な・る【成る/▽為る】
読み方:なる
[動ラ五(四)]
1 物事ができ上がる。実現する。成就する。「ついに五連覇が—・る」「念願—・って一人立ちする」
2 今までと違った状態・形に変わる。「氷が水に—・る」「血と—・り肉と—・る」
3
㋐ある時分・時期などに至る。「夜に—・る」「結婚して一〇年に—・る」
㋑ある数値に達する。「積み上げると三メートルにも—・る」「全部で千円に—・る」
4 ある働きをする。作用する。「不用意な発言が紛糾のもとと—・る」「将来のために—・る話」
5 許すことができる。許して、よいとする。「負けて—・るものか」「勘弁—・らない」→ならない2
6 (「手になる」「筆になる」などの形で)その人によってつくられる。「名工の手に—・る茶碗」「空海の筆に—・る書」
7 (「…からなる」の形で)全体がそれによって構成される。「前編と後編とから—・る」「組織は三部門から—・る」
8 (「人の…になる」の形で)他からその恩恵を受ける。「先輩の世話に—・って就職する」「出先でごちそうに—・る」
9 将棋で、王将・金将以外の駒が、敵陣三段目以内に入ったとき、また、そこに打ったそれらの駒が動いたとき、裏返しになり、飛車・角行(かくぎょう)は本来の働きのほかに金将・銀将の働きをあわせもち、他の駒はすべて金将と同じ働きをするようになる。
13 (「お…になる」「ご…になる」の形で)尊敬の意を表す。…なさる。「お休みに—・る」「ご訪問に—・る」
14 (中世以降、動作を表す名詞に付いて)非常に高い敬意を表す。…なさる。…になる。
「法皇、夜を籠(こ)めて、大原の奥へぞ御幸—・る」〈平家・灌頂〉
[可能] なれる
[下接句] 足が棒になる・朝(あした)には紅顔ありて夕べには白骨となる・後の雁(かり)が先になる・後は野となれ山となれ・打って一丸(いちがん)となる・絵になる・男になる・女になる・陰になり日向(ひなた)になり・江南(こうなん)の橘(たちばな)、江北の枳(からたち)となる・様(さま)になる・杓子(しゃくし)は耳掻(みみか)きにならず・朱に交われば赤くなる・相撲にならない・泉下の客となる・滄海(そうかい)変じて桑田(そうでん)となる・塵(ちり)も積もれば山となる・土になる・毒にも薬にもならない・虎(とら)になる・習い性(せい)となる・根葉(ねは)になる・灰になる・馬鹿(ばか)にならない・馬鹿になる・白玉楼中の人となる・話にならない・人となる・身二つになる・ミイラ取りがミイラになる・水になる・目頭が熱くなる・物になる
する【▽為る】
読み方:する
1
㋐ある状態・現象の起きたことやその存在がおのずと感じられる。「稲光がする」「地鳴りがする」「物音がする」「においがする」「寒けがする」「動悸(どうき)がする」
㋑ある状態になる。ある状態である。「がっしりした骨組み」「男好きのする顔」
㋒(金額を表す語に付いて)それだけの価値である。「五億円もする絵」「その洋服いくらした」
㋓(時を表す語に付いて)時間が経過する。「一年もすれば忘れるだろう」
2
㋐ある事・動作・行為などを行う。意図的にその物事・行為を行う場合から、ある状態や結果になるような動作・行為を行う場合、結果としてある事を行ってしまったり望まないのにそうなったりする場合など、いろいろに用いられる。「運転をする」「仕事をする」「いたずらをする」「道路を広くする」「負担を軽くする」「女らしくする」「大損をする」「やけどをする」「下痢をする」
㋑ある役割を努める。ある地位にあって働く。また、そのことを仕事として生活をささえる。「司会をする」「仲人をする」「料理長をしている」「商売をする」
㋒(多く「…を…にする」「…を…とする」の形で)人や物事を今とはちがった状態のものにならせる。ある地位に就かせたり、ある用に当てたりする。「息子を先生にする」「彼を会長にする」「肘(ひじ)を曲げて枕とする」「失敗を教訓として生かす」
㋓ある状態・性質であることを示す。「鋭い目付きをした男」「むじゃきな顔をした子供たち」
