ(久部緑郎、河合単。ビッグコミックスペリオール)は後に特定のメニューだけで商売が成立するのかという経営のことを考える作品が登場する影響を及ぼした。1990年代から2000年代にはB級グルメブームが起こり、それにより漫画では『駅前の歩き方』(森田信吾。モーニング)、『食キング』(土山しげる)、同時期には大食いブームもあり、『喰いしん坊!』のようなそれまでのグルメ漫画ではなかった大食いやとにかく食べ続けることを主題とした作品も登場した。 『焼きたて!!ジャぱん』は企業とグルメ漫画のコラボ商品が大ヒットした先駆だが、当初は作中で料理を食べたときのリアクションをパロディとして扱っていたのがあくまでもイメージだったものが実際に影響を与えるほどとなり、同作でそれをやり過ぎてしまたことでグルメ漫画で大仰なリアクションは減少したとの見方もある。 『神の雫』(亜樹直、オキモト・シュウ。モーニング)は日本のみならず韓国やフランスでワインブームを起こし、作中に登場するワインの人気が急上昇して出荷停止になるほどであった。作中でワインを評するときの表現はより進歩し、『焼きたて!!ジャぱん』のようにギャグありきではなく芸術品や風景に喩えたのはリアクションが説得力が増したといえる。 2000年以降は時代を反映してプロではない素人による家庭料理を題材にした『おうちごはん』(スズキユカ)、『花のズボラ飯』(久住昌之、水沢悦子)、『リトル・フォレスト』(五十嵐大介。月刊アフタヌーン)や、料理男子の増加によって男性が作って女性に食べてもらう『まかない君』(西川魯介)、『どんぶり委員長』(市川ヒロシ。WEBコミックアクション)、『にがくてあまい』(小林ユミヲ。EDEN)が登場した。 2000年代には女性主人公の作品が増加し、『ちぃちゃんのおしながき』(大井昌和)や少女が憧れの対象として特にパティシエを目指したりその職をメインに据えた『キッチンのお姫さま』(小林深雪、安藤なつみ。なかよし)、『夢色パティシエール』(松本夏実。りぼん)、『パティスリーMON』(きら。YOU)が登場。2000年代後半になると、1人で食事を楽しむ『孤独のグルメ』のフォロワーが多く登場。同作は1994年開始だが、同年代のグルメものでは『クッキングパパ』は家族で料理を食べ、『将太の寿司』は一人で食べるのは楽しくなく家族愛こそが必要という話が幾度もあり、『料理の鉄人』は豪華な食材を惜しまず使っていたため中年男性が1人で外食するのは特異と見られた。同作は筆者の久住昌之が泉晴紀とのコンビ泉昌之として1981年に発表した短編『夜行』が源流で、作中でトレンチコートの男性が夜行列車で弁当をどうバランスよく楽しんで食べていくかが描かれ、『孤独のグルメ』の主人公、井之頭五郎の原型とも考えられている。2000年代になると五郎の特徴的な台詞がインターネット上で話題となり人気が出て、『夜行』から30年ほどかかって中年男性が一人飯にこだわることが広く受け入れられた。両作はそれまでよくあった料理を作る人でもグルメの知識豊富な評論家的な主人公でなくとも食べることを好み、多少のこだわりを持つ主人公の先駆けで、それほど時間がかかって受容されるようになったのは漫画では他にはないと杉村は指摘している。 ジャンルの細分化の果てである全体的にファンタジー世界である『トリコ』(島袋光年。週刊少年ジャンプ)では、読者から作中に登場する食材などを募集、以前よりそういったことは漫画ではあったが全43巻で完結近くまで応募が続いたのは同種の企画の中で最も成功した部類で、また同作のアニメを見た子供が主人公に倣って食事のときに手を合わせるようになったこともあり、食育の最も基本を子供に広めたとの見方もある。 野球漫画の構造を取り込んだ『包丁人味平』によってパターンが確立され、評論家を主人公にした『美味しんぼ』が新たな歴史をつくった料理漫画は、その後も多様な作品が書かれ続け、「雑学」「レシピ」「大食い」「日常」などジャンルの細分化も起こっている。どの週刊誌にも料理漫画が連載された時期もあり、このジャンルは漫画にとって欠かせないものとなっていった。『美味しんぼ』を経験した料理漫画の新世代は、「主人公が料理をするとは限らないため」、料理という語を取り除き「食マンガ」といった名称で呼び始める。身近で低価格な料理や家庭料理を焦点にした漫画も増え始めた。ラーメンをテーマにした『ラーメン発見伝』や駅弁をテーマにした『駅弁ひとり旅』といった一つの料理に絞った作品も登場し、ハンバーガーをテーマにした『本日のバーガー』(花形怜、才谷ウメタロウ。