特別引出権
別名:特別引出し権、特別引き出し権
英語:Special Drawing Rights、SDR
国際通貨基金(IMF)に加盟している国が外貨不足になった時に、他の国から外貨を融通してもらえる権利。または、融通してもらう際の取引単位。
特別引き出し権はIMF協定により加盟各国へ分配され、外貨不足の時にはSDRと引き換えに外貨が取得できる。例えば、1SDRと引き換えに、米ドルならば約1.5ドルを受け取ることができる。なお、SDRが分配時より多い国は、その分の金利を受け取ることができる。一方、SDRが分配時より少ない国は金利を支払わなければならない。
2015年8月現在、SDRは、円、米ドル、ユーロ、ポンドの4か国(地域)の通貨で構成されているが、中国の通貨である元の追加採用が検討されている。
関連サイト:
国際通貨基金(IMF)
とくべつ‐ひきだしけん【特別引出権】
読み方:とくべつひきだしけん
SDR
特別引出権
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/09/30 04:18 UTC 版)
特別引出権 | |
---|---|
ISO 4217 コード | XDR |
使用開始日 | 1969 |
使用 国・地域 | 国際通貨基金 |
固定レート | |
ペッグしている 通貨 | ![]() |
通貨記号 | SDR |
特別引出権(とくべつひきだしけん、英: Special Drawing Rights, SDR)とは、国際通貨基金 (IMF) が加盟国の準備資産を補完する手段として、1969年に創設した国際準備資産、及びその単位である[1]。ISO 4217における通貨コードはXDR。
概説
SDRは、1969年に発効した国際通貨基金第一次協定改正によって創設された。創設の背景としては、1960年代にアメリカ合衆国の経常収支が赤字化する中で、当時の二大公的準備資産であった金と米ドルの国際的供給は、世界貿易の拡大及び当時発生しつつあった金融フローを支えるには、不十分であるとの問題意識から、特定の一国の通貨価値に依存しない新たな準備資産としての役割が期待されていた[1]。SDRはIMFによって創出され、出資割合に比例して加盟国に配分される。
SDR配分を受けた国は、いつでもIMFの仲介を受けて、自身の保有SDRと引き換えに他の加盟国の保有する自由利用可能通貨(IMFが定める。現在はドル・ユーロ・人民元・円・ポンド)を引き出すことができる。
また、IMFへの出資やIMFによる貸し出しは、基本的にSDR建てで行われるほか、世界銀行がSDR建での債券発行を行っている。ただし、SDRの保有はIMF加盟国等の公的主体に限定され、民間取引においては使用されない。
SDRの価値は、自由利用可能通貨の加重平均によって計算され、日々更新される[2](加重平均の比重・自由利用可能通貨の選定は、5年に一度見直しされる)。
価値
計算方法
SDR構成通貨とSDR価値の計算方法は5年に一度見直しが行われており、直近は2022年に見直しが行われ、現在のSDRの価値は0.57813米ドルと0.37379ユーロと1.0993人民元と13.452日本円と0.080870イギリスポンドの和である[3]。
経緯
SDR創設当初は当時の1ドルと同じ基準を採用し1SDR=金0.888671グラムと定められたが1973年の変動相場制移行を受け、1974年には標準バスケット方式と呼ばれる方式を採用した。これは世界貿易において1パーセント以上のシェアを持つ16通貨を元にSDR価格を評価する方式。1974年7月から1980年12月までは16通貨のバスケットであった。1980年にはバスケットの構成通貨を5通貨(アメリカドル、ドイツマルク、フランスフラン、日本円、イギリスポンド)に変更した。2000年にはドイツマルク・フランスフランがユーロに置き換えられ、原則5年毎に構成通貨の見直しを行うことが定められた。
2015年の見直しの年に向け、中華人民共和国は通貨バスケットへの人民元の採用を求めていた[4]。構成通貨入りには、(1)その通貨を持つ国や地域の過去5年間の輸出額が大きく、(2)IMFが定める「自由利用可能通貨」[注釈 1]に該当することとの2つの判断基準を満たす必要がある。2010年の見直し時には、中国はすでに輸出額の基準は満たしていたが、「自由利用可能通貨」と認定されるための条件を満たさないとされ、採用を見送られていた[5]。2015年の見直しに向けて中国は預金金利の上限規制を撤廃すると発表するなど改革姿勢をアピールし、首脳外交でも各国に人民元のSDR入りを支持するよう呼びかけた。2010年以降の人民元の国際的な利用拡大を受け、2015年11月30日に開かれたIMF理事会で2016年10月1日から人民元のSDR構成通貨入りが決定された[6]。なお、2016年8月31日に世界銀行は30年ぶりとなるSDR建て債券を中国で発行し[7]、同年10月14日にはスタンダードチャータード銀行は商業銀行では初のSDR債を中国で発行した[8]。国家開発銀行、中国人民銀行[9]なども中国でのSDR建て債券発行を検討している。
期間 | ![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
---|---|---|---|---|---|
1981–1985[10] | 0.540 (42%) | 0.460 (19%) | 0.740 (13%) | 34.0 (13%) | 0.0710 (13%) |
1986–1990[10] | 0.452 (42%) | 0.527 (19%) | 1.020 (12%) | 33.4 (15%) | 0.0893 (12%) |
1991–1995[10] | 0.572 (40%) | 0.453 (21%) | 0.800 (11%) | 31.8 (17%) | 0.0812 (11%) |
1996–1998[10] | 0.582 (39%) | 0.446 (21%) | 0.813 (11%) | 27.2 (18%) | 0.1050 (11%) |
期間 | ![]() |
![]() |
![]() |
![]() | |
1999–2000[10] | 0.5820 (39%) | 0.2280 (21%) | 0.1239 (11%) | 27.2 (18%) | 0.1050 (11%) |
=0.3519 (32%) [11] | |||||
2001–2005[10] | 0.5770 (44%) | 0.4260 (31%) | 21.0 (14%) | 0.0984 (11%) | |