㋕…であると判断をくだす。みなす。また、決定する。選んでそれに決める。「まあ、これでよしとしよう」「友をよき競争相手とする」「出場を取りやめにする」「私は、コーヒーにする」
3 (補助動詞)
㋐(動詞の連用形、または、サ変複合動詞の語幹に助詞「は」「も」「こそ」「さえ」などを添えた形に付いて)その動詞の意味を強調する。「雪は降りはしたが積もらなかった」「泣きもしない」「感謝こそすれ、恨むわけがない」「顔を出しさえすればよい」
㋑(「…うとする」「…ようとする」の形で)もう少しである作用・状態が起こりそうになる。また、今にもある行為をしそうになる。「日が沈もうとしている」「飛びかかろうとする」「時が過ぎようとする」
㋒(「…とする」「…とすれば」「…としては」「…にしては」などの形で)…と仮定する、…の立場・レベル・段階で考える、などの意を表す。「今、台風が上陸したとする」「習作とすれば上々の出来だ」「親としては心配するのは当然だ」「冬にしては暖かい日が続く」
㋓(「…にしても」「…としても」の形で)そのような場合でも、の意を表す。「どんなに急いだにしても間に合わなかっただろう」
㋔(接頭語「お」「ご」の付いた動詞の連用形、または、サ変複合動詞の語幹に付いて)謙譲の意を表す。「お届けする」「お伴します」「ご案内します」
[補説] (1) 語種(和語・漢語・外来語)を問わず、名詞・副詞や形容詞・動詞の連用形などに付いて多くの複合動詞がつくられる。その際、語幹が1字の漢字のものなどは「案ずる」「論ずる」「応ずる」「重んずる」のように「〜ずる」となるものが多い。これらは、また「案じる」「論じる」「応じる」「重んじる」と上一段としても用いられ、さらに「愛する」「解する」「略する」などは五段にも活用する。(2) 口語の未然形には「せ」(打消しの助動詞「ず」「ぬ」が付くときの形)と「し」(打消しの助動詞「ない」が付くときの形)がある。使役や受身の助動詞が付くとき(サ変複合動詞のうち語尾が濁るもの以外)、「せさせる」「せられる」となるはずであるが、多く「させる」「される」のようになる。この「さ」は未然形として扱うことになる。(3) 命令形は、古くから現在まで「せよ」が一貫して用いられるが、中世後期から「せい」が(今日でも関西方言で用いられる)、近世以降は「しろ」が用いられるようになる。(4) 助動詞「き」へ接続する場合は、終止形「き」には連用形の「し」から(「し=き」)と原則どおりであるが、連体形「し」・已然形「しか」には未然形「せ」から(「せ=し」「せ=しか」)続くという変則の承接をする。
[下接句] 足を棒にする・意とする・家を外にする・内を外にする・海を山にする・公にする・己を虚(むな)しゅうする・玩具(おもちゃ)にする・肩で息をする・気にする・軌を一(いつ)にする・揆(き)を一(いつ)にする・客をする・苦にする・臭い物に蓋(ふた)をする・口にする・首を長くする・言(げん)を左右にする・虚仮(こけ)にする・心を一(いつ)にする・心を鬼にする・異(こと)にする・小馬鹿(こばか)にする・杯(さかずき)をする・辞(じ)を低くする・袖(そで)にする・為(ため)にする・手にする・徳とする・亡き者にする・馬鹿(ばか)にする・鼻を高くする・懐にする・本気にする・枕(まくら)を高くする・身を粉(こ)にする・水にする・耳にする・無にする・無下(むげ)にする・目にする・目を皿にする・目を三角にする・目を丸くする・物ともせず・物にする・横の物を縦にもしない・余所(よそ)にする・諒(りょう)とする・労を多とする・悪くすると
為る
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/16 13:30 UTC 版)
為る(する)とは、ある主体が主体的な活動や在り方として、一つの状況を成り立たせる行為や作用を行う事。抽象的な様態から具体的作用および行為まで、幅広く用いられる。唯一の単体のサ変動詞。これは日常的によく使われる語だからであって、この種の語は歴史的に文法や音韻規則が変化していっても、それに従って形態を変えることが嫌われ、長く古形を残すことが多いからである。なお、名詞および副詞などに付いて多くの複合動詞がつくられ、これをサ行変格複合動詞(サ変複合動詞、サ変動詞と略する)という。
