笠松競馬の関係者が馬券購入等で申告漏れ
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「2021年の日本競馬」の記事における「笠松競馬の関係者が馬券購入等で申告漏れ」の解説
「2020年の日本競馬#できごと(6月23日・8月1日)」および「笠松競馬場#騎手・調教師の不適切事案続出と開催自粛」も参照 1月19日の報道で、笠松競馬に所属する騎手や調教師など約20名が名古屋国税局の税務調査において、2019年までに約3億円超の申告漏れを指摘され、修正申告していたことが判明。日刊スポーツによると、このうち約2億円は騎手や調教師が知人等の名義で購入して的中させた馬券の払戻金から、外れ馬券などの経費を差し引いた利益で、自身の所得として申告しておらず、所得隠しと認定されたとみられるとしている。笠松競馬では2020年に競馬法違反(馬券購入)の疑いで警察の家宅捜索を受け、騎手や調教師4名が免許を更新せず、2020年8月1日までに引退しているが、国税局の指摘にはこの4名も含まれている。このほか、調教師約10名は人件費やえさ代を水増しして、所得を圧縮していたことが所得隠しと認定された。朝日新聞によると、2020年に警察の家宅捜索があった際、引退した4名のほかに馬券を購入した騎手らの実名が競馬関係者等から岐阜県地方競馬組合(以下「組合」と表記)へ伝えられていたというが、組合は「警察じゃないので」として取り合わなかったという。組合は2020年9月から10月にかけて騎手や調教師・厩務員117人に聴取を行ったが、「現役の競馬関係者に違法な馬券購入は認められなかった」と結論付けた。岐阜県警は3月3日、元騎手ら5人(競馬法違反容疑で3人、競馬法違反・犯罪収益移転防止法違反容疑で1人、犯罪収益移転防止法違反容疑で1人)を書類送検する方針を固め、3月10日に5人を書類送検。岐阜区検察庁は3月29日に、元騎手ら4人を略式起訴。調べによると、元騎手3人は「体調不良で勝負にならない」といった競走馬の内部情報をもとに買い目を決め、レース当日にチラシの裏に書いて元調教師に手渡し。元調教師は3人が騎乗するレースの馬券を購入したという。岐阜簡易裁判所は被告の元騎手らに対し、4月12日付で罰金30 - 40万円の略式命令を出した。 当時の組合副管理者で岐阜県知事の古田肇は1月19日の記者会見で「第三者委員会を設置し、他に競馬法に違反して馬券購入が行われたケースがないか調査する」と明らかにした上で、2月中はレースを中止し、3月の再開を目指すと表明した。古田は1月20日の記者会見で組合への実名告発の件にも言及し、「組合の調査が甘かった」と述べた。組合は1月22日、真相究明を図るとともに再発防止策等の検討を行うため、弁護士や税理士4名で構成される第三者委員会「笠松競馬不適切事案検討委員会」を設置した。古田は3月10日に行われた県議会定例会の一般質問に対する答弁で、第三者委員会が3月中にも関係者への聞き取り調査の結果をまとめる見通しであることを明らかにし、調査結果を踏まえ「すみやかに再発防止策を取りまとめ、レースの公正を確保できる仕組みを改めて構築し、実行する」と述べた。組合は3月23日に行われた定例議会で、外部有識者による常設の監視委員会を設置することを検討中であることを説明したほか、3月中に第三者委員会の調査報告を受け、4月に処分委員会を開き対象者の処分を決定。あわせて再発防止策もまとめ、5月中にレースを再開する見通しも示した。 笠松競馬不適切事案検討委員会は4月1日、組合に対し調査結果を報告。報告書によると、笠松競馬の厩舎関係者による馬券購入にかかわる所得、および事業所得の経費水増しや過少申告による修正申告の合計額は約3億円あまりで、関与した人数は馬券購入が11人、経費水増し・過少申告が7人(2020年に引退した4人も含む)で、大半が騎手・調教師。1月末現在で笠松に所属する全34名のうち、およそ4割に上った。2012年より騎手や調教師が馬の情報を共有するグループを作り、不正に馬券を購入。打ち合わせは調整ルーム内で行われていた。グループ購入した馬券の管理は調教師の妻名義の口座で管理し、2020年6月まで同様の行為が続けられていた。このほか、複数の人物から騎手らによる「八百長」があった旨の供述があったものの、自己評価にとどまるものであることに加え指摘されたレースも一定ではなかったため、委員会は事実認定するには至らなかった。