五千円紙幣
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E号券
2004年(平成16年)8月13日の財務省告示第374号「平成十六年十一月一日から発行を開始する日本銀行券壱万円、五千円及び千円の様式を定める件」[28]で紙幣の様式が定められている。主な仕様は下記の通り。
- 日本銀行券
- 額面 五千円(5,000円)
- 表面 樋口一葉[28]
- 裏面 尾形光琳筆「燕子花図」[28]
- 印章 〈表面〉総裁之印(特殊発光インキ) 〈裏面〉発券局長
- 銘板 国立印刷局製造
- 記番号仕様
- 記番号色 黒色/褐色(製造時期により2種類あり)
- 記番号構成 記号:英字1 - 2文字+通し番号:数字6桁+記号:英字1文字
- 視覚障害者用識別マーク 八角形(深凹版印刷、左下隅・右下隅)
- 寸法 縦76mm、横156mm[28]
- 発行開始日 2004年(平成16年)11月1日[28]
- 発行中
- 有効券
D号券3券種の発行開始からおよそ20年が経過し、印刷技術の革新や複写機やイメージスキャナ、コンピュータの画像処理ソフトウェアなどの普及・高性能化を背景に2002年(平成14年)頃から偽造券の発見が急増するようになってきたことや[29][30]、諸外国でも新たな偽造防止技術を盛り込んだ紙幣が1990年代末期以降続々と発行されており、日本だけが旧世代の紙幣の発行を続けると国際的な偽造団による標的となる恐れがあることを踏まえ[31]、E一万円券、E五千円券、E千円券の3券種が同時に改刷された[31]。
肖像はD号券で見送られた小説家の樋口一葉が選定されたが、日本銀行券の表面の肖像に女性が描かれるのは初めてである[注 3][32]。なお樋口一葉の肖像の原版彫刻に手間取ったため、当初2004年(平成16年)7月頃発行予定であったところ、発行開始時期が3か月延期されている[33]。表面右側には樋口一葉の肖像が(なお原本にはなかった着物の柄を追加している)[33]、裏面左側には燕子花を描いた屏風絵である国宝の「燕子花図」(尾形光琳筆)の図柄が採用されている[34]。日本銀行券では日本銀行行章は裏面にのみ入っているものが多い中、このE五千円券は表面の額面金額の文字に重なっている所にも日本銀行行章が入っている数少ない例の一つである。
偽造防止技術にはD二千円券に新たに採用されたもののほとんど[注 4]が採用されたのに加え、新たに表から見て右側に用紙を薄くしてすき入れした「すき入れバーパターン」と、見る角度によって像(金属箔に刻まれた絵柄)が変わる「ホログラム」が採用された[35]。E五千円券には肖像の右側付近に縦棒のすき入れが2本入っており、ホログラムの像は光の入射角により桜花、日本銀行行章、額面金額の「5000」の数字などが確認できる[36]。特殊発光インキについては表面の印章および地紋の一部に紫外線発光インクを採用しており、ブラックライトを照射すると表面の印章「総裁之印」がオレンジ色に発光する他、表面の地模様の一部がオレンジ色に、裏面の地模様の一部が黄緑色に発光する[36]。ミニ改刷後のD号券と異なり裏面の印章「発券局長」は発光しない。なおD二千円券で採用された光学的変化インクは使用されていない。
公式に発表されていないが、表面と裏面に「ニ」「ホ」「ン」(日本)の片仮名がシークレットマーク(暗証)として入っていることが確認できるほか[37]、D二千円券に引き続いてユーリオンも採用されている。さらにホログラムの上下にも漢字で「日」「本」の文字が刻まれている。
視覚障害者が触覚で券種を識別できるようにした識別マークについてはD一万円券、D五千円券、D千円券で採用されていた透かしによるものから変更され、紙幣の表面下端の左右に深凹版印刷によりインクを盛り上げて凸凹を感じられるようにした方式が取られている[38]。E五千円券には「八角形」の識別マーク[注 5]が施されている[38]。また国立印刷局によりスマートフォンで金種の判別・読み上げができるアプリ「言う吉くん」を提供されている[39]。
ホログラムの透明層は光沢がありその他の印刷面と触感が異なることから、これを用いても券種の識別が行えるよう発行途中で改造が行われている[40]。発行当初、五千円券のホログラムの透明層は一万円券のものと同一面積・形状の楕円形であったが、2014年(平成26年)5月12日に、五千円券のホログラムの透明層が従前よりもやや大きい角丸四角形に変更され[41]、これにより視覚障害者にとって一万円券と五千円券の識別性の向上が図られた[36]。また同時に記番号の色も黒色から褐色に変更された[42]。
2024年(令和6年)上期を目途として新紙幣(後述)が発行されるのを前に、2022年(令和4年)9月までにE五千円券を含むE号券3券種の製造が終了した[43]。
E五千円券の変遷の詳細を整理すると下表の通りとなる。
発行開始日 | 記番号色 | ホログラム透明層の形状[41] | 変更理由 |
---|---|---|---|
2004年(平成16年)11月1日[28] | 黒色[28] | 楕円形 | |
2014年(平成26年)5月12日[42] | 褐色[42] | 角丸四角形 | 券種識別性向上のための様式変更 |
透かしは肖像と同じく樋口一葉である。紙幣用紙は三椏やマニラ麻などを調合したものが用いられている[35]。前代のD五千円券と比較すると横方向の寸法が1mm長くなっているが、これは従前D二千円券とD五千円券の横方向の寸法差が1mmしかなかったため、識別性を向上するためのものである[44]。これによりD二千円券との寸法差は2mmとなっている[38]。
使用色数は、表面14色(内訳は凹版印刷による主模様2色、地模様10色、印章1色、記番号1色)、裏面7色(内訳は凹版印刷による主模様1色、地模様5色、印章1色)となっている[28]。基調となる色はD号券と同系統の色調を受け継いでおり、E五千円券はD五千円券と同じく紫色系であるが[44]、より鮮やかな色合いとなっている。
注釈
- ^ 日本銀行本店3号館は1938年(昭和13年)建築。
- ^ B号券以降の日本銀行券の中で記番号が4ヶ所に印刷されている紙幣は、この紙幣とC一万円券のみである。
- ^ 改造紙幣には神功皇后の肖像が描かれていたが、これは日本銀行券ではなく政府紙幣であった。また、二千円券の裏面には紫式部が描かれているが、これは肖像画ではない。
- ^ マイクロ文字、特殊発光インキ、深凹版印刷、潜像模様、パールインク等。
- ^ このほか、E一万円券は「左下隅L字・右下隅逆L字」、D二千円券は点字の「に」を模した「丸印が縦に3つ」、E千円券は「横棒」の識別マークである。
- ^ B号券からE号券までの紙幣では全券種ともに製造番号の両端の英字が各1桁、つまり「A000001A」から始まっていた。「Z900000Z」まで使い果たすと左側の英字だけ「AA」と2桁に変わるが、右端の英字は必ず1桁であったため最終番号は「ZZ900000Z」となり、それを使い果たすと文字色を変更して「A000001A」に戻る形式だった。新紙幣では1桁制が廃止され両端とも初めから2桁の英字、すなわち「AA000001AA」から製造開始される形となった。
出典
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