2006–2010[10] | 0.6320 (44%) | 0.4100 (34%) | 18.4 (11%) | 0.0903 (11%) | |
2011–2016[12][注釈 3] | 0.6600 (41.9%) | 0.4230 (37.4%) | 12.1000 (9.4%) | 0.1110 (11.3%) | |
期間 | ![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
2016–2022[13][14] | 0.58252 (41.73%) | 0.38671 (30.93%) | 1.0174 (10.92%) | 11.900 (8.33%) | 0.085946 (8.09%) |
2022–2027[3] | 0.57813 (43.38%) | 0.37379 (29.31%) | 1.0993 (12.28%) | 13.452 (7.59%) | 0.080870 (7.44%) |
公的準備資産としてのSDR
前述のとおり、SDRは米ドルに代わる公的準備資産となることを目的に創設されたが、2016年現在、SDRが世界の外貨準備全体に占める割合は3%を下回っている[15]。2009年3月には、中国人民銀行総裁の周小川が、公的準備資産としてのSDRの使用拡大を提案して国際的な議論を巻き起こすなど[16][17]、SDRの活用に向けた議論は行われているものの、2020年時点で大きな進展はない。
SDR金利
SDRを構成する通貨量に基づき、IMF関連の取引において用いられるSDR金利も決定される。SDR金利はSDRバスケットの構成通貨国・地域の、短期市場における代表的な短期債務証券の金利の加重平均を基に毎週決定される。IMFからの借り入れを行う加盟国に課す金利や、通常の(非譲許的な)IMF融資で使う加盟国の資金の利用に対し加盟国に払われる金利の計算の基礎になる。また、各国が保有するSDRに対してIMFから支払われる金利、またSDR配分の際に課される金利にも使用される。[1]
脚注
注釈
出典
- ^ a b c d “ファクトシート - 特別引出権 (SDR)”. IMF. 2013年5月3日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2018年1月6日閲覧。
- ^ http://www.imf.org/external/np/fin/data/param_rms_mth.aspx IMF Webサイト Exchange Rate Archives by Month
- ^ a b “Press Release – IMF Determines New Currency Amounts for the SDR Valuation Basket”. 2022年9月30日閲覧。
- ^ 朝日新聞(2015年10月28日)「人民元『主要通貨』に IMF採用へドル・円などと並ぶ」
- ^ http://www.imf.org/external/np/exr/faq/sdrfaq.htm#four Q and A on 2015 SDR Review
- ^ “Press Release: IMF's Executive Board Completes Review of SDR Basket, Includes Chinese Renminbi”. IMF (2015年11月30日). 2015年11月30日閲覧。
- ^ “世銀が中国でSDR債を起債、世界的にも約30年ぶり-720億円相当”. ブルームバーグ (2016年9月1日). 2016年9月8日閲覧。
- ^ “英銀、中国でSDR建て債券発行 商業銀で初”. 日本経済新聞 (2016年10月14日). 2016年10月16日閲覧。
- ^ “中国人民銀総裁、SDR建て債券の発行検討に言及”. 産経新聞 (2016年7月24日). 2016年7月26日閲覧。
- ^ a b c d e f g Antweiler, Werner (2011年). “Special Drawing Rights: The SDR Fact Sheet”. University of British Columbia, Sauder School of Business. 2011年6月19日閲覧。
- ^ “IMF Incorporates the euro into the SDR Valuation and Interest Rate Baskets” (プレスリリース), International Monetary Fund, (1998年12月31日) 2009年11月14日閲覧。
- ^ “IMF、SDRの価値を決定する通貨バスケットの新たな通貨構成比を決定 (PDF)”. International Monetary Fund (2010年11月15日). 2015年10月15日閲覧。
- ^ “IMF Executive Board Completes the 2015 Review of SDR Valuation”. IMF (2015年12月1日). 2017年10月15日閲覧。
- ^ “IMF Launches New SDR Basket Including Chinese Renminbi, Determines New Currency Amounts”. IMF (2016年9月30日). 2017年10月15日閲覧。
- ^ https://www.imf.org/external/np/pp/eng/2016/062916.pdf (PDF) IMF(2016), The Case for a General Allocation of SDRs During the Eleventh Basic Period.
- ^ Zhou Xiaochuan. “Reform the International Monetary System (PDF)”. 国際決済銀行. 2015年12月1日閲覧。
- ^ “China calls for new reserve currency”. ファイナンシャル・タイムズ. 2009年3月24日閲覧。
関連項目
- ブレトン・ウッズ協定
- 国際通貨
- バンコール
- モントリオール条約 - 国際航空運送に関する条約。賠償責任の限度額の単位がSDRである。
- ヘーグ・ヴィスビー・ルール - 国際海上運送に関する条約。賠償責任の限度額の単位がSDRである。
外部リンク
- IMFサイト(日本語):ファクトシート - 特別引出権 (SDR)(日本語)
- 特別引出権のページへのリンク