騎手らによる馬券の購入が10年以上にわたって続いた原因として、法令順守意識や公正競馬を担う者としての自覚の欠如に加え、組合の怠慢も指摘している。組合は調整ルームへの携帯電話の持ち込み禁止ルールを長期間にわたって徹底しなかったほか、問題発覚前は調整ルームから騎手が頻繁に外出することもあったといい、不正が入り込みやすく、助長させていたと指摘した。また、現役の調教師1名が女性厩務員や組合の女性従事員に対し、セクハラ行為を常習的に行っていたことも認定。組合は2018年7月に、当該調教師に誓約書を提出させたが、以後も被害は継続され、抑止効果が認められなかったうえ、組合も積極的に対応しなかったことも問題視した。第三者委員会は再発防止策の提言として、調整ルームの厳格化や検査体制の強化・拡充に加え、厩舎関係者や組合職員に対する研修制度を導入することや新たな罰則の設立、立法化などが必要と指摘した。 組合は再発防止策として管理者に岐阜県副知事の河合孝憲が就任し、笠松・岐南両町長は副管理者とした。また、厩舎関係者を指導する組合職員へ法令遵守の研修会、帳簿作成や必要費用を認識させるため税務署等による研修会、厩舎関係者の同居親族、セクハラ撲滅に向けた研修会を新たに行う(全ての競馬関係者の参加を義務化)ほか、警察や地方競馬全国協会から外部講師を招いて行う研修会の回数を増やし、内容も拡充。このほか、調整ルーム内の監視カメラ増設、外出時の監視強化、業務エリアの監視強化、騎手エリアと調教師エリアの分離に加え、組合内に「公正確保対策推進会議」、組合外にも外部委員(弁護士・税理士・有識者)による「運営監視委員会」を新設する。組合は5月14日付で管理者と副管理者2名で構成する「最高運営会議」を設置。また、公正確保の強化を目的に専任の運営監察監を配置し、公正確保推進課(3名体制)を設置したほか、5月17日付で管理者代行・運営監察監・事務局長・各課長からなる「公正確保対策推進会議」を設置。6月1日には競馬関係者が不正行為を通報しやすくなるように「内部通報制度」を新設したほか、一般の競馬ファンからも広く情報提供や意見を募集するページを開設した。このほか、「笠松競馬場の公正確保に向けた倫理憲章」を策定しホームページで公開した。 組合は4月8日までに、既に引退した元騎手・元調教師4名について処分の中で最も重い「競馬への関与禁止」、所属中の騎手・調教師のうち関与が明らかになった8名については2番目に重い「一定期間の競馬関与停止」の処分とする方針を固め、4月21日に処分対象者と再発防止策を発表。馬券購入に関して中心的役割であった元騎手・元調教師4名は「競馬関与禁止」、馬券購入に関与していた調教師・騎手8名については「6か月 - 5年の競馬関与停止」となった(このうち公訴時効が成立していない騎手2名については、別途刑事告発を行う)ほか、所得の過少申告が認定された9名の調教師には「戒告・賞典停止」(このうちセクハラ行為を認定された調教師1名には「戒告・賞典停止」に加え「90日間の調教停止」も追加)とされた。不正行為等報告義務違反と認定された騎手9名に対しては「戒告」の処分が下された。当時組合管理者の古田聖人笠松町長、構成団体の古田肇岐阜県知事は監督責任があるとして、減給処分となった。「関与禁止」と「関与停止」はともに調教や競馬場への入場ができなくなるなど競馬に関係する活動が禁じられるが、「関与禁止」は事実上の永久追放となり、今後騎手や調教師としての活動は難しくなる。これに対し、競馬関与停止処分を受け免許が取り消された元騎手2名が5月31日付で、組合と地方競馬全国協会を相手取り、処分の取り消しを求める訴訟を岐阜地裁に提起した。岐阜地裁は2022年3月25日に、原告1人の処分を取り消す判決を言い渡したほか、処分取り消しを損害賠償に切り替えた元騎手には慰謝料などとして110万円の支払いを命じた(組合が名古屋高裁へ控訴)。また、セクハラ行為を認定され組合から調教停止処分を受けた調教師について、地方競馬全国協会が免許を更新しなかったことを公表。調教師は8月1日付で引退となった。岐阜県警は組合が刑事告発した元騎手2名について、自身が騎乗する馬の情報を提供した見返りに賄賂を受け取っていた競馬法違反の疑いで書類送検したが、岐阜地検は「犯罪を証明するに足る十分な証拠がない」として、不起訴処分とした。 地方競馬全国協会は4月22日、組合による処分を受け免許上の措置を行ったと発表。