週刊漫画TIMES)、燻製をテーマにしたの『いぶり暮らし』(大島千春)、うなぎをテーマにしたの『う』(ラズウェル細木。モーニング)など、一つの料理の堀下げが主流となっていく。芝田隆広は新たな世代の「食マンガ」の特徴として、「漫画的な誇張がされていても実際に購入したり調理すれば食べられる料理」や、「味や素材にこだわりがあってもあくまで身近な料理に手をかける点」を挙げている。 実在する飲食店が作中に描かれる『愛がなくても喰ってゆけます。』(よしながふみ)、『いつかティファニーで朝食を』(マキヒロチ。月刊コミック@バンチ)、『三十路姫』(伊藤静)、『みつめさんは今日も完食』(山崎童々、ツレヅレナツコ)、『ごほうびおひとり鮨』(王嶋環。ふんわりジャンプ)なども登場した。 2010年代はより細分化が進み、『放課後のトラットリア』(橙乃ままれ、水口鷹志)、『ダンジョン飯』(九井諒子。ハルタ)、『異世界居酒屋「のぶ」』『異世界食堂』『とんでもスキルで異世界放浪メシ』、『幻想グルメ』(天那光汰、おつじ。ガンガンONLINE)のように異世界ファンタジーやなろう系小説のコミカライズのグルメものや、『お肉ガール』(川本スガノ)、『肉女のススメ』(小鳩ねねこ)、『肉食女子!!』(城谷間間、青木健生)少女と肉の取り合わせの作品である作品が登場したのは調理器具の発達で低温調理や真空調理が身近になり日本人の肉に対する意識が変化したためとされる。異世界舞台のグルメものは現代にある料理を異世界の人々に食べてもらうパターンと現実にはない食材を使って料理を作って楽しむパターンに主に分けられる。同年代は女性主人公が食べたり飲んだりする作品が増え、先駆けとして『ワカコ酒』(新久千映)があり、「同年代は女性の一人居酒屋ブーム、男性の割合が多い趣味を女性することが増えた遠因に同作でそれが可視化されたため」とされる。女性に続いてボーイズラブ出身者による男性の食事姿を官能的に描く作品『めしぬま』(あみだむく)、『イケメン共 メシを喰え』(東田基)、『男子、隣人と食せよ』(森世)、『男のやる気メシ!』(鬼嶋兵伍)なども登場した。 2000年代以降は細分化が進んだが別ジャンルとの複合化も多くなり、『信長のシェフ』(歴史。西村ミツル、梶川卓郎。週刊漫画TIMES)、『紺田照の合法レシピ』(極道。馬田イスケ。少年マガジンR)、『頂き!成り上がり飯』(ヤンキー。奥嶋ひろまさ)、『山と食欲と私』(山ガール。信濃川日出雄。くらげバンチ)、『不倫食堂』(不倫。山口譲司。グランドジャンプ)、『将棋めし』(将棋。松本渚。コミックフラッパー)、『シネマごはん』(映画。福丸やすこ)『とんずらごはん』(指名手配犯。義元ゆういち。マンガボックス)、や、漫画家との取り合わせ『めしにしましょう』(小林銅蟲。イブニング)『光れ!メシスタント』(310)、『漫画家接待ごはん』(瀬口たかひろ。月刊少年エース)が登場した。また、 女子高生が罠猟で野生動物の被害を防ぐ攻防を描く『罠ガール』(緑山のぶひろ。電撃マオウ)、青果市場の仲卸業に入社した主人公の視点から青果物の魅力や取引を描く『八百森のエリー』(仔鹿リナ。モーニング)のような農業をテーマとした作品が登場したのは吉村和真は料理やグルメからその裏の生産にも興味と持ったことや暗く描かれることが多かった農村や農家が少年の成長や少女の居場所として題材とされるようになったとみている。 2010年代開始のグルメ漫画は数百作に上るブームとなり、「料理を題材にすれば多数のジャンルとの取り合わせしやすく、食に無縁だったり嫌いな人はほとんどおらず、読者を得るとっかかりの良さがあり、それによって漫画家の技術や知名度とはあまり関係なく、巻数が短い場合は挑戦的な主題を扱いやすいこと」が理由との見解があり、グルメ漫画専門の漫画雑誌『まんぷくジャンプ』(集英社)、『モーニング食』(講談社)、『食漫』(日本文芸社)が増刊として発行されたり、『ごはん日和』(ぶんか社)、『いただきマス幸せごはん』(芳文社)、『県民食堂なつかし屋』(ガイドワークス)、コンビニコミック『ぐる漫』(少年画報社)も登場した。
※この「21世紀 料理漫画の新世代」の解説は、「料理・グルメ漫画」の解説の一部です。
「21世紀 料理漫画の新世代」を含む「料理・グルメ漫画」の記事については、「料理・グルメ漫画」の概要を参照ください。
- 21世紀 料理漫画の新世代のページへのリンク