日本語の文法における為る
動詞の中で最も基本的な単語の一つで、前述の通り用法は、抽象的な様態から具体的作用および行為まで幅広い。意味は、
- 物事を行う事。
- 人や物をある状態にしたり、別のものに変える事。
- 物事が起こる事。
- 意志を示す。
- 何かの役割を行う事。
- ある状態を取る事。
等に分けられる。また、他動詞と自動詞の両方の意味を持ち、上記のうち、1.、2.、4.、5.が他動詞、3.、6.は自動詞である。なお、敬語は尊敬語がなさる、謙譲語がいたす。
他動詞の文型
AはBを為る
最も一般的な用法で、Bは必ず名詞である。無意志的な状態を示すものと、意志的な行為を示すものの2種類に分類される。
無意志的な状態を表す為る
- 状態を表す無意志的な為る
対象となる人や動物の身体が、ある状態をしている様を客観的に述べたもので、Bの上には、必ず修飾語が冠する。身体部分以外でも、格好、表情、様子など、外見に表れた特徴や主体の持つ性質をBに立てることも出来る。また、物でも、外観に表れた特徴として用いることが出来る。
- 行為を表す無意志的な為る
Bに、あくびや咳等の生理現象が入る時にも「為る」を使うことが出来る。
意志的な行為を表す為る
- 行為と状態を表す意志的な為る
装身具などを身につける時も「為る」が用いられる。つけるという行為によって身体の外面的状態となる物で、正確には、無意志的な状態と意志的な行為を表す意味の中間といえる。
- 行為を表す意志的な為る
主に1.の意味と4.の意味の2つに大別される。前者は、「やる」、「行う」に言い換えられるが、後者は「やる」としか言い換えられない。
AにBを為る
ある行為および活動を行うとき相手Aに対してなされる場合に使われる。Bは本来、動作概念を含んだ名詞が立つ。なお、施すに置き換える事が出来る。
AをBに為る
人や物をある状態にしたり、別のものに変える場合や、意志を示す時に使う。Bには、名詞、形容詞の語幹又は、連用形が来る。
代動詞的用法
英語のdo(後述)に一部類似した代動詞的な用法があり、一般に他の動詞の連用形(他動詞でも自動詞でもよい)に、または助詞を介して接続する。例えば「海や死にする」(『万葉集』)、「死にはしない」、「死んだりするか」のような否定的用法、「死にもする」、「食べたり飲んだりする」のように動詞の反復を避ける用法がある。近畿方言の否定助動詞「へん」も「は-せぬ」に由来する。
自動詞の文型
……が為る
がの主格には、無意志的な現象(すなわち音、匂い、味、寒気などの身体現象など)が入る。「なる」への言い換えは出来ない。
……と為る
……には、副詞や形容動詞が入り、「……になる」に置き換える事が出来る。
……は……に為る
意志的な決定(すなわち、4.の意味)を持つ。自己決定だが、他者決定の「……になる」という形式を取る事が多い。
サ行変格複合動詞としてのする
するは、前述の通り、以下のような語の下につき、動詞に転化させる。
- 名詞-「行動する」、「哲学する」、「信ずる」 古くは専ら動作性の名詞だけが付いたが、昭和末期以降、物名詞の付いた形も用いられるようになった。これについては、下記を参照。多くは漢語が上に付くが、和語の名詞が上に付くこともある。また、外来語の場合は、「スタートする」などの英語における動詞につく事が多い。
なお一文字の漢語の時は、ウまたはンで終わる場合に「講ずる」「信ずる」のように濁る。さらに現代では複合動詞との意識が希薄となって一般の動詞との類推が働き、「-ずる」から「-じる」に音が転じる傾向があり、それに併せて活用が上一段活用になる(サ変の上一段化)ことや、「愛する」のように五段活用「愛す」になる(サ変の五段化)こともある。このため、このパターンの活用は、三種類ある。 - 状態の副詞-「どきどきする」、「ゆったりする」 おのおの独立した「副詞+する」と間違えやすく、文中における働きによって区別する。(副詞部分に「と」をつけたり、副詞部分を文のより前の位置に移動したりすると文が成立しなくなる場合は複合動詞である)