競馬関与停止処分となった調教師3名・騎手5名について「競馬法施行規則第45条第6項において準用する同規則第25条第3号及び地方競馬全国協会業務方法書第30条第3号」により、4月21日付で免許取消とした。また、全国の主催者の責任者、地方競馬関係団体及び地方競馬全国協会で構成される「全国公正確保対策推進会議」を開催し、全国的な対応策を取りまとめるとした。地方競馬全国協会は4月27日に開いた記者会見で、理事長の塚田修が陳謝するとともに、地方競馬全体として公正確保に関する調査と指導、外部との不正な連絡の排除と監視・管理の強化徹底、免許および厩務員認定の厳格化など9項目の再発防止策を発表した。競馬関与停止処分で免許取消となった者は処分が明ければ再受験も可能だが、地方競馬全国協会は「再び免許を取った人はいない」としている。笠松競馬場の1競走における出走可能頭数(フルゲート)は12頭となっているが、免許取消騎手が発生したことで残った所属騎手は10名となり、東京スポーツは「自前の騎手だけで運営することは難しいと言わざるを得ない」としている。 岐阜県議会は4月27日に議員協議会を開き、組合構成団体の岐阜県から処分内容や再発防止の取り組みに関する説明を受けた。議員からは「これだけ多くの関係者が不正に関与した背景には、騎手らの年収の低さがあるのではないか」「外部委員の指導がしっかりと入らなければ、内部体制を強化しても同じことの繰り返しになる」など、厳しい追及が相次いだ。古田県知事は5月18日の定例会見で、再発防止策として設置された「運営監視委員会」の初会合を18日に開いたうえで、新体制のもとで6月にも総務省に指定手続きを申請、早ければ7月に競馬開催を再開するとの見通しを示したが、組合管理者の河合副知事は6月1日に、複数の騎手・厩務員が所得を過少申告していた疑いがあることを明らかにし、騎手や調教師ら関係者114人の確定申告に漏れがないかを再調査するため、7月を目指していた競馬開催の再開を延期すると発表。「調査に時間がかかれば、7・8月の再開も難しい」との見通しを示した。組合は騎手や調教師・厩務員84人が調教手当や協賛レースの賞金を申告していなかったことなど、総額1億6700万円の申告漏れを自主的に修正申告したことを明らかにし、対象者を文書注意や訓告などの処分とした。 岐阜県調騎会会長の加藤幸保は組合を通じて5月11日付で謝罪メッセージを発表したが、5月12日に組合は新たな処分事案の発覚を公表。所属騎手1名が、競馬予想を行っている元騎手がSNS上で実施した懸賞に応募し、現金10万円を受け取っていたというもの。当該騎手は馬券購入に関与したなどとして処分されたうちの1人で、組合の調査に対し「レースが中止されていたので生活費の足しにした」と話している。組合は管理者指示事項違反(公正を害する恐れがある行為)として5月25日に処分を発表し、現金を受け取った騎手を騎乗停止15日、騎手が所属する厩舎の調教師を戒告・賞典停止2日とした。 これらの不祥事が相次いだことから、組合は1月19日から笠松競馬の開催を自粛したほか、他地区地方競馬・JRAの場外発売も自粛。組合管理者の河合副知事は、笠松町・岐南町が8月4日に公営競技施行団体の指定を受けたことに加え、再発防止策等の整備が完了したとして、笠松競馬の開催を9月8日から再開すると発表した。9人にまで減少した騎手は名古屋所属騎手から出場の了解を取り付けたが、自粛期間が約8か月に及んだため、再開に先立ち8月9日から13日にかけて競馬開催演習(能力審査)を実施。演習の様子はインターネットでも公開した。JRAは2月28日以降、笠松での相互発売や競走面での交流を当面の間見合わせていたが、交流を再開すると発表。JRAネット投票での笠松の馬券発売は9月22日、J-PLACE笠松・恵那での中央競馬の発売は10月2日から再開。JRAとの人馬交流競走は、12月15日の「冬萌特別(サラ系A3・JRA3歳以上1勝クラス、1400m)」より再開。 岐阜新聞の報道によると、笠松競馬に所有馬を預けていた馬主の会社が「開催自粛により損害を被った」として組合などを相手取り、7月19日付で損害賠償請求訴訟を岐阜地方裁判所に提起した。訴状によると、組合は自粛に伴い出走手当や賞金などの相当額を支払ったが、原告側はいずれも不足していると主張。「自粛の原因は組合が調教師・騎手らの指導管理義務を怠ったのが主で、馬主らに対して生じた損害は組合に賠償義務がある」などとしている。
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