- 形容詞の語幹に「ん」がついたもの-「重んずる」「甘んずる」 「-ずる」の形になる。接尾語「み」のついた「-みする」が「-んずる」へと変形(撥音便)したもの。さらに「甘んじる」のように上一段活用にも活用が変化する。
- 副詞「全く」のウ音便「全う」- 「全うする」 「全う」は文語形容詞「またし」の連用形とも考えられるが、形容動詞「全うだ」の語幹とは意味が異なる。
このとき出来る語をサ行変格複合動詞という。
現在
為るは、現在日本語の乱れの一因とも言われるが、これは、日本語の動詞が少ないがゆえに起きた結果であり、日本語の語彙を増やした功労者と考えるのが妥当である。しかし、「科学する」「哲学する」などの動作性のない名詞に、するをつけることなど乱れは現に存在する。これは、元々1940年に「科学する心」と言う題名の著作を第2次近衛内閣の文部大臣橋田邦彦が発表したのが最初であるとされる[誰によって?]。
為るの活用
- 未然形-(口語)し、せ、さ(文語)せ
- 連用形-(口語・文語共に)し
- 終止形-(口語)する、(文語)す
- 連体形-(口語・文語共に)する
- 仮定形-(口語・文語共に)すれ
- 命令形-(口語)しろ、せよ(文語)せよ
なお、口語の未然形の「し」は助動詞の「ない」「よう」が、「せ」には「ず」「ぬ」が、「さ」には「れる」「せよ」が後に付く。
他言語の文法における為る
英文法におけるdo
英語において為るは主に、doと訳されるが、場合によっては、play(ゲームやスポーツ)、make(演説や訪問)となることがある。基本的には「do+名詞」の形で用いられるが、前に出た動詞句の重複を避けるため、また強調するために、代動詞として使われたり、疑問文および否定文に対し、be動詞以外の動詞を省略して代用するのにも使われる。疑問文および否定文にdoが必須であるのは英語の特徴だが、上述のように日本語の為るにも類似の用法はある。
朝鮮語
朝鮮語で日本語の「為る」に当たる動詞は하다(ハダ)である。これは一般動詞として「言う」などの意味にも用いられる。また日本語と同じく多数の動作性名詞に付いて新たな動詞を形成する。さらに、一般の状態を表す名詞に付いて形容詞を形成することもできる:つまり日本語の形容動詞の「だ」に当たる役割を果たす。一方、動作がされた状態を表す(日本語で「・・・してある」「・・・されている」の意味)には、「成る」に当たる되다(テダ)が用いられることが多い。
抽象的に見た為る
- 丸山眞男は評論「「である」ことと「する」こと」で、個人の自由な行為を保証する西欧の近代的価値観の在る社会を「為る」社会、身分や出自に価値をおく封建社会を「である」社会とおき、「為る」社会において、「上下関係はある一定の目的上の組織においてのみ成り立ち、違う組織においてはその上下関係が成り立つとはいえないのだから、通常の付き合いにまで会社の上下関係が付きまとうならば、それは身分的な社会である」と書いている。
- 日本語の動詞は約5000語[1] とされ、その内45%は単純動詞であるとされる。だが、単純動詞だけでは、語数が足りなくなり、複合動詞も誕生した。だが、それでもまだ不足しているので、それを補うために使われ始めたのが「為る」である。ただし、昔の為るは、紀貫之の土佐日記の冒頭「男もすなる日記といふものを……」のように、英語の代動詞的役割も持っていたので、今日までに意味が狭まっていったといえよう。
脚注
関連項目
参考書籍
- 「基礎日本語辞典」(森田良行著、角川書店)ISBN 4-04-022100-1-C0581
- 「日本語をみがく小辞典〈動詞篇〉」(森田良行著、講談社(講談社現代文庫))ISBN 4-06-148919-4
品詞の分類
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